背神のミルローズ

たみえ

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|序《はじまり》

|道程《みちのり》 漆

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「――ぶっぱなせ!」
「「あいあいさーびす!」」

 ひゅ~ドゴオオオオオオオオオオォォォォンンン!!!!

『たーまや~!』
「かーぎや~!」
「はん! 汚ぇ花火ね!」
「「ね!」」

 ――やっと面倒な魔女から逃れ、本来の旅路に戻るように北上を始めたかと思えば、いきなりコレだ。何故かお互いに無意味に争っている人の子たちを無視し、さっさと横を通り過ぎようとした際――アホな魔女が捕まった。魔女に。
 おかげで、アホな魔女が美味しい晩飯にされそうなところを神から懇願されて助けてやることになり、更に時間が潰された。救出の際に首を絞めて「ぐえェっ」と鳴かせたのは大いなる故意だ。いちいち余計な騒動に巻き込みやがって……自力で逃げろ! テメェ魔女だろうが! あァん!? ……いや、相手が同じ魔女とはいえ、妹にすら騙されるアホな魔女には到底無理か……何故か自ら美味しい晩飯になる未来が容易に予想出来た。アホらしい。

「――そんで、あたいが拾って立派に育ててやってるのさ」
『きゃー! ラナさまかっくぅいぃ~! さっすが~!』
「「きゃー! さっすが~!」」

 ……アホらしい。故意に絞めたせいで、未だにぴくぴくと打ち上げられた魚のように痙攣するアホな魔女をそこらに放っておき、神が新たな魔女と早速きゃいきゃいと騒がしく交流をしていた。普段は無駄に可愛がってるのに、こういう時――別の魔女らと合流した際など――のアホな魔女の扱いは割と無慈悲に雑だ。どうでもいいが。
 聞きたくも知りたくも興味もないが、ラナ様ことラナンキュラスと名乗った魔女は、人の子を魔女にらしい。適正があれば人の子でも後天的な魔女にはなれるだろうが、そうなっても色々とには及ばないだろうに。よく好き好んでそんな面倒で生産性の無いことをしようとするもんだ。――まあ、ただの暇潰しか。

『ねーねー、ラナちゃんは何がいーい?』
「はん! 当然あたいは――ハナから羽衣ヴェールにって決まってるもんよ!」
「確かに。妹が使い魔ならば、ラナ殿はそこらが妥当かと、主よ」
『……そうだね。ラディちゃんが、そうなるよね』

 しれっといつの間にか痙攣から復活していたらしいアホな魔女が、話の輪に加わり当然のことだと告げた言葉に少しだけ白けたように静かに神が俯き、ぼそりと小さく言葉を零した。それに――つい、視線を寄せてしまった。面倒だと分かっているのに。無意識に。あの日、あの時と同じ顔――。
 思わず、今まで関わらないようにと無視していたのに声を掛けてしまいそうになる。やめておけばいいのに。

『――で? 君たちは何がいーい?』
「「なにがー?」」

 ……ほら、みろ。一瞬で。アホな魔女たちが何とも言えない不愉快な表情を浮かべ、こそこそチラチラとこちらを見ては何やら非常に不愉快なやり取りをしていたが、丸っと無視した。……誰がツンデレだ。滅すぞ、オラ。
 最近、実体に引きずられるようにして無駄に感情というものが出ては荒れ狂う。実体とは、人の子とは実に不便極まりない生物だ。こんなものを常に制御しなくてはならず、しかし何か見返りがあるわけでもない。不憫だ。――人の子に対するこの憐れみも、感情というやつか。なんて面倒な……。

『君たち才能あるね~、可愛いねぇ~』
「「きゃっきゃっ」」

 幼い人の子の中には、神が見え、言葉を聞き取れる子もいるという。だから神の言う通り、その範疇から出ているのに、神の姿が見え、言葉をこの子らには確かに才能があるようだった。
 まあ、今頃そんな才能があったところで結局――。

『なんと、宝石ですと!? おおぅふ。意外とちゃっかりさんね、君たち……』
「「きらきらー」」

 結局――。

「主よ、さすがに宝飾というだけでは範囲が広すぎます。せめて候補を……」
「はん、あんたは相も変わらずいちいち細かい魔女だねシャナラ! この子らは双子だ。それで対が良いって言ってんだ。それなら指輪や首輪なんかよりはずつある腕輪か足輪かでいいさね。ねぇ、あんたたち!」
「「はーい」」
『可愛い! 採用! 可愛い!』

 ……やめだ。考えるだけアホらしい。
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