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ノエルのはなし
女神との邂逅7
しおりを挟むバクバクとうるさい心臓が、今度こそ拒絶の言葉が紡がれるに違いない、と早鐘を打っていた。
だが、――
「ほえー……」
少女の口から零れた言葉は、実にマヌケな響きであった。ちらり、と様子を伺うと、勘違いではなく、非常に素直な驚嘆が見て取れた。――知っているようだ。
二つの種族は年中いがみ合っていることで有名らしいから当たり前かもしれないが、少女からそんな珍獣を見る時のような視線を受けると拒絶よりはマシなはずなのに、どうにも座り心地が悪くかった。
……心なしか、隅々まで観察されていた視線が醜い顔に一点集中したように感じた。
「――珍しいのね。もしかして、見つかって殺されかけて逃げていたの?」
「――――」
天気を聞いているような気軽さで問いかけられた問いには、先程とは違って咄嗟に何も言葉が出なかった。……もう、少女に嘘をつくかどうか考えていたことなんて完全に忘れ去っていた。
何も答えないのをどう、解釈したのか。少女が少し身を乗り出すようにこちらへ問う。
……同時に、先程まで夢中で貪っていた芳醇な香りが近付いて刺激されたのか、真剣な話をしている最中なのに興奮が戻ってきていることに気付き、羞恥か呆れか自尊心か……とにかく真剣に問うている様子の少女に気付かれたくない、という一心で自然に顔が俯いていた。
「これから、どうするの?」
「……分かんない」
不謹慎かもしれないが、少女を襲わないように理性を総動員している状態で、これから先のことを問われても全くの上の空であった。
もっと近付いたところを襲って穢してしまいたい、という欲望から目を背けたくて、頼むからもう少し遠ざかって欲しい、と失礼なことを少女に願い始めていた。その時だ。
「――ねぇ。行く宛も無いのなら、このままここで私と暮らさない?」
「え……?」
興奮を抑えるのも忘れて、少女の女神がごとく美しい顔を凝視した。
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