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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

713 狙われるレオラ と アイリスの危険な囮作戦 7 隔離された秘密の場所

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 アイリスを見送ったレオラは、冒険者ギルド本部に向かうと、カズに声を掛ける。

「行くぞ。カズ」

「……」

「聞いているのか?」

「ん? あ、はい」

「刺されたとこは治したんだろ」

「なんかちょっと…いえ、大丈夫です」

「急ぎギルドに行きサイネに報告し、現場に職員と衛兵を向かわせる」

「わかりました。場所はどうしますか?」

「ギルド内は人目があるか。この時間なら裏通りで大丈夫だろ」

「わかりました〈ゲート〉」

 緊急事態という事と、既に見られてしまっているので、ネモフィラの前で今日三度目の空間転移魔法ゲートを使用する。
 冒険者ギルド本部の裏通りに誰もいない事をカズが確認すると、一度戻りレオラとネモフィラに行けると伝える。

「今なら大丈夫そうです」

「お前達も、見を事の口外を禁じる」

 レオラは正門で警備を続ける女性騎士二人に命令すると、空間転移魔法ゲートを通り、薄暗くなりつつある冒険者ギルド本部の裏通りに出る。
 続いてネモフィラが通り、最後にカズが刺客者を持って通る。

「転移スゴいです。カズ師匠」

「他言無用で頼むよ。戻ったら、皆にも黙ってるよう言っておいてくれ」

「はい!」

 飛翔魔法だけではなく、個人で大人数を転移させる魔法を使えるカズに、キラキラした視線を向けるネモフィラ。
 危機からアイリス主人を守り、無傷で屋敷に戻って来たので、安心して素の感情が表情に表れた。

「アタシが先に入り、サイネを呼んでくる。二人はこのまま待機しててくれ」

「誰かに見られる前に入りたいので、急いでください」

「わかっている。すぐに戻る」

 レオラは何時も通り裏から冒険者ギルド本部に入り、十分程でサイネリアを連れて戻って来る。
 ざっくりと事情を説明したらしく、サイネリアは気を失っている刺客者を見ると、急いでギルド本部の倉庫地下へと案内する。
 事が事なので直属の上司にだけ伝え、他のギルド職員に見られないようにして倉庫地下へ向かう。
 ネモフィラの事は移動中にアイリス第五皇女の騎士で、今回起きた事件の証人として来てもらったと説明をした。

 冒険者ギルド本部の倉庫地下には、極々一部の者しか知らない隔離された秘密の階層がある。
 そこは分厚い壁と頑丈な柵に覆われ、生きたまま捕らえてきたモンスターの研究をするのに使われる事が多い。
 だが稀に違う使われ方もする。
 帝国を裏切り国賊として捕らえられた貴族や、皇族を暗殺しようとした組織の幹部、そういった者達から情報を全て吐かせるための拷問場所として、など。
 サイネリアの同僚で、ここを知るものはいない。
 第六皇女レオラの専属職員として勤めてきた事で、この場所を教え来る事も許されていた。
 ただこの場所への案内するというだけで、同席する事を許されてはいなかった。
 今回は緊急という事と、第六皇女レオラが直接関わっている事で、初めて同席する事を上司から特別に許可された。
 レオラ第六皇女が直接関係している事なら、サイネリアに経験させる良い機会だと任せる事になった。
 何かあった場合でも、帝国の守護者の称号を持ち、SSランクの冒険者なら対処可能との判断。

 この後良くも悪くも、大変な事態になるとは、誰も予想が付かなかった。

 サイネリアに手を引かれて来たネモフィラが目隠しを外し、薄暗い異様な空間を見て生唾を飲み込む。
 地下に移動する途中で、ネモフィラだけに目隠しをしていた。
 レオラはこの場所を知っているので、目隠しの必要はなく、カズは刺客者を運んでいるので目隠しさせる事はない。
 ただしこの場所の事は口外しないようにと、ギルド職員のサイネリアだけではなく、レオラからも言われた。
 そんな物騒な場所に行きたくもなければ、関わり合いたくもないと思うも、刺客者を捕らえて運んできたので、状況から拒否する事はできない。
 どちらかといえば証人として来ただけのネモフィラが、こんな場所に来る羽目になってしまって可哀想だから。

 刺客者が気を失っている間に、装備品を全て外して、口内に仕込んであった毒を取り除いた。
 目隠しはそのままにして、何の変哲もない安易な椅子に座らせて、両手後ろ手に縛り、両足を椅子の脚に縛り固定する。
 次に舌を噛んで自害しないようにと、頑丈な縄を口に咥えさせて頭の後ろで縛る。
 完全に口を覆う猿ぐつわにしないのは、質問に答えられなくなってしまうから。
 頭を縦や横に動かして答えさせるのでは、詳しい情報を聞き出せないため。

「とりあえずは、こんなものか。アタシ以外は初めてか。良くも悪くも、この経験を活かせるようにしろ。耐えられないと感じたら、ここを出てあちらの待機部屋で休め。一度閉じたら終わるまで出る事はできないぞ」

「え?」

「なッ!」

「そうなのか!」

 ギルド本部でも一部の職員しか知らない異様な場所は、一度入ると事が済むまで出れないとレオラに聞き耳を疑う。

「よほどの事でもなければ、数日かかったりはしない。本来聴取のたぐいは、ギルドの者がおこなうが、今回はアタシがやるから必要ない。サイネは距離を取って、捕えたコイツが言った事を記録だ。待機部屋に記録用の道具があるはずだ」

「わかりました」

「ネモフィラはサイネの側で待機して、今回の事を話してくれ」

「はい」

 サイネリアと待機部屋に移動して、記録用紙とペンの他に、折りたたみの簡易なテーブルと椅子を、ネモフィラに手伝ってもらい出す。

「ここなら問題ないと思うが、カズは近くにいてくれ」

 カズは刺された左腕が少し気になりなからも、頷きレオラと捕えた刺客者の近くに。

「刺されたところは治したんだろ。何か気になるのか?」

「魔力の流れが……いや、なんでもない(気のせいかな)」

 記録をするサイネリアの用意が出来たところで、刺客者に掛けたパラライズをカズが解除して、レオラが刺客者の頬を叩き目を覚まさせる。


 ・お前は誰だ?
 ・帝国に潰され元セテロンあの国との関係は?
 ・他に仲間は?
 ・御者と仮面を着けていた三人は誰だ?
 ・死者をどうやって操った?
 ・仮面の効果はなんだ?
 ・どうやって自爆させた?
 ・仮面やリボルバー火薬武器を、何処で入手した?
 ・黒幕は居るのか?


 意識が戻ったのを確認すると、レオラが矢継ぎ早に質問をぶつける。
 しかしどの質問に対しても、何も反応しない。
 レオラは埒が明かないと、刺客者の腹部に蹴りを入れる。
 椅子に座らされ縛られた刺客者は、2メートル程吹っ飛ぶ。
 痛がる様子はなく、黙ったまま何も答えない。
 レオラは椅子を立たせず、腹部を踏みつける。
 流石に効いたらしく、大きく息を吐き出しむせる。

「時間をかけるつもりはない。全て吐け!」

 レオラの威圧を込めた怒声が刺客者に飛ぶ。
 離れた所で居るサイネリアとネモフィラは、それを聞きビクッ! と反応して、背筋が寒くなる。
 ネモフィラは訓練の時とは違うレオラの迫力に恐怖を感じる。
 サイネリアもレオラの見せる事のない一面に、怖いと思い手が震えた。
 カズはそれに気付き、一声掛けてレオラから離れてサイネリアとネモフィラの所へ。

「二人とも大丈夫?」

「長い間レオラ様を担当してきましたが、あんなレオラ様は初めて見ました」

「相手はかなりの手練れで、皇族を狙った奴だから、死なない程度に拷問してでも、全てを聞き出さないとならない。レオラ様はそう言うだろうよ。ネモフィラも、もう少し力を抜いて落ち着け」

「は、はい。カズ師匠」

「……師匠?」

「今、そこに食いつかなくていいから。(俺だって拷問してるとこなんていたくないさ。でも弱音は二人を不安にさせるから言えない)」

 サイネリアとネモフィラの緊張の糸を緩め、刺客者の口を割らせようとしてるレオラの所に戻る。
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