不自由と快楽の狭間で

Anthony-Blue

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13.新しい記憶へ

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 咲恵の突然の提案に、ボクは戸惑いながら彼女に言った。

「それは、どういう意味ですか」

「弟にしたような行為を瑞樹さんとして、記憶を上書き出来ないかなと思ったんです。今は弟とした行為の記憶しかないので、そのことを思い出してしまうしいつまでもそれじゃ辛いばかりだと考えました」

「でも、今日はそんなつもりでお誘いしたわけでもないし・・・」

「わたし、ここに来る前に言いましたよね。お話が出来たなら、何をされてもいいと」

「それは聞きましたが、それは出来ません。まるで、咲恵さん告白を人質に取ってるみたいで後ろめたいです」

 咲恵は、クスッと笑って言った。

「真面目なんですね」

「そんなことはないのですけど」

「あー、わたし、瑞樹さんに振られてしまいましたね。弟にあんなことした女ですもんね。仕方ないです」

「そんなことないですよ。勇気を出して告白してくれたんだから。ただ、それを否定するためにボクとやろうとしてるように思えて。咲恵さんは、そんなことで自分の大事なものを捨てなくていいと思います。ボクは、大事にしたいんですよ。咲恵さんのことを」

「じゃあ、ひとつだけお願いがあります」

「なんです」

「わたしを抱きしめてくれませんか。次にまた会えることの約束として」

 咲恵は、向かいのソファーから立ち上がり、ボクの前に来て高さを揃えるために膝を折って背中に手を回した。ボクも、咲恵の背に手を回し引く寄せた。ボクの胸に、咲恵の胸が重なっていく。

「また、会ってください。そして今度こそ・・・」

「わかりました。また今度ですね」

 その後、ボクたちはホテルを出て駅に向かって歩き出した。

「次は、いつ会ってくれるんですか」

 咲恵は、ここに来る前とは違って、どこか吹っ切れたように感じる。

「そうだなぁ、来週でもいいですよ。もう決めておかないと行けないですか」

「女性は、次にいつ会えるか決めておくと安心するんですよ。わたしも瑞樹さんが逃げてしまうんじゃないかと、少し不安です。改めて考えても、すごいカミングアウトをしたと思ってますし、なんか普通の人間じゃないと思われたりしてないかと」

 咲恵は、また少し顔を曇らせて言った。

「そんなことはないですよ。弟さんにだからこそ、そういうことをしてしまったんじゃないかとも思ってます。だから、逃げたりなんてしませんよ」

「本当ですか」

「わかりました。じゃあ来週の週末にしましょう。咲恵さんの都合に合わせませから」

 駅に着くまでの間、咲恵はスケジュール帳を出し来週の土曜日を指差してボクに確認する。

「じゃあ、土曜日で。今日と同じ時間でいいですか」

「はい、じゃあそれでお願いします。何か食べたいものを考えて置いてください」

「あっ、今日ホテルでルームサービスのメニューがあったので見たんですが、美味しそうだったんでホテルで食事しましょうよ。その方がゆっくり出来るし」

「いいんですか?それで」

「はい。楽しみにしてます」

 しっかりと約束をして、二人は駅で別れた。咲恵の言葉にウソはないのだろう。でも、このままそういう関係を持ってもいいのかと迷ってしまう。それは、自分が望んでいた事なのに。
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