らぶさばいばー

たみえ

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 ……何も聞けなかった! デデドン!

「――そちらのあなた、そうそこのあなたですわ。それ以上、不用意に列からは出ないで下さいませ。はぐれましたら途端に死にますわよ」

 私の掛けた脅しの言葉が脅しではないと、つい先程起きたひと悶着で身に染みたがザッ! とそこらの素人軍よりも軍人らしい素早さで隊列を整えた。
 まあ実際に外周の殆どは本物のなので、条件反射というやつなのだろう。
 うちの世間知らずなボンボン軍とは訓練度合いを比べるべくもない。

 ――あのバリバリビリビリしちゃった後、諸々色々ありすぎて何某かを小人さんに問い詰めて聞く暇もなく気付けば今、私たちの行軍予定は急遽全て中止となり、準備不足なまま強行した帰りの途にえっちらおっちらとついている。
 その隙になのか、いつの間にか一方的に貸借契約を終わらせぴょいっと出て行ってしまった小人さんと、拠点で待機してくれていたはずの牡丹くんが、今度は本当に一言も何の伝言も残すこと無く再び森のどこかへと消えていってしまっていた。

 いやなんでやねん! どこ消えたんだ、後片付けまでちゃんと手伝ってよ森の中にぽつんと放置って、どうすんのコレ?!
 好き放題遊んで、飽きて興味失くしたらその辺にポイっと放置しちゃう小学生か君たち……ってなんかちょっと違うか。
 まあ大体似たようなものだろうけど。

 あの後、――私がスヤスヤ幸せそうに眠るアイリスとふたりだけになるという状況で森のど真ん中に残すように急に放置され、まさかここでいきなりサバイバル生活!? となったり、かと思えばぬるっと普通に「あれ、どうしました?」な顔で起きてきて不気味なほど通常運転で状況把握をしようとするアイリスの問いにいちいちビクビクしつつめちゃくちゃビビって答え、その後結局警戒するのも馬鹿らしいほどに道中全くの何事も無く拠点まで案内してもらってホッとひと安心してみたり、かと思えば実は「記憶にございません」状態だったらしいアイリスの代わりに説明というか報告をコクリコクリうつらうつらと徹夜によって意識を若干どこかへ随時飛ばしつつ――あの情報不足の中、たった一人でどれほど事態収拾に苦労させられたか……!
 しかもその後すぐ、帝国のほうから戻って来た魔女たちが更なる放置出来ない問題をさらっとわ、何故か同時に王国から狙ったかの如くタイミングの良い作戦中止の指令が届いたことで帰還準備が慌ただしくなるわ、と後回しでいいだろう他の事に思考を割くような隙はまるで無かった。

「シオン様ぁ~もうすぐ開けますよー」
「報告ありがとう、エビネ。助かりますわ」

 森の途切れがもう間もなくだ、という報告を聞いて思わずほっと安心してしまう。これだけ多くの戦闘出来ないたちを多く引き連れながら、さらにボンボン軍の面倒までも余さず見ながら長々とこの不浄の森をウォーキングするのは二度とやりたくはない苦行難行だった。
 なるべく離れないようにと出来る限りの細心の注意はしていたが、どれだけぎゅうぎゅうに難民を詰めさせても、それを囲む魔女の人数がどうしても全く足りず、膨大な難民の数や行動を全てカバーしきれずにたまに直接的に遭遇する魔獣によってや、途中で恐慌に陥って勝手に列から逸れて森にしまった幾人もの難民たち多数に犠牲が出てしまった。
 ……頭では仕方ないことと割り切りたいが、気が重いことは変えられない。

 そもそもが、ハッキリ言ってしまえば受け入れ準備や諸々の対応準備もしていない予想外な難民受け入れと誘導である上に、殆どが日頃から避難訓練や集団行動なんて全く訓練していない烏合の衆なのだ。
 おかげで軍経験者で難民を囲むまでに掛かった少しの時間でも、じっと出来ずに列から自分勝手に抜けていったり、好き勝手に広がって迷子になったりと、実際の犠牲者数の把握は準備不足もあって容易に出来ていない。
 ……実数はもっと居るかもしれない、と考えると気が重くなるだけだと分かってはいるが、どうしてもため息が漏れてしまうのは止めようもない。

「魔獣のエサたちのぉーかぁったる~い引率はぁ、これでやっとお終いですねーシオン様ぁ」

 そうぽろりと小声で愚痴ったエビネは、アザレアに従う腹心のなかでも比較的な子ではあるが、今までに一度も無かった毒舌がここぞとちょこっと漏れてしまってるのは、いつの間にかだいぶファンシーな森に落ち着き戻っている不浄の森に影響されてのことかもしれない。
 そもそもエビネは、デルカンダシア領民なら鉄板の不穏なが苦手な私の為、補佐というか秘書としてあのアザレアが問題ないと太鼓判を押して今回の遠征に際して送り出した同世代の若く将来有望な魔女っ娘なのだ。
 もちろん、私の護衛も兼ねてるので魔法諸々の力量は普通に私よりも格上だ。

 ……私の努力虚しいことに、他と比べてしまえば私程度なんて……実際に比較してしまえば、おそらく老若関係なく魔女たちの殆どが格上になるだろう……だから私が後継者なのは謎というかほぼアザレアパワーの成せる業パワハラなのだが。
 そんなエビネの不穏なぽろりの不穏度がちょこっとなのは、今まで聞いてきた数々の魔女ジョークに比べればこの程度の不穏なぽろり、まだ全然マシなほうだからだ。

「あぁ~なんかぁ、油断して惰眠貪ってた役立たずどもにぃ~呼ばれてますよーシオン様ぁ」
「……ええ、分かったわ。教えてくれて助かりましたエビネ。全員が森を出るまで引き続き確認をお願いしますわよ」
「はぁ~い」

 コレでちょこっとなのだから、他は察してあまりある……どうやってエビネが、私が呼ばれているということを何の予兆も無く察知出来たのかは分からないが、すぐにナズナが遠くから真っ直ぐこちらへと近づいて来ているのが見えてきたので、この際そんな些細なことは気にするだけ無駄かもしれない。
 まだ馬に乗ってあちこち駆け回るような、傷に響くだろう行動は身体に良くないとは思うが……この少人数しかいなくて、全然回らない状況ではドーンと胸を叩きながら大見得切って後は任せて安静にしていていいよ、とはとても言えない。

 むしろ多少の怪我をしていたとしても、今は特に前線から魔女たちが、この難民誘導人員の多くを占めているので、エビネやナズナのような判断の出来る人員は非常に貴重なのである。
 戻って来た興奮状態の彼女ら魔女たちが全く使えないかというと、表面上は特に問題なくあちこち散らばった采配でもしっかりと動いてくれているので全くそういうことはないのだが……。

 なのだが……報告のみではあったが、報告以上によほど前線は激戦激闘だったのか、未だ収まらない興奮状態のせいで一様に頬を色気ムンムンに上気させてあちこちで動いている魔女らは非常に目に毒、というより目の遣り場に困る状態であった。
 ――がしかし、だからといって別に風紀を乱しているということはなく……困ったことにむしろ逆で……。

 デフォルトでヤバイ殺人鬼というか……一目見たら、即座に蒼褪めて絶対関わりたくないと一般人なら自然に目を逸らしたくなるような、あまりに血みどろの凄惨過ぎる格好のおかげでか、合流してからは特に烏合の衆な難民たちの規律に異様に役立っていたのだ。
 そんな興奮状態の彼女たちに近付いて、わざわざ酷く疲労してまで身なり整えて、などと魔女らに指示をして従わせるほどの労力が必要な問題か、と問われれば即座にアルカイックスマイルを浮かべて難民からの苦情を丸っと無視するくらいには全く問題ではない。
 ――今あなたたちが向かっているのがむしろ巣窟ですよ、と言わなかったのはただの親切だ。

「――シオン! ここに居たか」
「ええ、何かありましたの? ナズナ様」
「ああ、実は……」

 ナズナによると、難民受け入れに関して一足先に王宮へ連絡――魔女経由で報告を裏で受けていたアザレアが――したところ、王都のほうから滞在していた各地の貴族たちが帯同していた、領地に属する騎士たちを各地への難民誘導のために丸ごとかき集め――奪って――こちらへ先遣として送ることになったらしい。
 ちなみに、未だに私が棒読みで読み上げただけで発動した逃れようのない強権は発動中のままなので、たとえ護衛を全て取り上げられ丸腰になってしまったとて彼らに拒否権は存在しないという……特に、カトレアたちが事前に怪しいと目を付けていた輩たちに関しては、ついでに私腹を肥やした証拠――隠し財産――を全部ひっくり返す勢いで持っていかれたり、カツラが突然発生した旋風に飛ばされてハゲがバレたり、隠蔽してたはずの罪を公に突然暴かれてそのまま問答無用でしょっぴかれていったりと、王都では貴族らが――悪企みしてた貴族たちだけ――目も当てられないほどの扱いで酷い有様になっているようだ。
 ……えぐい。何から何までえぐい……。ここぞとばかりにえぐい……。

「――そういうわけで、これからそれに関する簡易会議を行う」

 そういうわけなのである。

「……先日は取り乱して迷惑を掛けた。申し訳ない」
「いえ……こちらこそ、非常時であったとはいえ乱暴な扱いをしてしまい、大変申し訳ございませんでしたわ……」

 気っまず。

 ジニアからの謝罪を受け入れ、私も謝罪をする。ナズナに案内されてきたのは、先頭集団に配置されていた魔導車の中であった。
 どうしても足を止められず、移動中に会議が必要な時の為にと用意していたとはいえ、参加者がぎゅうぎゅうに詰まって居るせいで思っていた以上にかなり狭苦しい。
 その近距離な中で必然的に向かい合わせに男女の席が別れると、不可抗力でジニアと目が合ってお互いになんとなく謝罪合戦が始まってしまったのだ。

「初めて間近で目にしたが……知識として、戦闘状態の魔女は変貌すると知っているつもりだった。だがあれは……いくら知識とはいえ、実際がああも凄まじいというのは……」

 そういうことである。気っまず。

 ここで、実はあの言動は私じゃないんです~私の身体を貸した小人さんが~なんて不思議ちゃん発言をかますより、にしておいたほうが波風立たないので特にジニアの御想像を否定してはいないのだ。
 決して言い訳訂正のタイミングを逃し、だから今さらそこまでして必死に訂正することなのか? と日和ったわけでは、決してないのだ……これは立派な戦略的撤退なのである。

 ……別に、いざそうやって訂正してじゃあ証拠を、無いならあれが素だった? 貴族としての言葉遣いが云々……などと、いつの間にか説教パートに入るなんて面倒事になるよりかは、記憶が曖昧で……そうなんです血が滾ってつい……と適当に煙に巻いて誤魔化したかったわけではない。
 決して、それっぽい感じの魔女たちが戻ってきたよこれで納得出来たみたい追及逃れた助かったあ! とか全く思ってませんが何か。

「――何故、無謀と知りつつあの時あの場へ来た」

 と、何故か私たちがお互いに話の導入としてか変な謝罪をし合った後に、何故か急に詰問するように鋭くナズナがジニアに問うた。
 女性側にはアイリス、私、ナズナの順で並んで座っており、男性側はジニア、プラタナス、偉いおじさんの順で並んでいた。
 偉いおじさんについては、実は私もよく知らない。単に若人たちに経験積ませるために付いてきた付き添い兼監督役だ、とだけ聞いていたのだ。

 おかげでどんな不測の事態――突然私とジニアが拠点から飛び出していくとか、避難民が突如大量に押し寄せてくるとか、血走った目の魔女たちが超怖い、とか――があっても、偉いおじさんがその度に手際よく収拾をつけてくれて、どう指揮をとればいいのかを逐一私たち上官にヒントをくれたので、なんとか今も軍として纏っていられているという……今回の影の功労者だということしか分かってない。
 本当に誰なんだろうこの偉いおじさん。今回の行軍中、ずっと影が薄かったプラタナスが始終かなり慎重な対応で一貫して沈黙していたので、きっとまあまあな身分でかなり偉いおじさんなんだろうな、としか予想出来ないのだ。

「……それは、」
「そもそも今回の作戦の責任者だろう」

 ぐっ、とナズナの正論に喉を詰まらせたジニアが言葉を続けようとする前に、ナズナが正論を上乗せした。
 それはそうだ、確かに私もそれは思ってた。と他人事で動向を見守っていると――。

「デルカンダシア殿が助けに行くからと――」
「それは酷い言い訳だ。お前が自ら判断し、責任を放棄したこととは全くもって話が別のことだろう」

 ジニアが突如として私を引き合いに出し、痴話喧嘩に巻き込んで責任転嫁しようとしてたので思わずぎょっと驚愕に目を見開いた。
 ――が、すぐさま被せるようにナズナが正論で責めてくれたので、見開いた目を大人しく半目のジト目にして一応矛を収めてやった。

 ……確かに、問答がいちいち面倒だからと連れて行ってやったが、そもそも行きたいと頼み込んだのはお前だ。
 そこを忘れてんなよ恩知らずめ……!

「――君と……ナズナとはもう会えないかもしれない、と思えばどうしようもなく焦ってしまったんだ」
「――――」

 ……お?

「足手纏いであると理解しながらも、それでも真っ先にナズナの無事を確認したくて無茶無謀を頼んでしまった。……状況を、仲間へ何も知らせず捨て置き飛び出し、――なんて無責任なやつなのだろうな、私は」

 それはそうだけど。でも、おお……?

「……おそらく今回の失態で罷免、よくて左遷になるだろう」

 まあ……それ言っちゃうと私もなかなかにやらかしてるけども。
 特殊な私とはそもそもが立ち位置全く違うもんなあ……。

「きっと君の足かせになる。婚約解消したければ、当然受け入れる。だが、最後に……これだけは教えてほしい」

 悲愴。独白し始めてから物凄く悲愴感漂ってるよ……気っまず……。
 別の場所で、――というか頼むからぎゅうぎゅう狭苦しいこの場この状況じゃなくて、二人っきりの時にでもやってくれ……。

「私が君に捧げたナズナの花の――“あなたに私のすべてを捧げます”という花言葉は、それほどまでに不快なものだったのか……?」
「「「「「――――」」」」」

 ――ん? と空気になって見守る全員の心の声が揃った気がした。

「時代遅れ甚だしいことは承知している。だがそれは……あのように怒り叫ぶほどまでに、――それほどまでに、君を現す可憐な花を用いて花言葉を送ったことが不快なことだったのか……?」

 そうして、苦悶の表情で胸部分の服をくしゃっと強く鷲掴んで苦しそうに息を吐きながらジニアが告白した。
 ……えーっと? な感じで自然とナズナを見てしまう。眉間に皺を寄せていた。

「――不快だ、」

 ナズナからハッキリと告げられたトドメの言葉に、ジニアが俯く。

「私のすべてを捧げるべきはジニア、貴様ではありえないことだ」

 言われてさらに、ジニアがぷるぷると震えながら深く俯いた。

「私のすべては初めから国が為、主君が為に捧げるべき尊きもの――それはジニア、唯一と決めた主君に友としても仕えていた貴様も同じだろう」

 バッ! とジニアが顔を上げた。

「私は愚直にも、私の婚約者は誇らしくも同じ志を持つ忠義の者なのだろう、と勝手に思っていた。――だが、違ったようだな?」
「それはッ!」
「――ジニアの花言葉には、“絆”と“いつまでも変わらぬ心”などという意味があるのだろう」
「――――」
「それなのに、私如きに己のすべてを捧げようとする愚行など……似た者同士、と思っていたのは侮辱された私だけだったようだな」

 自嘲するようにナズナが笑った。
 ――が、突然の修羅場劇に空気がひたすら重い。修羅場気まずぅ……。

「……君の言う通りだ。いつだってナズナ……君は忠義に真っ直ぐ、己の信念に疑いなく進んでいくだけだった。……捻くれた私はそれがひたすら羨ましく、ただただ眩しかった」
「…………」
「何をやっているんだろうな、私は……忠義を誇りに想う君を、誰よりも近くで見ていたくせに……誰よりも知っていたはずの私が、君の誇りを傷つけるような行動にこうも愚かにも出てしまうとは……」

 今度はジニアが自嘲するように笑った。空気おっも。きっついて……。
 この後どうすんの。このまま大事な会議続行すんの出来んの? と思わず偉いおじさんに目配せして確認するが、おじさんは目が合っても首を横に振って二人の結果を見守り見届けるように沈黙を守るだけだった。

「ならば、――」

 とナズナがジニアをじ、と見定めるような静かな眼差しで告げた。

「ならば、決死の努力で今後死ぬまで失敗を挽回していくことだ」
「――――」
「生涯の忠誠を誓った主君は、憤るほど狭量か?」
「――――」
「私は、それほどで婚約者を見捨てるほど冷徹な女に見えているのか?」
「――ッ」

 ついにジニアが泣き出した。
 私たちはさらに全力で存在を消して空気と化した。

「確かに多少の怒りは湧いたが、それは別に花や私の誇りに関してだけというわけではない。――そもそも、その程度のことであれほどまでに怒るほどに私は婚約者の告白に浮かれないことはない」

 ……ん?

「――がそうやって乙女のように浮かれる前に、行軍中に指揮集中しないで花を摘むような自覚の薄い責任者に怒りが湧いたのだ。今回を最後に、必ず反省しろ。同じ二度目の失敗は絶対に許さん」
「「「「「――――」」」」」

 その後、会議は特に波乱も無く恙なく終了した。
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