らぶさばいばー

たみえ

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ナズナとアイリスの真相?

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 ちょっと気まずい会議の解散後、私たちは特に大きなトラブルが起こるもなくデルカンダシア領へと難民誘導を完了させ、そこで強制待機していた各地の騎士たちに家族単位で分散同行させる手配まで終わらせた。
 そこそこの時間は掛かったがつい先程、諸事情の訳アリで纏めたために色々と時間が掛かって出発を延期していた最後の組を、やっとのことで送り出せたところである。
 ――季節は既に、夏から晩秋へと移り変わろうとしていた。

「シオン様ぁ、お友達からお手紙でーす」
「……どなたからかしら」

 お手紙。実によろしくない響きだ。
 災難のはじまりはいつも、お手紙からな気がする。

「ラノヴェール家の紋ですねぇー」

 エリカ様じゃん。うげぇ……。
 読みたくない……けど確実に確認後に処理処置をせねば……。
 でも摩耗する……何がとは言わないけど全力で摩耗する……。

「……今は目が疲れているから、後で確認するわ」
「代わりに読んで差し上げましょうかぁー?」
「やめておきなさい」

 そんな危ないものに触ってはいけません! とばかりに、慌ててぺいっとすぐさま親切で開封し、代わりに読み上げようとしてくれていたエビネから手紙を取り上げた。
 ――冗談ではない。

 どこの誰が精神を擦り減らしながらコレを読み上げようとどうでもいいが魔女だけは、魔女に連なる者たちにだけは何が何でも絶対に! 確実に! エリカ様語を聞くだけなのはまだしも、口に出して読むことだけは絶対に阻止しないとよろしくないのだ!
 ……それというのも実は私、最近とんでもないことに気付いちゃったのだ。

 それを知ったのは、不浄という重大事を全く知らなかった件もあったので、一度最初から基本的な魔女に関しての基礎的な復習や魔女内の共通認識に関する学習をひっそり行っていたときの、ただの偶然だった。
 のじゃ姫様からたまに横流し、というか何故かやたらとエリカ様から届く近況報告を私に全部譲ってくる――体よく私で処分してる疑惑――ので、その時もたまたま勉強中に近くに届いたブツが置いてあったのだ。

 仕方がないので姫様から習った魔法の練習がてら、有効活用のために読んでいるとふと――エリカ様語ってば、コレそのまま古代語に変換してみるとマジ触れるな危険物だなあ……って、気付いてしまったのだ。
 気付かなきゃよかった。でも気付いてよかったな複雑な心境でもある。

 思わず其の場で魔女専用辞書と二度見と言わずに三度、四度、五度、――と何度見比べて確認しても、どれもがえっらいえぐい呪文効果を発動する羅列であった。
 嘘でしょ……と目が点。

 その時々で効果に法則性は特になく、たまに呪文が絶妙に繋がらない変なトラップもあったりはするが、稀に本当にシャレにならない程にえぐい効果の呪文が普通に羅列されたりしていた。
 ちょっと目が冴えたり、お腹が空いたり、味覚が狂ったりとかはまだ可愛らしいものだ。
 ――自爆とか自害とか自懐とかシャレにならん。

 自爆自害はまだし――良くはないけど――も、なんだ自壊って。
 唱えた瞬間その場でぼろぼろ崩れ落ちるんか。
 それとも単に精神崩壊? どっちにしろ怖すぎぃ……!

 一応、古代魔法言語として変換し口にしなければ発動はしないはずだが……強き魔女の言葉は時として意図しない言霊として発動してしまう。
 なのでいくら変換しなかったらセーフであっても、変換したら完全にアウトな文言たちを、そのまま気にせず魔女らに読み上げさせるというのは超絶臆病な私でなくとも全力阻止することなのだ……。

 ――という経緯で、またしても確認後に封印処理処置を施す危険ブツが増えてしまったと、ついついエビネが代わりに読もうと親切心を出してしまうような心底げっそりした嫌そうな顔で変な言い訳をしてしまったのだ。
 危なかった……今回は何が書いてあるか知らないが、出来ればこの前の“一日ちょっとだけ不運になる”くらい被害少なそうなおまじない程度であれ。頼む。

 ……ちなみに効果範囲が世界中に存在する雌雄――人間のみではないココ大事――どちらかという……まるで酔っぱらったバカが脳死で考えた、みたいにやたらめったら広いスケールなのは深くツッコんではいけない。
 魔女の言霊、というか魔法や呪いというのは得てしてなのだ……私もその魔女だけど、ついつい魔女狩りしたくなった昔の被害者ひとびとの気持ちが分かろうというものだ……。

「……あら?」

 魔女の誰にも見つからぬようコソコソ、けれどなるべく俊敏に自分の部屋へと帰り、早速と封印すべく危険な手紙ブツを確認のためによく見てみると、――なんと。
 危険ブツの下に重なるように手紙がもう一枚存在していたのだ。命がけで危ない橋を渡る運び屋になりきっててまるで気付かなかった。
 これもエリカ様から――?

 カトレア・ラス=エーデルワイスの、うつろう鉢に花の便りを――。

「……なるほど」

 開けた中身はカトレアからの招待状だった。

「息つく暇もありませんわね……」
「そうなの?」
「ええ……えっ?」

 なんか普通に居るし。え……え???
 いつの間に「なに?」と言わんばかりの罪悪感の欠片も無さそうなきょとん顔で真横に立っていたのは、今まで再び音信不通となっていた夫であった。
 この美貌は間違いようがない。

「「…………」」

 思わず感情の抜けた真顔で見上げた私を、ぱちぱちと悪気無さそうに瞬きしながらにこっ、と笑って私の顔を背景になんか豪奢なお花とキラキラの何かを飛ばしつつ呑気に覗き込んで至近距離で見つめ返す夫。うっ。
 ……だめだ、あまりに美し過ぎる罪深過ぎる美貌だ。こんなにも私好み過ぎる顔を見つめてるといけない! と頭ではちゃんと理解してても、ついついなんでもかんでも許したくなっちゃうのよ……。
 恐ろしい美貌……というよりか単に私へのクリティカルヒット過ぎた。

「……はぁ。今まで何処に居りましたの?」

 何を言えばいいのかと少々言葉に詰まったが、ひとまず色々と整えるためにため息をひとつだけ零して気合を入れる。
 そしてそのうち洗脳されそうなほど目に毒、というより精神に毒過ぎるので目を反対方向へと逸らして避難させてから質問した。

「ちょっと嫌がらせされて避難してたんだ」
「嫌がらせ……?」

 帰って来た答えに驚愕。嫌がらせ……この美貌にか!?
 ――許せん、誰だ出て来い! とっちめてやる……!
 内心の荒れ模様を極力出さずに、ちょっとだけ眉を顰めて先を促した。

「うん。僕の追っかけがちょっと、ね」
「…………」
「見つかると面倒だから」

 イラッ……美貌にビンタは無理でも、腹に一発ぐらいなら美しさに弱い私でもゴツンと重いのがいけるのでは……?
 ――なんだその、女の子にきゃあきゃあ言われて逃げてました、みたいな持てる奴にしか許されてない逃避。前世の独身貴族様が思わずカッ! と目見開いて顔出しちゃったでしょうが……。

「……色々ありましたのよ」

 私たちが他人に触れると、守備範囲が神様な神様が過剰反応して色々危険なのは身をもって知っているので、それへの理解は他の誰よりも出来ているだろうが……それにしても、全く何も告げずに居なくなるというのは話が違うだろう。
 ――せめて簡単なメモでも置いておけばいいのに。それで勝手に安心して納得するのに。

 よほど今回のことでストレス――当たり前だが――でも溜まっていたのか、チラッとついでに何も言わず再び用は済んだとばかりにどこかへとさっさと消えて行ってしまった小人さんたちがちらついた。
 ……次会ったら好き勝手やられた分、全身全霊の全力でへとへとになるまで愛でてやるぅ。覚えてろよ小人さん!

「うん。かなり遠かったけど、全部見てたよ」
「――――」

 いまなら一発と言わず、二、三十発くらいこの美貌にイケる気がする。
 ……いやダメだ。気がするだけだった……く、私ってばどうしてこうも美しいものや可愛いものに関しては意思が惰弱すぎるんだ。……性癖か。
 ――天性の性癖ナチュラルボーンだな、うん。なら仕方ないや……。

 だって思い出せば前世の記憶、というか自意識がハッキリと蘇る前からキラキラしたものが大大大好きでキャッキャッと宝石とかで遊んでたし、美形な家族の中でも特にお兄ちゃんにめちゃんこ懐いてたしまあこれは……もはや魂に深く刻まれてしまった私のカルマなのだ。うん。
 ビバ、面食い。そもそも別にテンション上がるくらいに私の心に刺さる美しいの範囲は人間の顔だけに限ってないし、普通の性癖……てあれ、待って。むしろここはあえて顔とかに限っちゃったほうが正常なのでは!? 私ってば実はとんでもない変態なの!? 私が今まで信じていた普通の基準が実は地雷だったとか?!
 教えて! 普通の人!

「災難だったね」
「……ええ」

 夫のとても聞き心地のよろしい声にハッ! といつの間にか虚空にトリップしていた意識を取り戻す。あぶない。
 やはりコイツは危険だ……美貌に見たものを狂わせる、てきな精神錯乱魔法でも掛かってんじゃなかろうか。

「まさか本当に考え無しに僕を追ってきて、さらに君の友人に憑りつくようなことまでするとは思わなかったよ」
「ええ……――い、今、なんですって!?」

 知ってる者は結局誰も教えてくれず、忙しい隙を見ては根気よく聞いて回っても憑りつかれた本人でさえもが知らなかったという……正体を知るのが完全に諦めモードになって、さらに急な忙殺のせいで結局は謎のままに迷宮入りさせて忘れていた
 アイリスに憑りついていたキィキィと妙に耳障りで煩い、やたらとしぶとくて存在がしつこかったモヤの正体が実はこの美貌の塊な夫の追っかけストーカーだったと?!

「アレが君の友人に憑りついたこと? うん。ごめんね。僕が逃げたせいだと思う。正直、ではあってけど――、僕も信じられなかったんだけどね……」

 ……ありえるかもしれない。だってあのモヤ、小人さんに完膚無きまでにやり込められてたくせにやたらと諦め悪いというか、なんだか無駄にしぶとかったというか……始終印象がしつこかった。
 熱狂的なファン、というかストーカーだったのだとしたら色々納得だ。やはりなんて罪つくりな美貌……。

「最初は銀髪の子に憑りつこうとしていたようだけど、失敗して焦ったのか、まさかあんなものまで出してくるとは思わなかったよ」

 え。何それ初耳。最初はナズナに憑りつこうとしてたって……?

「その後、目星を付けていた銀髪の子じゃなくてまさか翠髪の子に憑りつくなんてね。びっくりだよ」

 いやびっくりなのは私の方だ。って、私とジニアがまだナズナたちの様子をずっと見てたの? なんで。
 ……って、そんだけストーカーが怖かったってこと? うーん……。

「憑りつくにも絶対前提条件として親和性が必要なのにね。よほどあの翠髪の子の心の闇と相性が良かったみたいだ」
「…………」

 心の闇……可愛いは許さない! なアレのことか。

「あんなものの中へ……憑りつく代用品として翠髪の子を狙って呑み込んだ後、まさかあそこまで深く憑りつけるとは思ってなかったんだろうね」

 ……先程からちゃんと明言せずに遠回しで嫌そうにあんなもの、だなんて迂遠に言ってますがもしや……推測するに、うんちぃ氏の事だろうか。
 色々あって忘れてたのに思い出しちゃったよ、ううぇえええ……。
 
「あっさりと制御不可能なほど理性が飛んでいたのは、お互いにかなり影響し合った証拠だろうね。普段は自制して出てこないはずの奥底の欲求がかなり表に出ていたようだから」

 同担拒否な闇と、ストーカーな闇が運命のいたずら的に出会って融合からの共鳴増幅な暴走をしてしまったってこと……?
 なにその闇深コラボレーション、普通に嫌すぎる。

「そんな険しい顔しないで。安心して大丈夫だよ。もう二度と、誰かに憑りつくなんてことは出来ないだろうからね」

 何やら確信をもって慰められたが、本当に二度と同じ目に合わないというのなら普通に朗報だ。
 嫌だよ私、何度もあんなことに巻き込まれるの。

 だって今回は「可愛いは許さない!」なんて、で巻き込まれたんだよ?
 理由不明で一度憑りつくのに失敗したらしいけど、最初は私が疑惑を持って注視してたナズナに憑りつこうとしてたくらいなんだし。

 ……ただの勘ではあるが、原作『らぶさばいばー』に登場してた攻略対象たちとは絶対親和性、というか相性が良いに決まっている。
 誰かに憑りつくにしても彼ら彼女らの可能性は高そうだ――いやあんなこと誰がに代わっても二度とあってたまるか、って感じだけども。

 まあ既にコラボ済、分かりやすく例えれば一回既に新型ウィルスに罹患りかんして完全回復後にウィルス耐性が多少ついたようもの。
 既に闇深コラボを解除したアイリスはもう大丈夫……あれ、大丈夫ではないな? うん……。

 よく考えれば、肝心のアイリスの「可愛いは許さない!」な元から本人の中に存在していた潜在的な病み闇ウィルスさんはそのまま奥底に再びひょっこり引っ込んで潜伏したままだったわ、盲点!
 ただ罹ったというだけなのではなく、元からアイリス自身が患っていたからこそ今回あれほどまでに悪影響、というか悪化したっぽいんだった。
 ――つまりまだ、あのモヤはアイリスにも憑りつけるってこと……?

「――ッ!」
「床は冷えるよ」
「うぐぅ……っ」

 思い至ってしまった現実に、隣の美貌な夫にどう思われるかとかどうでもよく思わず四つん這いで拳をダンダンッ! と床に叩きたい衝動に駆られて膝を落とした。
 ――が。手を付く前にお腹に手を回され、手足ぶらんぶらん状態で回収されてしまったので、湧き上がった衝動は発散出来なかった。無念。
 今はただ、憑りつけないと確信してるっぽい夫の言葉を信じるのみだ……。
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