背神のミルローズ

たみえ

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|序《はじまり》

|道程《みちのり》 伍

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「ようこそ! 夏のサバトへ!」
『「「いぇーい!」」』
「…………」
「そこにいる噂のあなた~ノリ悪いぞ~。そぉーれ、サバトで魔女のすることといえばー?」
『「「カツアゲ~!!」」』
「…………」

 アホな魔女の国をあとにする際、「あ、ごっめぇん! シャナ姉ぇの身体ぁ、売っちゃったぁ」と。言葉の最後に両手の人差し指で「♡」の形を作りながら、片目を瞑ってぺろっと舌を出したアホな魔女の妹の言に、さすがのアホな魔女も阿鼻叫喚の形相であった。おかげで無駄な旅程が増えた。実にアホらしい。
 アホな魔女の本体を売った妹によると、買い手は「砂漠サバト」魔女組合という組織らしい。何やら世紀の見世物として姉の身体を期限付きで売買したようだった。……が、まだ春に渡してから連絡がきていないらしい。次の買い手が詰まってるのにと、妹は他人事のように面白そうに嘆くフリをしていた。

 ……取引の時期的に、アホな魔女が狐になり神のもとへと旅立ってから幾ばく――下手したらその日のうちに――と経っていない。さらに話を聞けば、アホな魔女は何故か妹を信じて本体を預けたそうだが、そんなことは知ったことかと、事前に売却の為の鑑定予約までちゃっかりと手際よく準備していたらしい。
 あれほど魔女らしいのだと妹を散々自慢しておいてこのやられよう。ただのアホだ。そんなアホな姉とは違い、ゲラゲラと悪気も無く嗤っていた妹の、信頼もへったくれもない無慈悲で手慣れたような手口は実に魔女らしいといえた。こんなに分かりやすいのに、まんまと引っかかったアホな魔女の自業自得としかいえない。

「もうすぐぅ、夏のサバトだからぁ、そこでまたぁお披露目されるかもぉ。みんなでぇ見に行かなぁい?」

 などと、妹がわざとらしく今思いつきました、と言わんばかりに勧めてきた。まるで自分は何も悪いことをしていないようなあっけらかんとした振る舞いに、むしろ見世物となるよう売った姉の本体を一緒に見に行こうとまで誘う開き直った態度とは――なるほど、確かにと言われるだけの魔女らしい倫理観は持ち合わせているようだった。
 おかげで、こうして面白がった妹に弄ばれるように無駄な旅程を組まされたわけだが。とばっちりでアホらしい。そして当のアホな魔女は、妹の「だってぇ、シャナ姉ぇの抜け殻を世話してるのは辛くてぇ寂しくてぇ、えーっとぉ、つい遠ざけちゃった、的なぁ?」などというアホらしい穴だらけの釈明を聞いて納得したらしい。

 ……アホだ。おそらく器の管理が相当面倒だったのだと、言葉の端々に滲む裏が簡単に読み取れるのに。それに気づかないとは、やはりアホな魔女だ。
 ――そんなわけで、わざわざアホな魔女の妹の姦計に巻き込まれて更なる遠回りで南下するはめになり、砂漠の地下一帯で行われているというサバトにやってきたわけだが……。

「はい? シャナラ様の御身体であればもう大分前に引き渡しましたけど?」
『「えっ……」』
「ふぅん? 誰にぃ?」

 まさかの予想外の事態に固まる神とアホな魔女を後目に、面白そうに口元を歪めた妹が問い返した。アホな魔女の本体の行方など正直、心底どうでもいいが……あっちこっちと付き合わされるのは面倒だ。
 妹の問いに、露店の魔女は不思議そうな顔で神をちらりと見てから告げた。

「……鈴蘭様が、お話は既についていると」
『「!?」』
「あっはぁ。なぁるほどぉ」

 心当たりがあったのか、妹が思い出したようにしげしげと頷いた。十中八九、詰まってた買い手とやらだろう。
 そして、そんな冷静な妹と比較して、器の行方を知った神とアホな魔女はといえば――。

『り、りんかちゃああああん!? 何してんのおおお!?』
「り、鈴蘭様が、ど、どどどどうするおつもりで……っ?」

 などと盛大に騒いでいた。
 どうやら神と所縁のあるらしい。アホな魔女は何故か極寒で凍結していた時よりもぶるぶると顔色悪そうに震えていたが、神はアホな魔女とは別の意味で何やら顔を青ざめさせて『ぼ、ぼぼぼぼうたんくんってば何してんのおおお!?』と違う名を叫んで震えていた。うるさい。
 暫くわあわあと面倒に騒いでいた神とアホな魔女をなんとか適当に宥めすかし、次の目的地へ向かうよう神の意識をなんとか誘導した。……詳細は省くが、実に面倒だった。
 ――こうして、やはり無駄な時間潰しとなった夏のサバトとやらをさっさと後にすることとなった。

「うっふっふ。――ミルっちぃ~。ま・た・ねぇ?」

 と、意味深に微笑んだ妹をその場に残して。
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