【R18】女帝様のお気に召すまま

たみえ

文字の大きさ
上 下
12 / 171
12歳と薔薇色の…

星の降る夜

しおりを挟む
 魔王国の田舎で生活を始めた俺たちは朝ご飯(正しくは夜ご飯)を食べながら今後の話をしていた。

「リフォームに必要な工具が欲しい」

「工具?」

「それはなんですの?」

 ぽかんとするギンコの膝の上でウルルが小さく鳴いた。

「人族が使う道具や」

 ダークエルフ族のツリーハウス作りには工具を必要としないらしい。
 九尾族には家という概念がないらしく、こちらも工具からは程遠い生活を送っていたことになる。

「ドワーフ族がいるなら話を聞いてみたいし、デスクックの爪とか牙とかも売れるなら金に換えたい」

「旦那様は人族のようなことを言うんやね」

 確かに、今の発言は迂闊うかつすぎたかもしれない。

「デスクックの爪や牙なんて価値はあるのでしょうか。食べられない箇所は全部ゴミです。トーヤが玄関に飾っている鶏冠とさかもゴミです」

 気持ちいいまでの割り切り方。さすがは闇の眷属けんぞく

「価値観はそれぞれやから。ただのゴミが金になったらお得やん?」

「どっちにしても私は人族の国には行けませんよ。憎き太陽が落ちない限りは」

「ギンコは?」

「妾は旦那様が行く場所にならどこへでもついていきます。どこぞの耳とがりとは違いますから」

「尻尾割れてるくせに偉そうに」

「あら? 嫉妬なんて醜いですわよ。いくら旦那様にモフモフされないからって」

「残念でした。トーヤは九尾族のときは必ずモフモフの自給自足をしますから。ダークエルフ族のとき以外、あなたの尻尾は用無しです」

 今日もバチバチにやり合っている二人。
 ウルルは危険を察知してか、早々に俺の膝の上に避難してきた。

「そんなことないよな、ウルル。お前の毛並みもモフモフするもんな」

「ウル~ッ」

 圧倒的癒やし!

 急成長具合にはビビるけど、この子を育てて良かったと思える至福の瞬間である。

「で、ギンコは一緒に行くってことでええんやな? じゃあ、クスィーちゃんはウルルとお留守番しててや」

「仕方ありませんね」

 いつもギンコに突っかかっているクスィーちゃんにしては珍しい。
 よっぽど太陽が嫌いらしい。

 そんなこんなで陽が昇り、クスィーちゃんとウルフが寝床に入ったタイミングで人族の町へと出発した。
 ちなみに俺とギンコはしっかり夜に寝ている。

 背中のリュックにはデスクックの素材の他にも過去に狩ったブラックウルフの素材も入れてきた。

 さすが国境付近とあって、すぐに人族側の検問所が見えてきた。

「どう見ても人間には見えへんよな」

 自分の尻尾を見てつぶやくと、「簡単です」とギンコがパチンっと指を鳴らした。

 別段、変化はない。
 ギンコ曰く、これで他者からは姿が見えなくなったらしい。

 ホンマかよ――

 と、疑っていたがすぐに謝罪することになった。

 おそるおそる息を潜めて進み、人族の兵士の前を通り過ぎる。
 彼らは何事もないように俺たちをスルーして、「異常なし!」と指さし確認を行った。

「これ何の魔法?」

 ギンコが無言で首を振る。
 喋ると効果が消滅する系だと察して黙って歩いた。

「ぷはっ。幻惑魔法の一種です。子供騙しやね」

 息を止めていたことで頬を上気させたギンコが教えてくれた。

 俺、そんな魔法使えないんやけど……。

「あと、もう一つ」

 またギンコが指を鳴らすと、俺の尻尾とギンコのキツネ耳と尻尾が消えた。

「うおぉ!」

「これも子供騙しです」

 これなら誰が見ても人族だ。
 大阪弁を喋る糸目のにぃちゃんと、はんなり京都弁を喋るキツネ目のねぇちゃんにしか絶対に見えない。

 近くを流れていた川の水面に映る自分の顔を見て感動した俺は、意気揚々と検問所を越えて一番近くの街に向かって歩き出した。

 到着すると、あまりの人の多さに驚いた。
 街を行くほぼ全員が武装していて、大剣や斧なんかをかついでいる。

 大通りの両サイドには露店が並び、活気ある街だった。

「着いたはいいけど、どこに行けばええんや」

 人間のくせに人間社会についての知識がない俺と、そもそも人間ですらないギンコの組み合わせで出向いたのは無謀だったかもしれない。

 こういう時は――

「すんませーん! 道案内してくれる店ってどこですかー?」

「あんた見ない顔だな。冒険者にしては軽装だし、商人か?」

「そんな感じです」

「それならギルドに行くといい。素材の売却もしてくれるし、街のことは何でも教えてくれる」

「ありがとうございます」

 普段はコミュ障全開やけど、二度と会わないと分かっている人には遠慮なく話しかけられる。
 ずっと町中をウロウロするのは御免やでな。

 早速、ギルドというファンタジー感満載の店に向かうと受付では綺麗な女性が笑顔を振り撒いていた。

「初めてなんですけど」

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」

「素材の売却と聞きたいことがいくつかあって」

「かしこまりました。まずは素材を拝見させていただきますね」

リュックに詰めていたデスクックの爪、牙、羽根、鶏冠とさかをカウンターに取り出す。

「……………………」

 さっきまでニコニコしていたお姉さんが顔を引き攣らせて、奥へと引っ込んだ。

 すぐにカウンターの奥から厳つい男が出てきて、何度も素材と俺たちを見比べて重い口を開いた。

「待ってろ」

 続いて、華奢な男がやってきて、デスクックの素材を入念にチェックしていく。
 目の周りに魔法陣が描かれているから、何かしらのスキルか魔法を使っているらしい。

「デスクックだ」

 やがて、ため息のついでのようにつぶやいた。

 「鑑定士が言うなら信じるしかねぇ。あんたがこいつを討伐したのか? どこのギルドからの依頼だ?」

 ツレが倒した、と言いそうになる口をつぐんで頷く。

 疑われたらますます厄介だと判断して、俺の手柄にしてしまった。
 ごめん、クスィーちゃん。

「金貨千枚を出す。構わないか?」

 ギルド内にいた武装している連中がどよめいた。

 この金額が高いのか、安いのか分からないから、俺は出された金貨をすぐに仕舞ってお姉さんに向き直った。

「ものづくりに精通している人に会いたいんやけど、この街にいますか?」

「はい。メインストリートから左の路地にドワーフ族が営む店がございます」

「ドワーフ! ありがとうございます」

 あの厳ついおっさんの目と、周囲の目が怖すぎてお礼を言ってギルドを飛び出した。

「デスクックってレアモンスターなんか?」

「知りませんわ、そんなこと。今の耳とがりに狩られるくらいですから、きっと弱小に決まっています」

 相変わらず、クスィーちゃんには手厳しい。
 でも、今のってことは、それなりに彼女のことを認めているのだろう。

 見知らぬ土地でひったくりや置き引きに注意するのは海外旅行の基本。

 俺はリュックを抱きかかえながら、目的地へと向かって絶句した。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ヤンデレ義父に執着されている娘の話

アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。 色々拗らせてます。 前世の2人という話はメリバ。 バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

処理中です...