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第一章 浮雲
(一)
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戦端が開かれたのはまだ夜明け前、丑の刻をわずかに過ぎた頃であった。そして稜線に日輪が顔を覗かせんとしている今になっても、筒音は間断なく響き渡っている。織田勢の攻撃は小休止するどころか、さらに激しさを増すばかりであった。
「法幢院曲輪が落ちた。もはや一刻の猶予もないわ!」
鎧姿の大男が、髭面を歪ませながら叫んだ。男の名は渡辺金太夫。もとは徳川に仕え、姉川の合戦では一番槍の功名を立て、かの信長より「天下一の槍」と称えられたほどの猛将である。しかし高天神城落城のおりに捕らえられ、その後は武田の麾下として取り立てられていた。そして此度の織田・徳川勢による侵攻にあたり、城主である仁科五郎盛信より徳川への帰参を許されたが、それを断って武田に残ったという忠の者でもある。ゆえに盛信からの信も厚く、今も二百の兵とともに、城の要である大手門の守りを任されていた。
「下知はくだった。我らはこれより城を出て、城介(秋田城介。織田三位中将信忠の前の官位)が首を獲る。誰ぞ、我と槍を並べる者はおらぬか!」
その金太夫が、三間の長槍を頭上に掲げて吼える。されど誰ひとりとして応える者はなく、皆その姿を眩しげに見つめているだけだった。もちろん、怯んでいるわけではない。各々の目にあるのは、怖れではなく畏れであった。天下一の槍上手と並んで先駆けなど、いくら何でも烏滸がましいとでも思っているのか。
飯島善十郎は小さくひとつ息をつくと、大男を取り囲んだ輪の中へと割り入っていった。そうして静かな声で言う。
「では、某が同道仕ろう」
「おおっ、これは飯島どのではないか!」と、金太夫は厳つい顔を綻ばせる。「聞いたか、皆の者。伊那の赤鬼がご加勢くださるぞ。無双と呼ばれた槍捌き、とくと拝ませてもらおうではないか!」
大手門前に集まった城兵たちから、地響きのような歓声が沸き上がる。その一瞬だけ、門の外の筒音がかき消えた。善十郎は苦笑いしながら、大男の隣に並びかけた。
「猿芝居に付き合わせて悪いの。じゃが、これで士気も上がる」
金太夫は顔を寄せ、囁くように言った。善十郎とて決して小兵ではないものの、金太夫と比べれば三、四寸ほどの差がある。おのずと、大きく身を傾げる格好になった。
「それで、どうするのだ。まことに行くのか?」
「言ってしまったからには、行くしかあるまいよ」
善十郎はこともなげに答える。金太夫は呆れたように首を振り、顔を上げた。その目の先には、まだ固く閉じられたままの門があるだけだ。しかしその門も、このままでは遠からず破られる。
「ああは言ったが、我らの役目は風穴を開けるまでぞ。それが精々であろう。つまりは捨て駒よ」
「わかっておる」
と、善十郎はなおもあっさり頷いた。何しろ実に三万余の敵に、わずか二百で討ち入ろうというのだ。生きて戻れる望みはまずあるまい。
天正十年、三月二日。ところはかの山本勘助晴幸が築いたという名城・高遠城である。
織田・徳川・北条による武田領一斉侵攻は、その前月、木曽福島城主・木曽伊予守義昌が織田方へと寝返ったことを契機にしてはじまった。四郎勝頼率いる武田本軍は義昌を討つべく新府城を発したが、上原城まで達したところで、宿老穴山梅雪斎の手引きにより徳川勢が侵攻してきたことを知る。背後を突かれることを恐れた勝頼は、相次ぐ裏切りに臍を噛みながらも、やむ無く新府へと引き返すしかなかった。
一方、木曽口より攻め入った織田勢は、鉄壁を誇ったはずの武田の信州防衛線を瞬く間に呑み込んでいった。松尾、飯田、大嶋といった各支城を守るはずだった重臣たちは、ある者は敵方へ寝返り、またある者は城を捨てて逃走し、ろくな抵抗も見せなかった。
その中で唯一大軍の前に立ち塞がったのが、飯島一族が守る飯島城であった。城主である飯島民部少輔為次は、幾度も差し向けられてきた調略の使者をすべて撥ね付けて武田方に残り、天竜川を堀とした要害で織田勢を迎え討つ。しかし城兵は千にも満たず、周辺の城からの救援も受けられぬまま、為す術もなく城は落ちた。為次も一族とわずかな手勢を連れて、高遠へと落ち延びるしかなかった。この為次の弟・飯島善十郎為佑もその中のひとりである。
しかしそうして拠ったこの高遠城にも、織田勢は迫ってきていた。敵は総大将・織田三位中将信忠以下、木曽・小笠原の軍勢まで加わって、いよいよ三万余にまで膨れ上がっている。対する守勢はわずかに三千。しかも後詰はない。それではいかな堅城といえど、遠からず押し潰されるのは目に見えていた。古来より籠城とは、後詰があることを前提とした戦術なのだ。
となれば、あとは城を出るしかない。乾坤一擲の突撃で、敵の大将の首を獲るのだ。それ以外に、此方が勝つ策はなかった。大将である五郎盛信もその心積もりで、切り札とも言える小山田備中守昌成隊五百と、盛信本隊の五百を温存していた。
敵はろくに策もなしに、横に広がり城を包み込むようにして、力押しに押してきている。物見によれば大将の信忠みずから前線に立ち、矢弾を潜りながら気勢を上げているという。父親譲りの疳の虫が騒いだのであろう。ならばそこが付け込みどころだった。
此方はまず、金太夫率いる決死隊が大手門を出て、真っすぐに斬り込む。薄く広がった敵のどてっ腹を鏃となって突き進み、包囲に風穴を開ける。次いで小山田隊五百がありったけの騎馬とともにひた走り、その風穴を通り抜ける。そして敵の後方を回り込み、信忠の本隊を背後から急襲。思わぬ攻撃に混乱したところで、正面から盛信の五百が出陣し、これを挟撃する。
慥かに無謀な策だ、と善十郎は思う。しかしこれ以外にはないのもわかっていた。そしてすべては、先陣を切る決死隊の働き如何にかかっている。たとえ一瞬でも敵軍を割り、風穴を開けることができれば此方の勝ちだ。しかしその場合でもおのれらは、すぐ万余の敵に呑み込まれ、生還はまず望めぬであろう。後続を通すためだけの、まさに捨て駒であった。
「だが勢い余って城介が首、我らで上げてしまっても構わぬのであろう?」
そう軽口を叩いてやると、金太夫は一瞬だけ目を見開いて、それから笑った。
「恐ろしくはないのか、飯島どのは」
「残ったところで、負ければ死ぬのだ。なら、行くも残るも同じことよ」
それは決して虚勢ではなかった。いざここに立っても、こころは奇妙に凪いだままだ。
慥かに間断なく響く筒音は、設楽原(長篠)の戦場を思い出させる。善十郎もあのときは、恐ろしくて仕方がなかった。幾度も耳元をかすめてゆく鉛玉。次々に弾かれたように倒れてゆく兵たち。血と玉薬の臭いが入り混じり、粘ついたように重い空気。あの地獄は幾度も夢に見て、夜中に汗みずくで跳ね起きたものだった。
けれど今は、その記憶も霞がかかったように朧だ。あるいはこれが「死人になる」ということかとも考えた。父である美濃守為昌が、戦の極意として語っていた言葉である。しかし今の心持ちは、それともまた違う気がした。
「渡辺どのもそうではないのか。某などよりも余程、多くの戦場を駆けてきたのではあるまいか?」
善十郎はそう尋ねながら、大男を横目で見上げた。すると金太夫は、ひひっと喉を鳴らして引き攣った笑みを浮かべる。
「まあの。だがやはり、わしは恐ろしい。どれほど修羅場を潜ろうと、戦が恐ろしいのは変わらぬ」
「……まさか」
「まことだ。恐ろしいから叫ぶのだ。叫んで、走って……それでどうにか、今日まで生き延びてきた」
そう言って、金太夫は最後に「……誰にも言うでないぞ」と付け加えた。その声は細かく震え、唇は血の気が引いて青ざめていた。どうやら嘘を言っているわけではないようだ。
「凄いのう……渡辺どのは」
善十郎は心の底からそう思った。この男は、それでも残ったのだ。十中八九、落ちると決まったこの城に。敵方はかつての主家、逃げることだってできたはず。しかしそれもしなかった。恐ろしくとも残った。そして恐ろしくとも、また槍を携えて戦場へ出てゆく。おそらくはそれこそが、勇というものなのであろう。
翻っておのれはどうなのだ、と善十郎は自問する。今こうして平然と立っているのは、ただ捨て鉢になっているだけだ。生まれ育った里は敵に蹂躙され、もはや帰れぬ。妻も子もとうに病で亡くし、守るべきものもない。ならばおのが命など、このへんで終わってしまってもいいではないか。まるで他人事のように、そう投げ出してしまっているだけだった。こんなものは、とてもではないが勇などと呼べまい。
滑稽よの。誰に言うでもなくつぶやいて、冷笑を漏らす。そのとき、背後からよく聞き知った声が聞こえてきた。
「やはりここにおったのか、善十郎」
振り返るとずんんぐりとした小柄な影が、具足を鳴らしながら近づいてくるのが見えた。七歳上の兄・為次であった。民部少輔の官位を自称しており、国許では民部どのと呼ばれ敬われていた。
「かようなところへ何をしに来た、兄上」
「聞くまでもなかろう。我もともに参る。五郎殿にもお暇をいただいて参った。然らば、あとは我の勝手よ」
「それはならぬぞ。兄上は一家の長なのだ、何としても生きてもらわねば」
善十郎がそう言っても、為次はゆっくりと首を振った。城を落ち延びての逃避行の間に、すっかり鬢に白いものが増えた。それでも面差しは、憑き物が落ちたように明るかった。
「まことなら、飯島の城とともに灰となるべきだった身よ。今さら命は惜しまぬ。それに伝兵衛さえ生き延びれば、飯島の家は残る」
伝兵衛とは、三年前に元服して為仲という名を与えた嫡男である。すでにふたりの男子をもうけており、妻子を連れてここまで逃げ延びてきていた。慥かにかの者、あるいはせめてその子らだけでも生き残れば、一族が滅びることはない。
「そのためにも、わしは行かねばならぬということよ。止めるな、善十郎」
兄の決意は固いようだった。その目には、もう動かしようのない覚悟が漲っている。これもまた、勇なのだろう。そう思うと、胸の中にまた苦いものが込み上げてくる。
「良いかぁ!」
金太夫が再び兵たちの前へ進み出て、叫んだ。その怒号に、地響きのような「応」という声が返ってくる。大男は満足げに笑みを浮かべた。その顔にはもう、先ほどの怖気は露も見えない。
「この門を一歩出れば、そこは地獄じゃ。覚悟せい!」
「応!」
「周りにおるのは、すべてが敵じゃ。手当たり次第に薙ぎ倒して進めぇ!」
「応!」
傍の兄も、ひび割れた声で「応」と叫んでいた。善十郎も苦い胸の裡を押し隠し、それに倣う。
「征くぞっ、門を開けぇっ!」
その合図とともに、閂が外された。開きはじめた大手門の向こうから、波のような筒音が押し寄せてくる。前方に朝日を浴びて翻るは、右三つ巴の旗印。河尻肥後守が軍勢だった。
門を一歩出れば地獄。その言葉に偽りはなかった。勢い込んで飛び出して行った兵たちが、最初の斉射でばたばたと倒れてゆく。しかしそれでも、止まるわけにはいかなかった。
「征けぇっ!」
金太夫が吼え、屍を跨ぎ越して突き進む。善十郎もまた、兄や飯島の残兵たちとともに続いた。騎馬はすべて後続の小山田隊へと集めたので、全員が徒士だ。それでも先頭を行く金太夫の巨体は、さながら悍馬のごとく猛々しかった。
再び筒音が響き渡り、耳元を熱いものが掠めていった。されど誰もが大声で、言葉にならない叫びを上げながら、先を争うように突進してゆく。
「進めぇっ!」その叫びを圧して、金太夫の命が響き渡る。「進むのじゃ、止まるなぁっ!」
斉射が止むと、入れ替わりに槍隊が押し出してきた。一列に並んだまま、大きく穂先を持ち上げる。善十郎と兵たちはひと塊になって、真正面から突進した。そして槍が振り下ろされる前に潜り込み、身体ごとぶつかってゆく。
兜で突っ込み、手甲でかち上げ、倒れた敵を踏み潰して、ひたすら前へと駆け続けた。首を取る必要などない。今はただ、ただただ進むのだ。
気が付けば、手にしていた槍は中ほどでぽっきりと折れていた。それは投げ捨て、足元の泥濘から敵のものを拾い上る。こんなもの、使えさえすれば何でもいい。
「首など捨て置けっ、進むのじゃ!」
金太夫の怒号はなおも聞こえている。その大男に、右手から槍衾が迫っていた。善十郎は咄嗟に気付いて、「渡辺どのっ!」と叫ぶ。
それで気付いたのか、金太夫が槍衾に向き直った。しかしそれから逃げようとはせず、長槍を高々と頭上に掲げる。そうして、裂帛の気合ととも振り下ろした。
雑兵が数名叩き潰され、槍衾がふたつに割れる。そうして、眼前に一本の道ができた。
「進めぇっ!」
あとから兵が大男を追い越し、その一本道を駆け抜けて行った。善十郎もそれに続こうとするが、すぐに別の槍先に阻まれる。
「退けっ!」
構えた槍を出鱈目に振り回す。鈍い音がいくつも響き、緒の切れた兜が宙を舞った。そしてできた道を、再び駆け出した。しかし敵兵はあとからあとから、尽きることなく湧き出てくる。
さすがにこうして戦場に出れば、凪いだこころのままでなどいられない。されど相変わらず、恐怖はなかった。敵の槍が幾度も胴を削り、鼻先をかすめ、兜を叩く。ひとつでも間違えば、こちらの命まで削り取ってゆくのはわかっている。それでも、気が付けば口元には笑みが浮かんでいた。
殺せるものなら殺せ。早く殺せ。どうせわしには何もない。もはや何も残ってはいないのだ。ならば、恐ろしいものなど何もない。あるわけがない。だから疾くと殺してみせよ。ただしその前に、おぬしらをひとりでも多く道連れにしてやるわ。
もしかしたら、声に出して喚いていたかもしれない。しかしもう、善十郎にはそれもよくわからなくなっていた。ただひたすらに槍を振り回し、叫び、笑い、駆け続けた。いつしか、おのれの声以外には何も聞こえなくなっていた。先ほどまでともに走っていた、金太夫の怒号も。兄の具足が鳴る音さえも。
そうして唐突に視界が開けた。あれほど際限なく湧き続けていた敵兵も、いきなり途絶えた。
敵陣を走り抜けたのだ。そう気付いた。それでもまだ、脚は止めなかった。駆け続けた。止まらなかった。ごつごつとした斜面を、さらに勢いを増して下ってゆく。
振り返ると、数名の雑兵がこちらに追い縋ってくるのが見えた。味方の姿はなかった。どうやら駆け抜けたのは善十郎ひとりだけだったようだ。その向こうに、おのれが突き破ったはずの兵の群れがあった。しかし風穴などどこにもなかった。兵の群れはすぐにまた密集し、隙間なく槍が並んでいた。
駄目だ、これでは騎馬隊が抜けられぬ……
そう思ったとき、脚が縺れた。そのまま前につんのめり、地に倒れ伏してゆく。踏み止まるほどの力も、もう残ってはいなかった。
倒れると同時に、おのれの体が大きく弾むのがわかった。そしてそのまま止まることなく、山肌を転がり落ちてゆく。駄目だった。無駄だった。これで武田の命運は潰えた。すべてはお終いだ。
しかしそれと同時に、だから何だとも思った。おのれの為すべきことは成し遂げた。敵の大軍の只中を駆け抜け、包囲を突破してみせた。わしの戦は、わしの勝ちよ。そう心の中でつぶやいた。ならば良し。満足して死んでやろうではないか。
転がり続けていた身体が、何かに激しくぶつかったのがわかった。視野が瞬時に暗く閉ざされ、一切の音も消えた。善十郎が覚えているのはそこまでだった。
「法幢院曲輪が落ちた。もはや一刻の猶予もないわ!」
鎧姿の大男が、髭面を歪ませながら叫んだ。男の名は渡辺金太夫。もとは徳川に仕え、姉川の合戦では一番槍の功名を立て、かの信長より「天下一の槍」と称えられたほどの猛将である。しかし高天神城落城のおりに捕らえられ、その後は武田の麾下として取り立てられていた。そして此度の織田・徳川勢による侵攻にあたり、城主である仁科五郎盛信より徳川への帰参を許されたが、それを断って武田に残ったという忠の者でもある。ゆえに盛信からの信も厚く、今も二百の兵とともに、城の要である大手門の守りを任されていた。
「下知はくだった。我らはこれより城を出て、城介(秋田城介。織田三位中将信忠の前の官位)が首を獲る。誰ぞ、我と槍を並べる者はおらぬか!」
その金太夫が、三間の長槍を頭上に掲げて吼える。されど誰ひとりとして応える者はなく、皆その姿を眩しげに見つめているだけだった。もちろん、怯んでいるわけではない。各々の目にあるのは、怖れではなく畏れであった。天下一の槍上手と並んで先駆けなど、いくら何でも烏滸がましいとでも思っているのか。
飯島善十郎は小さくひとつ息をつくと、大男を取り囲んだ輪の中へと割り入っていった。そうして静かな声で言う。
「では、某が同道仕ろう」
「おおっ、これは飯島どのではないか!」と、金太夫は厳つい顔を綻ばせる。「聞いたか、皆の者。伊那の赤鬼がご加勢くださるぞ。無双と呼ばれた槍捌き、とくと拝ませてもらおうではないか!」
大手門前に集まった城兵たちから、地響きのような歓声が沸き上がる。その一瞬だけ、門の外の筒音がかき消えた。善十郎は苦笑いしながら、大男の隣に並びかけた。
「猿芝居に付き合わせて悪いの。じゃが、これで士気も上がる」
金太夫は顔を寄せ、囁くように言った。善十郎とて決して小兵ではないものの、金太夫と比べれば三、四寸ほどの差がある。おのずと、大きく身を傾げる格好になった。
「それで、どうするのだ。まことに行くのか?」
「言ってしまったからには、行くしかあるまいよ」
善十郎はこともなげに答える。金太夫は呆れたように首を振り、顔を上げた。その目の先には、まだ固く閉じられたままの門があるだけだ。しかしその門も、このままでは遠からず破られる。
「ああは言ったが、我らの役目は風穴を開けるまでぞ。それが精々であろう。つまりは捨て駒よ」
「わかっておる」
と、善十郎はなおもあっさり頷いた。何しろ実に三万余の敵に、わずか二百で討ち入ろうというのだ。生きて戻れる望みはまずあるまい。
天正十年、三月二日。ところはかの山本勘助晴幸が築いたという名城・高遠城である。
織田・徳川・北条による武田領一斉侵攻は、その前月、木曽福島城主・木曽伊予守義昌が織田方へと寝返ったことを契機にしてはじまった。四郎勝頼率いる武田本軍は義昌を討つべく新府城を発したが、上原城まで達したところで、宿老穴山梅雪斎の手引きにより徳川勢が侵攻してきたことを知る。背後を突かれることを恐れた勝頼は、相次ぐ裏切りに臍を噛みながらも、やむ無く新府へと引き返すしかなかった。
一方、木曽口より攻め入った織田勢は、鉄壁を誇ったはずの武田の信州防衛線を瞬く間に呑み込んでいった。松尾、飯田、大嶋といった各支城を守るはずだった重臣たちは、ある者は敵方へ寝返り、またある者は城を捨てて逃走し、ろくな抵抗も見せなかった。
その中で唯一大軍の前に立ち塞がったのが、飯島一族が守る飯島城であった。城主である飯島民部少輔為次は、幾度も差し向けられてきた調略の使者をすべて撥ね付けて武田方に残り、天竜川を堀とした要害で織田勢を迎え討つ。しかし城兵は千にも満たず、周辺の城からの救援も受けられぬまま、為す術もなく城は落ちた。為次も一族とわずかな手勢を連れて、高遠へと落ち延びるしかなかった。この為次の弟・飯島善十郎為佑もその中のひとりである。
しかしそうして拠ったこの高遠城にも、織田勢は迫ってきていた。敵は総大将・織田三位中将信忠以下、木曽・小笠原の軍勢まで加わって、いよいよ三万余にまで膨れ上がっている。対する守勢はわずかに三千。しかも後詰はない。それではいかな堅城といえど、遠からず押し潰されるのは目に見えていた。古来より籠城とは、後詰があることを前提とした戦術なのだ。
となれば、あとは城を出るしかない。乾坤一擲の突撃で、敵の大将の首を獲るのだ。それ以外に、此方が勝つ策はなかった。大将である五郎盛信もその心積もりで、切り札とも言える小山田備中守昌成隊五百と、盛信本隊の五百を温存していた。
敵はろくに策もなしに、横に広がり城を包み込むようにして、力押しに押してきている。物見によれば大将の信忠みずから前線に立ち、矢弾を潜りながら気勢を上げているという。父親譲りの疳の虫が騒いだのであろう。ならばそこが付け込みどころだった。
此方はまず、金太夫率いる決死隊が大手門を出て、真っすぐに斬り込む。薄く広がった敵のどてっ腹を鏃となって突き進み、包囲に風穴を開ける。次いで小山田隊五百がありったけの騎馬とともにひた走り、その風穴を通り抜ける。そして敵の後方を回り込み、信忠の本隊を背後から急襲。思わぬ攻撃に混乱したところで、正面から盛信の五百が出陣し、これを挟撃する。
慥かに無謀な策だ、と善十郎は思う。しかしこれ以外にはないのもわかっていた。そしてすべては、先陣を切る決死隊の働き如何にかかっている。たとえ一瞬でも敵軍を割り、風穴を開けることができれば此方の勝ちだ。しかしその場合でもおのれらは、すぐ万余の敵に呑み込まれ、生還はまず望めぬであろう。後続を通すためだけの、まさに捨て駒であった。
「だが勢い余って城介が首、我らで上げてしまっても構わぬのであろう?」
そう軽口を叩いてやると、金太夫は一瞬だけ目を見開いて、それから笑った。
「恐ろしくはないのか、飯島どのは」
「残ったところで、負ければ死ぬのだ。なら、行くも残るも同じことよ」
それは決して虚勢ではなかった。いざここに立っても、こころは奇妙に凪いだままだ。
慥かに間断なく響く筒音は、設楽原(長篠)の戦場を思い出させる。善十郎もあのときは、恐ろしくて仕方がなかった。幾度も耳元をかすめてゆく鉛玉。次々に弾かれたように倒れてゆく兵たち。血と玉薬の臭いが入り混じり、粘ついたように重い空気。あの地獄は幾度も夢に見て、夜中に汗みずくで跳ね起きたものだった。
けれど今は、その記憶も霞がかかったように朧だ。あるいはこれが「死人になる」ということかとも考えた。父である美濃守為昌が、戦の極意として語っていた言葉である。しかし今の心持ちは、それともまた違う気がした。
「渡辺どのもそうではないのか。某などよりも余程、多くの戦場を駆けてきたのではあるまいか?」
善十郎はそう尋ねながら、大男を横目で見上げた。すると金太夫は、ひひっと喉を鳴らして引き攣った笑みを浮かべる。
「まあの。だがやはり、わしは恐ろしい。どれほど修羅場を潜ろうと、戦が恐ろしいのは変わらぬ」
「……まさか」
「まことだ。恐ろしいから叫ぶのだ。叫んで、走って……それでどうにか、今日まで生き延びてきた」
そう言って、金太夫は最後に「……誰にも言うでないぞ」と付け加えた。その声は細かく震え、唇は血の気が引いて青ざめていた。どうやら嘘を言っているわけではないようだ。
「凄いのう……渡辺どのは」
善十郎は心の底からそう思った。この男は、それでも残ったのだ。十中八九、落ちると決まったこの城に。敵方はかつての主家、逃げることだってできたはず。しかしそれもしなかった。恐ろしくとも残った。そして恐ろしくとも、また槍を携えて戦場へ出てゆく。おそらくはそれこそが、勇というものなのであろう。
翻っておのれはどうなのだ、と善十郎は自問する。今こうして平然と立っているのは、ただ捨て鉢になっているだけだ。生まれ育った里は敵に蹂躙され、もはや帰れぬ。妻も子もとうに病で亡くし、守るべきものもない。ならばおのが命など、このへんで終わってしまってもいいではないか。まるで他人事のように、そう投げ出してしまっているだけだった。こんなものは、とてもではないが勇などと呼べまい。
滑稽よの。誰に言うでもなくつぶやいて、冷笑を漏らす。そのとき、背後からよく聞き知った声が聞こえてきた。
「やはりここにおったのか、善十郎」
振り返るとずんんぐりとした小柄な影が、具足を鳴らしながら近づいてくるのが見えた。七歳上の兄・為次であった。民部少輔の官位を自称しており、国許では民部どのと呼ばれ敬われていた。
「かようなところへ何をしに来た、兄上」
「聞くまでもなかろう。我もともに参る。五郎殿にもお暇をいただいて参った。然らば、あとは我の勝手よ」
「それはならぬぞ。兄上は一家の長なのだ、何としても生きてもらわねば」
善十郎がそう言っても、為次はゆっくりと首を振った。城を落ち延びての逃避行の間に、すっかり鬢に白いものが増えた。それでも面差しは、憑き物が落ちたように明るかった。
「まことなら、飯島の城とともに灰となるべきだった身よ。今さら命は惜しまぬ。それに伝兵衛さえ生き延びれば、飯島の家は残る」
伝兵衛とは、三年前に元服して為仲という名を与えた嫡男である。すでにふたりの男子をもうけており、妻子を連れてここまで逃げ延びてきていた。慥かにかの者、あるいはせめてその子らだけでも生き残れば、一族が滅びることはない。
「そのためにも、わしは行かねばならぬということよ。止めるな、善十郎」
兄の決意は固いようだった。その目には、もう動かしようのない覚悟が漲っている。これもまた、勇なのだろう。そう思うと、胸の中にまた苦いものが込み上げてくる。
「良いかぁ!」
金太夫が再び兵たちの前へ進み出て、叫んだ。その怒号に、地響きのような「応」という声が返ってくる。大男は満足げに笑みを浮かべた。その顔にはもう、先ほどの怖気は露も見えない。
「この門を一歩出れば、そこは地獄じゃ。覚悟せい!」
「応!」
「周りにおるのは、すべてが敵じゃ。手当たり次第に薙ぎ倒して進めぇ!」
「応!」
傍の兄も、ひび割れた声で「応」と叫んでいた。善十郎も苦い胸の裡を押し隠し、それに倣う。
「征くぞっ、門を開けぇっ!」
その合図とともに、閂が外された。開きはじめた大手門の向こうから、波のような筒音が押し寄せてくる。前方に朝日を浴びて翻るは、右三つ巴の旗印。河尻肥後守が軍勢だった。
門を一歩出れば地獄。その言葉に偽りはなかった。勢い込んで飛び出して行った兵たちが、最初の斉射でばたばたと倒れてゆく。しかしそれでも、止まるわけにはいかなかった。
「征けぇっ!」
金太夫が吼え、屍を跨ぎ越して突き進む。善十郎もまた、兄や飯島の残兵たちとともに続いた。騎馬はすべて後続の小山田隊へと集めたので、全員が徒士だ。それでも先頭を行く金太夫の巨体は、さながら悍馬のごとく猛々しかった。
再び筒音が響き渡り、耳元を熱いものが掠めていった。されど誰もが大声で、言葉にならない叫びを上げながら、先を争うように突進してゆく。
「進めぇっ!」その叫びを圧して、金太夫の命が響き渡る。「進むのじゃ、止まるなぁっ!」
斉射が止むと、入れ替わりに槍隊が押し出してきた。一列に並んだまま、大きく穂先を持ち上げる。善十郎と兵たちはひと塊になって、真正面から突進した。そして槍が振り下ろされる前に潜り込み、身体ごとぶつかってゆく。
兜で突っ込み、手甲でかち上げ、倒れた敵を踏み潰して、ひたすら前へと駆け続けた。首を取る必要などない。今はただ、ただただ進むのだ。
気が付けば、手にしていた槍は中ほどでぽっきりと折れていた。それは投げ捨て、足元の泥濘から敵のものを拾い上る。こんなもの、使えさえすれば何でもいい。
「首など捨て置けっ、進むのじゃ!」
金太夫の怒号はなおも聞こえている。その大男に、右手から槍衾が迫っていた。善十郎は咄嗟に気付いて、「渡辺どのっ!」と叫ぶ。
それで気付いたのか、金太夫が槍衾に向き直った。しかしそれから逃げようとはせず、長槍を高々と頭上に掲げる。そうして、裂帛の気合ととも振り下ろした。
雑兵が数名叩き潰され、槍衾がふたつに割れる。そうして、眼前に一本の道ができた。
「進めぇっ!」
あとから兵が大男を追い越し、その一本道を駆け抜けて行った。善十郎もそれに続こうとするが、すぐに別の槍先に阻まれる。
「退けっ!」
構えた槍を出鱈目に振り回す。鈍い音がいくつも響き、緒の切れた兜が宙を舞った。そしてできた道を、再び駆け出した。しかし敵兵はあとからあとから、尽きることなく湧き出てくる。
さすがにこうして戦場に出れば、凪いだこころのままでなどいられない。されど相変わらず、恐怖はなかった。敵の槍が幾度も胴を削り、鼻先をかすめ、兜を叩く。ひとつでも間違えば、こちらの命まで削り取ってゆくのはわかっている。それでも、気が付けば口元には笑みが浮かんでいた。
殺せるものなら殺せ。早く殺せ。どうせわしには何もない。もはや何も残ってはいないのだ。ならば、恐ろしいものなど何もない。あるわけがない。だから疾くと殺してみせよ。ただしその前に、おぬしらをひとりでも多く道連れにしてやるわ。
もしかしたら、声に出して喚いていたかもしれない。しかしもう、善十郎にはそれもよくわからなくなっていた。ただひたすらに槍を振り回し、叫び、笑い、駆け続けた。いつしか、おのれの声以外には何も聞こえなくなっていた。先ほどまでともに走っていた、金太夫の怒号も。兄の具足が鳴る音さえも。
そうして唐突に視界が開けた。あれほど際限なく湧き続けていた敵兵も、いきなり途絶えた。
敵陣を走り抜けたのだ。そう気付いた。それでもまだ、脚は止めなかった。駆け続けた。止まらなかった。ごつごつとした斜面を、さらに勢いを増して下ってゆく。
振り返ると、数名の雑兵がこちらに追い縋ってくるのが見えた。味方の姿はなかった。どうやら駆け抜けたのは善十郎ひとりだけだったようだ。その向こうに、おのれが突き破ったはずの兵の群れがあった。しかし風穴などどこにもなかった。兵の群れはすぐにまた密集し、隙間なく槍が並んでいた。
駄目だ、これでは騎馬隊が抜けられぬ……
そう思ったとき、脚が縺れた。そのまま前につんのめり、地に倒れ伏してゆく。踏み止まるほどの力も、もう残ってはいなかった。
倒れると同時に、おのれの体が大きく弾むのがわかった。そしてそのまま止まることなく、山肌を転がり落ちてゆく。駄目だった。無駄だった。これで武田の命運は潰えた。すべてはお終いだ。
しかしそれと同時に、だから何だとも思った。おのれの為すべきことは成し遂げた。敵の大軍の只中を駆け抜け、包囲を突破してみせた。わしの戦は、わしの勝ちよ。そう心の中でつぶやいた。ならば良し。満足して死んでやろうではないか。
転がり続けていた身体が、何かに激しくぶつかったのがわかった。視野が瞬時に暗く閉ざされ、一切の音も消えた。善十郎が覚えているのはそこまでだった。
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