不自由と快楽の狭間で

Anthony-Blue

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38.宿泊

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「ねぇ、これどう?」

 ピンクのブラジャーとショーツのセットをボクに差し出して、萌ははにかんだ笑顔を見せる。

 ハンバーガーショップを出て、駅の近くにあるショッピングセンターに着替えを買いに来ている。普通にTシャツとかの着替えかと思っていったつもりが、

「わたし、下着を買ってもいいかな」

 と言いだして、ボクも下着の専門店に付き合わされている。店の前を通ることはあっても、店の中に入ったのは生まれて初めてだった。それも、若い女の子と来ることになるなんて思ってもしなかった。

「仲がおよろしいんですね」

 お客様専用のセールストークだろうと思う言葉を、店員がにこやかに微笑んでボクたちに言った。

「試着とかなさいますか」

 たたみ掛けるように、言葉を続ける店員に、愛想笑いを返している萌は手に持っていたハンガーを戻して言った。

「ちょっと、他も見てきます」

 萌は、ボクの手を引っ張って店を出た。

「買えばよかったのに」

「ちょっと、冷やかしで見てただけだから。あんな高い下着なんて着けたことないし。わたしには似合わないよ」

「そうかな、かわいいと思ったんだけど」

「いいの」

 買ってもらえるというのに、値段のことを気にして遠慮をしているのだろうか。結局は、量販店の下着コーナーで安物を購入して、フードコートで夕食を食べた。

「ちゃんとしたお店で食べればよかったのに」

「ここだって、ちゃんとしたお店じゃん。そんなこと言ったらお店の人に失礼だよ」

「まあ、そうだけど」

「わたしの口には、これで十分なの。だって美味しいでしょ」

「そりゃあそうだけど」

「この後、ホテルに行くんでしょ」

「ああ」

「そのお金も出して貰うんだし」

 押しきられた格好だけれど、この子と本当にホテルに行ってもいいのだろうかと思っている。家出娘に、優しくしているお兄さんを演じればよいだけだ。そう、なにも疚しいことをしなければいい事なのだ。時々見せる暗い表情の原因も聞かなければいけない。

 食事を済ませたボクたちは、駅裏にあるホテル街へと向かった。

「あっ、しまった。ビジネスホテルでも良かったんだよね」

 ふと、頭の中で思いついたことが口をついて出てしまう。

「なにを往生際が悪いこと言ってるのよ。いまさらでしょ。い・ま・さ・ら」

「わかってるよ。悪あがきがしたいだけなんだよ」

「もう、遅いのよ」

 そう、もう関わってしまったのだから。いくらでも断るチャンスがあったはずなのに、それをしなかったのはボクなのだ。

「ここだよ」

「うん」

 いつものホテルの前に来て、萌に声をかけた。ロビーに入り部屋を選ぶ。エレベーターに乗りいつもの部屋に入る。しかし、見慣れた部屋は別の部屋のように見えて、心臓の鼓動が高なるのを感じた。

「部屋広い。ベッドもデカい。お風呂も大きい」

 一つ一つに感想を言って、無邪気さを装っている萌の声が響いた。

「さてとぉ」

 萌は、荷物を置いたかと思って見ていると、着ていたTシャツに手をかけて脱ぎ始めた。

「ちょっと、待って。なんで急に脱ぎだすの」

 Tシャツは、すでに首を通ってブラジャーが見えていた。

「へっ?お風呂入ろうと思って。あっ、一緒に入りたい?」

「ち、違うって。服はバスルームで脱いでよ。それにお湯入れてから脱いだら」

「あーそっか。お湯入れてくるわ」

 脱いだTシャツを着るわけでもなく、上半身ブラジャー姿でバスルームへいった。チラ見した萌の姿は、胸の大きさには似つかわしくない、中学生が着けるようなブラジャーに見えた。

「お風呂の栓って、ボタンなんだね。知らんかったわ」

 バスルームから戻ってきた萌は、無雑作にボクの近くのベッド脇に座った。

「Tシャツ着なさい」

「めんどくさい」

 近くで見る萌の胸は、思ったよりボリュームがあり、やはりブラがきつそうになっていた。

「あっ、おっぱいを見てたでしょ。エッチ」

「そんな格好で、前に来られたら誰だって目がいくよ」

「そうなんだ。ねえ、ブラを外して見せてあげようか」

「いや、いいです」

「見たくないんだ」

 萌は、意地悪そうに笑って、自分の胸に手をやって谷間を強調して見せた。

「からかってるだろ」

「うん、リアクションがおもしろいから」
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