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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

729 不毛で不明な地 2 疲労と眠気 明けない夜

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 歩いて移動するのは、五時間か六時間がせいぜい。
 生物と思わしき鳴き声が近付いてくれば、疲れを気にしてらいられず、極力物音を立てずに走って距離を取る。
 未知の場所での緊張と、思い掛けない重力の影響で、疲労が溜まるのが早い。
 動けなくなっては、得体の知れぬ生物の標的にされる可能性は高いので、ちょくちょく休憩を取りながら、最初に決めた魔素マナのより濃い場所へと向かって歩き続ける。

 黒く渦巻く空間によって飛ばされてから、かれこれ三十時間は経っただろう。
 何処かで仮眠でも取れればと、休めそうな物陰を探したが、周囲の様子は一向に変わらない。
 大小様々な石がごろごろと転がっている荒野から抜け出せない。
 食料は旅の準備をしていたので大量にあるので空腹は補えるが、迫りる眠気を何時まで耐えられるか。
 数倍の重力の影響を受けながら歩き、休憩はごく僅かな短い時間しか取ってないので、疲労は溜まる一方。
 食べ過ぎては眠気が余計に押し寄せてくるので、食事は軽く摘める程度のパン一つと水だけにした。
 ただ短い休憩毎に食べているので、空腹感はそれ程無い。

 そしてレベルは二桁間近まで落ちた。
 魔素マナが濃い事で《魔力自動回復》の量が増え、魔力が低下する勢いが減少したのが影響してるのか、レベルが落ちるのも若干だが遅くなっているようだ。
 歩き始めて五十時間は経った頃、岩山の麓にたどり着いた。
 ただ元は200メートルはあったろう岩山は、大きな衝撃でも受けたかのような壊れ方をしていた。
 例えるなら隕石が直撃したと思えるような。
 周辺には破壊された時に吹き飛んだと思える大きな岩が、広域に渡り散乱していた。

 周囲に生物の気配も無く、隠れて休むにはうってつけの場所だった。
 魔素マナのより濃く感じる場所まではまだ先なので、ここで周囲を警戒しつつ仮眠を取る事を決断した。
 大きな岩が密集している場所を選び、隠れられる岩の隙間を見付る。
 横になりたいが熟睡してしまいそうなので、座って岩に寄り掛かり仮眠を取る。
 野宿する時に毎回使用していた〈アラーム〉の魔法を忘れないようする。
 隠蔽と隠密は継続中なので、そうそう見付からないと思いたい。
 魔力は減ってしまうが、今は少しでも眠る事が必要。
 例え眠りの耐性を持っていたとしても、魔法やスキルなどに対しての効果なので、自身の生理現象にはあまり効果はない。
 寝ようと目を閉じるも、中々寝付くことはできない。
 ただ目を閉じて岩に半身を委ねるだけ。
 意識が落ちて眠れたと思ったが、すぐに意識が戻る。
 それを何度か繰り返し、二時間程の休憩を終えて起き上がる。
 頭は少しぼーっとするが、眠気は少し取れたような気がした。
 アラームが発動する事がなかったので、ほっとしたが、未知の生物に対しても有効なのか不明なので不安は残る。

 レベルの落ちるのが遅くなったとはいえ、猶予はあと七日くらいだろう。
 未知の生物と戦闘になれば、どうしても魔力を多く消費することになる
 そうなればレベルが0になるのが早まるのは確実だろう。
 そう考えると、こんな場所で一人で死ぬ事に恐怖を感じる。
 今はビワの作った手料理を食べ、生きる気力を失わないようにすること。

 破壊された崩れ落ちた岩山を迂回して越えた所で、より魔素マナが濃い場所に近付いてるのを感じた。
 このまま行けばレベルが0になる前には十分間に合うだろうと考え、疲労と眠気と戦いながら歩を進める。
 六十時間以上が過ぎても、空が明るくなることはない。
 もしかしたら、ダンジョンの中かとも考えたが、月は無いが星は見えているので、野外なのは間違いない。
 この世界の星の並びを知らないため、違う世界にでも転移してしまったのかも、と悪い方に考えてしまう。
 段々と思考も低下してきている事に、自身でも分かってきている。
 混乱しないように冷静さをなんとか保とうとし、疲労が更に増す。
 
 常に眠気に襲われながら移動し続け、もう八十時間は過ぎてレベルも80台にまで下がっていた。
 遠くの空に生物が飛んでいるのに気付き、見付からないように注意しながら移動する。
 上空を飛ぶ所まで進むと、隠蔽と隠密のスキルが効いているらしく、今のところ発見はされてない。
 今の自分では一体倒せれば良い方だと、姿を見てない生物に対して弱気になる。
 理由は大木と見間違う骨を、数本発見しているから。
 戦えばそれだけ寿命が短くなる。
 戦闘は避けて目的の魔素マナがより濃い場所に、根拠の無い可能性を求めてただただ向かう。
 ビワの手料理と僅かな睡眠で、目的の場所まであと少し。

 この場所に飛ばされてから、少なくとも百二十時間は経っただろうか。
 時間の感覚も分からなくなってきている気がしていた。
 予想以上の濃い魔素マナの影響で、背筋はゾクゾク肌はピリピリとし、何度拭いても冷や汗が頬を流れ落ちる。
 常に気を付けてる《気配感知》は、飛んでいた生物を遠くに感じるだけで、もう一つの《魔力感知》は周囲の魔素マナが濃過ぎてよく分からない。
 視界も《暗視》があっても、数十メートルから先は暗くてハッキリしない。
 視界の端に表示してあるマップに視線を見るも、移動してきたのに真っ暗で表示されてない。
 マッピングはされている筈なのに、どうなっているのか分からない。
 目視していないからか、飛んでいる生物も表示されなかった。
 あるのは自分自身の位置が表示されているだけ。

 また岩山でもあるのだろうか? 進行方向の先には、大きな影が星空の一部を遮っている。
 ここに来てから魔素マナのより濃い場所を目指してきたが、どうやら少し先にある大きな影になって星空を遮っている場所がそこらしい。
 一先ず大きな影の麓に着いたら、休憩出来る場所を探して、食事と仮眠を取ってから登ることにする。
 目指す先がなんとなく見え、少し気力が戻ってきた。

 何かがおかしい。
 大きな影が山ではないと、近付くにつれてそう感じた。
 地面が少しずつ上り坂になる事もない。
 岩石地帯にある岩山ならそのような事もあるかも知れないが、近付くにつれてれそうでなければと分かる。
 だからと言って、他を探す宛もなければ、残された時間もあまりない。
 マップも殆ど機能していない。
 レベルかなり低下してるせいで、今ままでと感覚がかなり違う。

 感覚が間違っているのかと、自分自身を疑いだす。
 見えているのは全て幻なのか? 
 マップも感知もスキルが機能しないのは、夢であって現実ではない?
 もう、どすれば…どうすれば…どうすれば……ここで終わるのか………。
 始めはギリギリでも、なんとか波風立てないように、冒険者として生きてきたのに。
 かわいい嫁が出来たのに、こんな所で死にたくない!
 せめて死ぬなら、好きになってくれたアレナリア、ビワ、レラに囲まれながら……。
 なんとか保ってきた心が、少しずつ崩れだし、段々と病んできた。
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