人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

722 これから暮らす場所の選択

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 この一年過ごしたレオラ所有の川沿いの家で今まで通り暮らすのは、今回捕えたブーロキアの仲間が帝都に潜伏していた場合狙って来る可能性が高い。
 ならばレオラの屋敷にと、アレナリアが途中まで口に出したが、左腕の肘から先を失い戦闘能力が半減しては、今回捕えたブーロキアと同レベルの暗殺者が狙って来たとして、屋敷の全員を守るのは無理だと考え、アレナリアは口を閉ざした。

「アハハハは! はぁ…」

 レオラは笑うと、大きくため息を吐いた。

「…気にするな。アレナリアの考えてる事はわかってる。今のアタシにブーロキアと同格の暗殺者を相手にする事は出来ても、誰かを守りながらは難しいだろ」

「ごめんなさい」

「だから気にするなと言ったろ。アタシの屋敷にお前たちを置いて、暗殺者が潜入してきたとした場合、アタシはお前たちを守ってやれる自信はない。もしそうなったら、悪いが三人から選ぶのはビワだ。その前に優先的順位は、屋敷で働く者達になるが」

「その考えは素晴らしいと思うわ。大抵の権力者は自分の身が一番。使用人を盾にするどころか、家族でさえも。なんてのを聞いた覚えがあるもの」

「アタシは敗戦国の落ちぶれ貴族じゃないぞ」

「なら今まで通りにしなさいよ。元気がないのはレオラも一緒でしょ」

「はは…言ってくれる。まったくもってその通りだ」

 アレナリアに一本取られたと、レオラは苦笑いした。

「それでお前たちだが、この中でフジを抑制出来そうなのは、かろうじてアレナリアだけだ。だからアレナリアには大変だが、フジと共に行動してほしい」

「そうね。フジと話せるのは念話を使える、私とビワとレラだけだもの」

「カズの事を伝えるかは、アレナリアに任せる。だが、長くは隠し通せないだろ」

「ええ。なるべく早く伝えるわ」

 アレナリアはフジと共に行動する事を承諾した。

「それとレラだが、アレナリアと一緒に居た方が安全だ。フジが一緒なら空高くに避難する事も出来る。帝国内で全力のフジに追いつける存在はない」

「あちしはそれでいいよ。フジと一番仲がいいのあちしだからね。でもそうすると、ビワだけ別になるの?」

 午前中の話し合いで、それぞれ滞在する場所を模索し、Bランクの冒険者でもあるアレナリアとレラを一緒に行動させる事がほぼ決まった。
 フジと共に行動させるというのは、テイムしたカズがいなくなった事で、登録者不在のテイムモンスターが存在してしまうのがギルドとして問題になるからだと。
 昼食を持って来たサイネリアが、それを伝えてきた事で、レオラはアレナリアをフジと共に行動させることを提案した。
 これで一旦は、テイムモンスター登録の件はなんとかなる筈。

 そしてビワはレオラの屋敷でと、なりそうなところだが、先の話にあった通り、もしもの場合を考えると無理だという事になり、そこでレオラは住む先として、数ヶ月程暮らしたというバイアスティッチの名を出した。
 レオラから離れるにしても、帝都内では近過ぎる。
 そこで魔道列車がまだ開通してないバイアスティッチをレオラは選んだ。

 一度セテロン潰された国から来た三人が、アラクネを狙った事件があった事で、街の出入りする者達をかなり警戒している。
 魔道列車が開通してなければ、街の出入りの時に顔の確認が出来るので、怪しげな者達が居たらすぐに分かる。
 街中でそれなら、レオラの所より安全だと考えた。
 そこならビワの知り合いも居るので、暮らしやすいだろうとも。
 それにバイアスティッチには、レオラと同じ帝国の守護者の称号を持つ、バイアスティッチの冒険者ギルドマスターをしている、SSランクのミゼットが住んでいるので心強い。

「どうだビワ? これはあくまで提案だ。今で通りアレナリアとレラと一緒がいいと言うのなら、フジを連れて帝国を出た方がいいが」

「……わかりました。私はバイアスティッチに行きます」

 これでビワは一人、裁縫と刺繍の街バイアスティッチに行く事が決まった。

「アタシはヤドリギと話をしてくる。アスターとグラジオラスが来たら、アレナリアは荷物を取りに行ってくれ」

「わかったわ」

 レオラは寝泊まりしている会議室を出て、サブ・ギルドマスターの執務室に向かった。
 入れ替わるようにして、昼食の後片付けをしたサイネリアが、レオラに午後の予定を聞きに戻って来た。

「あれ? アレナリアさん、レオラ様は(お手洗いかしら?)」

「サブマスに話があるって、少し前に出て行ったわよ」

「そうですか。サブマスに………はい!? 今の姿を他の職員に見られたら! もうレオラ様ったら! 勝手に出歩かないでって言ったのに!」

 レオラが向かった先を聞いたサイネリアは、会議室の扉を勢いよく開け、サブ・ギルドマスターの執務室に向かって行った。
 ギルド本部内でも人目を避けて、あまり使われてない会議室にを選んだのに、いくら慌てていたとしても、会議室の扉を開けっ放しにするはどうなんだろう。
 扉の向こうの廊下からは、微かに話し声が聞こえてきていた。
 あまり使われない会議室だとしても、ギルド職員は近くを行き来している。
 アレナリアはしょうがないわねと思いながら、開けっ放しの扉を閉めた。

「ねぇビワ。本当に良かったの?」

「バイアスティッチに行くことですか?」

「ええ。あそこなら確かに知り合いもいるし、アラクネの彼女たちも力になってくれるわ。でもレオラが言うように、ここより安全だとは、私は思わないわ」

「でもレオラ様のお屋敷に住まわせてもらって、もしもの場合が起きた時に、私がいることで少しでも判断するのを迷ってしまったら。それこそ私はレオラ様の所には……」

 レオラはビワの優先順位を低く言ったが、実際その時にカーディナリスが一緒だったら。
 冒険者として活躍してきたレオラは、辛い選択をしなければならない時は何度もあった。
 それこそ幼い子供の命と、多くの人々の安全を天秤に掛けなければならない事も。
 もしもの時にカーディナリスがビワを庇ったら、レオラが守る者が二人になる。
 守護騎士のアスター、グラジオラス、カザニアが側に居たとしても、三人の優先順位は第五皇女のレオラだけ。
 他の誰を犠牲にしてでも、自分達の命を賭しても守らなければならない御方。
 約一年レオラの側で働いてきたビワは、その事を理解していた。
 だからレオラの提案に同意し、一人でバイアスティッチで目立たずに暮らして、カズが帰って来るのを待つ、と。

「いつでも念話で話できるから、一人じゃないよ。ビワ」

「でも私達の魔力だと、帝都とバイアスティッチの距離を念話するのは無理ね」

「え! じゃあビワと」

「帝都からだとって事よ。だから私達がバイアスティッチの近くまで行けばいいのよ」

「そうか! フジに頼んで乗って行けばいいんだ」

「ええ。ただし私達だけだと、すごくゆっくり飛んでもらわないとならないけどね」

「あちしは飛べるけど、アレナリアは飛べないもんね。落ちたら大変」

「こんな事なら、私も飛翔魔法を覚えればよかったわ」

「やり方は聞いてるんでしょ。カズが帰って来る前に覚えて、驚かせてあげようよ」

「そうね。フジの住まいは帝都南部だから、話せるのは五日に一度くらいになると思うわ。それでいい? ビワ」

「はい。ありがとう。アレナリアさん」

「バイアスティッチ付近で、フジが隠れられそうな場所が見つかれば、いつでも念話が出来るけど、周囲はたしか荒野だったから難しいわね」

「私なら大丈夫です」

「本当に大丈夫? ビワは我慢する事が多々あるから。私達には隠さず思ったことを言うのよ」
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