ボクなんて……

葵セナ

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2 誰からも必要とされない者

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 男の子を置き去りにした冒険者の三人は、森を抜け一番近くの町にある冒険者ギルドに、なんとかたどり着いた。
 自称Bランク手前と言っていた男は、魔族が現れ荷物持ちの奴隷(男の子)を殺されたと報告した。
 ギルドの職員が、その時の状況を聞くと『急に寝込みを襲われて、戦ったが仲間の二人を守る為に、泣く泣く荷物持ちの奴隷を見捨てるしかなかった』と嘘をばかり並べて自分の保身に走った。
 仲間の二人も、その話に合わせて相槌をうつ。
 ギルドはその話を信じ、仲間を守り魔族と戦った勇敢な冒険者だと称え、三人を評価して、ランクを上げることにした(この当時の冒険者ギルドは、真意の程を確めるすべが曖昧で、周囲の人々からよ声を信じ、ランクを上げることがよくあった)
 置き去りにした男の子は、罪人奴隷と登録されていたので、誰も逃げ帰った三人を責めはしなかった。
 それどころか、子供とはいえ罪人奴隷を守ろうとした発言に、聞いていた者達は、自称Bランク手前と言っいる男に好意をもった。

 その頃、魔族に連れて行かれた男の子は、山奥にある洞窟に運ばれていた。
 そこは凶暴なモンスターが多く生息する場所のために、人どころか強い魔力を持つ魔族さえも、滅多に訪れることがない場所だった。
 魔族の男は洞窟の奥に実験場所を作り、新たな悪魔やモンスターを開発していた。
 今まで様々な種族の者を拐い、実験に利用してきていた。
 その中には同族の魔族さえもいたくらいだ。
 実験により造り出された一体の合成モンスター『キマイラ』は、ある地下にあるダンジョンに放たれ、巨大蜘蛛『デーモンスパイダー』はエルフの住む森に、そして人に化けてその者になりきる『ドッペルゲンガー』は、拐って来た者と入れ替えて、街や村に紛れ込ませた。
 地下ダンジョンでは、キマイラに多くの冒険者が殺され、森に放たれたデーモンスパイダーは、エルフが奇しくも撃退したものの、どこへ逃げ去って行ったか、行方は分からないでいた。
 ドッペルゲンガーに関して、街や村の者はまだその事実を知らない。

 そんな魔族の男に連れて来られた男の子は、気絶している間に、体内にある細胞を注入されていた。
 男の子は気を失ったまま苦しみもがいていたが、死ぬことはなかった。
 そして意識が戻ったのは、洞窟に連れて来られてから六日が過ぎた頃だった。

「暗い……死んでも同じなんだ」

「「おや! 目が覚めたのか。まさか生きているとは」」

「ボク、生きてるの……なんで?」

「「それについては、こちらが聞きたい事だ。君はただのヒ弱な人族なのに、どうしてあれを注入されても、その姿のまま生きてるんダ?」」

「注入? ボクに?」

「「言動に変わった様子はないようだナ。やはり注入した細胞が古く腐っていたか? まぁいい、使えなかったというだけダ」」

「ボクいったい……」

「「とりあえず、これでも食べろ。人が作った物ヲ奪ってきたから、食えるだろ」」

「殺さないの?」

「「もう少シ観察したいから生かしておく。ただそれだけダ」」

 魔族の男は奪ってきた食料を、男の子に投げ渡した。
 地面に落ちた1個のパンを拾い、男の子はゆっくりと一口食べた。

「味がしない……(どうでもいいか。どうせすぐに殺されるさ。最後があの連中じゃなかっただけましだ)」


 ≪ 森の中で魔族と会ってから三ヶ月の月日が過ぎた ≫


 男の子を置き去りにした冒険者三人の内、自称Bランクと言っていた男がAランクに、もう一人の槍を使う男と若い女はBランクに昇格していた。
 もちろん実力ではなく、魔族と戦い撃退したと話に尾ひれが付いた事と、そのあと受けた依頼では、偶然が重なる事で評価が上がり、更に有りもしない嘘話を連ねた事により、今のランクを手に入れたのだった。
 そしてAランクルに上がったことで、本当に実力がある冒険者を一人加え、昇格後初の討伐依頼を受けて、とある場所へと向かっていた。
 討伐対象は『ジャイアントボア』という名の、体長3m以上にもなる巨大な猪で、それが十数体の群れで現れたという事だ。
 本来ならば実力に見会わない依頼のはずたが、討伐の経験があると言う新たな仲間の話と、自分は魔族と戦ったAランク冒険者だと見栄を張り、受けて来たのだった。
 そして四人組の冒険者一行は、目的地まで歩いて二日の距離に来ていた。



 魔族に連れて来られてから三ヶ月、謎の細胞を注入された男の子は、まだ生きていた。
 数日置きに男の子の体から血を採取して調べ、または謎の液体を体内に注入したりもしていた。
 しかし男の子に変化は起きず、何も変わらなかった。
 興味を持った魔族の男は、男の子に食事を与え生かし続けた。
 男の子は閉じ込められている訳でもなく、鎖に繋がれてる訳でもないのに、この三ヶ月間逃げようともしなかった。
 そして魔族の男は、何も進展しない男の子を見て興味が失せたのか、一言「「これ以上は無駄か」」と言い、男の子を殺す訳でもなく、別の場所に連れて行き、そこに置き去りにした。
 魔族の男から解放された男の子は、何もせずに、ただその場でじっと座っていた。

「また捨てられて……また置き去り……どうせボクなんか……生きている意味なんて……」

 とある森の奥にある大石(高さ5m以上)の上に置き去りにされた男の子は、じっと座って動かずにいたら、いつの間にか気が遠のき寝てしまった。
 寝むってから三日が過ぎた頃、男の子は不意に目を覚めした。

「人の…声……ボクはまだ死ん……」

 男の子が居る大石から少し離れた森の中で、人の話し声がしていた。

「おい、早く来いよ。この先にまだ誰も入ってない、ダンジョンがあるって情報なんだからよぉ」

「もう帰ろうよ」

「情報にあった道を進んで、森の中をもう五日も歩いて着かないんだから、単なるウワサだったんだよ」

「そうそう、単なるウワサだったんだよ。だからもうギルトに帰って、正規の依頼を受けようよ」

「何を言ってるんだ。あの事件で名を上げたパーティーも、この先にあるダンジョンに向かってるって情報を得たから、ここまで来たんだろ。だから確実にお宝があるんだよ!」

「分かっているが疲れた状態で行っても、先には進めないだろ。目的のダンジョンに入る前には、ゆっくりと休憩しないと」

「そうだよ。失敗したら終わりなんだから、疲れたら休憩は必要だろ」

「ああ、分かったって!」

 どこかの町から来た四人の冒険者は、男の子が居る大石で休憩に入った。

「ダン…ジョン?」

 男の子が辺りを見渡すと、少し離れた岩山に、草木に隠れた洞窟らきし穴が少し見えていた。
 男の子が下に広がる森を眺めていると、自分が座る大石のすぐ近くを、四人の冒険者が話しながら歩いていた。

「なぁ、この大きな石の上から探してみようぜ」

「えー誰が登るのさ」

「登る必要ないよ。ほら、あそこに岩山が見えるからさ、登って確かめるならそっちにしよう」

「なら早く行こう。薄暗い森の中を抜けられるなら、なんでもいいから」

 四人の冒険者は、足早に奥に見えた岩山に向かって行った。
 大石の上に登って来られ、面倒な事にならなかったので良かったと思った男の子は、またもや意識が遠のき、そのまま眠りについた。
 男の子が眠りについて二日後、空は曇り風が強まりまってきた頃、新たな四人の冒険者が大石に近付いていた。
 男の子は目を覚まさずにいると、一人の冒険者が大石に登ろうとしていた。

「なんでオレが、こんなデカイ石に登って確かめなきゃならねぇんだよ」

「知らないわよ。あんたがジャイアンボアを討伐に行く前に、新しいダンジョンを探すって来たんだから、自分で動きなさいよ」

「だってよ、何時何処に出て来るか分からねぇジャイアンボアより、ダンジョンでお宝探した方が良いだろ。討伐なんか後で良いんだよ」

「分かったから、早く目的の場所を確認してよ」

「分かって…ん? なんだアイツ?」

 大石に登った冒険者が、男の子に気付き近付く。
 
「おいガキ、こんな所で何やってんだ? とりあえず邪魔だからどけ!」

「……」

「聞いてんのか!」

「ちょっと、何騒いでるのよ?」

「このデカイ石の上に、汚ねぇガキがいんだよ。オラどけガキ!」

 大石に登ってきた冒険者の男が、男の子を蹴る。
 すると座っていた男の子が倒れて、ゆっくりと目を開けた。
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