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|破《ほうかい》
オレ様
しおりを挟む『いっけぇー! ろぉ~ずぱーんちっ!』
アホらしい声を上げながら、ぶんぶんと腕を弱っちくぶん回す神を横目に唖然とそれを見ていた。
「……嘘だろ」
「これがあなたの真実です」
『ろぉ~ずきぃーっく!』
普段から常時張り付いてるはずの少女の微笑もこの時ばかりは引っ込んで、かなり神妙な顔でそう告げて来た。
アホな神はそんなこちらの様子を全く気にも留めず、全く似てない真似をしながらソレに夢中な様子である。
《――食らいやがれ! テメェにゃ勿体ねェ、オレ様とっておきの秘儀だぜ!》
桃色髪を二つ結びにした、どこかあどけない顔つきをした少女が小さな箱の中で敵らしき相手と戦っていた。
……その容姿や言動は、どうしようもなく言い逃れが不必要なほどにやたらと既視感のあるものであった。
「……嘘だろ」
『きゃあ! ぎゃんかわ! イケイケ! ろーず様、最&高~!』
「認めがたい事実であることは察しましょう」
何故かぽんぽんと少女に肩を叩かれて腹立たしくも鬱陶しかったが、それを払いのける余裕はまるでなかった。
生まれて初めての動揺という感情により、全くそれどころではなかったのだ。
「なんだ、こいつは……」
『え、知りたい? ほんと!? うんうん、だよねだよね! そうだよね! 気になるよね! うんうん、当然だよね! ――ならば私の最推しこと、「ろーず様」を是非とも語ってしんぜよう! おっほん。まずは――』
「あ、これは長くなりそうですね。喉も渇くでしょうし、ついでにお茶菓子も用意しておきます」
思わず唸るように零してしまった言葉に対し、無駄にテンション高く神がいち早く反応し、捲し立てるように意味の分からないことをひたすら語り始めた。
……なんで、神と「ろーず様」の出会いやら「ろーず様」との倦怠期や一時的な別れとやらを聞かされてるんだ。最初に神が語ったのは「ろーず様」とやらについての詳細ではなく、神が「ろーず様」とやらに出会った経緯だった。
『――でね、私は気付いたの。もう「ろーず様」が最&高なんだと』
「――――」
やっと本題だろう「ろーず様」の氏素性やら生い立ちやらの話が始まったが、あまりに長すぎる――神と「ろーず様」とやらの出会い篇等々が終わる頃、陽の傾きは既に沖天から地平線スレスレまで消えかかっていた。長すぎる。
少女が茶菓子が云々と適当に言い訳し、早々に退散していってから未だに一度も戻ってきていないが……付いて行けば良かったかもしれない、と考えるほどには無駄に長い話であった。
『でねでね! 「ろーず様」ってば特に可愛いのが――』
「…………」
……よくよく考えれば、一方的に延々と語ってる神の喉はそもそもが実体が無いのだから渇くことは無いだろうし、こちらもあれからずっと一言も発さず聞き役に徹しているのに喉がそれほど渇くわけもなかった。
いつの間にか完全に陽が落ちて、黒く染まり始めた外を全く気にもせず、ひたすらに「ろーず様」についてやらを飽きずに延々と語り続ける神を視ながら、遅まきながらもそう気付いた。
……いくら酷く動揺していたとはいえ、すぐ気が付くべきだったな。
『――というわけで、今日からあなたも一人称は「オレ様」ね!』
「……は?」
一瞬、思考が逸れた隙に何故か神に不意打ちで決定事項を告げられた。
『うんうん。了承してくれてありがとう! わあ、嬉しいなあ』
「――――」
――神の言葉は絶対だ。
『うんうん。――仕上げのぎゃんかわ進化で、最強無敵だね!』
「――――」
はくはくと何も言えずに思いっきり引き攣る頬だったが、そんなことはどうでもいいとばかりに、どこか未だに少しだけ違和感のあったはずの実体が、唐突にしっくりと完全に馴染んだ。
……おかげで、もうどうしようも覆しようもないことだと即座に悟る……己の欠陥同様に。まさか……まさか己の欠陥の原因が、まさかこんなしょうもない――!
「――楽しいお話中に失礼します。そろそろ晩御飯のお時間ですよ」
「……テメェ」
「はい。そのような恐ろしい顔で睨んで、なんでしょうか」
まるでこちらを神への生贄にして早々に逃げた事実など全く無かったかのように、澄ました顔でしれっと宣った少女の態度にイラつき――だが、同時に留飲を下げる名案を思い付いたので、睨むのを辞め、ニヤつきながらその名案を即座に実行することにした。
……己の思考や言動が、先程までよりもかなり明瞭な性質となって表出していた。
「――オイ、そういや鈴蘭が”スーパーGくん博士号さん五号改“とやらを大事に隠し持ってやがったのを見たぜ」
「何を……」
突然の話題に、意図への理解が及ばなくとも何かしらの己に対する企みを即座に察したのか、怪訝そうな顔で鈴蘭がすぐさまこちらへ何某かを問おうとした、――が。
ぐいぐい、と神が鈴蘭との間に突如として物凄い剣幕で割り入った為に、行動が先制されて鈴蘭が動けなくなる。ざまあみやがれ。
『なっ! ななな、なんですとぉ!? り、りんかちゃんが……! そんな、それはいけない! 博士の策略に引っかかってるなんて! 早く助けなくちゃ!』
「へっ?」
急に変な事を言い出して標的を変えた神の行動を理解出来ずにぽかん、と口を半開きにしたままマヌケ面で固まる鈴蘭を満面の笑みで視やって、神の背後から「んべ」と舌を出して留飲を思いっきり下げた。
何も嘘は言ってない。ただ、鈴蘭が神の最推しである「ろーず様」を知ってても、その「ろーず様」が登場活躍する前段階のもっと初っ端もいいところの初期段階にあった敵兵器については知らなかったというだけだ。
「あの、あれは単にお兄ちゃんを驚かす為にと偶然見つけて買った……」
『目を覚まして、りんかちゃん! それは博士の策略よ!』
「いえまあ、商業戦略としてちびっこたちに大人気と銘打って販売……」
『まずいわ! すでにひどく洗脳されてるみたい!』
「いえ、あの話を聞いて……」
『あわわわわっ。どどど、どうしようっ!? 博士の魔の手が、既にりんかちゃんにっ!』
「――んじゃ取り込み中だし、オレ様は先に晩飯食ってくるわ」
「ちょ、ちょっと待ってくださ――」
何やら酷く焦った鈴蘭の声とぎゃあぎゃあ騒ぐ神の声が背後から聞こえてきたが、丸っと無視した。……アレの背景を知っていれば、早々に神の話から逃げたやつが”あんな危険ブツ“を堂々と持ち歩くわけがない。
そして今までに確認した鈴蘭たちの性格や行動などを元に総合的に鑑みれば、当然のように導き出された簡単な推測による仕返しとなる。
――ふん。情報を部分的にしか知っておかないとは、随分とお気楽で詰めが甘いことだぜ。
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