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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

733 分かれてから三ヶ月

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 全身を震わせて水を払おうとしているところに、一度目よりも速度と圧力を増したウォーターカッターが直撃する。
 だが、レベルが下がりステータスが低下した影響で、瞬時に貫く事も切り裂く事もできない。
 鳴き声を荒立てて、直撃しているウォーターカッターから逃れようとしている時点で、効いているのは確実。
 これで倒せなければ、更に多くの魔力を消費する事になるので、是が非でも仕留めに掛かる。

 鋸の様な歯が並ぶ口を半分まで閉じ、高水圧の攻撃から逃れようとしている今なら接近しても、反撃される事はないだろうと一気に詰め寄る。
 多少ずれようと同じ所を狙い攻撃を当て続けていると、表皮を突き破り内部にダメージを与える事が出来た。
 次第に傷が深くなり貫通し、そのまま胴体の半分を切断する。
 かなり時間は掛かったが、首の半分まで口がある未知の生物は虫の息。
 だからと近寄った途端に、強酸の液体をかけられては目も当てられない。
 視界に捉えられる位置まで距離を取り、そのまま様子を伺う。

 五分程すると微かに動いていた脚も止まり、ピクリとも動かなくなった。
 倒す事が出来たが、低下したにも関わらずレベルが上がる様子はない。
 格上のモンスターを倒せば、下がっているレベルが上がるかと思ったが、そう上手くはいかなかった。
 結果的に、魔力を無駄に消費しただけだった。
 レベルが上がって時間が稼げればと考えての行動で、わざと狙わせるようにして未知の生物を倒した事に、少し罪悪感が湧いた。
 未知の生物に合掌してその場を離れ、隕石と巨大な生物が鎮座するクレーターの底に戻る。

 隕石を背もたれにして、どさりと座り込み大きな溜め息を吐き夜空を見上げる。

「『どうして戻った? 他の相手を探さないのか?』」

 死に場所を求めて戦いに行ったのだと、巨大な生物は考えていた。

「『俺は戦闘狂じゃないんだ。死ぬために戦ったわけじゃない。倒してレベルが上がれば、少しでも時間が稼げるかもと考えたんだ。ダメだったが』」

「『ならばどうする?』」

「『さあ、どうしよう。デカいあんたが呪いの解呪方法を教えてくれるのが、一番いいんだけど』」

「『それは先の言った事を成せば答えよう』」

「『考えは変わらずか。ならここがどこかなのか教えてくれよ』」

「『それも成し遂げれば答えよう』」

「『だろうと…思った……』」

 戦闘の疲れと寝不足からくる眠気がどっと押し寄せ、目蓋まぶたが重く下がり、意識が遠退きすとんと落ちる。
 警戒のアラームも防御障壁のバリア・フィールドも、気配や魔力を消す隠蔽と隠密も使わず、全くの無防備で無抵抗の状態で。


 《 帝都中心部を離れてから三ヶ月 》


 二手に分かれて暮らし始め、毎日の生活も慣れて、気持ちも少しは落ち着いてきていた。
 帝都南部のキビ村近くの林で、ライジングバードのフジと共に暮らすアレナリアとレラは、八日振りにビワの住む裁縫と刺繍の街バイアスティッチに向かっていた。
 フジの背に乗り、地上から発見されにくい高度を飛ぶ。
 二、三度人気の無い地上に下りて休憩と昼食を取り、一日を掛けてバイアスティッチの近郊に着く。
 フジには二日後迎えに来てもらうように頼み、アレナリアとレラはバイアスティッチの街に向かう。

 街に入る前に大きさは憧れか欲望かアイテムを使い、アレナリアと同じ位にまで大きくなる。
 前日念話でビワに来ることは伝えてあったので、パフの手芸店には寄らずに、ビワが同居させてもらってるアラクネのメリアスの家に直接向かう。
 髪型と服装を変えるだけにして、外套マントとフードで全身を隠すことはしない。
 ある程度決まった周期でバイアスティッチを訪れているので、街に入る際に質問された場合は、出稼ぎに来てる家族に会いに来ている、という設定にしている。
 帝国の色々な場所から出稼ぎに来ているので、バイアスティッチには帝都に匹敵する程種族が多い。
 なので違う種族同士の女性同士でバイアスティッチを訪れるのは、特に珍しい事ではないので、バイアスティッチの冒険者ギルドマスターのミゼットが用意してくれた通行証を使い、街の出入りをしている。
 アレナリアとレラは偽名を使っているが、バイアスティッチに住んでいるビワは、周囲の者達からボロが出る可能性があったので偽名にはしてない。

 二手に分かれてから暮らすようになって、アレナリアとレラがバイアスティッチのビワに会いに来るのはこれで九度目。
 四度目までは短い日数で訪れていたので、大きなモンスターが頻繁に、バイアスティッチ付近に現れてると噂が流れたので、それからは八日から十日は空けるようにしていた。
 ビワとクルエルは仕事からまだ戻ってないので、家主のメリアスと話をしながら二人が戻るのを待つ。

「ビワの様子はどう?」

「来た時に比べれば良くなりはったよ。けど一人になりはると、心ここにあらずやね。仕事を終えはって戻っても、疲れてるのに一休みもせず、家事をしはるの変わらんわ。いい加減身体を壊す言うてるんやけど、お世話になってる言うて」

「ビワって結構頑固なのよね」

「そうそう。自分がこうだと決めたら、引き下がらないんだよ」

「迷惑じゃない?」

「迷惑なんてことあらへんよ。うちとクルエルが散らかした糸を片付けてくれますし、それに毎日美味しい食事まで作ってくれて、ほんに助かってますわ」

「何かしていれば、それに集中して悪い事を考えずに済むんでしょうね」

「ええ。未だに朝顔を見ると、目にくまがある事があるんよ」

「気を使わせてごめんなさい」

「新婚そうそう旦那はんが急に行方不明になりはって、そのうえ生死不明なんて聞かされはったら、心が壊れるわぁ。うちかて抜け殻になる自信あるわ」

 ビワの気持を考えると、自分では耐えられる自信は無いとメリアス言う。
 ただその言い方からすると、アレナリアとレラは薄情ではないか、と言うことになる。
 メリアスの自覚があるか分からないが、ビワの気持を深く思って言ってるのだと分かっているので、アレナリアはこれを受け流す。
 が、レラを見ると何か言いたそうだったので、余計な事を言い出す前にアレナリアが話を変える。

「そ、そういえば、メリアスさん結婚は?」

「付きおうた殿方はおるよ。残念やけんど、結婚まではなぁ……って、何を言わせるん!」

「それって同じアラクネ?」

 興味が湧いた様で、レラが話に加わってきた。

「最初はそう。人族もおった。うちのスラッとした脚が好き言うてたわ。……だから、うちのことはええの!」

「いいじゃん、いいじゃん。アラクネと人の絡み聞かせてよ」

「ちょっとレラ、そういうのは…興味あるわね」

「アレナリアさんまで! ほんま堪忍して。こんな話クルエルには聞かせられへん」

「今はあちしとアレナリアしかいないんだからぁ、ほれほれ話しちゃえよ」

「無理強いはよくないわレラ。先にこちらもそれなりの話をしないと。だから、私とカズの熱い一夜を聞かせるわ。あれはカーテンの隙間から差し込む月明かりが、私の透き通るような美しいはぶぉ」
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