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第Ⅰ章 傲慢なる聖騎士
婚約者
しおりを挟む「――お初にお目に掛かります。サルバド家長女、リオンと申します。この度は尊き方と縁を結ぶことが出来、望外の喜びとなりました。不束者ですが、お傍にふさわしく在ることを努力いたします」
「そんな堅苦しくしなくていいよ、リオン。ここでは初めまして、かな。会えて嬉しいよ。さあ、座って」
初めて会ったレイブンは、色素の抜け落ちた白髪に、シークの明るい髪と比べて深く揺らめく赤の瞳をしていた。リオンから見ても、その顔は芸術家に造られたと言われれば納得するほど整っていた。とはいえ、リオンは容姿に興味が湧くタイプではなく、挨拶も笑顔を浮かべることなく真顔で行ったのだが。
「……殿下のお召により、今回の縁を賜ったとお聞きしました」
「ああ、それね。宰相にでも頼まれた?」
リオンが質問をすると、答えをすっ飛ばして王子が質問――というよりは確信――を被せてきた。にこにこと穏やかに微笑む姿に騙されるかもしれないが、その聡明さは噂に違わず真実であったらしい。意図を読まれているのなら、否定しても意味がない。リオンは素直に認めた。
「……はい」
「心配性だよねぇ。僕は正常だって言ってるのに」
何が楽しいのか、きゃらきゃらと可愛らしく笑った王子は、リオンと目を合わせて答えた。
「リオン。――君も聞いたと思うんだけど、天啓だよ。それ以上の理由があると思うのかな?」
「……いいえ」
レイブン王子の言葉にもやっとしたものを感じながらも、リオンは肯定を返した。
「まあ、戸惑う気持ちは分かるけどね。結局はこれからの一生を共にするのだから、難しく考える必要は無いよ。それより、君の事を知りたいな。あのシーク卿といい勝負をするんだってね?」
それ以降、お互いの趣味や一日の行動予定などの事務的なやり取りを行った後、初めての顔合わせは比較的短時間で終わってしまった。事前に聞いていた情報との差に、最初は戸惑ったリオンであったが、これが平常時のレイブンであると納得するとすぐに気にならなくなった。
「どうだった?」
サルバド家へ帰ると、王子に手を出しそうな雰囲気だからとアルマン宰相に先に帰らされていたシークが手ぐすね引いてリオンを玄関で待っていた。
リオンは初めて会った王子の印象を、素直にシークに伝えた。すると、やはりシークもアルマン宰相から聞いていた事前情報との齟齬に顔を強張らせた。
「まるで中身だけ別人だな。精神がどうのこうのって話はこの国の王族に限って怪しいもんだと思っていたが……」
それが唸り声を籠らせつつも達した、シークの結論であった。
シーク自身は何度か幼い時分のレイブン王子に会ったことがあるらしいが、声を上げて笑うような性格ではなかったらしい。影武者の存在も勿論シークは疑ったが、リオンに容姿の特徴を聞けばそれも否定した。どうやら、影武者は王族の複雑な色合いの珍しい瞳までは魔法でも真似られないらしい。
「……ひとまず、王子がイカレてないのなら、いい。――改めて、すまない、リオン。こんなことになる為にお前を引き取ったわけじゃあないんだが……」
「――お気になさらず。むしろ、今後のサルバド家をどうするかについて話し合いましょう。シーク父様にうじうじは似合いませんよ」
「……すまねぇなぁ……本当に、すまねぇ」
それっきり、シークがリオンに謝ることは無くなった。
そして、今後のサルバド家について話し合った結果、リオンが婿に迎え入れる予定だった相手との話を白紙に戻し、力のある親戚などからではなく、傘下の弱小貴族家から婿を迎え入れられるように、選定のためにメア主催のパーティーを開くこととなった。
これに関して、シークが関わった部分は少なかった。何故なら、最初は良かったが途中から何を思ったか、妨害行為を始めたからである。呆れたリオンが事情を聴いてみると、「リオンは仕方なく国に嫁にやることになったが、メアまで盆暗にやるつもりはない。爵位目当てで近付く不届き者どもめ! 成敗してやる!」などと供述していた。
これに関しては女性当主の地位の低さに問題があり、更に付け加えるならば、身体の弱いメアなら実権を握れるだろうという思惑を持たれていることは確かだろう。故に、リオンもシークに反論しにくい。
それに、リオンもなんだかんだでメアにふさわしい条件を並べ立てた結果、とんでもない超人を求人することとなり、当初の計画から本末転倒となっていた。次第に蒙昧な候補はスゴスゴと下がり、一人も残ることは無かった。
さすがにこれではよろしくないと認めたシークとリオンは、今回のサルバド家お見合い事件の原因となったアルマン宰相に助け――脅迫ともいう――を求めた。
リオン達の提示した条件を確認した宰相は、額に青筋を浮かべて二人を淡々と説教したという。
――こうして、そこそこの貴族と王室を巻き込んだメアのお見合い大作戦は結局、メアが成人したら自ら決めてもらおう、という結論に落ち着き、収束したのであった。
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