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五章 テクサイス帝国番外編 3.5 魔族領一人旅

760 ハエナワ村の島から次の島へ

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 調査を始めてから一時間以上経過したところで、水平線の方が白むようになってきたので、二艘の船が置いてある海辺に戻る。
 焚き火に当たりながら魔力操作をして、村に行くまでの時間を潰す。
 日が昇り二時間程したところで、昨日ノットと残った村人二人が、アマ村長に頼まれたとカズを呼びにやって来た。
 カズは焚き火に土を掛けて消し、呼びに来た三人と村に向かう。
 村に着くまでの間にもう一度と、昨日ノットと残った村人二人が、カズにお礼の言葉を伝えてきた。
 昨日村長宅で集まった際の解散時に、一通りお礼を言われたので改めて言われると、夜明け前の調査をやって良かったと感じた。

 村に入り村人達がカズに気が付くと、笑みを浮かべながら会釈してきた。
 漁に出た村人達からビッグマウス・シャークが討伐されたのを聞いたのだろう。
 カズも軽く会釈を返しながら村内を移動して村長宅へと来た。
 呼びに来た村人二人は自宅へと戻り、カズはノットとアマ村長の部屋に。
 今回はアマ村長の隣に座り、ノットも同席する事になった。

「良く眠れた?」

「昨日の朝が早かったので、ぐっすりと(起きたのは、昨日と同じ夜明け前だけど)」

「後始末までしてくれたんでしょ。ありがとう。朝食は?」

「食べました(軽くだから、小腹が空いてきたけど)」

「そう。先ずは、改めてお礼を言わせて。村の危機を救ってくれてありがとう」

 アマ村長はお礼の言葉を言うと、深く頭を下げた。
 同時に隣りに居るノットも深々と頭を下げた。

「昨日、みなさんからもお礼を言われましたし、もう十分ですよ(よそ者を毛嫌いしてたのに、そこまで感謝されると、なんだかこそばゆい)」

 感謝の言葉を述べたアマ村長は、手作りの封筒をカズの前に。

「これは約束の物よ」

「傭兵組合の紹介状ですか?」

「ええ。ワタシの名前は、それなりに知られてる。なんて言い方をしたけど、海に近い街の傭兵組合だけなのよ。片田舎だけど、一応所属していた傭兵団の土地では、名のある領主を護衛した事もあるのよ」

「そうなんですか(問題のある傭兵団を仕切っていたなんて言うから、少しおかしいと思ったんだよなぁ)」

「だから傭兵組合に行く場合は、海に近い街を選んで。大陸に向かって島を順に行けば、ワタシを知ってる傭兵組合に着くと思うけど。引退してから三、四年くらいは経つけど、この紹介状は役に立つはずよ」

「海に近い街ですね。わかりました(傭兵組合の後ろ盾は期待できそうにないかも)」

 カズはアマ村長から傭兵組合の紹介状を受け取ると、ふところの内ポケットに入れる振りをして【アイテムボックス】にしまう。

「カズさんを隣の島まで送ってあげたいのだけど、破損した船も直さなければならないし、村人全員に行き渡る魚を捕らなければならないから…」

「村の事情はわかってるので、そこまでしてもらわなくても大丈夫です(さて、どうやって海を渡ると伝えたものか……)」

「ビッグマウスが現れてから使わなくなった小船が、あと四艘あるのだけど、それを一艘差し上げるから使って」

「いいんですか?」

「リールを助けてこの島に着いた時に、カズさんの船は沈んでしまったんでしょ。小船で隣の島まで行くのはかなり大変だけど、カズさんなら問題なさそうだし、この程度しかお礼ができないのよ」

「そういう事なら、ありがたく使わせてもらいます(そういえば、そう話してあった……け? まぁ、いいや)」

「小船の置いてある場所へは、リールに案内させるわ。カズさんに謝りたいって言ってたから。村の入口で待っててもらえる」

「わかりました。紹介状ありがとうごさいました」

「お礼を言うのはこちらだよ。ありがとう。ほら、あんたも!」

「漁の時は悪かった。ビッグマウスから助けてくれて、ありがとよ」

 ノットは照れくさそうに、ビッグマウス・シャークから助けてくれた事を感謝をする。

「こんな所まで、もう来ないと思うけど。もし近くまで来る事があったら、遠慮せず寄ってよ。ありがとうね。海沿いの道を左に行って海に出れば、向かう先の島が見えるから」

「船の置いてある方向をずっとですね」

「たまに見回りに行くくらいだから、草で道がわかりづらいかも知れないけど」

「わかりました」

「ありがとうね。さようなら」

「こちらこそ、紹介状ありがとうごさいました。さようなら。アマ村長、ノットさん」

 アマ村長と旦那のノットに別れの挨拶をしたカズは、村の入口に移動する。
 リールが来ると小船の置いてある場所まで案内してもらう。
 道すがらリールは逃げた事を謝り、助けて食事を与えてくれた事への感謝を伝え、カズはそれを受け取りリールを咎めはしない。
 アマ村長からカズは気にしていないと聞いていたリールだが、カズ本人の口から聞き、緊張していた表情が和らぎ、ほっとしていたのが分かった。

 ハエナワ村から十数分歩き、海から50メートル程離れた林の中に、小船が四艘置かれていた。
 海の方向に真新しい引きずった跡があり、それは一人で小船を海に運んだ時の跡だとリールは言い、駄目にしてしまったと反省する。
 隣の島が見える海辺までは歩いて向かうカズは、小船を一艘選び【アイテムボックス】収納する。
 いきなり小船が消えた事で、リールはもの凄く驚いていた。
 アマ村長は気付いていただろうが、他の村人達はカズが収納魔法を使えるのは知らないのは、リールの反応を見て明らか。
 そもそも手ぶらの状態で、テントや食事を何処から持ってきたのか、疑問に思わなかったのだろうか?
 魔力の扱いが苦手な者達が集まった村なのだから、収納魔法を見たことがないのは、仕方ないのかも知れない。

 海辺沿いの道に戻り、リールと別れてカズは島の西へと歩き出す。
 この島には他に集落はないとの事だったので、海辺沿いの道は段々と雑草が多くなりだし、西の海辺近くになる頃には、聞いていた通り雑草を踏み分けただけの獣道のようになっていた。
 島全体の様子を見回りしてる村人が通った跡なのだろうが、草の伸びようからすると、ビッグマウス・シャークが現れてからは来てないのだろう。

 長い雑草を踏み分けて海に出て【アイテムボックス】から貰った小船を出して浮かべる。
 暫く使っていなかったようだが、浸水する事はなかった。
 飛翔魔法フライで飛んで行った方が早くて楽なのだが、次に行く島の住人に見られたら、会った際に色々と説明が面倒になる。
 小さなオールを使い漕ぎ出す。
 ハエナワ村のある島から離れるにつれて、波が高くなって来た。
 荒れているわけではないが、小さなオールでは潮の流れに負けてあらぬ方向に進んでしまう。

 次の島までは20キロ以上の距離があるので、このままでは日が暮れまでに着けない。
 そこで小船の後方に向けて風属性魔法を使い、それを推進力として航行する。 
 ただし速度を出し過ぎると、小船が大破する可能性が高いので注意する。
 小船の耐久度に気を付けながら、潮の流れと吹く風に負けないように、次の島を目指す。
 時折海面付近を泳いでいる魚が、小船に驚き飛び出してくる事があった。
 小船にぶつかりそうになった魚を二匹捕まえたので、しめてから【アイテムボックス】に入れた。

 出航してから三時間が経過したところで、やっと次の島までオールを使って着く距離まで来た。
 今のところどちらの島からも視線は感じないが、念の為にオールで漕いで行く。
 なんとか暗くなる前には着けそうだが、日はかなり傾いて来ていた。
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