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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

739 不毛で不明な地 6 突然変異の奇病

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 死んだ筈の者の異変に気付いてから数時間が経過すると、膨大に膨れ上がった魔力を狙い、巨大な生物を恐れる事はなく、数十もの異形な生物が集まって来た。
 どうしてそうなったのか気になり、倒れてる者をこのまま食われるわけにはいかないと、集まって来ている生物を、巨大な生物が次々と吹き飛ばしたり地に叩き付けたりしていく。

「『我にやらせていつまで寝ている。ぬし起きろ。起きんか!』」

 巨大な生物は倒れているカズを起こそうと声を掛ける。
 一度で起きる事はなく、二度目は怒声を飛ばす。
 すると足が微かに動き、ゆっくりと体を起こして隕石を背もたれにして座る。

「なんで生きてんだ……? 一度目が覚めたら、頭が痛くなって、そしたら誰かに呼ばれたような……」

「『遅いぞ、ぬし』」

「『呼んだのあんたか。なんで俺は生きてるんだ?』」

「『それはこちらが聞くことだ。それよりも、ぬしを食いに集まって来たぞ』」

「『今になって俺を、なんでだ?』」

「『未だ増え続けている魔力のせいだ』」

「『魔力? ……なんだこれ!』」

 何故生きているのか、そればかり気になって、異常なまでにダダ漏れている魔力に、カズは言われるまで気付かなかった。

「『あとはぬしがなんとかしろ』」

 巨大な生物は面倒だと、向かって来ている残りの十数の生物を、カズ自身にやらせる。

「『守ってくれたのはありがたいが、目覚めて急にそれはないだろ』」

 病み上がりどころか、一度死んで生き返ったばかりのカズに、未知の生物を討伐しろと。
 近くに居た生物は粗方片付けた巨大な生物は、隕石横の定位に戻り何もしようとしない。

「『よくわからないが、向かって来てるあれを倒したら、約束通り協力してもらうからな!』」

 十数メートル先しか見えなかったのに、今は数百メートル先もハッキリと分かる。
 カズは立ち上がり地上からやって来る生物と、空を飛んで来る生物に狙いを定めライトニングボルトを唱える。
 魔力はダダ漏れるくらい十分あるのにも関わらず、何も起こらない。
 ならばと初級の攻撃魔法ファイヤーボール、ウォーターボール、エアーショット、ストーンブレッドを試す。
 どの属性の攻撃魔法も使えなかった。

 迫って来る生物とはまだ距離があったので、自身のステータスを確認してみる事にした。
 表示させたステータスは、とてもさっぱりとしていた。
 覚えていた攻撃魔法やスキルが表示されてない。
 幸いアイテムボックスや異世界言語に、万物ノ目や暗視のなどといったスキルはそのままあった。
 死んで使用ができなくなったのなら、また覚えれば良いと、ダメ元で【アイテムボックス】から知性ある本インテリジェンス・ブックを取り出してみる。

 前回はダメだったが、今回は取りだす事が出来た。
 早速攻撃魔法が記載されているページを開こうとしたら、ひとりでに表紙がめくれ、何も書かれてないその|《ページ》に『失われた知識を与える』と文字が浮かび上がった。
 どっと頭に数多の魔法やスキル等が一気に流れ込み、立ち眩みを起こして隕石に手をつく。
 流れ込んで来た知識が収まると、スウッと知性ある本インテリジェンス・ブックが手元から消失した。

「消えた」

「『ぬし、何をしている。すぐそこまで来ているぞ』」

 巨大な生物の言葉で我に返りる。
 知性ある本インテリジェンス・ブックが消失した事より、今は迫る異形な生物を対処する方が先決。
 迫り来る十数の生物に対して、スキル《マルチプル・ロックオン》を使用。
 スキルが発動したのを確認し、ダダ漏れてしてる魔力を使い、もう一度〈ライトニングボルト〉を唱える。
 ドッグォーン! 今まで聞いた事ない程の轟音と共に、稲妻の如き極太の青白い雷撃が十数の異形な生物目掛け、空気を切り裂き瞬く間に眼前から消え去る。

 避ける素振りもないまま、迫って来ていた十数の異形な生物に直撃する。
 地上を進んでいたの異形な生物はバタリと倒れ、同じく空を飛んでいた異形な生物は、ドスンドスンと鈍い音をたてて地上に落ちる。
 ライトニングボルトの直撃を受けた異形な生物は、どれもピクリとも動かない。
 ダダ漏れている魔力を使い放った雷撃が、予想以上の威力と轟音で放ったカズ自身驚いた。

「びっくりした!」

「『なかなかやりおる』」

「『今の音で、また集まって来たりするか?』」

「『集まって来るとしたら、音よりもぬしが垂れ流してる魔力だ』」

「『そう言われても…』(勝手に増え続けて、抑えられないだよ)」

 ダダ漏れている魔力を制御できない現状では、気休め程度かも知れないが《隠蔽》を使い最大の『5』まで上げた。

「『これでどうだ?』」

「『近くに来なければわからぬだろ』」

「『そうか。それで約束はまってくれるんだよな』」

「『いいだろう。死の淵より戻ったぬし。言ってみろ』」

 巨大な生物に撲滅の因子の呪いについて、知ってる事を全て教えてくれとカズは頼んだ。
 病を癒す薬を投与された者の体内で突然変異したのが、撲滅の因子の元だと巨大な生物は言う。
 胎児にさかのぼるという奇病を発した者を治療する薬を作ると共に、その奇病に手を加え、兵器として利用した。
 打ち込まれた者の魔力を消費し、胎児以前まで戻すという代物だったが、完成には至らず実際に使用されたのは数える程。
 それも毎回違う症状が現れた。

 一部分だけが退化していき、その部分を切除して数年生きながらえた者もいれば、体内だけが退化して一日と生きられなかった者。
 一定して同じ症状は、レベルと魔力が減少していく。
 最終的に病で死んだのか、レベルが0になって死んだのかは定かではない。
 毎回症状が違う事で原因が不明となり、治す薬は存在せず呪いと呼ばれるようになった。
 この撲滅の因子を作り上げたのは、魔族だと言われているが、噂の域を出ない。
 ただ撲滅の因子は存在し、実際に使われている。

「『やっぱり知ってたじゃないか』」

「『解き方は知らぬと言ったであろ。それに話した内容が全て正しいとは言い切れない』」

「『病だか呪いだがの解き方がわからないのに、なんで俺は生きてるんだ?』」

「『知らぬ。それにそれは我が聞きたいことだ』」

「『そんなこと言われてもなぁ……』」

 結局のところ、なんで生き返ったのか不明だった。

「『撲滅の因子を病として、治す方法があるとすれば、ぬしだ』」

「『俺?』」

「『ぬしは撲滅の因子の呪いを受け、それを解く事なく完遂した。のにこうして生きている。わかるであろう』」

「『俺の中に……!』」

 奇しくも撲滅の因子を使われて、こうして生きている事で、体内に免疫が出来ている可能性がある。
 確かにその可能性はあるが、血液の中に抗体があり、それを取り出して特効薬を作り出せる技術が、この世界にあるとは思えない。
 魔法やスキルを使用して薬を作り出せるとしても、魔力に反応して呪いと言われた病が活動する次点で、それは薬ではない。
 例え魔法やスキルを使わずに出来上がった代物が、鑑定で特効薬だと表示されたとしても、撲滅の因子を打ち込まれた者に投与して、効果があるかを調べなければ使えない。
 投与した途端魔力に反応して、心身に影響が出たら、それは変異した新たな撲滅の因子、呪い。
 結局のところ撲滅の因子は不治の病であり、呪いであることに変わりはない。
 ただ呪術的なものではなく、突然変異の病気から作られた病と分かっただけで、研究の余地はある。
 今は不治の病でも、数十年後には不治の病ではなくなってる可能性は大いにあり、カズが受けた様に呪いとなっても、解呪する方法も見付かる事だろう。
 あくまでこれはカズに免疫があり、それを取り出すことが出来たらのはなしだ。
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