親は選べない

おっくん

文字の大きさ
上 下
1 / 1

親は選べない

しおりを挟む

 三人の男女はお互いの姿を見ると、声をあげたり、後ずさったり、はみでた脳味噌を震わせたりした。
 真っ暗な空間にどこからか光が差し込んできていて、三人のまわりは部屋のように明るくなっていた。

「あなた、大丈夫なの?」

 下着の透けたドレスを着た女が、頭を半分失っている男に聞いた。男は扇情的な姿の女に、いちいち反応するような年齢でもなかった。

「あなたこそ大丈夫ですか? 刺されたんですよね、包丁で滅多刺しだ」

「なんで包丁で刺されたってわかるんですか?」
 ドレスの女が不思議そうに聞いた。

「背中に包丁が刺さったままだからですよ」
 答えたのは右手に点滴台を握ったままのガリガリに痩せ細った女だ。

「あなたもあなたです。その頭、何をどうしたらそうなるんですか?」

「いやあ、仕事でちょっとやりすぎちゃって。頭に一発撃ちこまれちゃいました」

「もしかしてしゃちょーさんとかだったんですか?」
 ドレスの女が興味をもったようだ。撃たれた男にすりよると「年収ってどのくらいだったんです?」と聞いた。

「五億」

 点滴の女は汚いものでも見るような表情を浮かべた。


 やがて目が眩むほど光が強くなると、目の前に美しい女性が現れた。

「シャーリーズ・セロンだ!」
 と男はいった。

 女性は穏やかに微笑むと「はい。わたしは転生神のシャーリーズ・セロンです」といった。

「あの! セロンさん。わたしたちは一体どうなってしまったんですか」
 ドレスの女が二人を押し除けて、シャーリーズ・セロンに詰めよった。

「あなた方は命を奪われたのです。おや、点滴の女、不思議そうな顔をしていますね。あなたも家族に機械を止められて亡くなったのでここへ送られたのですよ」

「なるほど。ではここは天国なのですか?」

「撃たれた男よ、ここは天国でも地獄でもありません。簡単にいえば『転生の間』といいましょうか。いまからあなたがたには『親ガチャ』を引いてもらいます。あなたがたはもう一度、人生をやり直すのですよ」

 シャーリーズ・セロンの言葉に三人は歓声を……あげなかった。三人とも黙りこくって考え込んでいる。

「やっぱり、裕福な家庭がいいわよねぇ」
 とドレスの女がいった。

「うち貧乏でさ、借金まであって。それが嫌で東京に出てきたんだけど、けっきょく風俗嬢になっちゃった。けっこう稼げたし、別に嫌じゃなかったけどさ、最後は刺されちゃった。もうすこし実家が裕福だったら別の可能性があったと思うんだよねぇ」

「わたしは五体満足ならなんでもいいわ。産まれたときからほとんど寝たきりだったの。飛んだり跳ねたりできればお金なんていらない。人生の成功なんて本人の頑張り次第じゃないの」
 点滴の女がドレスの女を意識していった。撃たれた男は鼻で笑った。
「健康なんて大前提だ。やはり人間ってものは生まれた場所、生きている場所に影響されるものだ。お金はあることに越したことはない。学歴に影響するからな」

 女たちは顔を見合わせて笑った。

「大企業のしゃちょーさんは欲張りだね。人生にはお金も健康も場所も必要って、そんなの贅沢すぎない?」

「いやいや、『親ガチャ』のアタリってそういうことでしょう」
「親ガチャにはアタリしかありませんよ。三人とも寿命を全う出来なかったぶんだけ幸運値の繰越がありますからね。みんな幸せになれるのですよ」

 シャーリーズ・セロンが両手を差し出すと、その中に『親ガチャ』と描かれた金ピカの箱が現れた。
「では、順番にどうぞ」


 埼玉県の毛呂山の近くで三つ子が産まれた。
 高齢の夫婦が私財をなげうち、長期にわたる不妊治療の末に授かった子供たちであった。

 三人とも悲鳴のような産声だった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

白水緑【掌握・短編集】

白水緑
ライト文芸
タイトルから、連想ゲーム的に思いついた話となっております。一話完結のショートストーリー。不定期更新。登場人物は毎回変わります。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

サブローみたいに

朝日みらい
ライト文芸
今夜、ぼくは父ちゃんと、シェイカーズのプロ野球の試合に行く予定だから、すごくウキウキしていたはずなんだけど・・・ぼくと父ちゃんの物語。

暴走族のお姫様、総長のお兄ちゃんに溺愛されてます♡

五菜みやみ
ライト文芸
〈あらすじ〉 ワケあり家族の日常譚……! これは暴走族「天翔」の総長を務める嶺川家の長男(17歳)と 妹の長女(4歳)が、仲間たちと過ごす日常を描いた物語──。 不良少年のお兄ちゃんが、浸すら幼女に振り回されながら、癒やし癒やされ、兄妹愛を育む日常系ストーリー。 ※他サイトでも投稿しています。

僕の彼女は婦人自衛官

防人2曹
ライト文芸
ちょっと小太りで気弱なシステムエンジニアの主人公・新田剛は、会社の先輩の女子社員に伊藤佳織を紹介される。佳織は陸上自衛官という特殊な仕事に就く女性。そのショートカットな髪型が良く似合い、剛は佳織に一目惚れしてしまう。佳織は彼氏なら職場の外に人が良いと思っていた。4度目のデートで佳織に告白した剛は、佳織からOKを貰い、2人は交際開始するが、陸上自衛官とまだまだ底辺エンジニアのカップルのほのぼのストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。 おいしいご飯がたくさん出てきます。 いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。 助けられたり、恋をしたり。 愛とやさしさののあふれるお話です。 なろうにも投降中

処理中です...