らぶさばいばー

たみえ

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はたらく魔女さま!!

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 ……落ち着こう。びぃ、くーる。私。たった一文にも満たない文量で判断してしまうにはまだ時期尚早過ぎる。少ない情報では、まだ実際にコレがアレでソレになっててそうだと決まったわけじゃないはず。
 もしかしたら私が無駄に耳年増というか、爛れた思考回路で内容を著しく誤解して受け取ってしまっていただけか、確認した部分が偶然誤解を招く表現がされている部分だっただけなのかもしれない、という可能性はわずかに残っている。
 ふぅ……深呼吸だ。

「すぅ~はぁ~……」

 ……よし。
 直後の続きを確認するのはまだ怖いから、最終付近まで進めて内容確認しよう。
 そうしよう。……ぺらっ。

【――髪を淫らに閨へ散らし、快楽に善が】

 ガタッ! バシィィィイイイイ――ッッッ!!!!

「っ……!?」

 長尺過ぎぃぃぃぃいいいいいいいっっっ!!!!!

「くっ……!」

 ――誤解しようもない文脈! やっぱしバリバリの官能小説じゃねえかよコレ!

「本当に大丈夫なの?」
「――なんでもございません、わッ!」

 思わず床に思いっきり爛れた文書を叩き付けてやった私の荒ぶる様子を、目を丸くして驚く夫に八つ当たりと理解しつつもキッ! と睨みつけながら返事する。
 そして素早くさささっ! と床に叩き付けてしまった危険ブツを回収し――は!?

【登場人物紹介】
・乙女:シオン。16歳。辺境伯爵領の次期領主。純真無垢な既婚者。
    夫の正体は隣国の死んだはずの皇子。6歳頃に婚姻の契りを固く結ぶ。

 はあ!? これじゃあ、もろ私って丸分かりじゃん! 記載情報詳細すぎ!
 普通、登場人物のモデルについては、ぼかすか隠すものでしょうが!
 ……あっ。まさか。

 ぴんとくるものがあって、すぐさま猛烈な勢いで該当箇所を探して床に散らばっていた書類をシュババババァッ! と回収確認していくと……そう時間もかからずに、すぐにその該当箇所を見つけた。
 ――じっくり読まなければ何するものぞ!

【※この物語は事実に基づいており、登場する人物・団体・名称等は全て本物であり、実在の事件とも深く関係しています】
「~~ッ」

 なんだ、この物語は事実に基づいており~って。
 ――ねつ造だらけだろうがふざけんな! いい加減にしろよマジで!?

 ところどころ怪しい雰囲気はあっても危険領域には突入前な序盤を、ぱらぱらとめくって内容を事細かに確認していく。
 怒りのおかげか官能的な表現もなんのその、と勢いだけでナマハゲも逃げる形相で内容を超速で情報処理していく。

「…………」

 ……とりあえず、ざっと見たところでは私の生活ルーティンと乖離しているわけではなく、官能的な部分以外は間違っているわけではないようだった。
 ――だが逆に言えば、プライバシーな寝室以外の目撃されやすい日常ルーティンが正確であるからこそ、むしろだからこそ! ……実際にアレでソレなのでは、とコレを読んで事実としてアレがソレでコレなのではないか、とご想像されるに違いない。
 なんて悪質! 恥ずかしいどころの話ではない!

 おやつ持参で寝室に籠ってたのは認めるけど……!
 その内実は別にイチャイチャゴロゴロしていたとかでは全くなく、仕事があまりに多すぎて終わらないので明け方まで連日連夜徹夜していたら、とうとう寝不足が限界に来てしまい、それでも! とバタンぐ~すぴ、といつ倒れてもいいように寝室に執務を移動させたのだ。
 もう眠気で死にそうになりながらも、なんとかエネルギーの糖分補給でおやつをパクパク食べながら仕事に挑み、意識をうつらうつら――そこから先の記憶は無い。
 次に目が覚めたら寝台にいたからな! おそらく限界を迎えて寝落ちしてしまった私を運んでくれたのだろう。夫が。
 実はずっと休め寝ろってしつこ……心配してずっと付き添ってくれてたんだよね。

 ……何故、寝室への入室までをも許可していたのかは当時の記憶が定かではないが、正気も定かな状態ではなかったので、きっと面倒になって何も考えずにおっけーを出してしまったのだろう。
 そんな似たループな毎日を最近は繰り返していたので、とんでもない誤解を生む下地は充分に揃っているというわけだ。
 コレ書いたやつマジ、許すまじ。名誉棄損どころの話じゃねえ! 

 ――特に! まるで私がだらだら怠惰な淫猥生活を送っていたかのような描写!
 何が事実だ、在らぬ桃色に脚色してるじゃねえか! ちゃんと事実に基づけよ!

 バシッ!

 人を無許可でモデルに利用しておいて挙句、好き勝手なねつ造してんじゃねえ!
 それが許されるのは本人が黙認している時だけだ! のじゃ姫様はギリセーフ!

 バシッ!

 とにかくコレは許されない! 注意書き、もはやわざとだろ! 事実無根過ぎ!
 私は処女だ! 前世から大事に守ってる私の純潔を勝手に散らしてんじゃねえ!

 バシッ!

 耳年増なだけでしっかり見た事もねえよ、実際の私より色々進みやがって……!
 羨ま……しくなんかないからねっ! 全くもってそんなこと思ってないからっ!

 バシッ!

 だって、私のパパとママもプラトニックラブだったらしいもんね! へーんだ!
 こんな淫欲にまみれた私、私じゃない! どこが純真無垢だ! ふしだら過ぎ!

 バシッ!

 何が乙女だ、クソタイトル付けやがって! 徹頭徹尾、脚色メインじゃねえか!
 ジャーナリズムが腐敗してるわ! 真実を記せ、私は憐れな社畜だ。たすけて!

 バシィィィイイイイッッッ!!!!!

「ふがあああぁぁぁぁ……!!」

 内心で一通りの文句というか怒りを思うがまま吐き出し、まるで獣のような威嚇を思わず叩き付けて祓おうと無意識にバシバシしばいていた書類たちへと向ける。
 ――焚書してやる! 一枚残らず、この世からッ!

「確認は終わった?」
「……ええ」

 私の突如の奇声奇行にも、まるで普段通りの日常とでも言いたげな動揺の欠片も無い様子の夫がお綺麗な顔で今度こそ確認し終わったのかと聞いてくる。
 ……私が言うのもなんではあるが、いいのか? それで。まあいいか。

「それで、どれを増刊したい?」
「全部廃刊ですわよ当然!」

 クワッ! と目をかっぴらいて反射的に叫んでいた。
 なんて恐ろしいことを言うのか……というか、さっきのお風呂ご飯わ・た・し? なノリの年刊月刊週刊どれがいい? って、どれを増刊したい? な意図の質問だったのか。衝撃!

「え? 面白い、増刊したい、って思うものは無かったの?」
「ありませんわ!」

 どれもねえよ! むしろなんであると思った! ごめんやっぱ聞きたくないや!
 却下どころか、全部まとめて焚書だゴラ! 異論は許さん! アザレア刑!
 こんな犯罪履歴書、異端書、禁書、見つけた瞬間、全部火炙りに即刻処すわ!
 ……ふぅ。どれがどの刊の内容だったのかとか、詳しくは聞くまいて……。

「分かった」

 分かるんかい。

「日刊がいいんだね」

 分かってなかった!

「はい、これ限定版だよ」

 と言って、ゴソゴソ懐をあさって何かを取り出す夫。
 ……なんだ限定版って。日刊はどうした。てかどんどん出てくんな恐ろしい。
 表情を引き攣らせつつ、ブツを確認しないわけにもいかないので、エリカ様から未だに定期的に届く呪い郵便を点検する心地で慎重に渡されたソレに触れていく。
 渡された板チョコみたいな透明な薄い板、何も書いてな――。

 ぴこんっ! 『また仕事で失敗してたみたい……慰めて?』
 びこんっ! 『もちろんいいさ!』

「…………」

 ぴこんっ! 『どんな失敗だったんだい』
 びこんっ! 『それが、よくわからないの』

「…………」

 ぴこんっ! 『そんな君も私は愛してるよ』
 びこんっ! 『私もあなたを愛してるわ!』

「…………」

 ぴこんっ! 『カモちん……!』
 びこんっ! 『ハゲたん……!』

 お前らかよ! この短期間に何があったし? バカップル成立してんじゃん。
 どんな経緯だよ、気になり過ぎる。……しかし勝手に盗み見るのは良くない。
 勝手なねつ造の被害者な私が加害者になるのは、今は特によろしくないのだ。
 ――ということで、プライバシー侵害反対! なのではい、没収ぅ!

「あ……」

 引き出しにメッセージ端末を仕舞うと、一緒に覗き込んでいた夫が思わず、と頭上で声を漏らした。
 なんだその反応は。却下してすぐ、雑に書類を仕舞ったときは何も言わなかったのに。……怪しい。

「……いかがいたしましたの?」
「それ、返して」

 とぼけてみよう。

「……小切手のことかしら」
「ううん。それはあげる。それじゃなくて今、机に仕舞った限定版」

 あんな大金よりも大事なのか、コレが。何故。

「……どうしてかしら」
「まだ試験中の試作品なんだよね」

 試験? 試作品?
 ――えっ? この凄い技術詰まってそうな板、あなたが開発したの?

 ぴこんっ!

「「…………」」

 机の中からくぐもった音がして、同時に視線を向ける。

 ぴこんっ!
 ぴこんっ!

「「…………」」

 連続で音が鳴る。まだやり取りしてんのか、あのバカップル。

 ぴこんっ!
 ぴこんっ!
 ぴこんっ!
 ぴこんっ!
 ぴこんっ!

 ――どんだけ連投してんだよ! 付き合いたてか! それっぽそう!

「じゃあせめて、簡単な動作確認だけしていい?」

 ぴこんっ!
 ぴこんっ!
 ぴこんっ!
 ぴこんっ!
 ぴこんっ!

「この音、うるさいでしょ? 僕ならすぐに設定が変えれるよ」
「……分かりましたわ」

 別に、何をそんなに連投してるんだろうとか気になったわけではない。
 どうせくだらない内容なのは、さっきのやり取りで察せる。
 鳴り響く音が執務の邪魔になるから、ただそれだけの理由だ。
 ずっとぴこんぴこんうるさい端末を机の上へ取り出し、夫が何やら空中にパネルみたいなのを出してキーボードを打つような動きや、何かの画面を宙を撫でて移動させたり消したりと、いかにもSFっぽい作業をしているのをなんとはなしに眺める。
 何か凄い……けどそれより気になる鳴り止まないぴこんぴこん、をちらり。
 どれどれ――。

 ぴこんっ! 『信じられない! そんなことなら、もう別れる!』

 何があった。この短時間で。

 ぴこんっ! 『分かった。君がそれを望むなら、そうしよう。さよなら』

 スピード破局! 物分かり良すぎ! 何も分かってねえよコイツ!
 明らか引き留めてほしい雰囲気出てるの、疎い私でも分かるわ!

 ぴこんっ! 『も、もうっ! 冗談よ! 絶対に別れないんだから!』

 あ、想定してた駆け引きが成立しなかったから即、全力で面舵一杯切ったな。

 ぴこんっ! 『そうか! 良かった、君が居ない人生は寒色だ』

 私もあなたの語彙に寒色です。

 ぴこんっ! 『その通りよ! 私たち、これで元通り仲直りね!』

 スピード復縁! なんか強引に戻したな。……駆け引き成立しないもんな。
 これから苦労しそうだわ。頑張れ。

 ぴこんっ! 『ああ! 君の花嫁姿はなんて美しい。夫になれて光栄だよ』

 スピード結婚! て、展開早くね!? 式場? もしや結婚式の最中なの!?
 こいつら、大事な結婚式中に何バカップルメッセをやり取りしてんだよ!
 人生の数少ない晴れ舞台じゃんか、お前らSNSじゃなく式に集中しろよ!

 ぴこんっ! 『あなたもピカいちで素敵だわ! さあ、誓いの口づけよ』

 めちゃくちゃメインイベント中じゃねえか。普通に面と向かって喋れよ。
 何故いちいちメッセを挟む。照れか? 照れなのか!? 爆発しろよ!

 ぴこんっ! 『すまない、ピカいちでは君とはやっていけない。離縁しよう』

 スピード離婚! てなんでだ! ピカいちの何がダメなんだよ! て、あ。
 ……そういえばハゲだったわ、すっかり忘れてた。どんだけ敏感で繊細なの?
 ピカはダメでハゲ呼ばわりは良いのかよ、基準分かんねえよ! 面倒くさっ!

 ぴこんっ! 『ピカいちであることに誇りを持って! あなたは世界一よ!』

 お、おう。世界一のハゲって誇りを持っていいものなのだろうか?
 ま、まあ。慰めになるかはともかく、励ます気持ちは籠ってる。ハゲだけに。

 ぴこんっ! 『カモちん……結婚しよう。君は世界にひとりだけだ』

 スピード再婚! 良く分からん言葉で慰められてんじゃん、ちょろ!
 それと、なんだひとりだけだって。当たりまえだろ、じゃかましい!

 ぴこんっ! 『きゃっ、……!! あなたはまさか、ハゲたんの奥様!?』

 ――て、不倫だったんかーい! 急に修羅場! 修羅場なうだよ!
 式場バーン! て来たの? そうなの? 不謹慎だけど、是非見て見たい!

 ぴこんっ! 『なっ、何をする! やめるんだ、お前! ごふっ!?』

 何されてるんだ。気になり過ぎる。反則チョークスリーパーか?
 それとも大技ジャーマンスープレックス……!? てかメッセの芸が細かいな。
 ……もしやリアルタイム中継だったりする? 自動翻訳的な。

 ぴこんっ! 『やめて! ハゲール夫人! 彼には大事な夢があるのよ!』

 ハゲール夫人! ハゲール夫人ですと! なんと数奇なハゲ。どんまい。
 そして大事な夢はもっていいけど、不倫はダメです。てか関係ねえよ!
 夢があったら不倫していいってことにはならねえよ、バカップルが……!

 ぴこんっ! 『ぐふ、そ、そうだ! 生涯最高の傑作小説を増刊する夢が!』

 ……ん? ? 

 ぴこんっ! 『彼ほど秀逸で艶美な文を構成出来る才能は存在しないわ!』

 …………。

 ぴこんっ! 『君の煩悶を慰める機会が無くば、永遠に実現しなかった駄文さ』

 …………。

 ぴこんっ! 『ハゲたん……きっとすぐ、増刊の知らせが届くわ。傑作だもの』

 …………。

 ぴこんっ! 『カモちん……ありがとう。“デルカンダシアの乙女異聞“に乾杯』

 ――お前が著者かハゲええええええええええええええッッッッ!!!!!!

 君の瞳に乾杯、みたいなノリで急に乾杯してんなよ不倫クソ野郎! キモいわ!
 何が乾杯だ! 何に乾杯だ! いちいち気持ち悪いんだよ、馬鹿じゃねえの?

 ――潰す。ハゲに光も反射しないほど、徹底的に潰してやる!

 ぴこんっ! 『この事業が成功すれば、彼は億万長者よ! 別れないわ!』
 ぴこんっ! 『カモちん……!』
 びこんっ! 『ハゲたん……!』

 思いっきし金目当てじゃねえか流石魔女! この不倫クソバカップル!
 なんで騙されてるんだよ、気付けよハゲ! 色んな意味で引導くれてやるよ!

「終わったよ――ってどこ行くの?」

 そんなの、もちろん――!

「――ハゲの修羅場を押えて、社会的に抹殺してやるのですわ!」
「う、うん。そっか」

 まずはハゲール夫人に協力してハゲの社会的立場を奪ってからだ。
 名誉棄損の何たるかをその身に刻み付け、二度と舐めた真似出来なくしてやる!

「二度と拳を握られないよう、徹底的に潰してやりますわ……!」
「……一緒に行ったほうがいい?」

 珍しく、少し引け腰になりながら質問される。
 そんなの。

「お好きになさって下さいませ!」

 夫がついて来ても来なくても、ハゲをしばく結末は変えられない。
 ぴこんぴこん延々煩い端末をふと見て、引っ掴んで急いで執務室を出ていく。
 有能な夫が、いつの間にか気を利かせて端末に位置情報を追加してくれていた。
 ――万が一にも逃げられないよう、コレで状況把握しつつとっ捕まえてやる!
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