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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

735 月に一度の報告

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 アレナリアはメリアスに耳打ちして、昨夜クルエルに聞かせた内容を話した。
 そこまで激しい内容ではなかったが、実体験を語っているので、アレナリアの言葉には臨場感があった。

「それ以上の内容は、クルエルとレラちゃんは聞かせられへんわ」

「それはないわ。この手の話は、レラの方が色々と詳しいみたいだもの」

「なんやて!? アレナリアさん冗談を言うて」

「あちしが何?」

 自分の名前が出て、何の話をしていたのかレラは気になった。

「私が昨日、話そうとしてた内容について」

「……! あれね」

「レラちゃん、冗談やな?」

 ふわりと飛び上がったレラは、メリアスの耳元に移動して、覗きで得た知識をゴニョゴニョと。
 すると次第にメリアスの顔が赤く変わり「え!? そんな…いややわ…」と、何に反応して、どんな想像をしたのか、おかしな声を上げる。

「人族って他の種族より、趣味の幅が広いんだよ」

「アラクネでもあらへんのに、縛りはるなんて」

「ちなみに、男の方ね」

「女の人がやりはるん?」

 メリアスはそれから先は何をするのだろうと、口をポカンと開けたまま動きを止めてしまう。
 それを見ていたクルエルが呼び掛けるも、メリアスが一点を見たまま反応しない。

「メリアス姉さま。メリアス姉さま!」

「は!」

「メリアス姉さま大丈夫ですか?」

「え、ええ」

「レラちゃんから何を聞いたんです?」

「なに……ダメダメ! クルエルには聞かせられへん。レラちゃん、絶対に話したらあきまへんよ」

 慌てふためくメリアスを見ると、色気があるにも関わらず、見た目とは違い純情なのかも知れないと思えた。

「だってさ。彼氏でも出来たら聞いたらいいよ」

「彼氏なんて、私にはまだ早いよ」

「じゃあ教えてもらうのは まだまだ先だね」

 朝っぱらからする内容ではない話を聞いたメリアスと、昨夜寝る前にアレナリアから聞いた内容を思い返すクルエルは、朝食が何時もの半分しか入らなかった。
 ビワが心配したが後で理由を聞き、アレナリアとレラが原因だと知り、体調が悪い訳では無いと分かり、ほっとする。
 昨日に続き今日も朝からアレナリアとレラは、ビワに叱る事になった。
 こんな馬鹿な事をしていれば、カズの名を出しても、ビワの気持ちが沈む事はないだろうと、少なからずアレナリアとレラは考えていた。
 やっている事は以前と変わらないが、今は故意にしている……切っ掛けだけは。

 月に一度、バイアスティッチの冒険者ギルドのギルドマスターであるミゼットと会い、話をする事になっている。
 朝食を済ませ待っていると、サブ・ギルドマスターのニラが迎えにやって来た。
 監視や尾行に注意を払い、アレナリアとレラとビワは迎えに来たニラの付いて行き、街では有り触れた集合住宅の一室に入る。
 家具は箪笥タンスと一人用のベッドとテーブルと椅子があり、窓にはカーテンが掛けてある。
 しかし見るからに誰も住んでいる様子がなく、部屋には不釣り合いな簡易な椅子が四脚用意されており、その一脚にミゼットが座って待っていた。

「ニラ、ご苦労さま。約一ヶ月振りだね」

 アレナリアとビワは軽く会釈をして、レラは手を上げて応える。

「この後は街全体を見回るので、手早く済ませてください。ギルドマスターが直々に街を見回ってる事が認知されれば、それだけ住人が安心します」

「それは分かっているけど、そろそろ月一でなくともよくないか?」

「十日に一度から月一にしたんです。レオラ様とカズが関わった事件が落ち着くまでは、最低月に一度はやっていただかないと、住人が不安になります」

「わかったわかった。何度も言うな。わかりましました」

「忙しいそうだから、早く済ませましょう」

 ミゼットはバイアスティッチの住人を安心させる為に、以前クルエルアラクネが狙われた事件があった以降は、バイアスティッチを出る用事がない限り、街を回っては不安になる住人達に声を掛けていた。
 出稼ぎ女性の多いこの街では、不安が薄まるのが遅く、事件から一年以上が過ぎて、やっと平穏が戻ってきていた。
 ここで何かしら大きな揉め事でも起きれば、住人の不安はまたぶり返してしまう。 
 ミゼットもそれは分かってるので、街を見回り住人に声を掛けて、何気ない話をして様子を伺っていた。
 サブ・ギルドマスターのニラに代わってもらう事も出来るが、ミゼットはただのギルドマスターではなく、レオラと同じ女性で帝国の守護者の称号を持つ者。
 街にミゼットが居るだけで、住人の安心度は大きく違う。

「結論から言うと、カズの行方は未だに掴めてないそうだ。ブーロキアの仲間と思われる者も、今のところ見つかってはないとのことだ」

「そう……パラガスの方は?」

「パラガスは意識はあるものの、何を質問しても反応が無いらしい。食事も固形の物は取れないからと、赤子の食事の様にして食べさせてると聞く」

「このまま弱ってしまったら、何も聞き出せず証拠が得られないわね」

「レオ…皇女が狙われて負傷したというのに、未だに解決できないとは」

「黒幕の可能性がある──は?」

「それも調査中。こればかりは中々進展しない」

「あれからもう三ヶ月。すでに証拠を隠滅させられてる可能性は高いわよ」

「手を貸したくても、現状こればかりは、どうしようもない。アレナリアもそれはわかってるだろ」

「可能性としてはブーロキアと繋がりがある、パラガスを回復させるしかないわね。結局、進展はないってことね(カズがいてくれれば……)」

「そういうことになる(皇族内に腐りがあるとは、考えたくもなかった)」

「次はまた一ヶ月後ね。また箱町のギルドから連絡してもらうわ」

「ああ。連絡が来たら、いつも通り頼む。ニラ」

「お任せください。それに応じて予定を組みます」

「予定を組むのは、ほどほどでいいぞ(ニラに全て任せるも、食事どころかシャワーを浴びる時間まで決められそうだ)」

「いいえ、しっかりと管理させてもらいます」

「そ、そう……」

 ギルドマスターミゼットの役に立てていると、満足しているサブ・ギルドマスターニラの表情は明るい。
 ミゼットとしては、もう少しは自由に動ける時間が欲しいと、若干ながら思っていた。
 自身の立場を考えると、ニラの言うことは間違えではないので、不安になる街の住人がもう少し減るまでは、この見回って声を掛けるのを続ける方が良いと分かっていた。

「その様子なら、この街は安心のようね」

「あれから街の出入りの監視は、ギルドも協力してるからね。この状況で何かしら起きから、あの時の事を思い出して、仕事もままならない住人もいるだろう。少なくとも、あとニ、三年は見回りは続けないと」

「あなたがこの街に居れば、ビワを安心して任せられるわ」

「お前達には借りがあるからね。このくらいで返せたとは思ってない。カズが戻って来るまで、守ってみせるよ」

「ビワをお願いね」

「ビワに怖い思いさせないでよ」

「よろしくお願いします」

 最後にミゼットとニラにビワの事を頼み、月一の報告はこれまでと同じく変化無しという事で終わった。
 月一の用事が終わった後は、露店の服や装飾品などを見て回り、食材を買ってメリアスの家に戻り、昼食をビワが作り皆で食べた。
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