不自由と快楽の狭間で

Anthony-Blue

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93.忘れ得ない記憶

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「ここ、座っていい?」

 バスタオルを胸の谷間のところで止めただけの姿で立っている萌は、壁際に置いてあるソファーを指差して言った。

「いいけど、服をちゃんと着てくれないか」

「だって、まだ暑いし。着替えの服もないんだもん」

「さっき着ていた服しか、持ってないんだ」

「うん。わたしが稼いだお金、あいつが全部使っちゃうんだもん。わたしにはお金を持たせてくれなかったから、服も下着も買えなくて。生理の時もナプキンを買えなくて困っちゃったよ」

 萌は、悲しそうな目をして笑っている。ボクは、キッチンの冷蔵庫からコーラを出してきて、萌に渡した。

「ほら、ノド渇いてるだろ。コーラしかないけど」

「ありがとう」

「お腹、減ってるんじゃないのか?カップ焼きそばくらいしかないけど食べるか」

「うん」

 ボクは、自分で何をしているのだろうと自問していた。萌の話を聞いて、同情しているのか。カップ焼きそばのお湯を捨てながら萌を見る。置物のような薄い存在感で、コーラのペットボトルを持って焦点の定まらないような視線で宙を見ている。バスタオルからはみ出した太ももに、青あざが見えた。

 テーブルの上にカップ焼きそばを置き、萌の前に進む。汚れを落とした萌の肌は、若い女の子特有の張りを取り戻したように見えた。バスタオルを突き上げるような乳房が、ボクに存在を主張しているようだ。車椅子からの目線では、少し開き気味の足の間から奥まで見えそうだった。見てはいけないと、視線を外して萌に言う。

「コーラ、飲まないのか」

「ん、あっ飲むよ」

「焼きそば、テーブルに置いてるよ」

「うん、ありがとう」

 萌は、一口コーラを飲むと、ゆっくりと立ち上がりテーブルに着いた。

「その格好は、何とかしないとな」

「瑞樹は、もうわたしの裸なんて見飽きるほど見てきたんだからいいじゃん」

「そういう問題じゃなくて・・・」

「はあ、わかった。これが邪魔なんだ」

 萌はそう言うと、胸の谷間に手をやりカラダに巻いていたバスタオルを剥ぎ取り、ボクの方に放り投げてよこした。テーブルに食い込むような形になった乳房が露わになる。萌の枠腹に、先ほど見えた太ももと同じような青あざがあった。

「萌、その青あざは、どうしたんだ」

 口に焼きそばを運びながら、さも当たり前のように言う。

「ああ、これ。殴るんだよ、あいつ。気に入らないことがあると」

「そうなんだ」

「母親の男も、母親は殴ってたけど、わたしは殴らなかったから。あいつは、手加減をしなかったけど、顔だけは殴らなかったのね。バカなんだか頭がいいんだか」

「ひどいな」

「あいつさぁ、エッチする時に思い切りおっぱいを揉むんだよ。それが、痛くてさぁ。千切れるんじゃないかと思ったよ。ほら、ここにまだ傷が残ってるでしょ」

 萌は、ボクの方に向き直して、両方の乳房を持ち上げてボクに見せた。

「やめろよ。そんな格好するなよ」

「プッ」

口に手を当てて、おかしそうに笑う萌を見て、ボクは目をそらした。見慣れていた萌の乳房が、初めて目にした別物のように見えた。別の男に揉まれて、傷まで付けられたからなのだろうか。

「とにかく、何か着るモノを何とかしないと」

「瑞樹といた頃は、いつもこんな感じだったから、別にいいじゃん」

「だめだよ」

「じゃあ、わたしの置いていった服は?」

「捨てた」

「そっかぁ。捨てられたんだね」

「仕方ないだろ。萌が出て行ったんだから」

「わたしは。このままでもいいんだけどさ。瑞樹だって、その方がうれしいでしょ」

「うれしくはないし」

「うぅーん。これ食べてから、考えようね」

 萌は、お腹が減っていたのか、焼きそばを美味しそうに食べていた。華奢と表現出来る咲恵と違って、萌のカラダは肉感的と呼べるかもしれないカラダだった。

 ボクは、その抱き心地の良い萌のカラダの記憶を今でも忘れてはいなかった。
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