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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

721 夢であってほしかった

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 ◇◆◇◆◇


 ギルド本部の会議室で目を覚ましたビワは、同室で一緒に寝たレオラの姿を見て、夢ではないんだと感情が込み上げ、涙が頬を伝う。
 しかし自分だけ泣いていてはいけないと、ギルド職員が使う給湯室で顔を洗い会議室に戻る。
 ビワが会議室に戻ると、アレナリアとレオラが起きており話をしていた。
 アレナリアは寝ている時に泣いたのか、目が少し充血していた。
 自分で気付いてないようだ。
 寝ているレラの顔にも涙が流れた跡がある。
 顔を洗ってきたビワだが、まだ少し目の周りが腫れているように思えた。

「いないと思ったら顔を洗ってきてたの。私も洗ってこようかしら」

「何を話してたんですか?」

「私達はあの家から離れた方がいいって、レオラに言われたの。なに…何もなかったら、明日の朝には列車に乗って……」

 本来であれば、今日はアレナリアとレラが二日酔いになった時の事を考え、一日のんびりと過ごし、翌日の早朝東に向かう魔道列車に乗り、帝都を離れる予定だった。
 それを思い出してしまい、アレナリアの言葉は一瞬詰まり声は小さくなる。

「今回アタシを狙って来たブーロキアから仲間の情報など聞き出せなかった。もし仲間が帝都に潜んでいたら、アタシやカズの親しい者を狙って来る可能性高い。だから安全のために、あと数日はここに居てほしいという事だ」

 アレナリアだけではなくビワとレラの気持ちも分かっている。
 が、もしブーロキアと同格の暗殺者が潜伏していた場合の事を考え、三人が狙われる可能性を極力減らすには、とレオラは言う。
 数百万…数千万…数億分の一でも、カズが生きて帰って来ると信じている三人の思いを尊重しての提案だった。

「そうね、カズが戻って来るまでは、旅を再開する事もできないんだし、話に聞いたブーロキアと同等の暗殺者が狙って来たら、私だけじゃ対処できないわ。だったらギルドに居た方が安全ね」

「護衛にアスターとグラジオラスとガザニアを付ける。アレナリアは一度必要な荷物を取りに戻ってくれ。言っておくが戻るのは一度だけだ。何を忘れても、それ以降取りには戻らない。いいな」

「ビワとレラに必要な物を聞いて、書き出しておくわ。今すぐじゃないんでしょ?」

「ああ。だが早い方がいいだろ。午後か明日の朝一でどうだ? アスターたち三人には目立たない恰好をさせて、ギルドの裏口から入って来させる」

「それでいいわ。もしレオラの心配しているような事が起きていて、家の中が荒らされてでもしたら、カズが作ってくれたアイテムポケットが付与された手提げ袋だけを持って、すぐに戻るわ」

「そんなに大事な物が入ってるのか?」

「旅に出る準備がしてあったの。だから服とか毎日使う物を、殆ど入れてあるのよ。昨日は急に連れて来られたから、持って来なかったのよ」

「アイテムポケットか…(ヤドリギが言ったように、付与した魔道具は付与した者が死んでも、今まで通り使えるのが帝国では一般的だが、カズがそうだとは限らない。なんて、言えるわけないか)」

「何か考えてる顔してるけど、どうかしたの?」

「カズが収納魔法を付与したポーチを使ってるばあが、買い物が楽になったと重宝していたと伝えずじまいだったのを思い出した」

「カズさん…カズさんが帰ってこられたら、カーディナリスさんに伝えないといけませんね」

「その通りだな。ビワ」

 なんとか考えていた事を誤魔化したところに、サイネリアが四人分の朝食を運んで来た。
 街の店から買って来るのは、万が一の事を考え危険だと、ギルド本部内で調理した料理を提供。
 普段からギルドに居付きの職員に出される料理なので豪華ではないが、野菜と肉と魚介と穀物をバランス良く盛り付けてある。
 ギルド内の食堂に行けば、好きな物を選ぶ事も出来るが、レオラが他の職員と食事を取ると、若い職員が緊張してしまったりするので、食事はサイネリアに持って来てもらう事になった。
 それに現在のレオラの姿を見せるわけにいかない。

「食欲がまだないくても、半分は食べろ」

「わかってるわ」

 四人でサイネリアが用意した朝食を取る。
 レオラはもとより、冒険者として活動していたアレナリアと、何年も一人で生きてきたレラは、食べれる時に食べるという事を理解しているので、用意してくれた朝食を平らげた。
 しかしビワは少し口にすると手を止め、用意された朝食を半分も食べなかった。
 一日、二日だけなら兎も角、これが十日、二十日と長引いてしまっては、ビワはやつれてしまうとレオラは心配した。
 だがカズが消失した事を知らされ、昨夜大泣きしたたばかりのビワに、無理してでも食べろとは言えなかった。 
 そして朝食後は、これからどうするかの話し合いを始める。



 何時もより二時間程遅く目を覚ましたネモフィラは、寒気を感じると共に喉が少し痛かった。
 深夜に寒くなり毛布を掛けたが、髪を乾かず寝てしまった事で風邪を引いてしまっていた。
 午前中はゆっくり休む様にと、カミーリアからアイリス主人の言葉を伝えられていたので、ネモフィラは正午まで部屋で休む事にした。
 使用人やネモフィラら女性騎士が住む建物の食堂に行き、朦朧もうろうとしながらも軽食を取って自室に戻り、ネモフィラはベッドに入り目を閉じる…
 目が覚めたら全部夢であることを願って。

 正午を過ると、同僚の女性騎士がネモフィラの部屋にやって来た。
 部屋の扉が叩かれた何度目かに、ネモフィラは目を覚まして返事をする。
 身体が重くて起きるのが辛く、返事をした声はガラガラで、部屋の扉まで移動するだけで息切れを起こす。
 これは残念ながら現実だと落胆。
 ネモフィラか扉を開けると、同僚の女性騎士がネモフィラの異変にすぐ気付いて、額に手を当てた。
 咳をして熱を出しているネモフィラをベッドに寝かせ、アイリスの屋敷の治療医にネモフィラの容態を知らせに走った。
 昨日の緊張と疲労したまま状態で食事を取らず、髪を濡れたまま乾かさずに寝てしまった事で、三日は安静しなければならない重い風邪と診断された。
 アイリス主人に風邪をうつしてはなるないので、報告は四日後にという事になった。



 サイネリアが持って来た昼食も、やはりビワは半分も食べなかった。

「ごめんなさい。サイネリアさん」

 ビワの辛い気持ちは、サイネリアも理解している。

「いいわよ。夕食は食べやすい果物を多く持ってきましょう。それならもう少し食べれるでしょう」

「…はい」
 
 ビワは迷惑を掛けては申し訳ないと、出された物は残さないように食べようとしているが喉を通らない。
 空腹を感じないわけではないが、みんなで一緒に食事をしすると、どうしてもカズも一緒に居ると考えてしまい、気持ちが塞ぎ込んでしまう。
 サイネリアが昼食の食器を回収して、寝泊まりしている会議室を出ると、これからについてどのようにするか、午前での話の続きをする。
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