引きこもり令嬢はやり直しの人生で騎士を目指す

天瀬 澪

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35.魔術具開発局①

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 その日は、朝からしとしとと雨が降っていた。


 最近は急激に気温が下がり、少しでも体が濡れれば冷えてしまう。
 いつもの団服の上に厚手のコートを羽織りながら、アイラは重い足取りで部屋を出た。


 憂鬱な気分になってしまうのは、理由があった。
 一つは、これから向かう任務に関することだ。


 宿舎の玄関前に向かうと、既に一緒に任務に向かう人物が立っていた。
 その綺麗な顔は、アイラと同じように憂鬱そうに歪んでいる。


「お待たせ、リアム」

「……大丈夫、待ってないから…って、ははっ」


 アイラを一目見ると、リアムが突然笑い出した。


「えっ?な、何?」

「ひっどい顔だけど。どうして僕よりアイラの方がそんな顔してるわけ?」

「そ、そんなにひどい??」


 アイラは慌てて両手で頬を押さえる。それと同時に、久しぶりに見たリアムの笑顔にホッとした。


 闘技場の事件のあとから、リアムはずっと苦しそうだった。

 リアムの家族が…オドネル伯爵家が、魔術具を使って事件を引き起こしたのではないかと、リアム本人が進言したと聞いてから、ずっと。


 アイラは事件に深く関わる者として、新人騎士の立場にも関わらず、全ての情報を共有してもらっていた。

 騎士団の中で、闘技場の事件にオドネル伯爵家の関与が疑われていることを知る人物は、アイラとリアムの他に、団長のエルヴィスと副団長のフィン、ジスラン、セルジュだけだ。


 そして今日、入念な打ち合わせの上、事件の調査任務を行うこととなった。

 向かう場所は、魔術具開発局。
 そこで、オドネル伯爵家の関与と、本当に魔術具が使用されたのかを調査する予定だ。


 リアムの家族を疑って調べることが、アイラの憂鬱の一つだ。
 そして、もう一つが―――…


「準備はできたか?」


 透き通るように響いた声に、アイラの体がビクッと反応する。
 そんなアイラに呆れた視線を送ったあと、リアムが先に返事をした。


「はい、できました。エルヴィス団長」

「そうか。アイラは?」

「……ダイジョブデス」


 あまりにカタコトなアイラの返事に、エルヴィスは目を丸くしたあと、フッと笑う。
 それがあまりに嬉しそうな笑みだったので、アイラは途端に顔が熱くなるのを感じた。


 そう。憂鬱の原因であるもう一つは、団長であるエルヴィスの存在である。
 なんと、今回の任務にはエルヴィスも加わり、アイラとリアムとの三人で行動することになっている。


「……じゃあ、当初の予定通り君たちは馬車で向かってくれ。俺は魔術具で先に転移して、局長に挨拶と説明をしておく」

「はい、分かりました」


 使い物にならないアイラの代わりに、リアムがしっかりと返事をしてくれた。

 宿舎の外で馬車が待機している。馬ではなく馬車なのは、今日の天気と気温を考えてエルヴィスが用意してくれたからだ。


 アイラとリアムが馬車に乗り込むのを確認すると、エルヴィスは御者と挨拶を交わし、その場で転移して姿を消した。
 ガラガラと動き出した馬車の中に、しんと沈黙が降りる。

 リアムは足を組みながら、窓枠に肘を乗せ、頬杖をついた。


「……君さぁ、いつまでもあの態度はさすがに酷いと思うけど」

「……うう…分かっているわ…」


 アイラはそう返すと、両手で顔を覆う。

 エルヴィスとは、今回の件の打ち合わせでリアムと共に顔を合わせることが格段に増えた。
 だがアイラは、団長室での出来事があってから、まともに会話ができずにいた。

 どうしても、あの日の温もりを思い出してしまうのだ。


「まあ、僕の前ではいいんだけどさ。団長も何か楽しそうだし。……でも、他の団員たちは怪しむと思うよ」


 アイラは両手を膝の上に下ろすと、ちらりとリアムを見た。


「……リアムは、何も訊かないのね」


 アイラが団長室で、エルヴィスと赤毛の騎士について話したのはひと月ほど前になる。


 あの日、団長室に入ってきたリアムの要件は、魔術具開発局とオドネル伯爵家についてだった。
 そこで初めて、アイラは闘技場の事件のとき、リアムが浮かない顔をしていた理由を知った。

 そしてそのあとから、アイラのエルヴィスへの態度がおかしくなった。
 リアムなら、団長室で何かがあったのだとすぐに勘づいただろう。けれど、一度も何があったかを訊いてくることはなかった。


 リアムは頬杖をついたままクスリと笑う。


「何?訊いてほしいの?」

「……それは…、できれば訊かないでくれると助かるわ」

「でしょ?アイラだって、闘技場の救護室で、様子のおかしい僕に何も訊かないでくれたでしょ」

「あれは、フィン副団長に止められたから…」

「そうだとしても、あの場で触れないでくれた。それが僕には、とても助かったんだ。あのときはまだ、心の整理ができていなかったから」


 そう言いながら、リアムは窓の外を眺めた。どんよりと曇って雨を流す空の様子が、リアムの表情と重なる。


「……心の整理、できたの?」

「……うん。最悪の真実が分かっても、それを受け入れられる程度には」


 リアムは外を見たまま、表情を変えずにそう言った。

 最悪の真実とは、オドネル伯爵家の誰かが人を操る魔術具を開発し、それを闘技場で使用して騒ぎを起こした、というものだろう。

 アイラは迷った末、口を開く。


「リアムは、ご家族があんなことしたと思っているの…?」


 リアムの水色の瞳が、アイラに向いた。そして、悲しげに揺れる。


「……思いたくは、ないよ」


 その答えを聞いて、アイラは安心して微笑んだ。


「それなら、やることは簡単だわ」

「やることって…調査でしょ」

「そうね。でも、リアムのご家族の無実を証明する調査だわ」


 アイラは手を握り、拳を作ってリアムの前に差し出した。それをリアムは怪訝そうに見ている。


「……なにこれ?」

「闘技場のとき、デレクと頑張ろうねって意味でよくやっていたの。拳同士を、コツンてやるのよ」

「……それを、僕にもやれと?」


 心底嫌そうな顔をしたリアムだったが、アイラのキラキラとした眼差しに負けたようだ。
 しぶしぶ拳を作ると、コツンと合わせる。

 アイラは満足そうに頷いた。


「さあ、頑張るわよリアム!」

「……君が一緒だと、一波乱ある予感しかしないんだけどね…」

 
 リアムがボソリと呟いた言葉は、意気込むアイラには届かなかった。





***


 馬車に揺られ数時間で、魔術具開発局へ到着した。


 馬車から先に降りたリアムが、アイラに向かって手を差し出す。アイラはお礼を言ってからその手を取った。
 御者がそんな二人の上に、傘を差してくれている。


「わあ!まるで絵本のような光景ですね!」


 明るい声が響き、アイラは視線を向けた。
 開発局の正面玄関から、白衣を着た男性とエルヴィスが並んで歩いてくる。


「王子と姫のような少年少女。ようこそ、魔術具開発局へ!」


 顔を輝かせている男性の隣で、エルヴィスの瞳が光る。
 アイラはそれを見てピシッと固まり、リアムが慌てたように手を放した。


 目の前まで来た男性とエルヴィスは、傘を差していない。それでも濡れていないことに気付いたアイラが、不思議そうに男性の白衣を見る。
 その視線に気付いた男性は、ははっと笑った。


「不思議ですよね。では、こちらをどうぞ」

「……これは、魔術具ですか?」

「使ってみれば、効果はすぐ分かりますよ!」


 言われた通り、アイラは渡された魔術具に魔力を込めてみた。すると、途端に体が何かに包まれる感覚がした。

 試しに傘の外へ出てみると、なんとアイラの体は雨を弾いている。


「わあ…!これはすごいですね!」

「でしょう?これは外で作業する方に大人気の魔術具です!続けて三時間ほど使用できますよ!」


 にこにこと笑みを浮かべる男性は、そのままリアムに視線を移した。


「さあ、君もぜひ…」

「僕は魔術具を使えません。貴方ならご存知でしょう、スタンリー局長」


 名前を呼ばれた魔術具開発局の局長は、眼鏡の奥でパチパチと瞬きを繰り返した。そしてすぐにニヤリと笑う。


「相変わらずの冷ややかさですね、リアムくん」

「嬉しそうに言わないでください」


 スタンリーは声を出して笑うと、アイラを振り返って手を差し出した。


「申し遅れました。僕は魔術具開発局の局長のスタンリー・レストンと申します」

「アイラ・タルコットです。よろしくお願い致します」


 差し出された手を握り返し、握手を交わす。それまで黙って見守っていたエルヴィスが口を開いた。


「スタンリー局長との話はもう済んでいる。これから開発局内を案内をしてもらい、局員から話を聞いたり、開発中の魔術具を見せてもらうからな」


 それは、事前の打ち合わせの通りの予定だった。
 アイラたちが開発局を訪れた表向きの理由は、騎士団で使用する魔術具の検討…ということになっている。


「いやぁ、騎士団長が直々に見学にいらっしゃると聞いて、局員たちは張り切っていますよ。自分の開発した魔術具を注文してもらう!って」


 楽しそうに笑いながら、スタンリーが開発局へ向かって歩き出す。
 アイラはその後ろを歩きながら、そわそわしていた。

 魔術具開発局へは、一度も訪れたことはない。けれど、いつか訪れたいと思っていたのだ。


 魔術具がどのように作られているかは、魔術学校で習った。そして、実物に触れる機会も何度もあった。

 けれど、実際に開発しているところは授業では見られない。本来の目的ではないが、魔術具の開発を、直接見ることができるのだ。
 開発局を目の前にして、アイラは気持ちが昂ってきていた。


「……アイラ」

「え?なぁに?」

「顔を輝かせてるとこ悪いけど、たぶん嫌な気持ちにさせると思うよ」

「……?」


 リアムがこっそりと耳打ちしてきた言葉の意味を、アイラはすぐに知ることとなった。


 開発局へ一歩足を踏み入れれば、白衣を着たたくさんの局員が忙しなく行き交っていた。

 局員たちの視線は、にこやかな笑みを浮かべる局長から、その後ろにいる三人の騎士の姿へと移る。
 そして、途端にざわざわと騒がしくなった。


「局長の後ろにいるのが、見学の騎士?」
「みんなすっごい美形じゃない?」
「黒髪の迫力がある人が騎士団長なんだろ?」
「待って、あの女の子も騎士なの?強いの?」
「待った、なんかあの可愛い子は見覚えが―――…あっ!」


 突然響いた大声に、アイラはビクッとした。何事かと思えば、一瞬の沈黙ののち、局員たちがワッと沸いた。


「思い出した!武術大会の子だ!」
「あの凄い活躍をしてた子ね!わあ、本物!?」
「最後にはお姫さまみたいに護られてたわよね!」


 アイラの元へ、わらわらと局員たちが集まってくる。口々に称賛の言葉を述べられ、アイラは混乱した。


「あ、あの―――…?」

「握手してください!すごい戦いでした!」

「待て、俺が先だ!」

「こらこら君たち、落ち着きなさい」


 スタンリーが局員たちをなだめている間に、エルヴィスがアイラを庇うようにさり気なく前に立った。
 アイラはその背中を見てドキッとする。


「騎士さまたちは、遊びに来たわけじゃないんだから。これから各所を見学するんだよ」

「ええ~、局長がずっと一緒だなんてずるいですよー」

「そうですよ。騎士団長さまと、闘技場で大活躍だった女騎士さまと…、」


 一人の女性局員の視線が、リアムに向けられた。その視線がじろじろと動き、口をポカンと開ける。


「……え?まさか、リアムさま?」


 リアムの名前が出たことで、周囲にまた違ったざわめきが起きる。


「リアムさま?オドネル伯爵家の?」
「噂には聞いてたけど、お兄さんたちと全然似てないな」
「カルラさまにそっくりね。綺麗なお顔」
「顔が綺麗でも、魔力がないんだろ?」
「そうそう。それで局員になれないから、ひねくれて騎士になったって…」


 魔術具開発局の局員であり、局長と並ぶほどの地位にいるリアムの両親は、魔術具に携わる者たちの間では尊敬される存在だった。

 その四人の息子のうち、三人は局員として働き、数々の魔術具を開発している。
 けれど、四男であるリアムには魔力がほとんどなく、騎士となっていることは、局員たちの間では周知の事実だった。


 今、局員たちがリアムに向けるのは、憐れみの目だ。アイラにはそれが不快だった。
 けれど、当の本人は気にも留めていないように平然としている。


 スタンリーがパンパンと両手を叩いた。


「はい、そこまで!皆仕事に戻りなさい。騎士さまたちにみっともない所を見せるんじゃないよ」


 これ以上騒ぐならそれぞれレポート追加しようかな、とスタンリーが笑顔で付け足すと、局員たちはそそくさと仕事に戻って行く。
 それを見てから、スタンリーは困ったように眉を下げた。


「うちの局員がすみませんでした。…気を取り直して、まずは研究室にご案内しますね!」


 そう言って歩き出しながら、スタンリーが眼鏡の奥からアイラを見る。


「それにしても、噂の“戦場の天使”がアイラさんだったんですね。いやぁ、お会いできて光栄です」

「……えっ!?」


 アイラはとんでもない言葉を聞いてしまったと思った。ぱくぱくと言葉にならない声を出すアイラを見て、リアムが代わりにスタンリーに訊ねる。


「……その二つ名、どこから聞いたんですか?」

「“戦場の天使”ですか?武術大会の観戦に行って、あの事件を目の当たりにしていた局員が、アイラさんの活躍に感動したらしいんです。それで、近くの騎士に訊ねたら、“戦場の天使”と呼ばれていると教えてもらったと嬉しそうに話していましたよ」

「その話は、開発局内で広まってたりします?」

「そうですねぇ。闘技場の事件も含めて、まだ噂話はあちこちでされていますよ」

「……だって。戦場の天使さん」

「…………も、もうやめて…」


 アイラは恥ずかしさで項垂れた。騎士団で勝手に付けられた二つ名を、魔術具開発局にまで広められてしまったようだ。


「そういえば、エルヴィス団長の二つ名は“戦場の死神”でしたっけ?いいですねぇ、二人揃えば向かうところ敵なし!な感じがしますね!」


 楽しそうにスタンリーがそう言い、アイラは顔を上げてエルヴィスに視線を向けた。
 そういえば、入団試験でエルヴィスが登場したとき、そんなことを言っていた受験者がいたような気がする。

 こっそり盗み見たつもりだったが、視線に気付いたエルヴィスが小さく笑う。
 アイラは慌てて視線を逸らした。


 雑談を続けていると、研究室へ着いたようだ。

 いくつもある研究室の中から、スタンリーは精鋭たちが多く集まる研究室を紹介すると言ってくれた。
 扉に手を掛けたスタンリーが、ふと思い出したようにリアムを振り返る。


「……リアムくん、そうだ、この先には…」

「……ああ、もしかして兄がいる研究室ですか?」


 リアムがそう訊くと、スタンリーが困ったように頷いた。
 そのやり取りを見て、アイラは不思議に思う。

 魔力があり、魔術具開発局で働く三人の兄と、魔力がほとんど無く、騎士となった一人の弟。


 ―――兄弟関係をリアムから詳しく聞いたことはないけれど…もしかして、仲良くはないのかしら。
 仲が良ければ、スタンリー局長がお兄さんがいる研究室に案内して、申し訳無さそうな顔はしないわよね…?


「別に、兄がいようがいまいが構いません。僕たちは、仕事でここに来ていますので」


 リアムが表情一つ変えずに言うと、スタンリーは少しホッとしたようだ。


「エルヴィス団長、中の者には事前に知らせてありますので、好きに見学と、質問していただいて大丈夫ですので!最初にご紹介だけさせていただきますね!」

「ああ、分かった」

「では、ご案内しますね!」


 スタンリーが扉を開き、エルヴィスを先頭にアイラたちは研究室に入った。

 まず驚いたのは、天井の高さだ。二階分の高さがある気がする。
 研究室もじゅうぶんな広さがあった。大きな研究机があり、白衣を着た局員がそれぞれ立って魔術具の研究や開発をしていた。椅子はあるようだが、座っている人は僅かしかいない。


 そこから離れた壁際に、透明なガラスのようなもので区切られた空間がいくつもあった。
 そこに入っている局員が、魔術具を使用しているのが見える。自分が開発した魔術具の効果を試しているのだろう。


 アイラは大きく口を開けながら、きょろきょろと研究室内を見てしまう。
 そんなアイラをリアムが小突く。


「……ちょっと、アホっぽい顔しないでよ。当初の目的忘れてないよね?」

「わ、忘れてないわ。……私、アホっぽい?」


 思わず問い掛けると、エルヴィスがフッと笑ったのが分かった。


「親しみやすい顔の方が、局員が打ち解けて話してくれるんじゃないか?」

「……団長、それはやはり、アホっぽいと言っていますか?」


 じと、と睨んだアイラに、エルヴィスは楽しそうに笑うだけだった。
 少しだけ、アイラのエルヴィスへの緊張が和らぐ。

 その間に、スタンリーが研究机から何かの魔術具を手に取った。
 そこに魔力を込めると、その魔術具に向かって口を開く。


「皆さん、注目してくださーい!」


 スタンリーの声が、研究室内に大きく響いた。拡声器の効果がある魔術具のようだ。
 局員が次々とその声に反応し、アイラたちに視線が集まる。


「事前に話していたように、騎士団から三名の騎士さまが見学にいらっしゃいました!エルヴィス団長、アイラさん、リアムくんです!皆さん忙しいとは思いますが、ぜひ協力してくださいね!」


 リアムの名前が出た途端、また局員が反応を示した。ヒソヒソと話し声が聞こえたが、先ほど玄関ホールで聞いたものと内容は変わらない。

 魔力がない、出来損ない、仕方なく騎士になった。そんな言葉が断片的に耳に届き、アイラはしかめっ面になってしまう。


 そのときだった。


「―――リアム?どうしてお前が?」


 眉を寄せ、明らかに不機嫌そうに顔を歪めながら、一人の男性が近付いて来た。
 リアムは涼しい顔でエルヴィスを見る。


「団長、こちら二番目の兄のドルフです。兄さん、こちらはエルヴィス騎士団長」

「……エルヴィス・ヴァロアだ。今日はよろしく頼む」

「はあ……どうも」


 エルヴィスをどこか胡散臭そうに見ている男性が、リアムの二番目の兄らしい。

 リアムはふわふわとした金髪に水色の瞳だが、ドルフは茶髪に灰色の瞳で、よく見る色だ。
 可愛らしい顔立ちのリアムに対し、ドルフは精悍な顔立ちをしている。


 リアムが今度はアイラを見た。どうやら、アイラも紹介してもらえるらしい。


「兄さん、こちらは騎士団の同期の…」

「初めまして。アイ……」

「て、天使!?」


 名乗ろうとしたアイラを遮り、ドルフが声高に叫んだ。
 また二つ名か、とうんざりしてしまいそうになったアイラを見て、何故だかドルフが顔を真っ赤にさせて震えている。


「……?あの、大丈…、」

「おおお俺と、結婚してください!!」


 突然の求婚と共に、目の前で頭を下げられたアイラは、「……へっ?」と間抜けな声を漏らすのだった。

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