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第Ⅰ章 傲慢なる聖騎士
王子の頼み
しおりを挟むレイブン王子との婚約から二年ほど。18歳となったリオンは、凛々しい美少年のような風貌に成長していた。その姿はここ二年で習慣となった婚約者の城に存在する騎士訓練場にあった。
「ぐあああ!」
「うおおおおおお!」
ドサッ、ドサ、ドサドサ
剣を交えることなく、無手で相手をする姿は流麗であり、汗一つ掻いていない容姿も相まってとても優雅であった。相変わらず、リオンが剣を握れば数合もせず折れてしまうため格闘術を極めているが、不満は無かった。
シークに言わせれば、そもそも剣術自体が贅沢であり、常に帯剣出来るとは限らないのに頼るのは馬鹿らしいそうだ。リオンもシークのその教えを受け、守ったおかげか、シークにもう教えることは無いと言われてからも着実に実力をつけていた。
「――これで全員か」
「は。リオン様。お忙しいなかで今回もご指導有難く存じます」
訓練場で訓練をしていた新米の騎士を伸した後、声を掛けてきたのは新米たちの指導係であり上官の騎士であった。この二年、定期的な婚約者殿との顔合わせも含めて城へ参城していたリオンは、王子の興味本位のお願いにより、騎士団に勝負を挑むこととなった。
さすがに多勢に無勢。リオンも初めは負けを覚悟していたが、結果はそうならなかった。周囲からは「さすがサルバド家」と言われ、その様子から不思議に思い聞いてみれば、シークもサルバド家先祖も似たようなことが出来る強さなのだと知った。
昔は、大きな争いも無く暇を持て余していたサルバド家の家人が騎士指導を行うことも多かったそうなのだが、周辺国との情勢もあり、終始駆り出されている現在のサルバド家では暇な適任者がおらず、ずっと騎士団内で訓練を行っているそうで、その時に話の流れで頼み込まれ、リオンが条件付きで指導を引き受けることとなったのだ。
リオンにとって、参城のついでで指導をするのは王子の頼みもありやぶさかではないが、困ることもしばし起きていた。例えば――
「――きゃああああ! 素敵!」
「こっちを見ましたわよ!」
この二年、近いからと何も考えず公開されている訓練場で指導を行っていたリオンに、貴族の令嬢が群がるまではいかずとも、近付いたり目を向けただけで悲鳴を上げられていたのである。
婚約者の王子やアルマン宰相に相談をしたものの、「いいと思うよ」や「まとまりが出来ることはいいことだ」などとはぐらかされてしまった。
ちなみにシークには相談していない。何かを言う前に向こうから「モテモテだなぁ!」などと笑顔でからかってきたので、相談以前の問題であった。
しかし、これはどうしたものか――。
リオンの悩みは尽きない。
最近、異教徒の排斥という名目により大々的に弾圧を行っている教会のせいで、同じ神を信仰していない周辺国において露骨に戦争を仕掛ける準備を整えているという情報が多く入った。この二年で情勢がかなり不安定になっている。
それに伴って新米騎士への指導も長期的で本格的なものよりも、短期的で邪道のような訓練が増えていた。リオンは国境に張り付いているシークの指導を直接受け、もう教えることは無いとまで言われた逸材。そんな裏事情もあって、遊ばせておく余裕は国には無かった。
そうしたどこか首の後ろがピりつくような不安を抱えながらも日々を送っていたリオンであったが、ある時、とうとうその知らせは早馬で届いた。
「――開戦」
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