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前世と転機
1-7
しおりを挟む「「「うおおおおおおおお……!!」」」
夜の帳がとっくの昔に降りた星空瞬く深夜。その酒場ではまさにその時、熱気の渦に満たされていた。
「また当てやがった!」
「ドンピシャじゃねぇか……」
「おいおいおいおい、やべぇんじゃねぇのか!?」
「うおおお! 次はどうだっ!?」
むさくるしい男たちがぎゅうぎゅうになって騒ぎ立てる先に、小さな少女とガタイの良い隻眼の男が相対するように座って賭けに興じていた。片方は余裕綽々と。もう片方は苦虫でも噛み潰したように。
「27ね」
「――27だ。クソッ! イカサマ出来ねぇのにどんな強運だ……!」
そう言って隻眼の男が数字の書かれた石を机へ放り投げた。コロコロカラカラと軽い音を立てて転がった石の数字は、確かに合計すると27だった。
「ほら、取るわよ」
「――31だ!」
「はい」
「クソッ! 33だとッ!?」
「今ので9連続私の勝ちね」
「ぐっ……」
――そう。既にディアナは9回勝負して9回ともピッタリと数字を言い当てて勝利していた。
男のほうも誤差などほぼない、本来なら奇蹟といってもいいような悪くない強運ではあったが、さすがに毎回ピタリと当てるディアナほどの強烈な奇蹟には叶わなかった。魔女なら何かしらイカサマやカラクリがあってもおかしくないと疑うが、そのための魔術契約である。
たとえ魔女でも反故には出来ない代物であるのは製作複製した同じ魔女のお墨付きである。つまり、ただただディアナの直感なのか運なのか、どちらにしろ天に味方でもされてるような当てっぷりは素のものであった。
「これが最後ね。21かしら」
「――――」
固唾を呑んで周囲が見守る中、男は握り込んでいた石を机に放って天を仰ぐようにイスに背中からもたれ掛かった。――石の数字を足すと21だった。
「「「「おおおおおおおおおおおおお……!!」」」」
「……あーあー、今日は厄日だ。24」
「……23。なんだかごめんなさい?」
「ハァァァ……おい。金持ってこい」
「へーい」
ディアナ達がそんなやり取りをするなか、隻眼の男が回答する前に、もはや誰も自分たちのボスが勝てるとは思っていなかったのか、後ろでぎゅうぎゅうになって成り行きを見ていた男たちが今日一盛り上がって隻眼の男の声に覆いかぶせるように雄たけびを上げた。
「――ほらよ。もってけクソ魔女。きっかり金貨一万枚だ」
「ありがとう」
ドシ、とディアナの前に巨大な袋が置かれる。元々分かりやすくするために分けられていたのか、金貨1000枚ごとの袋が10個置かれていた。
ディアナはその袋に近付いて一袋ずつ手に持つと、両手で押しつぶすように潰して消した。収納魔術による芸当なのだが、いったいどうやって持ち運ぶかと色んな意味でそれを注視していた酒場の客は、さらに盛り上がった。
……一部は命知らずにも後で横取りしようとでも考えていたのか、がっくりとしていたが。
「……チッ。用が済んだならとっとと失せやがれ」
お互いの契約が無事履行されたことで消えた刻印を確認した隻眼の男が、ディアナへしっしっと小動物でも追い払うような仕草で告げた。
その疲れた様子にイタズラ心が刺激されたのか、酒場の連中にちゃっかり色々貢がせていたアドニスと合流して出る間際に振り返ってニヤリと一言。
「また遊びに来るわ」
「二度と来んなッ!!」
もたれ掛かってたイスから撥ねるように上体を起こした男は、ディアナたちを据わった目で睨んだ。その様子がおかしかったのか、ディアナはクスリと笑った。
そうしてヴァルプルギスの酒場を後にした二人は、後をつけられることが無いように誰も立ち入らない森に迷いなく進んだ。しばらくして、完全に森の気配のみになるとディアナはアドニスに向き直って告げた。
「――これで当分は最悪どこでも生きていけるわ」
「ふーん。そうなんだ。その金貨ってどのくらいの価値なわけ?」
気の無さそうな返事でアドニスは答えた。貨幣価値を全く知らないアドニスにとって、今回のことはディアナの言うことに従っただけで、何のためにそれが必要なのか分かっていなかったのだ。
「そうね。一人金貨100枚もあれば一年くらい何もせずとも遊んで暮らせるわね」
「今みたいに?」
「今以上に、よ」
「へー」
説明してもピンとこないのか、特に魅力的に感じないのか、アドニスの返事にディアナは少しムッとした。
「なによ。遊んで暮らせるのよ? もっと喜びなさいよ」
「えー、だって……」
近くに落ちてた木の棒でそこら辺の木の実をつついていたアドニスがディアナを見てきっぱりと告げた。
「ディアナと一緒に居るならどこでも、なんでもいいよ」
「――そうね。私もよ」
アドニスの言葉に気を良くしたのか、ディアナは機嫌よく次の予定を確認する。
「あとはどこの国へ向かうかだけど……アドニス。どこがいい?」
そう言ってディアナは魔術で地面に大陸の地図を描いた。
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