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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

716 狙われるレオラ と アイリスの危険な囮作戦 10 黒く渦巻く空間

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 カズは自分のステータスを見ても、毒の状態異常に掛かってない事を確認した。
 だが、以前に見た事あるマークがステータス画面に表示されていた。
 それはオリーブ王国でビワがメイドとして勤めていた、貴族のマーガレット・オリーブ・モチヅキのステータス画面を見た時と同じ『髑髏しゃれこうべが心臓を咥えている』マークが、カズのステータスに表示されていた。

「撲滅の因子ってのは、呪いであってるか?」

「古い文献には呪詛ではないかと書かれていたが、それ以上詳細なとこまでは書かれていなかった。おい、撲滅の因子は浄化で無効化出来るか答えろ!」

 レオラはブーロキアの頭を鷲掴みして、力を込め締めていく。
 今にも刺客者の頭部がミシミシと音を立てて、レオラの指がめり込んでいきそうだ。
 これには流石のブーロキアも痛みを感じ、嫌な笑いを浮かべていた表情が、苦痛へと変わる。

「その内わかるさ」

 ブーロキアは、それ以上答えようとしない。

「浄化魔法を今すぐに試せ。それで呪いが解けるのを確認したら、例の自白剤を使う」

 レオラは猛毒の自白剤を使う覚悟を決め、カズは自分に光属性魔法〈浄化フィリフィケーション〉を使い、撲滅の因子で受けた呪いを解く。
 マーガレット・オリーブ・モチヅキの時と同様に、カズの浄化魔法は呪いを解呪する事ができ、ステータスに表示されていた呪いのマークは消えた。

「呪いは解呪でき……」

「どうしたカズ?」

「解呪した呪いが…魔力が減っていってる」

 浄化魔法で消えた呪いのマークが、また表示された。
 しかも今度は髑髏しゃれこうべが心臓を半分まで噛んでいる状態だった。
 これは呪いが進行しているという事になる。
 しかも魔力自動回復のスキルがあるカズの魔力が、徐々に減少している事態。
 それだけではなく、上昇する事のなかったカズのレベルが下がってきていた。

「レベルが下がるなんて呪いがあるのか?」

「レベルがだと! 答えろブーロキア! これはどうなってる!」

「ンフフフ…撲滅の因子を浄化すると、より強力な呪いとなる。そもそも撲滅の因子を受けた時点で、レベル100だろうと半日も持ちはしない。第六皇女に打ち込めなかったが、それ以上の能力を持つ専属冒険者に打ち込めたのは最大の功績だ!」

「貴様ッ! カズ、もう一度浄化だ!」

 カズは再度〈フィリフィケーション〉を自分使うが、呪いのマークは消えず効果がない。

「無駄だ。撲滅の因子は圧倒的な強者を必ず殺すため、魔神が作り魔族に与えたと伝わる呪いだ!」

 してやった感を出すブーロキアを、レオラは地面に叩き付ける。
 その勢いで縛り付けていた椅子が壊れる。

「より強力な浄化魔法を使え!」

「オレもここまで。念には念だ、異界で苦しめ!」

 そう言うとブーロキアの腹部が陥没し、黒く渦巻くものが広がりだす。
 それはまるでブラックホールのような空間。

「離れろレオラッ!!」

 カズの声でブーロキアから手を離すのが、僅かながら行動が遅れ、レオラの左手が黒く渦巻く空間に接触した。
 カズはレオラの肩を強く掴み、後方へ強く引っぱり飛ばす。
 一気に膨張した黒く渦巻く空間がカズを飲み込み、その直後集束して跡形もなく消える。
 直径5メートル程までに膨張した黒く渦巻く空間の影響で、天井と地面には半円状の跡が出来ていた。
 もっと大きく広がる勢いだったが、薄い膜のようなもので、更に膨張しようとしていたのを遮られていたのを、レオラだけが気付いていた。
 距離を取っていたサイネリアとネモフィラは、この黒く渦巻く空間の影響は受けなかった。
 だがレオラは左腕の半分が黒く渦巻く空間に持って行かれ、肘から先を失ってしまっていた。
 失った左腕の肘の先から大量に出血し、小さな血溜まりが出来ていた。
 レオラは衣服を破り、左の二の腕に巻き付けて強く縛り止血する。
 突然の事で動揺していたサイネリアとネモフィラだったが、レオラの出血を見て震えながらも心配で駆け寄る。

「レオラ様!」

「レオッ! 腕が!」

「止血した。この程度では死にはしない。サイネとネモフィラは」

「わたし達はなんともありません。それよりも早く腕を」

 左腕の肘から先を失ったレオラの治療が最優先だと、急ぎ地上のギルド本部に戻らなければと、サイネリアは慌てふためく。
 レオラが冷静に腕の止血をして、自分達の心配をしてくれた事で、ネモフィラは混乱せずに現状を把握しようと、動揺しながらも周囲の状況を確認する。

「師匠……? カズ師匠! ……レオラ様、カズ師匠は?」

「カズは……ブーロキアと共に、あの黒く渦巻いていたのに飲み込まれた」

「そんな……」

「ブーロキアの最後の言葉から、空間を切り取っての強制的な転移だろう」

「転移なら、カズ師匠はご自分の転移魔法で、ここに戻って来れますよね?」

「何事もなく転移しただけなら、戻って来れるかも知れん。しかしあれは、カズの使っていた転移より異質だ。どこに飛ばされたのかも分からない。そもそも本当に転移なのかもわからない」

「カズさんも心配ですが、今はここを出て、レオラ様の治療をしましょう」

「確かにこのままでは。地上に戻り、サイネはこの事を上の連中に伝えろ。ネモフィラはギルドの馬車を借りて、急ぎアレナリア達を連れて来てくれ。頼むぞ」

「しかし……わかりました」 

 消えたカズの事を心配するネモフィラだったが、現状何もできない自分は、レオラの言う通りにするしかなかった。
 ネモフィラがレオラに肩を貸し、サイネリアを先頭に隔離された地下室を出て、急いで地上のギルド本部に戻る。
 サイネリアはレオラと治療室に入り、ネモフィラはギルド本部から馬車を借りて、急ぎ川沿いの家に向かう。

 レオラが隔離された地下室で負傷したと伝わり、サイネリア直属の上司ティピカが慌てて治療室にやって来た。
 サイネリア直属の上司はティピカは、左腕の肘から先を失ったレオラを見て、その惨状に青ざめた。
 そしてレオラの容態を見て、サイネリアだけに任せた事に後悔の色を見せる。
 ティピカの様子を見たレオラが「他の職員が同行していたしたら、巻き添えを食ってもっと被害が大きくなっていた」と、サイネリアをフォローした。
 長い付き合いのサイネリアだから庇ったという事もあるが、レオラの言った事に間違いはない。
 ギルドで聴取と拷問にけた職員が、レオラ達と共に隔離された地下室に行っていたとしたら、その職員も黒く渦巻く空間に飲み込まれた可能は高い。
 もしそうなっていたら、カズがレオラと職員二人を庇う事になり、被害はもっと大きくなっていただろうと、レオラは確信していた。

 レオラに命の危機がないと、ティピカが少し安心した数分後、サブ・ギルドマスターのヤドリギが代わりに治療室な姿を見せた。(ギルドマスターが来ないのは、現在帝都を離れているため)
 先に治療室に来たティピカの様に、目に見えた動揺は一瞬だけで、その後はレオラとサイネリアからこうなった経緯と、隔離された地下室でどの様に負傷したのかを大まかに聞き、今はする事を冷静に判断する。
 詳しい話は後程にして、レオラの治療と事が起きた荒野と、隔離された地下室を調べるよう指示を出そうと、ヤドリギは考え整理する。
 だが実際はSSランクの冒険者のレオラ第六皇女が、隔離された地下室で負傷したのはただ事ではないと、内心大慌てだった。
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