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|急《まくあけ》
鈴蘭の救い
しおりを挟むお姉ちゃんは極端過ぎます。
偶発的に神へと至った弊害でしょうか。
……いえ。
お姉ちゃんの認識では弊害ではなく、恩恵なのでしょう。きっと。
それゆえに、生命は神を理解出来ないのだから。
――こちら側では特に。
生命にとって、死とはどうしようもなく恐ろしいものでしょう。
何故なら、死した後に己がどうなるかが全く分からないのだから。
――生きる、死ぬ。始まり、終わり。
たったそれだけ。たったそれだけの短い表現。
誰もが簡単に表現出来る。
その簡潔明瞭な端的事実のなんと悍ましいことかと心底恐れる。
……実に滑稽極まりない存在ですね。
個に囚われて、全体がまるで観えていない。実に滑稽。
生命がそう在るとして、たとえもし神の存在意義を知ったとて。
その行動原理があまりにも単純明快なものなのだ、と理解し受け入れるのか。
答えは否。理解を放棄し、拒否するでしょう。確実に。
それでも救えと神に希うのだから、救いようのない愚物どもです。
――では救いましょう、神の道理で。
それは嫌だ。なんて我儘。
――ならば人の道理で、共に滅びましょう。
それも嫌だ。なんて傲慢。
――選べないのならば、無かったことにしましょう。
これを嫌だと、抗議など出来ません。
神理も人理も、そもそもの道理が無くなるのですから。
これは今の状況を端的に表現した結果ですが……改めて、笑えますね。
お姉ちゃんは、己の存在が無へと帰すことを恐ろしい事ではないのだと自然に受け入れています。
ですがそれはおそらく、お姉ちゃんがあちら側の神だからなのでしょう。
……私もお姉ちゃんと同じように恐ろしいとまでは思っていませんが、とはいえ簡単に受け入れる気はさらさらないです。なにせあちらとは違って、こちらはかなり捻くれているのでついつい逆張りしたくなるのです。
まあしかし残念ながら、諸事情により私はあちら側へと行ったことがありませんので逆張りの証明は出来ませんが。
ただ……こちらとあちらでは、何もかもが根本的に違うのだということはこちらで生まれた時から知っていますので、ただ順当にそう予測したに過ぎません。
――なにせ私は、こちら側の神なので。
面白いことに、神は大まかに3種類あります。神様ではなく、神にです。
便宜上、その三種を簡単に表現するとして『黒』『白』『無』としましょう。
私はもちろん、こちら側で生まれた神なので『黒』の神。
お姉ちゃんは、こちら側で偶発的に生まれた『白』の神。
――ついでに、ミルローズの元の正体こそは『無』の原。
ちっぽけな星ひとつに、二神一原。
これほど面白い状況も、早々ありませんね。
――そうです。
神々の道理とは『白』の道理。
生命の道理とは『黒』の道理。
――どちらにも属せない『無』こそ、今回の主役なのです。
なので私に干渉は許されないし、神々も干渉を許されない。
かろうじて、星の眷属を通じての微々たる介入か――もしくは『無』へと無駄な取引を持ち掛け試みるか。
許されるのはそのどちらかのみでした。もちろん、既に交渉は済みました。
ですので、もう私に出来ることはありません。あとは神らしく、見守るだけです。
……あ。そうでしたそうでした。一応、眷属の微々たる介入が残っていましたね。
あまりに微々過ぎて、思わず省いてしまうところでした。危ない危ない。
期待は出来ませんが、せめてもの一興となるようには応援しましょう。
……あ。ちょうどミルローズが上位眷属を二つ撃破し、従属させたようです。
ふーん……なかなかの策を考えたようですが、きっと傷一つ付けられませんね。
そもそも従属された時点で諸々バレるのですが……それ込みでただの嫌がらせなのでしょうか? ふふ。
流石はこちら側に在る星の眷属。興が何かを良く分かっています。
それとついでに眷属たちの頭に登り切った血を一気に冷まさせる、という目的はどうやら無事達成出来たようです。
物語の都合上ではよく、主人公が敵を各個撃破して成長していくものですが……それでは本気でつまらないですからね。
クソ面倒? ええ、そうでしょうとも。
なけなしの介入権でそう導いたので。
とはいえ、ただただひたすらクソ面倒なだけですから。
こちらは見守るしか出来ませんし、当然そのくらいのサービスはあって然るべきものでしょう。
異論は認めません。キリキリ進めて下さい。
――そもそもミルローズは神と並ぶ存在。
眷属如きに後れを取るなど有り得ないからこそ、この程度はクソ面倒の一言で済ませられます。
せめて、私たち観客のためにもっと派手な大立ち回りをしてほしいものです。
……あまりに地味では、どのみちミルローズが望んだ結果は絶対に得られませんし。
――何事も。
難易度が高いほうが燃えますし、乗り越えた時に達成感が上がるというものです。
――――……――――……――――。
「――邪神とは失礼ですね。あのような小物と一緒くたにせず、黒ノ神とでも呼んで下さい」
「……急に何のことでござろうか」
「気にしても私たちには関係出来無いことよ、きっと」
「そうですね。その通りです。大変失礼しました。ここではただの独り言なので、委細気にしないで下さい」
おっと。いけない、いけない。
覗き込みに熱中しすぎて、ついつい今を疎かにしていました。
――先のあまりに面白い展開模様に、興が乗ったものでつい。
この結末なら、逆張りした甲斐があるというものですね。
神に時間は関係ありませんので。ついでに影響下の眷属も。
時間とは、基点を延ばしただけの一本の直線です。
縮めるも伸ばすも神の思うが儘。
なので過去であれ未来であれ神が存在しているのならば、その過去と未来は神である私も当然のように全てを共有出来るというわけです。
神でもなければ発狂ものでしょうが、欠陥であっても一応は神の端くれなので。
――欠陥。そう、私はお姉ちゃんと違って欠陥した神です。
本来であれば。
私がこの星の生命を滅ぼし尽すのが正道でした。
それが何の因果か、あのクソ女のせいでお姉ちゃんが神になってしまいました。
それも――白ノ神として。おかげで、とんでもない事態になりました。
この神すらとんでもないとする事態を理解するにはまず、『白』と『黒』について理解する必要があります。
生命にとって最も理解しやすいのは『黒』についてでしょうか。
当然のものとして、生命はそれを直視していますから。――宇宙として。
何故、私たちが存在する宇宙は黒いのか。黒く見えるのか。
――それは宇宙が『黒』で出来ているからです。
もっといえば、宇宙の大半が『黒』という巨大なエネルギーのもやで出来ているからです。
これを、ダークエネルギーとしましょう。
宇宙を形成するダークエネルギーとは何か。
――善と悪なら後者。
――正と負なら後者。
――真と偽なら後者。
つまりは、そういうことです。……少し、いじわるが過ぎましたか。
ですが、これ以上説明しようがないのも確かですが。
……仕方がありません――では。別の観点から身近に理解してみましょうか。
生命を象る上で、一番最初に創られるのは何でしょう。
生命の基礎。土台ともいえます。
肉体? 魂? ――いいえ、違います。感情です。エネルギーのみですが。
ダークエネルギーは感情の海そのものですので。
――神は、ダークエネルギーから分捕ったエネルギーを生命に詰め込み星へと還元させるのが役割なのです。
これはただの略奪に思えるでしょうが、それは違います。
――エネルギーの代謝を促し、停滞を生じさせない。
まだ、ぴんと来ませんか?
……安易ですが、これを生命に置き換えてもっと分かりやすくしてみましょうか。
生命が活動するに際して、血の巡りは必須でしょう。
何故なら生命は血の巡りが悪くなるだけで不調になり、完全に止まれば死に至りますから。
これで理解出来ないのならば、永遠に理解出来ないでしょう。理解しましたね。
――ダークエネルギーからエネルギーを分捕る神の略奪は、それと等しい役割だということです。
では。何故そうしなければならないのか。
それを理解する為には、今度は『白』についても理解する必要があります。
両方交えて理解しましょう。
まずもって――『黒』と『白』は対になっています。
複雑な部分は省き、単純明快に正反対とだけまずは理解して下さい。
なので単純な帰結として、ダークエネルギーは『黒』に在りますが、対となる『白』にもホワイトエネルギーが在ることが分かります。
すなわち、
――善と悪なら前者。
――正と負なら前者。
――真と偽なら前者。
なんとなく逆であることは理解出来たでしょう。
では。もっと俗っぽく分かりやすい表現に変えましょうか。
――ダークエネルギーは破壊エネルギーであり、ホワイトエネルギーは再生エネルギーなのです。
それぞれに続く単語だけでもう、双方相容れないのだというのがしみじみと理解出来ますね。
破壊の停滞。再生の停滞。
それすなわち『無』。――ならば。
破壊の代謝。再生の代謝。
それすなわち『黒』と『白』で在れる。
つまりは、そういうことです。
……が、これだけではさすがに”とんでもない“理由までは理解出来ませんでしたか。
では、もっと適当に踏み込んでみましょう。
破壊は、特に物質的なものに対して生じます。
再生は、特に非物質なものに対して生じます。
それがそれぞれのエネルギーの正体です。
神がこれらを感情エネルギーと表現するのは特別な意味でなく、それぞれのエネルギーから影響を受けた存在がこれらの源泉を感情として認識しているからに過ぎません。
このことが理解出来れば、神が感情を理解していてもそれを持たない理由も同時に理解出来ます。
――神にとってこれらは複雑怪奇で微細な感情群なのではなく、ただただ代謝を促すべき巨大なエネルギーの海だというだけなのですから。
理解出来ないようなので、言い換えましょう。
海を見てその大きさを認識しても、その原子までもを常に詳細に認識する生命は居ません。
――どのような成分で出来ているかを知っていたとしても。
なので、神の道理と人の道理は交わりません。
海全体を見渡す神と、海の微小な成分しか見えていない生命。実に滑稽でしょう?
海で例えましたが、つまり神の認識というのはそういうものなのです。
神が気にするのは、促すべきエネルギーが『黒』なのか『白』なのか。
たったそれだけのことです。
何故それを神が気にするのか、疑問に思いますか?
単純な理由です。
――『黒』にも『白』にも、それぞれのエネルギーの痕が存在するからです。
こちら側――『黒』では生命が。
あちら側――『白』では死気が。
こちらでは生命が、器となる身体という物質に縛られています。
そして物質は『黒』属になります。
逆にあちらでは死気が、器がない意識だけの非物質として在るだけです。
非物質は『白』属になります。
ちなみに死気としていますが、それはこの呼称が最も生命にとって分かりやすくイメージ可能な表現だからです。
別にこれが正式名称というわけではありませんので悪しからず。
……さらにいえば。どちらが良いかなどというのは、不毛極まりない思案です。
つまり非常にどうでもいいことですので、省きます。
生命の身体が『黒』であっても、魂が『白』なのだということが理解出来ていれば充分ですから。
『黒』のエネルギーに『白』のエネルギーが混じっている。それが痕なのだ、と。
……では。『黒』と『白』のどちらもが在るにも関わらず、どちらであるかをどうして決められるのか。
それは生命が『白』に属する魂や意識が存在することを理解していても、それを知覚出来ないからです。
なので必然的に『黒』に属すことになります。
そうなると意識のみの死気は完全に『白』のみなのにと思うのでしょうが、そうではありません。
実は、非物質な死気にもひとつだけ『黒』に属す物質が存在しているのですから。
それは非物質な死気の唯一無二の――核、とでもいうべきもの。
身体というものを持たない死気は残念ながらこの核に触れることが出来ませんので、生命と同じくそれが存在していることを理解していても知覚は出来ません。
そもそも生命の知覚のそれとは全く違うので、知覚という表現もおかしいですが……。
なので生命と同様に『黒』の物質を知覚出来ないので、必然的に『白』に属すことになります。
神はその配合を星を介して調整することで循環を促し――とにかく神は、エネルギーを分配してそれぞれに存在を誕生させることで大まかな全体の調和を担っているのです。
円滑剤とでも呼ぶべき、とても重要な役割ですね。
生命が象られる際に、感情――エネルギーが先に在るのだと先程理解したと思います。
『黒』に在る生命は、神が分け与えた感情エネルギーを利用して物質的な肉体を形成し、後に余ったエネルギーで魂を創っています。
神によってエネルギーを適切に配合され、こうして生命は誕生させられます。
ちなみに死気は物質に縛られない非物質ですが、エネルギーが先に在ることは生命と何ら変わりありません。
……ただし。
物質的な肉体が必要無いのでその分は全て魂に注ぎ、余ったエネルギーでひたすら分裂しますが。
あちら側へは諸事情により行った事が無いので、そのような面白い光景を実際に視ることが出来ないのは残念でなりませんね。
……少々脱線してしまいました。話を戻しましょう。
つまり――神というのは、『黒』『白』それぞれどちらにも必須に在るもの。
そして膨大なエネルギーの停滞を生じさせないようにするが為だけに存在しているということです。
……ここで、あるおかしいことに気付きますね。
――そうです。ひとつの星に、二神もいます。しかも片方は『白』の神。
さらにおかしいことが判明。ここで最初の説明に戻しましょうか。
――神々の道理とは『白』の道理だと、私はそう説きました。
おかしいですね。神は『黒』と『白』どちらにも在るはずなのに、と。
――おっと、失礼しました。ついつい嘲る笑みが漏れてしまいましたね。
私は黒ノ神なので性格が悪いのだ、ということはもう理解出来ていることでしょう。
これほど親切に、懇切丁寧に説明しているというのに酷い偏見ですが。
神々の道理。
これを生命に理解させるのは流石に骨折り損なので、単純な結論のみにしましょう。
――神は物質の器を持ちませんが、物質に触れることは出来ます。
なので神は明確に『黒』と『白』に区分されているわけではなく、両方に属している存在なのです。
実情はともかく物質に縛られてはいないので、区分するなら『白』なのだとしているだけ。
道理についても似た理由です。単に『白』のほうが神の存在意義に近いからというだけ。
ただ生まれたのが『黒』か『白』かで多少の性質に違いはあっても、根源は同じ存在意義なのです。
――ぶっちゃけてしまえば、フラフラっと好き勝手な亡命が生まれた瞬間から可能なのです。一応。
あまりそのようなアクティブな神は居ませんが。居ても小旅行か偵察気分でしょう。
……なのでどちらかといえば、亡命よりかはライバル社への転職とするほうが理解しやすいかもしれません。
ちなみに私が神として欠陥なのは、神なのに物質に縛られているからです。
――全部クソ女のせいですが、長くなるので省略しましょう。
そんな両方に属しているはずの私たち神が『黒』の神、『白』の神、と分けられるのは何故か。
本来は相容れないので、どちらに属する神なのか明確に判別する為だという単純な理由もあります。
――ですがそれだけではなく、その神の性質の判別にも必須なのです。
いくら似たような同職への転職でも、同じなのは基本だけ。
基本以外は未経験と何ら変わりありません。
――ここまで理解出来れば。
なんとなく”とんでもない事態”の理由が薄っすらとした輪郭で見えて来たはずです。
破壊と再生。
善と悪。
正と負。
真と偽。
相容れない。
――なんて、可哀想なのでしょうか。
突然、『黒』で神になってしまって。
しかも、なってしまったのは『黒』ではなく『白』の神。致命的バグです。
黒ノ神である私でさえも『白』の大まかな概要しか知らないように、お姉ちゃんの神としての叡智は『白』寄りのもので『黒』に関する叡智はそれほどでもないはずです。
手探りで拙い調和でなんとかしようと今まで頑張ってきてはみたものの、どれほど頑張ろうと根本的に『白』の方法では上手くいくはずもなく……。
生命の道理とは『黒』の道理。
物質に依存する世界です。
非物質に依存する『白』の世界とは丸っきり違います。
しかもアホらしいことに、ちょうどこの星はエネルギーの供給過多で自滅寸前に追い込まれていました。
私が生まれた瞬間……いくらなんでも神不在であれ、今までの経験が確実にあったはずだというのに、まるで限度というものが本能的に分からなかったものだろうかと星に呆れるばかりだったのも今では失笑のみです。
もしこの星の担当が私だったのなら、生まれた刹那にいっそのこと華々しくも潔く散らせて差し上げるところだったのですが……星に対し許容可能な神は一柱が基本なので、残念ながら後から生まれた私の介入余地は既にありませんでした。
非常に残念です――生まれるのが遅すぎて。全部あのクソ女のせいですが。
しかもこのアホな星は、さらに余計なことをやらかしていました。
――魔女、から生じた魔神も。眷属らのことです。
眷属を創るまでは良かったですが、だからといって管理出来ない数や存在を生むのはいかがなものでしょう。
破綻まで延々借金に借金を重ねるだけの、どんぶり勘定にもほどがあります。
管理不行き届きで結局このザマですよ、笑えませんね。笑うしかありませんが。
そんなアホな星に無理やり神として在ることとなってしまった『白』の神であるお姉ちゃんは、最初からどうにもにっちもさっちもいかない状況に放り込まれても、それでもどうにかお姉ちゃんの知る『白』の救済を施そうとした。
――しかし『黒』に在る星や生命には、それが到底受け入れられる救済ではなかった。
お姉ちゃんの救済は『白』では平々凡々な提案です。
しかしそれは――『黒』である生命にとっては”死“でした。
死を恐れる生命は、たとえ神の提案であれ到底それは受け入れられないし理解されないのです。
……生命としての記憶があるお姉ちゃんですが、神に至った瞬間からもう海の成分ではなく海そのものしか見えていないのです。
生命が死に恐怖心を抱いていることを理解しており、さらに神になる前に己にもそのような恐怖心があったことは重々理解していて、それでもそのうえでこれが救済なのだと言い切るのが神という存在です。
――理解し難いですか? それはあなたが生命である証拠ですよ。
しかも『黒』ではなく『白』の神です。より理解は困難を極めることでしょう。
たとえ万に一つ、神を理解出来たところで最後は生命ならば神を拒否拒絶するはずです。
……ここが『白』の側であれば、お姉ちゃんは神としての役割を十全に出来たことでしょう。
ですが残念ながらここは――『黒』の側。
『白』の神にとってはあまりに肩身が狭すぎます。
私なら、イラッとした時点で――神ながら物質に縛られている欠陥のせいで、感情に多少左右されてしまう――迷わず即ボカーン! とやっちまうところですが、お姉ちゃん……というよりかは『白』の神というのは破壊ではなく再生のエキスパートですからね。
そんな発想はしませんし、そもそもできません。例えればそのスポーツの名称は知っていても、たったそれだけですぐさまプロと同等並みに動けるというわけではないのと同じことです。
だからこそ専門分野である再生をさせることにしたというわけなのです。
……一旦、無に帰してから。
何故、無に帰す必要があるのか。お姉ちゃんにとって致命的な欠点が判明したからです。
それは――『白』の神が破壊は勿論、無に帰すという御業に関して専門外だという致命的な欠点が。
星の眷属を使っても、せいぜい天変地異が関の山。大したことは出来ませんので。
私が代行で破壊? ……容易く出来たでしょうね。
しかし、その破壊の後で謎にお姉ちゃんを無駄に犠牲にしてまでアホな星と増えすぎた生命どもの無駄な再生をして結果ただ少し延命しただけで再び破壊する、ということになるくらいならば二度手間な御業はしませんと断りましたよ。ええ。
……そしたら何故か『無』からミルローズをスカウトしてきたわけです。
ええ、まあはい。断じて私のせいではありません。
悪いのはアホな星と生命たち、それと圧倒的にクソ女です。
というより、こんなクソでとんでもない状況に陥っている元凶はほぼほぼクソ女です。
本当にクソなことしか仕出かしてないクソ女ですよ。ええ。
おかげでさまで、まさかお姉ちゃんが神々すら避ける『無』から、あんな”とんでもない“存在を引っ張り出してくるとは全く思わないでしょう。
お姉ちゃんのやることがあまりに大胆極端過ぎて、生まれたときからの神も思わずびっくり仰天動揺でお目々まん丸開眼しちゃいましたよ。
危ないのですぐ閉じましたが。
……生命や星に、そんな価値があるものとは到底思っていなかったからこその驚天動地です。
これはきっと、私が『黒』の神だからなのでしょう。
お優しい『白』の神の性質を甘く見てました。
さらに追い打ちで、非物質の『白』からすれば再生し甲斐のある存在が『黒』の物質だということ。
私だって破壊し甲斐のある『白』の非物質をみれば、破壊衝動を抑えられるかどうか……無理ですね。
これが神の生理的欲求ならば、もうどうしようもない。笑顔で最期を見守るしかありません。
――そんなつもりはないので、ミルローズに対し無謀な交渉に乗り出したわけですが。
想像より超好感触で何よりでした。
……これに関しては、たとえ未来をも掌握する神であっても成立する寸前まではただの博打でしたので。
多少のクソ面倒な手続きは大目に見てほしいものです。
――あなたもそう思いますよね?
存在しない、存在する『無』の領域。
そこに倒れ伏す、少女の虚ろな目を覗き込んで内側へ強制的に問いかけた。
――面白そうなので、特別に救いをあげましょう。
私は黒ノ神ですからね。
――その救いが何かは、言わずとも理解できることでしょう。
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