背神のミルローズ

たみえ

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|序《はじまり》

|道程《みちのり》 捌

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「今なら円換算、本来なら100万だったところかーらーの! たったの10万ぽっきりにまで大幅に負けるあるヨ~! 超絶お買い得品ネ~! もってけ泥棒あるヨ~!」
『えー! そそそそんな、ど、どうしよーかなー? うーん、ま、迷うなー?』
「ふむふむ。主よ、それほどまでにコレが欲しいのであれば、ここはドンとこのシャナラにお任せを――」
「いちいち引っかかるなよアホどもが」
『「「ぎゃああー!?」」』

 バリン、とらしかった幸運の壺が呆気なく砕け散った。確かにように姑息な術は掛けられていたが、そんなチャチな術など、このミルローズにとっては全く無意味なので割り砕くことに支障は全くない。
 面倒なことに巻き込まれる前に今回こそ介入してやった。素で引っかかったアホな魔女はともかく、神に関しては完全に分かってて引っかかったフリだったが。単に面白がって余計なことにこれ以上時間を潰されるのは面倒この上ない。早々に、神曰く『フラグ』とやらをぽっきりと折ってやった。ん、だが――。

「史実に名立たる傾城傾国の美女、あれ大体ワタシの傑作ネ」
『スイセンちゃんすごーい!』
「さすがは剪境の魔女、年季が入っています」
「もっと調子良く褒めるがいいネ!」

 ――気付けば、良く回る口に何某かの口を挟む隙もなくアホどもが即座にそそのかされ、スイセンを名乗った古き魔女にあれよあれよという間にあちこちと見境なしに連行されていた。
 そしてその間、ココだけの話だと全く興味のない自慢話を延々とされているが、ココだけの話とやらなのに慣れたように軽くペラペラと語る口が永遠に止まらないのは明らかに故意だろう。

「アナタ、傾世の素質あるヨ。このスイセンの御眼鏡に叶う美貌ネ!」
「興味ねェ」
「人生の三割損してるネ」
「興味ねェ」
「今なら大戦発展大特価ネ!」
「興味ねェ」

 そして偶に、こちらに面倒な間引きの手伝いをいちいち提案してくるのはどうにかならないものか。
 黙って無視すると勝手によく回る口で話を進めていくので、その都度断る労力が面倒極まりない。

『だーめー! そうやって、椿ちゃんにも同じように言い寄ってたでしょ!?』
「あれは仕方ないあるヨ。傾城傾国どころか傾世の至宝、逸材ネ。試したくなるのが真の魔女というものネ!」
『とにかく、この子はだーめー!』
「心底残念無念ネ……」
「主の御心のままに」

 ……よほど早急に間引きたいらしい。
 基本、魔女らの言動を始終放置する神がとうとう口出すほどにしつこく勧誘されていた。

「……仕方ないあるヨ。あまりに地味過ぎて、スイセンの美学に反するからと長らく封印していたアレの久々出番ネ」
『ま、まさかスイセンちゃん……!』
「そうヨ。暗躍がダメならプランB、――暗殺暗闘あるのみネ!」
「手堅いですね」
「でもとっても地味あるヨ。ただの謀殺や権謀術数だけでは、華が圧倒的に足りないネ!」

 自慢話の次は、己の美学とやらを永遠と語り出し始めた。途切れずよく口が回る。

「ただの失政したオジサンになんか誰も興味ないネ。内容が渋すぎあるヨ。阿鼻叫喚を肴に、必ず傍に傾国の美女を侍らしているのが、かつての名立たる暗君たちの暗黙の了解ネ」
『身も蓋もない……』
「歴史に智見あり、ですか」
「死屍累々の地獄絵図には美女がえるネ! 魔女最古の流行あるヨ」
『身も蓋もない……』
「それが古き魔女たちの唯一の趣味娯楽ですので」

 ろくでもねぇ。

「――居たぞ! ここだ! こっちに見つけたぞ! とっととあのアマをひっ捕らえろ!」

 そうしたコイツのろくでもねぇ趣味娯楽のためだけに、こうしてアホども共々にあちこちと人の子が使うカネとやらが大量に保管してある場所へと連行されては泥棒紛いのことをさせられていた。
 散々あちこちを見境なく墓荒らしが如く荒らし回ったので当然だが、とうとう出先を絞られ見つかってしまったらしい。

「むむむ。もう見つかってしまうとは……最近はネットやらの普及で色々とやりにくくなったあるヨ。でも謀略にはお金が大量に掛かるネ。特に、とびきりの美女を雇うには必要不可欠あるヨ!」
『身も蓋もない……』
「世知辛いですね」
「昔は恨みつらみだけで可愛い子いっぱい雇えたネ。最近の子はメンタルとガッツが弱いのに、拝金主義者ばかりあるヨ」

 逃げながらふぅやれやれ、とばかりに軽く肩を竦めようとした魔女だったが、その全身には持ちきれなくて今にも零れそうなほどの金銀財宝が、これでもかと衣服の中から溢れんばかりにぶくぶくと無理やり詰め込まれていた為、重さで肩が全く上がらなかったらしい。
 一見してかなり滑稽な姿ではあるが、激しく動きながらも衣服の中に詰め込んだ一銭たりとも逃さず零さないようにと、無駄遣い甚だしく力を完璧に制御して身軽にして操るさまは流石に古き魔女の面目躍如であった。
 などと分析しているうちに――。

「なっ、なんだその貪欲な姿は!」

 ――と、人の子らがやっと追い付いてきた。

 この場で物質に触れられる実体は二人いるが、仕方なくここまで神についてきただけのこちらに手伝う気は当然さらさらないため、実質魔女一人だけでの運搬作業だった。
 魔女のカネへの執念深さを体現した姿を見て、驚いて引いているらしい。

「うるさいネ。どうせどれも世に出せない裏金あるヨ。ワタシが有効活用してやるネ!」

 よりによって逃走中、神とアホな魔女とは途中で――神はともかく狐になりきってるアホな魔女との――実体の体格差により経路を違えて逸れてしまい、その後ずっとこの目立つ姿のスイセンと致し方無く行動していたせいですぐに見つかってしまったのだろう。
 だが見つかってすぐに気配を消したことと、そもそもからしてスイセンの強欲で滑稽な姿に人の子らの全ての耳目が吸い寄せられているおかげでか、こちらは全くもって人の子らには気付かれていないが。

「ま、待て! 誰の金に手を出してると――」

 ストン、と音もなく人の子の首が鋭く切れ、頭部が地に落ちた。
 たった一歩、脅すつもりらしかった言葉を発しながら近づくよう踏み出した瞬きの間のことであった。
 数舜遅れ、盛大に血飛沫も舞う。
 遅れて異変に気付いた他の人の子らが何某かの声を上げようとしたようだが、そうなる前に尽くが同じ末路を辿っていった。

「そういう二番煎じ、もう何度も聞き飽きてるネ。――ぐふぅ、今のうちにとっととずらかるあるヨ。酒池肉林の美女との豪遊が手ぐすね待ってるネ! 課金は惜しまないあるヨ!」

 こいつ、とことんろくでもねぇ。
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