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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

736 義手

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 ビワは食器を片付けると、次にアレナリアとレラの衣服を洗濯して干し、その後は日課の掃除に取り掛かる。
 アレナリアとレラはリビングルームでのんびりと過ごす。
 自宅で仕事をするメリアスと、それを手伝うクルエルが仕事を終えてリビングルームに来ると、かねてよりレラがどうやって街に入って来ているか気になり尋ねた。
 するとレラは大きさは憧れか欲望かアイテムを使い、アレナリアと同じ位の大きさになり、メリアスとクルエルを驚かせた。

 レラは長時間の練習がてら、そのままの大きさを維持する。
 話題をメリアスの恋愛話に変えて、流れでまた少々下品な内容になる。
 その頃になると、レラは疲れたと元の大きさに戻る。
 もうアレナリアと同じ位の大きさなら、余裕で一時間以上は継続出来るようになった。
 調子に乗ってレオラに見せた時の様に、魔力を消費し過ぎての失敗はしないように気を付けている。

 話がおかしな方向になり、洗濯と掃除を終えてリビングルームに来ていたビワは、その手の話が苦手だと一人夕食の準備をしにキッチンへと移る。
 ビワが抜けて四人になってからは、夕食の良い匂いが香って来るまで、話題を変えては脱線してを繰り返し、ある意味盛り上がっていた。
 ビワが夕食が出来たとリビングルームに入って来ると、アレナリアはを思い浮かべているのか、口元を緩め上の空でいた。
 レラは面白い事でもあったのか、お腹を抱えて笑っていた。
 メリアスは顔を赤くして怒り気味で、クルエルはそれよりもっと顔を赤くして、ぽか~んと口を開けて思考が停止していた。
 理由の分からない状況から、四人が正常に戻るまで三十分は要して、夕食がそれだけ遅れる事になった。
 この夜はクルエルと一緒の部屋にしてはならないと、ビワはアレナリアとレラを連れて三人で川の字になり寝る。
 旅をしていた頃を思い出すと共に、馬車の外で見張りをしていたカズの姿を思い浮かべていた。


 ◇◆◇◆◇


 アレナリアとレラが来る時は、ビワが一人思い詰める様子を見せる事は少なくなってきたていた。
 朝食を済ませると、ビワとクルエルは仕事をしているパフの手芸店に向かい、アレナリアとレラはバイアスティッチの街を出てフジと合流し、帝都南部のキビ村近くの林に戻る。

 二人が次に来るまで、ビワの気持ちが沈み、思い詰めなければといいのだけれど、そうメリアスは一人自宅で心配していた。
 ビワには辛い事だけれど、一刻も早くカズの行方、もしくは生死が判明すれば、先に進めると考えていた。
 人口の大半が女性を締めるバイアスティッチでは、男性との出会いは少ない。
 その中でビワの傷心を癒せる優しい男性が現れれば良い、と。
 自分の恋愛事情は棚に上げて、ビワの心配をする。


 《 冒険者ギルド本部地下での出来事から四ヶ月が経過 》


 左腕の肘から先を失ってから、レオラがアイリスの屋敷に訪れるのはこれで三度目。
 二ヶ月は自身の屋敷から出る事はせず、体調不良や別件などと理由を付けて、人目の多い外出の公務は避けていた。
 ただ第五皇女アイリスの所にだけは、訪ねるようにしていた。
 腕を通さずロングコート羽織っているので、負傷した左腕を女性騎士や使用人が目にする事はない。
 侍女にアイリスの執務室へと案内される。
 執務室内にはアイリスと侍女の他に、カミーリアと女性騎士のネモフィラが呼ばれ待機していた。
 二人が居るのは、あの日主人の護衛として同行していたのが理由。
 レオラが先に執務室に入り、後から続いてアスターとグラジオラスが入る。

「以前より心身共に良くなりましたか? 姉上」

「一ヶ月以上経てば良くなるわ。それに前回来てくれた時は、風邪気味だったのだもの。それで今日来たのは、調査が進展したからかしら?」

 事件の真相へ近付いたのかと、アイリスは尋ねた。

「それについては、グラジオラスから報告する」

 レオラに名指しされ、グラジオラスは持って来た荷物から資料を取り出し、報告内容を読み上げる。
 二人の皇女を狙って来た暗殺者のブーロキアの仲間がいるかついて、帝都かその近郊に潜伏しているか、そもそもいないのかは未だに不明。
 怪しいと睨んでいたレスタ第二皇子と、ブーロキアの繋がりは掴めない。
 ただパラガスが意識を取り戻し、回復傾向にあるので、あと十日もすれば事情聴取は出来るとの見解。

「進展はあまりしませんね」

「姉上の方に何か変わった事は?」

「無い…とは、言えませんね。レスタ第二皇子から何度か手紙が来たわ。皇族の集まりにわたくしが出てないのを心配して、と書いてあったわ。顔を見たいから、来ても良いかかしらって。もちろん丁重にお断りしました」

「まだ姉上の事を諦めてない事を考えると、やはりレスタが黒幕の可能性は高いか。パラガスが暗殺されないように、場所を変えた方が良さそうだ。戻ったらすぐに手配だ。グラジオラス」

「レオラ様をお屋敷に送りましたら、すぐにガザニアと新たな場所を決めて移動を行います」

「頼む。移す場所は屋敷に戻るまで、アタシも考えておこう」

 アイリスからの話で、パラガス・ノイアの移送が決まった。

「カズさんについては?」

 レオラは左右に首を振る。

「手掛かりは全く掴めてない。そもそもあんなモノに飲み込まれて、無事でいるとは考え難い。もし転移して無事だとしても、撲滅の因子の呪いで、カズはもう……」

「でもレオラちゃんは、カズさんを探すのあきめたりはしないわよね」

「ギルドに協力してもらってるけど、未だに連絡が来ないから期待はできない」

「そう。わたくしじゃ、その手の方面では役に立てないくて悔しいわ。あと二ヶ月程で、カズさんは亡くなった事になるんでしょ」

「帝国では行方不明になって半年で、死んだとされる。カズは帝国の民ではないが、まだ帝都の冒険者ギルド所属になっているから適用されるだろ。そうすると登録も抹消される。望めばBランクのアレナリアが、パーティーを継ぐ事になるだろ。ランクは下がるが」

「辛い決断になるわね。それまでに何か手掛かりが見つかればいいのだけれど」

「それなんだが、これが完成したから、アタシが外で動けるようになる。前とまではいかないが。少しは情報が集めやすくなるだろう」

 レオラは羽織っているコートから、半分失った左腕を出してアイリスに見せる。
 魔道具を作る技工士に直接依頼をして、レオラは義手作ってもらい、それを装着している。
 長袖を着て手袋をしているので、見ただけで義手だとは分からない。

「それが言っていた。動かせるの?」

 アイリスの疑問に、レオラは指を動かし、手を握ったり開いたりして見せる。

「まだこの程度しか動かせないけど、訓練を積めば、元の手と変わらないくらいに出来るはずだ。使用する魔力をもっと抑えられるようになれば、魔力の少ない者でも使えるだろう。順調にいけば一年以内には、実用化出来るだろう。そうすれば大量に生産出来き、多くの負傷者が救われる」

「スゴい物を作ったわね」

「研究し続けた技工士達の成果だ」

「でもレオラちゃんのアイデアでしょ」

「元々腕や足を失った者達を助ける魔道具は考えられてた。アタシがこうなった事で、そういった者達の不便さがわかったから意見を出せた。まさに怪我の功名だ。アハハは!」
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