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ノエルのはなし
女神との邂逅
しおりを挟む「――どうやって入ってきたの?」
朦朧とする意識のなかで少し高い、少女の声が聞こえた気がした。
――危ない。近くに寄ってはいけない。
そう、危険を知らせたはずなのに、少女は逃げることなく近づいて、あろうことか傷のせいで血だらけに汚れていた己の身体を優しく撫で始めた。
――なんて、心地良いのか。
「――あら? あなた狼さんね」
もしかしたら死が近いのかもしれない――と微睡む意識の中、まだ近くに居たのか、少女がいま気付いたとでもいうように驚きの声を漏らした。
その声に気付いて目を開けると、――目の前に、それは美しい神話の女神が居た。
「――とりあえず、わたしの部屋に来ない?」
生涯、その瞬間を忘れることはないだろう。
女神は一言つぶやくと、閉じていた拳の中から中指と人差し指をくっつけるように小さな指を取り出して、ピンと伸ばしたかと思うと、くいっくいっと折り曲げた。
途端に、悲鳴を上げる間もなく体が浮いて勝手に移動を開始した。突然のことに身をすくめていると、一瞬のうちに見たことのない大きな部屋に居た。
「ふぁあああ……」
きょろきょろと、周辺一帯の確認を忙しなくしていると、唐突に女神がこちらへ倒れ込んできた。慌ててその場を退いたが、急に倒れた女神に心臓が凍り付いていた。ぴくりとも動かなくなってしまったからだ。
固まってしまったが、暫くして己が立っていた場所がベッドの上であることに気付きほっとする。重傷で意識が朦朧としていたため事態の把握が遅れたが、どうやらこの女神のごとき美しき少女が助けてくれたらしい、と気付いた。
『――――』
この色を見ても救ってくれた心優しい少女のようだから、ここに居ろということなのだろう。だが、いずれ迷惑をかけることになってしまう。――己は色のみならず醜いのだから。
……そうして起こさぬように秘かに開けっ放しの大窓から外へ出ようとしたものの、強力な結界に阻まれた。あまりに頑強なそれにムキになってしまったが、ついぞ少女が起きた朝方まで出ることは叶わなかった――。
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