人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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五章 テクサイス帝国番外編 3.5 魔族領一人旅

754 問題事の対処法

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 アマ村長が村人と話を終え、カズが待つ自宅に戻ったのは、出掛けてから三十分後。

「という事で、悪いけど村には……」

「大丈夫です。漁に出る場所は、村から続く道の先ですか?」

「海に出たら左に歩いて数分の所よ。船が置いてあるからわかると思うわ」

「わかりました。その近くにテントを張ります。漁に出る時間はいつ頃ですか?」

「村に時計はないのだけど、夜明けの二時間前くらいね」

「夜明け前の二時間ですか。では、そのくらいには起きてるようにします。あ、そうだ。なぜリールは漂流してたんですか?」

「村では十六歳になると、沖まで漁に出ていい事になってるのだけど、リールが十六歳になってすぐにビッグマウスが現れて、漁に出れなくなったの。沖に出るのを楽しみにしていたリールは、二日前の早朝に、小船で沖へ向かったみたい。いないのに気付いて探したのだけど、見つける事ができず心配していたら、今朝戻って来たので驚いたわ」

「そういう事ですか」

「どうして漂流するはめになったか、まだ詳しくは聞いてないけど。生きて戻って来たんで、村人みんな一安心よ。だからリールを助けてくれたカズさんには感謝してるわ。どうやってか知らないけど、怪我も治してくれたんでしょ」

「さすがに見て見ぬふりはできないですし、上陸した途端に死なれたりでもしたらたまりませんから。さて、リールの話も聞けたので、俺はそろそろ海辺に向かいます」

「村に泊めてやれなくて悪いわね」

「それくらい気にしません」

 アマ村長との話を終えたカズは、村を離れて野宿する海の近くに移動する。
 車輪の跡がある村から海への一本道を歩いて行き、海の手前で左右に分かれる道を左に。
 言われた通り数分歩くと、長さ8メートル幅2メートル程の木造船が二艘陸に揚げてあった。
 魔力を使って動かす船かと思っていたが、オールが船内に置いてあったので、人力で漕いでの移動らしい。
 考えてみれば魔力の扱いが苦手な者達が集まった村なのだから、手漕ぎなのは当然といえば当然か。
 釣り上げた魚を乗せる事を考えると、乗船するのは六人から八人だろう。

 翌朝乗船する船を確認し、邪魔にならない場所にテントを張り、昼食を取りながら護衛だというアマ村長の頼み事について考える。
 元傭兵の勘というには急に現れた自分余所者に、漁に出る村人達の生命いのちを預けるとは思えない。
 だったらどうして、そんな事を頼んできたか?

 こちらは現在地と、魔族領に関する情報が欲しい。
 それにあたいするには、村で起きてるビッグマウス・シャーク問題事を解決してもらうのが最適。
 しかしくだんビッグマウス・シャークモンスターを一度追っ払うだけでは、なんの解決にもなってない。
 漁をする近海と沖合いに、ビッグマウス・シャークが寄り付かなる方法、もしくは自分余所者が食われ、それで満足して他の海域に移ってくれたら。
 あわよくば討伐でもしてくれたらと、都合の良い事を考えていたに違いない。

 追っ払うのは難しくないだろうが、またすぐにやって来る事だろう。
 当然村人の代わりに食われるつもりは毛頭ない。
 これからの事を考えると倒してしまった方が、また現れる事を考えても、村の蓄えやビッグマウス・シャークの対策をする時間は十分ある。
 そうすれば魔族領に関する情報を、詳しく教えてくれる事だろう。
 しかしそうなると、アマ村長はどうして元傭兵の自分達でも倒すのが困難なモンスターを、急に現れた余所者の自分に託したのか?
 漂流していたリールを木片から引き上げた時に、実はリールは意識かあり、飛翔魔法フライで飛んでいる所を見られ、それがアマ村長の耳に入り、ただの余所者ではないと交換条件を提示してきたのだろうか?
 などと、これ以上考えを巡らせても仕方ない。
 やる事は決まったので、海の様子を見に行く。

 早朝から変わらず天候は曇ってはいるが、近海は穏やかで凪までではないが波はあまり立ってない。
 流石にビッグマウス・シャークが居るという沖合を見ても、海中を確認する事はできない。
 視界の端に表示してあるマップを正面に移動させ、範囲を半径約5キロにしてモンスターの反応があるかを探る。
 あまりにも深くに潜っていると、マップに反応しない。
 これはリールを助けた時に、スモールマウス・シャークの魚影が見えなくなった少し後、マップから反応が消えた事で確認が取れた。
 海面から精々20メートル位が、マップに反応する範囲になる筈だ。
 ただし一度目視していれば、それ以上深く潜ったとしてもマップに反応し続ける。
 これもリールを助けた時に、スモールマウス・シャークが姿を見せた事で、その一体の居場所は魚影が消えても確認が取れたから。

 暫く沖合を眺めていると、陸から3キロ程の所に、二体のモンスター反応が現れた。
 五分すると更に一体が現れ、数分起きに一体また一体と、最初の二体が現れてから三十分程の間に、八体のモンスター反応があった。
 その後少しずつマップから姿が消失したので、海中深くに潜ったと考えていいだろう。
 反応のあったモンスターが、全てビッグマウ・シャークとは限らないが、これは予想以上に面倒な事を受けてしまった。
 一体二体倒す程度で済む話ではなさそう。
 漁は夜明けの約二時間前だと言っていたので、残りの時間は魔力操作と魔力制御をして、隠蔽せずとも魔力を扱えるように訓練をして身体に教え込む。
 ハエナワ村の近くなので、隠蔽は解除はしない。
 
 朝から一日曇り空だった事で、日が傾くと暗くなるのは早かった。
 海沿いに草木を切って作られた道はあるも、島には街灯のような物はない。
 魔力操作と魔力制御に集中していたら、気付いた頃には真っ暗になってしまっていた。
 幸い暗視のスキルがあるので、困った事にはならなかった。
 テントから出て落ち葉や枯れ枝を集め焚き火をして、夕食はパンとコーンスープで済ませる。

 食べてすぐ寝るのはどうかと思い、焚き火を眺めながら、アレナリアとビワとレラはどうしてるだろうかと想い、ちまちま魔族領の情報を集めて北極か南極を目指すなら、世界を分かつ結界を壊そうかという考えが強く湧き出て来る。
 だがその先どうなるかを考えると……それは最終手段だと自分に言い聞かせた。
 もう寝なければ漁の時間に起きられないので、範囲をハエナワ村に向かう道の辺りまでにして〈アラーム〉を使用して就寝する。
 夕食を済ませてから、一時間以上も経過していた。 


 ◇◆◇◆◇


 ハエナワ村から漁に出る村人が海沿いの道に差し掛かると、使用したアラームの範囲に入った事で目を覚ました。
 起き上がり一つ大きく欠伸あくびをしてテントを出て、火を起こして村人が来るのを待つ。
 ザッザッザッと複数の足音が聞こえ、三つのランタンの明かりが近付いてきた。
 暗視のスキルがあるので、ランタンの明かりがなくとも村人達を認識出来る。
 ランタンで道を照らして先頭を歩いて来ているのは、アマ村長の旦那で元傭兵のノット。

「起きていたのか。寝ていたら叩き起こしてやろうと思ってたんだが」

「ノットさんも行くんですか?」

「当然だ。村で漁をするのは、おれを含めて十八人。今日来たのは、経験の浅い連中を抜いた十二人だ」

 ノットの言うように来ているのは、三十代半ばから四十代後半くらいの、筋肉がガッチリとした体型の男が十二人。

「船は昨日見させてもらいました。俺はどちらに乗れば?」

「右の一号船に乗るのは、おれを入れて七人。延縄を仕掛けて、引き上げるのもする。カズが乗る二号船は漁はせずに、一号船のサポートと周囲の警戒だ」

「わかりました」

「沖に出たら勝手に動くな。指示はおれが出す」

「状況によっては動きます」

「邪魔だけはするなよな」

 女房のアマ村長と二人だけで話した事を、まだノットは怒っている様子だった。
 部屋からノットを追い出したのは、アマ村長なのに。
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