親は選べない

おっくん

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親は選べない

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 三人の男女はお互いの姿を見ると、声をあげたり、後ずさったり、はみでた脳味噌を震わせたりした。
 真っ暗な空間にどこからか光が差し込んできていて、三人のまわりは部屋のように明るくなっていた。

「あなた、大丈夫なの?」

 下着の透けたドレスを着た女が、頭を半分失っている男に聞いた。男は扇情的な姿の女に、いちいち反応するような年齢でもなかった。

「あなたこそ大丈夫ですか? 刺されたんですよね、包丁で滅多刺しだ」

「なんで包丁で刺されたってわかるんですか?」
 ドレスの女が不思議そうに聞いた。

「背中に包丁が刺さったままだからですよ」
 答えたのは右手に点滴台を握ったままのガリガリに痩せ細った女だ。

「あなたもあなたです。その頭、何をどうしたらそうなるんですか?」

「いやあ、仕事でちょっとやりすぎちゃって。頭に一発撃ちこまれちゃいました」

「もしかしてしゃちょーさんとかだったんですか?」
 ドレスの女が興味をもったようだ。撃たれた男にすりよると「年収ってどのくらいだったんです?」と聞いた。

「五億」

 点滴の女は汚いものでも見るような表情を浮かべた。


 やがて目が眩むほど光が強くなると、目の前に美しい女性が現れた。

「シャーリーズ・セロンだ!」
 と男はいった。

 女性は穏やかに微笑むと「はい。わたしは転生神のシャーリーズ・セロンです」といった。

「あの! セロンさん。わたしたちは一体どうなってしまったんですか」
 ドレスの女が二人を押し除けて、シャーリーズ・セロンに詰めよった。

「あなた方は命を奪われたのです。おや、点滴の女、不思議そうな顔をしていますね。あなたも家族に機械を止められて亡くなったのでここへ送られたのですよ」

「なるほど。ではここは天国なのですか?」

「撃たれた男よ、ここは天国でも地獄でもありません。簡単にいえば『転生の間』といいましょうか。いまからあなたがたには『親ガチャ』を引いてもらいます。あなたがたはもう一度、人生をやり直すのですよ」

 シャーリーズ・セロンの言葉に三人は歓声を……あげなかった。三人とも黙りこくって考え込んでいる。

「やっぱり、裕福な家庭がいいわよねぇ」
 とドレスの女がいった。

「うち貧乏でさ、借金まであって。それが嫌で東京に出てきたんだけど、けっきょく風俗嬢になっちゃった。けっこう稼げたし、別に嫌じゃなかったけどさ、最後は刺されちゃった。もうすこし実家が裕福だったら別の可能性があったと思うんだよねぇ」

「わたしは五体満足ならなんでもいいわ。産まれたときからほとんど寝たきりだったの。飛んだり跳ねたりできればお金なんていらない。人生の成功なんて本人の頑張り次第じゃないの」
 点滴の女がドレスの女を意識していった。撃たれた男は鼻で笑った。
「健康なんて大前提だ。やはり人間ってものは生まれた場所、生きている場所に影響されるものだ。お金はあることに越したことはない。学歴に影響するからな」

 女たちは顔を見合わせて笑った。

「大企業のしゃちょーさんは欲張りだね。人生にはお金も健康も場所も必要って、そんなの贅沢すぎない?」

「いやいや、『親ガチャ』のアタリってそういうことでしょう」
「親ガチャにはアタリしかありませんよ。三人とも寿命を全う出来なかったぶんだけ幸運値の繰越がありますからね。みんな幸せになれるのですよ」

 シャーリーズ・セロンが両手を差し出すと、その中に『親ガチャ』と描かれた金ピカの箱が現れた。
「では、順番にどうぞ」


 埼玉県の毛呂山の近くで三つ子が産まれた。
 高齢の夫婦が私財をなげうち、長期にわたる不妊治療の末に授かった子供たちであった。

 三人とも悲鳴のような産声だった。
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