55 / 171
ノエルのはなし
女神との邂逅11
しおりを挟む「それ以外に夫になれない理由は?」
そう問われると、何も問題ないような気がしてきていた。これほど美しい女神がごとき少女からの求婚。これから生涯、たとえこの少女でなくとも二度とこんな話はないだろう。
追手から逃れ隠れられる上、衣食住に困らず、美しい少女の望み通りに能力を使って奉仕していればいいだけの日々……ああ、何も問題ない気がしてきた。
「ない、けど……」
「じゃあ決定ね。これからよろしく」
ぼんやりとした思考でふわふわと返答すると、少女がにっこりと笑いかけながら手を握って来た。思わぬ接触に、大人しく萎んでいたはずの己が、元気よく奮い立ってしまった。
気付かれていやしないかということに気を取られ、気もそぞろな態度で返してしまった。
「――ねえ、夫になるのだから、あなたの名前を教えて」
「お、俺は……」
あまりに元気よく奮い勃って少女の顔の下のほうで暴れる己のソレを気にして挙動不審になっていると、名を問われた。そういえば名乗っていなかったと今更ながら気付いた。
――己の名は、なんであったか……。
遥か遠くに追いやっていた古き記憶を掘り起こし、虚ろな目のまま黙って思い出していると、手にぎゅっとした感触があった。その、いままでされたことのないあまりに優しい握り方、そして包み込むような優しい笑顔に思わず羞恥を覚えながら、想い出した名をぽつり、と少女に告げた。
「――ノエル、でいい」
「ふふ、ノエルというのね」
柔らかな微笑みでノエルを見つめる少女の瞳に目が釘付けになった。――遠い昔、似たような瞳を、見たような気がする。ぼんやりと少女と見つめ合っていると、少女の唇が再び可憐な声を響かせた。
「私はマリアンヌよ。これから末永くよろしくね」
「まり、あんぬ……」
女神にふさわしい美しい名だと、少女改めマリアンヌを飽きることなく見つめた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
610
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる