不自由と快楽の狭間で

Anthony-Blue

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84.匂いと香り

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 朝食を二人で摂って、咲恵はきちんと後片付けをした。身支度をしている咲恵に、ボクは声を掛ける。

「駅まで、一緒に行きましょうか」

「それは、とてもうれしいのですが、駅での別れは辛くなって、また一緒にこの家に戻ってきそうなので遠慮しておきます」

 咲恵は、精一杯の強がりで応えたのだと感じた。咲恵が玄関のドアに手を掛けた時、ボクはその手を止めた。

「咲恵さん、ありがとう。咲恵さんのおかげで、まだ生きていけるよ」

「瑞樹さん、わたしはまた、必ずここに帰ってきます。待っててください」

 咲恵は、持っていたバックを床に置き、腰を折ってボクの背中に手を回した。ボクも咲恵を抱きしめて、口づけをした。

「行きたくないです」

「でも、いってらっしゃい」

 別れの時間を数えるように、何回も涙の味がする口づけを交わした。

「さあ、行かないと」

「はい。いってきます。でも今、とても後悔してるんです。駅なら電車が別れを手伝ってくれるのに、ここからわたしの足は動こうとしないんです」

「大丈夫ですよ。きっとまた会えるんだし」

「はい、すぐ帰ってきますからね」

「待ってる」

「わたしも」

 咲恵は、自分を振り切るように立ち上がりドアを開けた。眩しい朝日の中に消えてゆく咲恵を見送り、ドアは静かに閉まった。

 ボクは、しばらくの間、動くことを忘れたように、咲恵と隔絶されたドアの前にたたずんでいた。

「あー、洗濯しろって咲恵が言ってたな」

 誰も聞いてくれる者もいない空間が、ボクの言葉を飲み込んだ。洗面所に置いてある洗濯カゴにある衣類を、洗濯機に放り込んでいく。ボクの手に、なにか硬いモノが当たる。手に掴まれたモノを見ると、昨日咲恵が着けていたピンクのブラジャーだった。カゴの中を探すとピンクのショーツも残っていた。たぶん、咲恵はわざと自分の下着を残していったのであろう。その下着達からは、咲恵の香りがした。先ほど別れたばかりなのに、妙になつかしいように感じた。このまま、洗濯せずにおいておきたい欲望もあったけれど、咲恵に叱られそうなので洗濯機に入れた。後で、咲恵にメールをしておこう。

「咲恵さんの匂い、楽しませていただきました」

 咲恵は、どんな返事を送ってくるだろう。しかし、これは咲恵の自己主張なのかもしれない。それから洗濯を干して、部屋を片付けた。せっかく咲恵が、綺麗にしてくれたのだから、それを維持することが咲恵がいた証しを残すことのような気がした。

 夜になると、ひとりだということをはっきりと実感した。咲恵からは、無事に着いたと連絡があった。お互いが寂しさを訴えて、途切れないメールが続いた。



「瑞樹さん、わたしのおっぱいを舐めてよ」

 咲恵はそう言って、ブラをずり上げて綺麗な乳首をボクに前に差し出した」

「あれ、咲恵さん、いつ帰ってきたの」

「なに言ってるんですか。わたしはどこにも行ってませんよ」

「よかった」

「さあ、早くおっぱいを吸ってください。それとも、わたしのおまんこがいいですか」

「えっ、いや」

「ガマンしなくていいんですよ。さあ、指を入れてかき回してくださいよ」

「でも」

「なにを恥ずかしがってるんですか。ほら、もうわたしのおまんこはグショグショに濡れちゃってますよ」

「咲恵さん、いつもの雰囲気と違うようなんですけど・・・」

 一瞬の暗転があって、聞こえてきた声にひどく驚いた。

「誰なんだ。その咲恵ってヤツ」

 目の前にあったはずの咲恵の華奢なカラダは、いつの間にか豊満な乳房とぷっくりと肉付きのいいおまんこを開いている萌のカラダにすり替わっていた。

「何やってんのよ。さっさとわたしのおまんこ舐めなさいよ」

「いつの間に、戻ってきたんだ」

「はあ、瑞樹がわたしのカラダを忘れられないって言うから、戻ってきてあげたのに。ほら、瑞樹のおちんちんも喜んでこんなにデカく硬くなってるじゃん」

 ボクは、萌に弄ばれている自分のペニスを見た。

「違う、あんな仕打ちをされた萌に勃つはずないんだ」

「よく言うよ。こんなに勃ってるのに。瑞樹は、わたしのカラダが恋しかったんだろ。だから、こんなに勃ってるんだよ。お望み通りに、わたしのおまんこに入れて気持ちよくさせてあげるからさ」

 萌は、ボクの上に跨がり、自ら割れ目を開いてボクのペニスを挿入しようとしていた。

「ダメだ。咲恵と約束したんだ。萌とはエッチしないって」

「その咲恵って誰なんだよ。また、わたしがいない間にセックスしたんだ。瑞樹ってほんと、セックス依存症だよね」

「ボクは、ボクはそんなんじゃない」

「ごちゃごちゃ、なに言ってるの。うるさいんだよ。気持ちよくさせてやるって言ってんだから、素直に喜んでよ」

 萌は、ボクのペニスを握って、自分のヌルヌルになった割れ目に押し込んで、大きく腰を振り出した。

「あぁ、やっぱり瑞樹のおちんちんは最高だね。早くわたしの中に出しなさい」

「咲恵さん、ごめん」

 ボクは、絶頂感でカラダが震えた。



 目が覚めると、もう部屋には朝日が差し込んでいた。手にはスマホが握られたままで、画面には

「寝ちゃったかな。じゃあ、おやすみなさい」

 という、咲恵のメールの文字が残っていた。

「夢だったんだ」

 少し、ホッとして起き上がると、下半身に違和感と青臭い匂いが漂った。
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