上 下
777 / 784
五章 テクサイス帝国番外編 3.5 魔族領一人旅

755 一ヶ月振りの延縄漁

しおりを挟む
 なんとも八つ当たりノットの掛け声で、二艘の船を持ち上げて海に浮かべ、それぞれ船に乗り込む。
 カズも船を持ち上げて運んだ二号船に乗り、中央に座って沖合へと向かう。
 カズが乗った二号船には予備の玉網と大きな魚を引き上げるための鉤棒ギャフ
 一号船には延縄と餌と、目印となる大きな木製の浮きが四組積んである。
 曇っていて月や星が見えないので、離れて行く島の影を見ながら、ノットが乗る一号船を先頭にカズが乗る二号船が続く。
 二人ずつオールを持ち、タイミングを合わせて同時に漕ぎ、二艘の船はぐんぐん進む。

 陸から離れて十数分移動して最初の延縄を仕掛け、木製の大きな目印を投げて浮かべる。
 それから十数分移動して次の仕掛けと、計四組の延縄を仕掛け終え、近くの陸に移動する。
 仕掛けを上げるのは夜が明けてからだと、それまで陸に上がり休憩。
 一号船が延縄を仕掛けてる間に二号船の村人二人が、仕掛けを上げるまでの休憩に食べる魚を釣っていた。
 沖合に仕掛けた延縄で釣れる魚と比べ、比較できない程小さいが、それでも大きいのは30センチくらいはある。

 陸に上がると釣った魚を捌き、それを焼いて食べ夜明けを待つ。
 カズも一匹貰い食べるも、味付けは無し。
 若干の塩気を感じるも、それは捌いた村人の手に付着した海水、もしくは村人の汗……と考えるのを、すぐに放棄して無心で食べた。(実際は捌いた魚の血合い等を洗い流す際に使った海水)

 最初の延縄を仕掛けてから約二時間半、曇り空が次第に薄明るくなって来ると、焚き火に海水を掛けて消し、村人達はノットの合図で船に乗り込み、仕掛けた延縄を上げに向かう。
 船に乗り込んで十数分、最初に仕掛けた延縄が付いた木製の目印を船に引き上げ、縄を手繰り寄せていく。
 計十五本ある針を引き上げ、一本目二本目三本目と空振り。
 四本目に40センチ程の魚を釣り上げるも、毒魚らしく針を外すと海に投げ返した。
 陸から一番近い仕掛けには、残念な事に釣果は無かった。

「釣れないのは根城にしているビッグマウスの影響なんですか?」

 カズは同じ二号船の乗っている村人に、釣果の成果を聞いた。

「ビッグマウスの影響もあるだろうが、島から近いこの辺りはこんなものだ。針も大きなのを使ってるからな」

「月が見えれば、もう少し仕掛けを入れる場所を選べるんだけど」

「仕方ないさ。月明かりがあると、海中から船がハッキリみえちまう」

「だから曇ってる今日に!」

 曇っていて月明かりの無い海上では視界が悪いのに、何故漁に出たか少し不思議に思っていたカズだったが、同船している村人の話でその理由が分かった。
 もっと早くに延縄を仕掛け、明るく前に上げれば、ビッグマウス・シャークに襲われる可能性は低いのではと考えたが、夜明け前後が一日で一番釣れる時間だと、乗船した村人から聞いた。
 話を聞いてる間に、次の延縄を仕掛けた場所に着き、引き上げが始まる。

 最初の仕掛けと同じ様に、一本目二本目と空振り。
 しかし三本目から八本目まで続けて釣れ、二組目の仕掛けには30センチから50センチ、九匹の釣果があった。
 ビッグマウス・シャークが襲って来る気配は、今のところない。
 三組目の仕掛けを上げるも、二組目より少なく釣果は三匹だけで、しかも30センチと小さい。
 ビッグマウス・シャークに襲われなくとも、この程度の釣果では陸から一日掛けて釣るとの大差ない。

 陸から一番遠い沖合に仕掛けた四組目の延縄に期待を込めて向かう。
 波や潮の流れで仕掛けが移動するのは珍しくないが、約500メートルとかなり移動していた。
 その理由は仕掛けに繋がった木製の目印を見て分かった。
 少しずつ目印に付けた木製の浮きが、現在進行形で移動しているのが見て取れた。
 かなりの大物が仕掛けに掛かってると、村人達は久々の漁に興奮気味。
 釣り針から外れる前に引き上げようと、一号船の村人は興奮するノットの合図で、仕掛けの縄を力一杯引く。
 一本目には80センチ弱、二本目には60センチ強の丸々とした魚が上がった。
 三本目から十本目までは釣果ないが、凄く強い引きは続いてる。
 十一本目を引き上げてる途中で、カズが視界の端に表示させてあるマップにモンスターの反応が現れた。

「それ以上はやめろ! 掛かってるそれは、おそらくビッグマウスだ!」

 一号船に乗る村人達に、カズは仕掛けを上げるなと叫ぶ。

「何言ってやがる。ビッグマウスは仕掛けになんか食いつかね」

 ビッグマウス・シャークが仕掛けの餌に食い付かなくても、仕掛けに掛かった魚に食い付いた可能性があるとは思わないのか。
 ノットは仕掛けの縄を、グイグイ引き寄せる。
 無意識でやっているのか分からないが、魔力が全身を覆い仕掛けを引く際に、腕と踏ん張る足の部分だけ魔力を増大していた。
 他の村人はノット程魔力を扱う事ができないらしく、ほぼ筋力だけで仕掛けを上げていた。

 掛かっているモンスターに引き負けして、引き寄せられなければノットを説得して考え直させられるのだが、聞く耳持たない。
 そして十一本目の針に掛かる魚影が見えてきてしまった。
 強く引いていた仕掛けの縄が急に弛み、魚影が海面に上がって来た。
 針は80センチから1メートルくらいの魚が掛かっており、それを2メートル程のビッグマウス・シャークが、尻尾から頭に掛けてくわえ込んでいた。
 バキバキと魚の頭を砕き、そのまま飲み込むと、海面から飛び上がって一号船に襲い掛かる。

「よくも大物を横取りしやがったな! こちとら腕っぷしが自慢の連中が集まった傭兵団にいたんだ。デカい口の鮫なんて怖くねぇんだ!」

 ノットはそう意気込むと、飛び掛かって来たビッグマウス・シャークの正面を拳で殴り、一号船を守った。

「分かったかカズ! おれにかかればビッグマウスなんて、こんなもんよ!」

「おお! さすがノットだ」

 ノットがビッグマウス・シャークを殴り飛ばした事で、一号船と二号船の村人は歓声を上げた。
 確かに一体二体なら、同じ船に乗っているの村人を守れそうだが、それでは何の解決にもなってない。
 ビッグマウスを追っ払ったのはいいが、大きな獲物を食われては、なんにもならない。
 そもそもビッグマウス・シャークを全てこの海域から追っ払うか、倒してしまわなければ、何時まで経っても大物を釣り上げる事はできない。
 結局最後の仕掛けは、ビッグマウス・シャークが掛かっていた事で、釣果は80センチと60センチの魚が二匹だけで、仕掛けも十一本目から先は切られてしまって無い。

 仕掛けに付いた目印の木製の浮きを上げて、二艘の船を置いていた陸に戻ろうとオールを持った時に、海中からビッグマウス・シャークが複数海面に上がって来た。
 仕掛けに掛かっていた魚に食い付いた、ビッグマウス・シャークを殴り飛ばしたノットが乗る一号船が狙い。
 2メートルから3メートルのビッグマウス・シャーク六体が、一号船の周りをグルグルと泳ぎ様子を伺っていた。
 さっきの勢いは何処へやら、思わぬ数のビッグマウス・シャークに、ノットは黙って一号船に身を屈めて静かになる。
 他の村人も同じ様にして、生唾を飲み込みビッグマウス・シャークの動きに警戒する。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する

昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。 グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。 しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。 田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

処理中です...