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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

744 不毛で不明な地 11 月の裏側からの脱出

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 魔力の制御を反復しながら移動して、出した結論はこのままでいる。
 バレた時の事を考えると、嘘で隠し通すよりは、嫌われても何時も通りのままでいた方が良いと考えた。
 姿を隠すなり変えるなりするなら、それからでもいいだろうと。
 人族が現れたと噂が立てば、見付けて捉えようとするのか、発見したその場で殺そうとするか。
 どの様な動きをするかで、世界を分かつ結界を、南北のどちらから通って抜けるかが変わってくる。
 北半球で騒ぎになれば南極に向かい、南半球でお尋ね者になれば北極に、と。
 何処に転移するかで変わってくる。

 友好的なのか、それとも好戦的なのか。
 どちらでもなく中立だと言いながら、友好的に接してくる相手には、種族関係なく一番気を付けなければならない。
 初めての土地では当然の注意事項。
 管理神チャラ神は通行証を手に入れろと言ったが、世界が結界で隔てられて、世界の真実を知る者が数えるほどしかいないのであれば、正規の手段で結界を抜けるのはほぼ無理だろう。

 考え事をしながら魔力の制御を反復している内に、隕石と巨大な生物が鎮座していたクレーターから、言われた距離の六里は移動して来た筈だ。
 魔力制御の訓練を一時中断して、聞いた裂け目を探す。
 とはいうものの、周囲は変わらず閑散として、小石が無数に転がってる程度の地面には、裂け目らしきものはない。
 山や大岩でも近くにあれば、そこを探すところだが一切ない。
 場所が間違ってる可能性があるので、裂け目を探しながら、巨大な生物コラプサーから教えてもらった、近くだという結界に向かう。

 魔力制御を中断して約一時間、裂け目を探し続けていると、ゴンッ! 結界に頭部が接触した。
 思っていたよりも早く結界が張られてる場所まで来てしまった。
 透明な結界を触ったり軽く叩いたりした感じは、分厚いガラス。
 手を触れて《魔力感知》をしたところ、ドーム状かと思ったら地面の下まで続いており、分かる範囲から予想すると、結界は卵のような楕円形をしていると考えられた。
 とてつもなく大きいが、世界を二つに分ける結界も張ったのだから、一応神と呼ばれる存在なら、それくらい出来てもおかしくはないだろう。
 ただどうやって地上に居たという巨大な生物コラプサーを、この月の裏側に連れて来て、大人しく結界の中に入ってもらったのか気になる。

 色々と気になることは多いが、ここでの時間の進み方が遅いとなると、悠長に疑問を解決してる暇などない。
 早く裂け目とやらを見付けなければと、少し位置をずらして、来た方向へと歩きだす。
 見落としが無かったか、入念に地面を観察して行くも、特に変わった所はない。
 クレーターから六里くらいの場所まであと少しの所まで戻ってしまい、立ち止まり場所が違うのではないかと、下を向き続けていた顔を上げて首を回してほぐす。
 上下左右へと動かしていた視線で見えた景色に、少し違和感を覚えた。

 何かが変だと感じて進行方向に目を向けるも、閑散とした荒野である事に変わりない。
 しかし胸の位置くらいの高さの景色が、少しズレているように見えた。
 背景がほぼ灰色の荒野なので、注意深く観察しなければ分かり辛いが、一度認識するとズレているのが、少し移動しても分かる。
 もしやとその場所に移動してみると、薄っすらと空間に歪みがあった。
 通った所なのに何故さっきは気付かなかったのだろうかと、空間に歪みがある場所を中心に、視点を変えて見て分かった。
 結界のある方から来れば微かに見えるが、結界の方に向かって行くと、そこには何もない。
 一定の角度からしか見えないようになっていた。
 
 この空間の歪みが、聞いた裂け目ではなく、断裂していただけだとしたら、触った途端に引き裂かれてしまうだろう。
 他に手掛かりがない現状では、これが地上に戻るために必要な裂け目だと考えるしかない。
 念の為に魔力を纏った右手で、空間の歪みの一部、僅かにズレている所を触れてみる事にする。
 指先が引き裂かれて赤い血が飛び出すか?
 空間の歪みが拡大してズレも大きくなるか? 
 何も起きず空間の歪みが消えるか?
 躊躇ってる時間はないので、覚悟を決めて僅かにズレている所に触れる。

 指先が引き裂かれる事はなく、僅かにズレた所が消えて、空間の歪みが少し大きくなり、空中にポッカリと拳大の穴が空き、二つに折り畳まれた紙がストンと落ちた。
 それを拾い開くと、文字が書かれていた。

 文面の始まりはこう『おめでとう。よく見つけたね。難しかったでしょ』イラッとして、折り目の付いた紙を持った手に力が入りシワが出来る。
 破り捨てたいが、ぐっと堪えて続きを読む。『さすがに大事な手紙だから、破り捨てたりはしないで、最後まで読んでよ』の文で、ひたいに血管が浮き出そうになるくらい頭に血が上る。
 手紙を書いたのが管理神チャラ神だと分かってるのだから、冷静にならねばと気持ちを落ち着けてから、最後まで手紙を読みきることにする。



ーーーーーーーーーー

 おめでとう、よく見つけたね。どのくらい時間かかったかな? 難しかったでしょ。
 さすがに大事な手紙だから、破り捨てたりしないで、最後まで読んでよ。でないと地上に戻れなくなるからね。
 長々と書くとカズ君の機嫌が悪くなりそうだから、地上に戻る方法を教えるよ。
 この手紙があった空間に、地上への転移先を記録してあるから、そこでカズ君の転移魔法を使えば繋がるよ。
 そこからだと魔力消滅はかなり多いけど、今のカズ君には関係ないかな。
 くれぐれも魔力制御が出来てから転移してね。魔力をダダ漏れにしたままだと、スゴ~くまずい事になるよ。
 転移先は魔族領の何処かだから、運悪く街中とかに転移したら、なんとか誤魔化してそこから早く離れる方が身のためだよ。
 伝えておくのは、こんなところかな。
 さすがこういった手段でも、もう接触する事はないと思うでょ。僕もだけと、カズ君だからわからないなぁ。(笑)
 じゃあ、そゆことでね。




 あ! その穴一度開くと、五分もしない内に閉じちゃうから。

ーーーーーーーーーー



 この時すでに三分が経過しており、空中にある拳大の穴が、二回り程小さくなっていた。

「またやりやがったな!」

 持っていた手紙を〈ファイヤーボール〉で燃やして、そのまま結界の方に右手を向ける。
 結界に小さな火の玉を当てた程度では、壊れたり亀裂が入ったりはしないだろうが、憂さ晴らしと管理神チャラ神への嫌がらせとして、細かな傷くらいは入れと思いなが放った。
 火の玉が着弾する頃には、空中の穴が消えてしまうので、見る事はできない。
 魔力制御は完全ではないが、迷ってる時間はないので、急いで手を突っ込み空間転移魔法ゲートを唱える。

 魔力がごっそり持っていかれると、空中の穴が拡大して、屈めばなんとかカズが通れる位の大きさになった。
 中は真っ暗で何も見えないが、行くしか選択肢はないので、拡大した穴に意を決して飛び込む。
 浮いているわけでも、飛んているわけでもない。
 足場は無く《暗視》スキルも役に立たないた。
 ただ落ち続けているのは感覚で分かり〈飛翔魔法フライ〉を使用してみるも、落下は止まらない。
 何時もの空間転移魔法ゲートならすぐに出られるのだが、一向にその様子はない。
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