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五章 テクサイス帝国番外編 3.5 魔族領一人旅

746 まだまだ続く無人の土地

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 広大な森とテーブルマウンテンの島から出て着いた先の陸地が、ここまで住み辛いく辺鄙へんぴな場所だとは思わなかった。
 これは人里を見付けるのは、結構大変かも知れない。
 湿地帯にある沼に蟹型のモンスターと、植物系のモンスターが争っているのが見えた。
 こんな場所ではモンスターが捉える獲物が、モンスターになるのだろう。
 それとも獲物ではなく、ただ縄張り争いをしているだけなのだろうか? よく分からない。
 よくよく観察すると、あちらこちらでモンスター同士の争った形跡がある事から、縄張り争いの可能性が高そうだ。
 どちらにしろ、今の自分に取っては、どうでもいい事だが。

 荒野から海沿いを移動し、そこから森沿いに変え、森と川を飛び越えたら昼食にするつもりが、足場の悪い湿地帯に入ってしまった。
 湿地帯を抜けて地盤がしっかりしていれば、そこで休憩を取ろうと思う。
 しかし中々休憩を取れそうな場所が見えない。
 通って来た荒野と森を合わせたくらいの広さがありそうで、湿地帯を抜けるのに思っていたよりも時間が掛かりそうなので、飛ぶ速度を上げる。
 視界の端に表示させているマップの範囲を広げて、生物の反応を確認したが、変わらず獣とモンスターの反応だけしかない。

 空腹具合から昼はとうに過ぎ、貴族だったたらアフタヌーンティーとかいう、お茶の時間だろう。
 そんな事を考えていたら、湿地帯の終わりが見えて来た。
 次はどんな険しい所だろうと思っていたら、地面が段々と乾き出して湿地帯を抜けた先は、何の変哲もない平地だった。
 食事をするには中途半端な時間なので、適当な所に降り、パンの一つでも食べて夕食まで持たせる。
 上空から見た感じだと、飲水を確保出来れば穏やかで住心地は良さそう。
 気を付けるのは湿地帯に近付かないようにするくらい。
 だというのに、目視で分かる範囲に建物は無い。
 今夜の野宿はこの平地になるので、良さそうな場所を探しながら先へと進む。

 雑草や雑木が所々に生えているが、足場はしっかりとして歩きやすい。
 獣の反応はあるが小型のネズミが生息する程度で、これといって危険な場所ではなさそう。
 これならば小さな集落があっても良さそうだと、魔族との遭遇を期待する。
 平地に降りてから三時間程移動して、適当な場所にテントを張って、この日の移動はここまでにする。
 夕食は作り置きしてあるビワの手料理を食べる。
 これからの事を考えながらテント内で横になり、眠気が出てきたら〈アラーム〉を使用して就寝する。
 この日もこれといった成果はなかった。


 ◇◆◇◆◇


 空は晴れて風は微風と陽気の良い日なのだが、寝起きは少し悪い。
 深夜にアラームが起動して三度起こされた。
 平地に生息する小型のネズミが、テントに近付いた事で。
 一度目と二度目は物音を立てて追っ払ったが、三度目となると同じ事をしてもまたやって来ると考えて、アラームの範囲の外くらいまで《威圧》を放ち追っ払った。
 その御蔭で四度目はなかったが、三度目に起きた後、中々寝付けなかったのが寝起きの悪い原因。

 早く帝都に戻りたいが、実際どれくらい掛かるか分からない。
 ビワが作ってくれた料理はまだまだあるが、毎食それを食べてしまっては、南北にあるという結界を抜ける場所に着く前に無くなってしまう。
 なので朝食は何時作ったか覚えてない、自分で作ったタマゴサンドを【アイテムボックス】から出し、それを食べて済ませる。
 周辺の環境から住人と接触する可能性が出てきたので、マップだけではなく魔力感知と気配感知も働かせて、先に見付けるようにする。

 移動は徒歩だと距離が稼げないので、昨日と同じ様に〈身体強化〉を使い走って移動する。
 走るといっても足を素早く動かしているわけではなく、速度が出ると一歩で十数メートルは移動する。
 はたから見ると飛び跳ねてるのが、縦方向ではなく横方向にと不思議に感じるだろう。
 魔導列車や大型三輪バイクトライクまでとはいかないが、馬車よりは早く時速にして50キロ近くは出ている。
 荒野よりは平地の方が走りやすく、それだけの速度が出た。

 休憩を取りつつ昼まで移動したが、人っ子一人見付ける事ができず、建物どころかこの平地に足を踏み入れた形跡すら見付からない。
 休憩と軽食を取り再度移動していると、遠くに平地の終わりが見えた。
 次の地形は山のようだ。
 移動して近付いて行くと、標高500メートルから1300メートルはありそうな山々が連なっていた。
 一体何時になったら、この幾つもの無人地帯を抜けられるのだろうか? と考え始めた。

 山には獣とモンスターの反応が今でよりも多く、このまま山に入って先に進むには時間が遅い。
 だからとテントを張って休むにはかなり早いので、試しに少しだけ手前の低い山に入って獣とモンスターの存在目視で確かめることにした。
 隠蔽と隠密を解除して、あえてこちらから見付かり、襲って来るか逃げて行くか確かめる。

 最初の出て来たのは中型犬くらいの大きさの熊。
 立ち止まりこちらを見ているので《分析》を使い調べる。
 子熊かと思ったら違い、成体のスモールベアだと分かった。
 最大でも体長1メートル程にしかならず、性格は比較的大人しい。
 ニ、三分すると方向を変え、山の奥に消えて行った。

 反応のあった獣の一種確認したので、次はモンスターを確かめに低い山の中腹に移動する。
 枝が混み合ってる事で地表に届く日の光が僅かで、草はあまり生えてはない。
 薄暗いが思っていたよりも歩きやすい。
 山中を移動してマップに表示されているモンスターに近付いて行くと、ガウガウとスモールベアの鳴き声が聞こえてきた。
 少し離れた所から様子を伺うと、蜘蛛型モンスターがスモールベアを襲っていた。
 蜘蛛型モンスターの糸にでも触れて、絡め取られたのかと思ったが、その様な糸は周囲になかった。
 《隠蔽》と《隠密》を再度使用する。
 これで蜘蛛型モンスターの目前にでも姿を現さなければ気付かれる事はない。
 そこでもう少し近付いて、全体が見える位置に移動して《分析》する。
 
 蜘蛛型モンスターの名前はフォール・スパイダー。
 大きさは1メートル強、脚を伸ばせば3メートルにはなる。
 その名前と蜘蛛の巣を張らずに直接獲物を捕まえることから、大きな足高蜘蛛と考えていいだろう。
 そのフォール・スパイダーが二本の脚で捉えているのが、30センチ程のスモールベアの子供。
 そして近くには60センチくらいの親のスモールベアが「ガウガウ!」と大きく鳴いてフォール・スパイダーを牽制していた。
 フォール・スパイダーに捕まった子供のスモールベアを助けようと、親のスモールベアが何度も立ち向かったのだと、負っている傷から察する。

 フォール・スパイダーに危険度ランクを付けられてるとしたら、Dランクといったところだろう。
 新人冒険者がパーティーを組んで、一年もすれば倒せるレベル程度なので、それ程強いモンスターではない。
 だが小さな体格のスモールベアでは、五匹以上いなければ勝ち目はない。
 子供のスモールベアが殺され食べられたとしても、弱肉強食の自然界では仕方のない事。
 かわいそうだからと助けても、怪我を負ったスモールベアは、他のフォール・スパイダーにとって良い獲物になる事だろう。
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