15 / 33
|破《ほうかい》
御神木
しおりを挟む『わー、生き返る~! あ、私ってば幽霊だった』
のほほんとした、いかにもアホそうな声を上げながら神がくるくる舞った。
……何度この意味の無いヘンテコ舞を見せられたことか。今回のは過去一動きがアホっぽいな。
『ねえねえ見てて見てて! せい、――びよよーん!』
「…………」
神が、神木から伸びる枝先を下にぐぐぐっと押して離し、しならせた。
アホか。
『えっへん!』
「…………」
神が如何にも偉そうに腰に両手を置きながら腰を反り、胸を張って顎を上げた。
アホか。
「――ほらほら、箒持って。ちゃちゃっと掃いてくよ」
そこへ、両手に箒を二つ持って朝っぱらからどことなく精魂尽き果てた様子の青年がやってきた。
委細省き、色々なことがあって成り行きで清掃とやらを手伝うことにいつの間にかなっていた。
「……なぜ」
「日課だから。例えまだ子どもでも、働かない居候にタダ飯はあげません」
手渡された箒を片手に全く動く気配を見せないこちらをチラと見て、青年が再び「ほらほら、早く動けばその分早く終わるよ」と背を向け隅からちまちま掃きながらも催促してきた。
……仕方ねェ。面倒だが、さっさと終わらすか。
ゴオオオォォッ。
「――ちょちょちょすとーっぷ、すとーっぷ!」
何故か、凄い勢いで振り返って歩み寄って来た青年に動きを制止するよう声を掛けられた。
無視してもいいが、一応は一旦動きを止める。
「なんだ? 言われた通りやってんだろーが」
「いやいや、周り見てね! 無駄に散らかしてるの間違いでしょ!」
信じられない、と言わんばかりの表情であちこち指差し指摘されたが……指差された箇所を見れば、落ち葉どもを無駄なく残らず隅に追いやっている。完璧だな。
「……そもそも何したの、今。急に背後からゴオオオ、って物凄い音立って、振り返ったら既にあちこち全部に落ち葉が吹き散ってたんだけど!」
「完璧だろ」
「……ウン。ソダネ」
かなり酸っぱそうな顔が気になるが、青年がカタコトで同意した。だろ?
「――君が普通の子じゃないって、うっかり忘れてたよ! そっか、そうだよね。あの魔女たちのお仲間、同類なんだよね……。ごめんね、君は悪くないよ。難しいこと頼んだ僕が悪かったんだから。うんうん」
「…………」
アホどもと一緒くたにされ、反射で眉根に皺が寄ったのが分かった。
手に持っていた箒に目線を向け、――。
「確かに今回悪いのはお兄ちゃんですが――何か勘違いして誤解していませんか」
「? うん」
ひょこ、と中庭の戸越しに少女が突然、顔を出して言った言葉に邪魔され、思考が中断した。
「違うって……この子は君たちの同類なんじゃないの?」
「お兄ちゃんの平凡な思考性質は大事に尊重すべきものですが、あまりに鈍感だと余計な事故に繋がってしまうので、ここは私が一肌脱いで、お人好しなお兄ちゃんでもしっかりと理解出来るように説明します。――その子は魔女ではなく、ただの超人です。すーぱぁーひゅーまん、なのです」
「あれもしかして今、流れるようにかなりの悪口を言われて馬鹿にされたのかな、僕」
少女がぷく、とわざとらしく頬を膨らませて分かりやすく不満を露わにした。
……神も時々、同じことしてたな。
「何を言っているんですか、お兄ちゃん。とんでもないことですよ。私にしては有り得ない程、かなりの絶賛称賛万歳三唱な誉め言葉と親切な忠告だったのに……。酷い偏見です!」
「そう、なんだ……? ごめん……?」
アホが。納得すんな。んなわけねーだろが。
巧妙に嘘は言ってねーだけだろうが。少し考えりゃ分かるだろ……。
「そもそもお兄ちゃんは、一体この子を何歳だと思って接しているんですか」
「いや何歳って……。どう低く見積もっても、二桁いくかどうかくらいなんじゃ……?」
「全然違います」
「全然違うんだ……なら本当は何歳なの? 小学校中学年くらい?」
……そういや、時間があったな。
重要なことでもないから、全く気にしてなかった。
「――まだギリギリ、数え一歳ですよ。なので勿論、難しいことなんて出来ません。なので、今回のこれは虐待になります」
「――うそ、これでまだ0歳なの!?」
「数え一歳です。そこを間違えないでください、お兄ちゃん」
「そこ、やけにこだわるんだね」
……不本意ながら。
この実体を得てからを明確に時間換算すれば、そういう事にはなるのだろう。不本意ながら。
「0と1では概念からして違いますので。気を付けて下さいね。繊細なお年頃なのです」
「繊細……なの?」
何を考えてるか丸わかりな怪訝そうなアホ面で、青年が少女とこちらを胡散臭そうに交互に見てきた。
凡人相手ではアホな魔女らよりも会話が面倒なので、問うような視線は全て丸っと無視してやった。
「そうですよ。人間に例えれば、運動機能の発達著しい成長期なのですから。それと多感で加減が難しいお年頃なのです。ですので、刺激するような物言いは教育上よろしくありません。勉強不足ですよ、お兄ちゃん」
「いやいやいや、勉強不足とかそういう問題じゃないよね!? 明らか0歳って容姿や能力じゃないよね!? どう頑張っても完全に見た目が日本人じゃないのに、何故か普通に意思疎通余裕レベルで日本語使いこなして喋ってるし! 口悪いし!」
「数え一歳です」
「そこは絶対に譲らないんだね!」
……口が悪いのは全部、神のせいだ。この実体と名を与えたのは神の御業だからな。
文句があんなら神に言え。こちらが文句を言われる筋合いはねェ。
「勉強不足ですね、お兄ちゃん。最近の子はマセてて大きいグローバル化です」
「意味が分からないよっ!? どこかで聞いたような言葉、適当に繋げただけでしょ!?」
「……バレてしまいましたか。惜しかったですね」
「何が!? 何も惜しくないよ!? 帰ってきて早々、お兄ちゃんを弄ばないでくれるかな!?」
「それは困ります……」
「いや困るの僕だよね!? そもそも――」
などとぎゃあぎゃあ言い合いを始めたアホどもを全く気にも留めず、今までずっとあらゆる角度で神木のあちこちを検分するように真剣な眼差しで見定めていた神が、突如としてひとつの大きな枝に目星を付け勢いよく飛び掛かるのがハッキリ視えた。
近くに寄れば寄るほどにハッキリ伝わってくる……やはり神の実体は、あの中にあるな。だが、……。
『むんっ……びっよよ~ん!』
「「あ」」
せっかく落ち葉どもを隅に追いやってやったのに、再び中庭全体が落ち葉だらけになった。
異変に二人も気付いて同時にマヌケな声を上げたが、起きた惨状は変わらない。
『ふぅ……えっへん!』
……やってられっかよ。
胸を張ってやたら偉そうにする神を無視して箒をその辺へ投げ捨て、青年が唖然としてる間に中庭を出た。
神と少女がすぐさま追ってきて、青年だけがその場に取り残された。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

夢現新星譚【外伝Ⅰ】歪な世界と未練の檻
富南
ファンタジー
●注釈
※この作品は『夢現新星譚』の第一部【Ⅰ】夢と現の星間郵便の第69話で夢羽が話す、前日譚となります。
この作品から読み始めても楽しめますし、次に本編を読み始めても問題ありません。
●あらすじ
3つの世界を維持するために、今日もたくさんの食事をしている創造神のソラ。
そのソラの元に、血塗れの服を着た中年の男、クロードが来訪する。
「僕の名はクロード。盗賊団に襲われ……妻は今も……今も……」
ソラは世界には希望があると伝えるべく、夢の世界の街を案内するが、
「僕は……人の世を終わらせます。この腐敗した世界に、もはや救いなどありません」
と言い、クロードは街の方へと姿を消した。
神々の怠惰、人々の苦しみ、そして新たな脅威。
夢と現の星間郵便の前日譚のソラの物語。ここに開幕。
※この作品は旧作である『夢と現の星間郵便シリーズ』の設定を引き継いだフルリメイク作品です。
この小説は、カクヨムとアルファポリスとpixivにも掲載しています。
この小説は、実在するものを使っておりますが、全てフィクションです。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる