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ネロのはなし

女神との姦淫6

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 ネロは困惑していた。

「――私はね、これでも昔はそこそこブイブイ言わしていたんだが、今じゃ女王の、ああ、アルテミア前女王で私の妻のことだがね、その前女王の番犬とも言われてしまっているせいか、いつの間にか誰も寄り付かなくなってしまってね。勿論、妻のことは愛しているのだから文句は無いけれど、忙しい彼女との逢瀬が少ないのは実に寂しいものさ。孤独や寂寥というのは愛を知っているからこそ感じるものなのだよ。最初から知らなければそうとは分からないものを可哀想に思っても仕方ないからね。私は確かに最愛の妻との逢瀬は少なくも短いのは寂しいけれど、同時にそんな今をとても満ち足りた生だとも感じているのだよ。愛というのは不思議なものでね。どんな形であれ、それだと感じることは出来るが、現実には存在しない曖昧なものなのだ。だからこそ私たちのように一人に対して多数という一見破綻するような愛の形であっても成り立つものでもあるのだよ。魅力的な人というのは男女関係なく引き寄せられるものさ。いくら否定しようとも愛に嘘は存在しない。どのような形であれ、ね」
「――――」

 目の前の美丈夫は急に現れたかと思うと、捕らわれたネロの牢の中に入るや否や前述のようにかれこれ数時間前から唐突に休みなく何事かをずっと語り出したのである。ネロには大半の話の意味は分からなかった。だが、もしかしたらこれも尋問の一種なのだろうかと律儀に黙して聞いていたのである。

「……ところで、君は娘のお気に入りと聞いたのだが、一つ確認しておきたいことがあってね」

 やっと本題か、とネロは集中して聞いていたせいで鈍っていた思考を無理やり覚醒させた。この手の尋問は聞いたことが無かったが、疲労という意味では有効である、とネロは疲れの為か明後日のことを考えていたが。

「君が男性であることを娘は知っているのだろうか」
「――いいえ」
「ふむ」

 数瞬迷ったものの、貴賓牢で生活していたなかで既に性別がバレてしまっていたので、ネロは問題ないと判断し美丈夫が訪れてから初めて言葉を発した。それを聞いた美丈夫はしばし黙考したが、やがて考えの読めない微笑を浮かべると、どこからともなく紙の束を出してネロに渡した。

「君の今後に関わる事柄だ。読んで確かめておくといい」

 ネロの戸惑いなど気付かないとばかりにそれだけを告げると、またしても唐突に話を切り上げて美丈夫は去って行ってしまったのだった――。
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