背神のミルローズ

たみえ

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|破《ほうかい》

らぶさばいばー

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「――凄いですね。本当に驚きました」
「なにがだ」
「お姉ちゃんの慧眼に、まさかの驚き桃ノ木です」
「意味分かんねェよ」

 ある日、縁側で神が迎えに来るのを待ってダラダラと寝そべっていると、何故か神ではなく鈴蘭がわざわざ直接来た。
 心底怪しんだが、神は取り込み中――十中八九鈴蘭の仕業――らしく、仕方なく付いて行った。――んで案の定、怪しげな部屋に連れ込まれて、何やら「らぶさばいばー」というアホそうなタイトルのゲームをいきなり強制的にやらされることになったのだ。
 しかも無駄に内容が細かく長く、時間がそれなりに掛かって実に面倒であった。

「――数ある罠を、これでもかとあまりに奇跡的な確率で全てあっさり潜り抜け、まさかまさか最も達成困難だとされる全キャラハッピー大団円エンドを初見でクリアしてのけるとは……実はこっそり攻略本とか見てません?」

 ……アホかよコイツ、何言ってやがる。
 クソくだらねェコレを終わらせるまで無駄に延々張り付いて監視してたくせに、んなわけあるかよ。

「絶対にハッピーエンドとは程遠い散々な惨い結果になるだろうと踏んでいましたが……まさか真逆の結果にやってのけるとは。最も驚嘆すべきは、人としてありながらの容赦ない人でなしっぷり――なるほど、お姉ちゃんの考えもあながち間違いではありませんね。非常に納得しました。本当に、とてもこの目で視ていなければ到底信じがたかった結果です……あ、便宜上、目は閉じてますけど」
「……オイ、テメェ。いきなりやってきてアホなことほざいて、挙句それにわざわざ付き合ってやったってーのに、その寛容なオレ様に喧嘩売ってんのかよ。あァ゛?」
「ああ、いえ……失礼しました。あまりに結果が似合わな――いえ。想定以上だったもので、つい……」
「まだ言うかよ。似合わなくて悪かったなァ、オイ!」

 とにかく、この「らぶさばいばー」というゲームをプレイするまでは絶対にその場を動かないだなどとあまりに恐ろしいことを宣うので、仕方なくクリアしてやったが――何故か、今度は心底感心したような、むしろ驚いたような、どこか釈然としないような雰囲気を醸し出しながら表面上は褒めながらも、かなりボロクソに言われていた。
 これをする意図も、意味もまるっきり理解出来なかったが――もうどうでもいい。とっくに、その面倒なゲームは終わらせたんだ、もう何も文句はねェはずだ。

「いやはや……本当に、これは流石に驚きしきりの感嘆です。久しく忘れていた興奮をとみに感じられます。――あなたは、想像以上に素晴らしい逸材です。誰に何と言われようとも、絶対の自信を持ってください」
「なんだ急に。気色悪ぃな……」

 オレ様の率直な言葉に、鈴蘭が「とんでもないことです!」と肩をバシバシと強めに叩いてきた。

「そのようなことを言わないでください。この私が柄にもなく、本気で心の底から喜んで褒めているのですから」
「んなもんいらねェぜ……」
「では今度、是非とも製作者に会わせましょう。大事なお話はそれからです」

 こいつが嬉々として会わせたいやつと大事な話……んだ、そりゃ。ぜってぇ面倒なモンだぜこりゃぁ。

「……行かねぇかんな?」
「お姉ちゃんの許可は取れたも同然ですし、あとはぼうたんに話を通して――」
「聞けよ、オイ」

 完全に聞こえないフリで無視された。

「――あ。ついでにあの件の処理も先に済ませましょうか……」
「オーイ、オイオーイ、テメェ話聞けって! オレ様はぜってぇー行かねェかんな!」
「それは残念ですね。では来て頂く方向で調整しましょう。……ですがその場合、十中八九テンションぶち上げで暴走するだろうお姉ちゃんの対応の全てをお任せすることになりますが」

 ワントーン下がった声で告げられた言葉には、捉え間違いようがない程のかなりの本気が宿っていた。
 ……なんだこのちんけな脅しは。神が暴走? ハッ、上等――。

「……行く」
「それはなりよりです」

 クソ面倒なアホ神のアホ暴走に付き合うか、鈴蘭の面倒なしょうもない企みに巻き込まれるか。
 ――どっちがより、クソ面倒かは言うまでもない。
 にこ、と笑みを深めた鈴蘭の表情から目を逸らしながらも、気付けば観念の言葉を吐いていた。
 クソが。いいように誘導しやがって……。

「――このゲーム。クリアして、どう思いましたか」
「あァ? ひたすらクソ面倒だったぜ」
「面倒とは」

 そこ掘り下げんのかよ。

「具体的に」
「……あーァー、なんつーか――」

 己でも内心で驚くほど、想像以上にあまりにも上手く纏らない言葉で面倒の内訳を鈴蘭になんとか伝えた。
 そして、――。

「――やはりあなたは最高の逸材ですね。お姉ちゃんの慧眼は、やはり素晴らしかったようです」
「オレ様のただの感想だろ。なのに言ってる意味が分かんねェぜ。一人だけで納得してんなよ」
「これは失礼しました、ついつい癖で」

 普段の薄っぺらい虚無の微笑ではなく、どことなく――まるで心の底からの嬉しそうな笑みと分かる笑みを浮かべ、鈴蘭が上機嫌そうに答えた。

「ですがやはり――答え合わせはまた、いずれ来る機会に」

 綻ぶような喜びの感情を隠すことも無く、しかしそれとこれとは別だと割合バッサリと話を強制的に終わらせられた。
 ……たとえ上機嫌でも、徹底的に不必要なボロは出さない。そこは徹底して通常運転であった。
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