らぶさばいばー

たみえ

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恋花

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「――この度、春新たに芽吹き尊き縁を結びし献臣エーデルワイスの益々の栄華を、我がデルカンダシアからも心よりお慶び申し上げます」
「ええ、今後も末永くお付き合いさせて頂くわね」
「もったいなきお言葉でございますわ」

 招待されて再びエーデルワイス家の庭園にて。

「――さあ、挨拶はそれくらいにして。あなたで最後なのよ。いつまでもそのような場所に立っていないで、はやくこちらに座りなさい」
「ご配慮痛み入りますわ……」
「上手く事が運んだようで何よりね」

 催促するように言われて私が席につくと、早々に前置き無しにカトレアが私よりも全員へ労うように言葉を掛けた。
 今回、エーデルワイス家に招待されて集まったのは、国を挙げての作戦に参加した者たちへの慰労の意味もあるが、この度、カトレアが嫁ぐ前の支持基盤の確認や、王妃となった際の統率をより円滑にするためのものだ。

「今作戦での我が国が投入した人員の損耗率は、デルカンダシア領からの手厚い支援も合わさり、当初の想定を遥かに下回る微々たるものではありましたが……実はその殆どの犠牲者が、遠征拠点が急襲を受けて右往左往としていた直後、同時併発した難民対応において我々の経験不足もあり後手に回ってしまった結果、でございますので実情は上手くいったとはとても言い難く……」
「そうね……その報告は確認しているわよ。あなたが敵に操られ、利用されたこともね」
「面目次第もございません」

 私が座らされたテーブルは、エーデルワイス家の広々とした庭園を会場にした中でも草木枯れる時期にも拘わらず最も青々華々とした、カトレアが同席してることからも察せる通り彼女の側近です、な感じで周囲に対してあからさまに「ここに居る家の子は優遇してます、これからもしますよ~」な貴族的な圧力アピールをしているような位置に存在していた。
 そんな、いわゆる超絶ハイパーVIP席に堂々と同着していたアイリスが、カトレアの言葉に対して真剣な顔で一度座っていた椅子からわざわざ降りてから片膝で顔を伏せるように跪き、言いながらカトレアへと差し出すように首を垂れた。

「――顔を上げなさい。確かに、今回あなたが敵に不可抗力とはいえ翻弄され、味方に多大な混乱を招いたことはあなたの失態となるでしょう」
「勿論でございます」
「けれど、だからといってあなたがそれまでに積み重ねた功労、業績、貢献の全てが無に帰すわけではありません」
「もったいなきお言葉にございます」

 そこまで言って、カトレアがちらっとこちらを見てから言葉を続けた。

「……有能な臣下に甘え、いくら隅々に手が回らなかったとしても、あなたたちへと充分な手厚い支援を怠った我々にも、この犠牲について相応の責任はあります」

 ……えーっと。
 今チラ見してたけど、まさかソレ……私のことじゃないですよね?

「ですから――此度は不問と致しますわ」
「ご寛恕、伏して享受させて頂きます」
「経験不足はまだ若いのだから仕方のないこと。今回はその経験を積むためのものでもありましたから。――得た教訓を次に活かせるかが大事であるのだと、しかと心に刻みなさい」
「はッ今後とも誠心誠意で精進努力致します」

 このやり取りもまた、遠目からこちらを伺う招待客たちへのアピールだろう。これから何事か国に関して大変な失敗をすることもあろうが、それが国へ常に献身的に貢献するような者であればそれ相応に恩赦も与えられるのだ、だから国の為にしっかりと働け、と。
 政治的なやり取りや意味は今でもワケワカメだが、そういうことに鈍い私でもそのくらいのことは察せるので、ここに招待された有能有望だろう他の貴族や将来国の重要機関で働くだろう民たちにもちゃんと伝わっていることだろう。
 今の明らかに政治的なやり取りを見て、なんと感動している者もいる。

 ちなみに感動しているのは須らく平民だと思われ、感動云々などせず政治的に淡々と受け取りつつも、注目すべきカトレアたちではなく私のほうをジロジロチラチラぎょっと見ているのが貴族だ。
 というかぎょっなやつは絶対そうだ。あの人、知ってるもん。突然発生した旋風でカツラが飛ばされてハゲがバレた人だ。

 このハゲバレの経緯は知れば実に馬鹿馬鹿しい内容なのだが、発端はあまりにオーバーワーク過ぎてストレスを溜めていた魔女が、ついつい出来心でやってしまったんだそうな……。
 そのような酷い理由と経緯により、魔女のストレス解消ターゲットになってしまったのが、あの可哀想な貴族ハゲ様なのだ。……おほん。間違えた。

 ストレスマッハな魔女がハゲ剥げターゲットにした人だ。……てあれ? 表現あまり変わってない……?
 ―――でも他の、頬がピクつく程度の笑えないやらかしを悠々と通り越し、思わず灰のように白く煤けて風に散り消えたくなるような、それはもう酷い好き放題なやらかしをしてくれちゃってる他の魔女らと比べてしまえば多少、ね?
 まだマシなほうの被害者なのだ、このハゲは。あ。

 目が合ってからげっ、て感じで目を逸らされた……その節はご迷惑をお掛けしました誠に申し訳ございません。
 色々忙しかったからって魔女達を野放しにしててすみませんでした……でも、これこそ不可抗力なのでは!?

 だって、魔女のストレスによってハゲバレするかもしれないなんて低確率な危険性リスクについて危惧するよりも、差し迫った国の存亡が掛かる目前の危機対処のほうが最優先されるでしょ普通は……。
 だから別に、意図して各地から上がって来たそろそろ魔女たちがやらかしそうで怪しいです、な曖昧な報告なんかを見ても仕事はしっかりやり遂げてるんだしと、そこまで真剣に受け取らずにあっても被害軽微だろうと後回しにしたのは致し方のないことでして……。
 そもそも何故そんなそろそろやらかすかも、な予報書みたいな怪しい報告が上がってくるかといえば、単純にアザレアの手配である。

 アザレアが自ら動けないからと、任命された仕事はキッチリ全うしつつも絶対に好き勝手にするだろう魔女達の監視の為に、予想して先手を打ったアザレアが太鼓判を打つ『アザレア――と何故か私にも――絶対服従特殊部隊』な別の腹心たち――ちなみに実際に何人居るかはらしいので私も知らないし聞くのは怖い――をこっそりと各地に派遣していたそうなのだ。
 その普段の仕事内容は、主に特殊部隊と書いてファンクラブと呼ぶ感じの、聞いた限りでは日々のほほんと各地に散らばって情報収集と交流等をひたすら繰り返すだけの和気藹々とした実に平和な部隊クラブ活動らしいのだが、いざ私やアザレアの命があれば――なくとも必要そうと判断されたら自発的に――鉄の掟が発動して「イエス! マム!」とか「サー、イエッ、サー」的な感じに活動内容が過激なものへと変貌するらしい。
 怖……しかも過激なものへってどんな……あ、いやエビネ待って別にそんなに知りたくないデス、ハイ、ゴメンナサイ……。

 と、そんな怖い非公認特殊部隊ファンクラブ知らない何ソレ初耳、と狼狽える私へエビネが「公然の秘密ですよぉ~? むしろ今まで知らなかったんですぅー?」と心底不思議そうな顔で、こっちは難民問題の事務処理休憩中にした軽い雑談のつもりで聞いたのに、そうして情報の出どころについて平然とデルカンダシア常識です、な感じでまるで一般常識かのように冗談じゃない雰囲気で答えられて絶句。
 いや知らないよ……しかも発足は建国期からという、まさかのマジモンの筋金入りだったことや、活動が余さず国中に広がってることとかも……ここで衝撃的な初知りだよ……永遠に知りたくなかったよ何その産まれるずっと昔からある狂気の集団、色んな意味で怖すぎるよ……。

 ――ああっ!! 過激ってもしや、私が棒読みで言わされた……?
 ……いや、さすがにそんなわけないか、別口だよねさすがに。
 ……違うよね?

『…………』
『どうしましたぁ、シオンさまぁー?』
『……この国の貴族は、まさか』
『そんなわけないじゃないですかぁ~』
『そうよね、そんなわけな――』
シネラリアのならぁ』
『やっぱりなんでもないわ、それ以上何も言わないでちょうだい!』
『むぐぅ~』

 という一幕があったりなかったり……いや、何もナカッタヨ。ウン。

 その後、公に(認知してしまった)特殊部隊ファンクラブから何故か定期的に届くようになった会報――しっかり認知後なのがさらに怖い――といえばいいのか……ふと気付いた時や、必要だなあと思うタイミングで何故かいつの間にか視界に丁寧に纏められた恐怖の報告書が置かれて恐怖で震えた。

 こうして奇しくも、私は夫がストーカーから逃げたくなる気持ちを身を持って理解してしまった。
 夫のことを散々ストーカーだ、変態だ、不法侵入だ、狂気だ、とかなんとか裏でこっそりボロクソ言ってたのが心底可哀想と思えるほど圧倒的にレベチな集団ストーキングっぷりである。

 表面上はやってることが同じ両者の決定的な違いはとても単純で、――少なくとも彼の美貌は、たとえ怒りが湧いても一目見ただけで私のささくれだった心を、寿命が縮むくらい心拍数を暴走させたりはありつつも絶対的に癒してくれるオプション付きだが、この非公認有能ストーキング集団は、どれほど狂気的な行動力で有能な仕事ぶりを発揮して私の執務効率に異常に貢献してても、常に私へ恐怖とストレスだけしか与えていないところだ。
 どうして今頃ここぞと出て来たんだ、という私の疑問については会報にて『アスター氏、ぼたん氏、行方不明。護衛放棄か事件か――』などというゴシップ紙面のような見出しと文面で理由が簡単に判明した。
 ご、護衛ってそういう……。

 お、お兄ちゃああああああああああああん!!!
 ぼ、牡丹くうううううううううううんんん!!!
 カムバァァァァアアアアアアアアアッック!!!

 そうして密かに善意(※あくまで純粋な善意)で届けられてくる報告書たちをエビネ経由――突然の恐怖の新事実に怖さでぶるぶる震え怯える私を見て、殆どのものはエビネが窓口になって解決してくれた――で貰ってしまう上に、不正をしてたわけでもないのに被害を受けた人が居る事実を無視することも出来ず『この度は監督不行き届きでご迷惑をお掛け致しました……』と、わざわざ可哀想なつるるんな貴族の御屋敷にまで、もちろん本人にも自白――アザレアも知ってると告げたらあっさりと犯行を自供――させた後で謝罪させるために犯人を連行し、お仕置きに関してはアザレアに全てお任せしておいた。

 ……今すぐではなく、後でしっかりお仕置きされると聞かされた犯人の魔女は、まさかのお仕置きするまでずっと放置という、ある意味きっついお仕置き未満のお仕置きをされながら、今頃アザレアからとんと音沙汰のないお仕置き内容連絡に、いつ、どんなすごいお仕置きをされるのかと、朝晩常にびくびく震えながら任された仕事を忠実に熟していることだろう。
 ハゲを暴いただけで……と思うかもしれないが、そんなことは前世で例えれば宝石店でもない百円ショップでしょぼい万引きをしたやつなんだから許してやれよ、と言っているようなものである。

 大小関係なく盗みが等しくいけないと罰するのなら、魔女の出来心も反省させるため等しく罰するべきなのだ……。
 特に、この魔女のせいで知りたくなかった『非公認特殊部隊ファンクラブ※認知済認定』という恐怖の存在を今回、知ってしまったのだ。

 お任せしたアザレアにも、お仕置きしてくれと、いつもなら逆に取り成す側の私が珍しくそうやって言い含めたくらいである。
 この恨み、晴らさでおくべきか……。

「――そう、ナズナに婚約者へ渡す特別な贈り物の助言をポーリュジャンが、ねえ」
「アイリスで構いません。それと、お恥ずかしい限りですが……ええ。随分とナスタチウム様……」
「私の事はナズナで構わない」
「……ナズナ様とキュスタバング様の仲の良さが素敵に見えましたので」
「そうね、確かに見ていて微笑ましいわねえ」

 あそこの人も……などと若い身空で逆に私が薄毛になりそうだな、な不毛過ぎることを考えて思考を遠くトリップしている間に、カトレアの政治的なパフォーマンスが大体終わって一段落したのか、本当のリラックスした雑談タイムに入ったようだった。
 ちなみにカトレアの近くの席では、普段の護衛としての姿ではなくナスタチウム家令嬢として参加するナズナが座っていた。

「けれど、人選を間違えたわね」
「ええ、そのことは深く我が身に沁みました。まさか、」
「「愛の告白に説教を返すなんて」」

 クスクスとカトレアとアイリスが、先程の堅苦しい政治的なやり取りをすっぱりきっぱり忘れたかのように言葉を重ね、微笑ましいとナズナを見て笑みを零した。
 いじられたナズナはといえば、少しだけ「むっ」とした様子で眉根を寄せたが、一拍後に何もやましい事はない、とばかりに淡々と告げた。

「……負っている当然の責任と義務について忘れていたようなので、しっかりと甘えた意識を改めさせただけだ」
「まあしらじらしいわ。本当は照れてしたことなのでしょう? 分かっているわよ。さっさとそう白状なさいな」
「そうだったのですね。それならばやはり、あの時のあの言葉は照れ隠しだったのでしょうね」
「いや、そういうわけでは……」

 たじたじとなるナズナ。
 何がとは言わないが、完全敗退である。

「そういうカトレア様こそ、いつの間にかお互いに愛称で呼び合う仲になっているだろう……」

 と、ここでナズナが反撃か話を逸らすつもりだったのか、カトレアたちのらぶらぶっぷりをぷち暴露した。
 あ、あー確かに。言ってたね、確かに。なんだったっけ……?

 いかんせん、当時は夫が帝国の皇子であった上に皇女が龍、龍が皇女な衝撃的な話と、母の脚色されまくったラブロマンスにそこから派生した父の出生の秘密等々、のせいで記憶はちょっと曖昧だけど――。
 確かに、なんとか思い返せば「ルディ様」と「レア」って途中からこちらの目もそっちのけでお互いを見つめ合うように呼び合ってた気がする。

「素敵ですね……」
「ふふ、そうかしら。そうね、ええはとても素敵な方だわ」

 きゃあ、と何故か遠くの席から抑えきれない歓声というか歓喜、どこかくぐもったような悲鳴が聞こえて来た。ちらっと音の発生源をつい見れば、招待されて来ていた人々のなかでも平民貴族の身分関係なく一緒くたに雑談していた女性集団だった。
 ここまで結構な席同士の距離があるのに、なんて地獄耳……。

 でも許されるならば是非ともあちら側に混ざりたい。自分より上の身分とか重要人物に気を遣って腹をじくじく痛ませる必要も無く、きゅんと来たら脳死できゃあきゃあ言える立ち位置で他人の惚気に叫んでたい。
 ――かくいう私も、実は内心では凄まじいきゃあきゃあの嵐なので。この衝動、出来れば今すぐにでも枕を抱っこかーらーの、ゴロンゴローンとして思う存分悶え発散したいのだ。誰か助けてっ。

「学園での魔獣襲撃を皮切りに発生した各地の魔獣騒動を収拾した後、ルディ様から舞踏会で視察のお誘いがございましたの」

 それ知ってるやつぅ!
 実は上から隠れて見て聞いてましたごめんなさーいっ。

「その日の視察で色々な事件が起きましたけれど、私たちがお互いに愛称を呼び合うきっかけとなったのは、その視察の際に怪しい動きをしていた貴族を抜き打ちで潜入調査しよう、と突然ルディ様が私へ提案し、その承諾後に商家の夫婦を演じることになったのだけれど、――それでそれからずっとそのままなのよ。ふふ」

 ぐおおおおおおおおっ、ここにきてまさかの原作ガチ勢な私も未知の追加シナリオを投下だとぅっ?!
 丸っと過程省いて意味深に微笑まないでっ! そこ大事! 過程超大事! そこんところ是非もっと詳しく――ッッ!!

「やはり、同じ目的を持って共に行動することは親密への近道のようですね……お二人とも、貴重なお話を心より感謝致します。私の婚約者への特別な贈り物は、ぜひとも先人を参考に共に選ぼうと思います」
「それは素晴らしい案ね。去年からボリュメール領が男女で出掛けられる場所として栄えているようだから、悩むなら最初はそこが良いと思うわ」
「甘い物が有名だからか、食事は基本的になんでもかんでも甘い風味だな。それと男性は得てしてそういうものらしいのだが、甘い物が苦手な者が多いとも伝え聞く。念の為、誘う際には婚約者が甘いものが苦手ではないかどうかだけ、先に確認しておいたほうがいいだろう」
「甘味ですか? 彼は普段から甘い物が大好きですし、むしろ喜ぶでしょうから全く問題ありません。詳細な御助言、心より感謝いたします」

 女子力たっか。
 と話に付いて行けずについ焦ってしまった私は女子としてどうなのか。

 ……でも、基本全部アザレア任せ――というか全部先回りでやってくれるため、女子力を磨く隙というか機会がまるで無い――だしなあ……なら仕方ないかあ……と即刻諦念。
 これがダメンズならぬダメジョというやつか……。

「――姫殿下はいかがで。この国に滞在してもう間もなく半年を過ぎますけれど、素敵な出会いなどはございませんこと?」

 と、ここでカトレアがこの場で触れにくいだろう上位ランキングにグイグイ食い込んでいる人物へと、一見して恋バナに見せかけたあまりに政治的過ぎる疑問を問いかけた。
 本当の本題は実はこちらだったかもしれない。カトレア、なんて油断できないんだ……。

「妾かえ? さあのう、今は特に興味無いのう。お主はどうじゃ?」

 そう――何故か「暇じゃ」と突然やってきておいて始終無言で茶をしばいて居座っているだけであるのじゃ姫様ことベラ様に、だ。
 何しに来たんだ、と思いつつもこのせいなんだろうなあと薄々察しながらベラ様が問いかけた、その隣に何故かいらっしゃるもう一人の上位ランカーをチラチラ見てしまう。

『――相手などと……この身の上では考えも、』
「引く手数多で困っておるそうじゃ」

 ねつ造が酷すぎる。
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