上 下
721 / 784
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

700 師匠と弟子?

しおりを挟む

 ネモフィラと会話をしながら屋敷の正門を通り、アレナリアと女性騎士達が訓練をしている場所に戻って来た。
 するとそこには、書類仕事という名の公務を終えた、この屋敷の主である第五皇女アイリスと、侍女とカミーリアの姿があった。
 今回がアレナリアに教わる最後の訓練と聞き、仕える騎士達の様子を見に来ていた。
 カズとネモフィラが戻って来た事に気付いたアイリスが 二人に近付き声を掛ける。

「部屋から見えてましたよ。飛べるようになったのね」

「はい。カズ師匠のおかげで、飛翔魔法を習得しました」

「カズさんが師匠ですか?」

「カズが…カズ殿が師匠?」

「し…は?」

 ネモフィラがカズに対しての敬称が、さんから師匠になった。
 アイリスとカミーリアは不思議そうにカズを見ると、そのカズ自身も何故? という表情を浮かべた。

「先生は断られたので、師匠にしました」

「しました。じゃなくて、今まで通りでいいって言ったよね!」

「惜しげもなく希少な飛翔の魔法を教えてくれ、優しく手ほどきしてくれので、その敬意を」

「いいよ。そういうのは」

 大きく手を振り、カズは師匠呼びを拒否する。

「いいではないですか。カズ師匠さん」

 面白そうだとアイリスもカズを師匠呼びをする。

「勘弁してください。アイリス様。レオラ様の耳にでも入ったら何を言われるか(弟子を取ったのか? なら帝都に永住する気になったって事だな。とか、言われそう)」

「あらそう。でもネモフィラが呼ぶのは許してあげて。感謝してるからこそ、敬意を込めて呼んでいるのよ」

「アイリス様の言う通り。カズ師匠に教われば、すぐに習得出来る。アレナリアさんよりも教え方が優しい」

「カズさんたちが旅に出てしまうなんて残念だわ。戻って来るわよね?」

「目的が済めば一度は戻って来るつもりでいます」

「戻って来たら、旅の話を聞かせてください」

「いつになるかわかりませんが、それでよろしければ」

「楽しみに待ってます」

 アイリスは侍女とカミーリアと共に執務室に戻る。
 一日で飛翔魔法フライ習得したネモフィラには、魔力回路の負担になるからと、今日はもう魔力に関する訓練を一切しないように言い聞かせた。

 日が傾く前にアレナリアの魔力操作の指導訓練は終わり、レラを迎えに行きつつローラとアイリスに別れの挨拶して屋敷を後にする。
 川沿いの家に着くと、既にビワが戻って来ていた。
 翌日の正午過ぎに、レオラがやって来ると言伝を受け取る。
 カズ達がこの日アイリスの屋敷に行ったとビワから聞き、公務や雑務を終わらせてから送別会をしようとレオラが伝えて来たらしい。
 送別会の事は事前に話してあったが、時間を決めてなかったので、言ってきたのだろう。

「明日は気が済むまで飲んでいいのよね」

「旅に出たら飲み潰れるなんて出来ないからな。でも、ほどほどにしてくれ」

「カズの許しが出た。あちしも飲んで食べる!」

「送別会じゃなくて、ただの宴会だな。まあいいが」

 翌日久々にレオラと酒を交わすので、この日は明日に備えて胃を休め、夕食を食べ過ぎないようにするアレナリアとレラ。
 カズは二日酔いの薬を、先に飲ませておくのを忘れないようにしようと思った。

「明日はカーディナリスさんも来てくれるんです。一緒に送別会の料理を使ってくれる事になってるんです」

「それは安心だ。レオラが何を要求してきても大丈夫そうだ。お目付け役がいてくれれば、無茶な飲み方はしないだろ(カーディナリスさんがビワに何かしてやりたいって、レオラから聞いて来るのは知ってたが、料理の事だったのかな?)」

 翌日を楽しみに、それぞれの寝室で就寝。
 カズは三階の部屋に移動し、レラはアレナリアの部屋で、ローラとの話をしながら寝た。


 ◇◆◇◆◇


 料理はビワがカーディナリスと作ると言っていたので、作り溜めしたのを出さなくてもいい。
 飲み物は買い溜めしている物を出すより、新たに買って来る事にした。
 レオラのリンゴ酒はあるが、度数の低い他の酒はあまりない。
 カーディナリスがもし酒を飲むような事を言ってきても大丈夫なように、酒以外の飲み物も用意しておく事にする。
 茶葉は買ってきたのであるが、好みが合うか分からないので、そこはビワに選んでもらう。

 四人で朝食を済ませ、商店街の店が開く時間に合わせて買い物に出掛けた。
 カーディナリスとレオラの好みに会わせた茶葉と、度数の低い酒を買う。
 買い物はそれだけだが、ビワが行き付けになっている店に顔を出してから、川沿いの家に戻った。
 正午過ぎから思う存分飲み食い出来ると考えてるアレナリアとレラは、買い食いする事はしなかった。
 それを感じ取ったカズは、二日酔いの薬を先に飲むことを、アレナリアとレラに約束させた。
 苦みがある薬なので渋い顔をしていたが、翌日半日以上寝たきりなんて事になるよりはマシだと言い聞かせた。

 三十分程で済ませるつもりの買い物が、ビワの挨拶回りをした事で、川沿いの家を出てから戻るまで、一時間半も掛かってしまった。
 荷物は多くないが、正午まで不要な物と持って行く物の仕分けをしておく。
 明日に不要な物を処分して、夜までには全てを終えて、明後日の早朝には出立する。

 荷物整理を切りのよいところで済ませ、正午にはリビングに揃いレオラ達が来るのを待つ。
 ビワはキッチンで料理を作れるように準備をする。
 カズはアレナリアとリビングのソファーに座り、昨日のネモフィラの訓練成果について話していた。
 レラはアレナリアの隣で、ごろごろと猫のようにソファーで転がっている。 

「昨日渡したレラ専用のナイフは、もう自分で管理するようにしろ。俺が持っていても意味がない。旅に出たら、何が起きるかわからないからな」

「自分の身は自分で守れって。カズは守ってくれないの?」

「念のためにだよ。無意味に振り回すようなら取り上げるけどな」

「そこまで子供じゃないもん」

「今の行動を見てると、子供にしか見えないぞ」

 一人だけソファーでごろごろしている自分が、子供じゃないと言っても説得力がないと気付き、ごろごろするのをやめて座るようにした。

 家の玄関扉が叩かれ、カズが出迎えに移動する。
 扉を開けるとレオラが「来たぞ」と言い、その後ろにカーディナリスと守護騎士のアスターと居た。
 レオラと守護騎士だけなら、扉を叩く事なく入ってくるが、今回はカーディナリスが同行しているので、その様な事はしない。
 レオラが所有する家ではあるが、今はカズ達が住んでいるので、ノックもせず入っては無作法と叱られるからだった。
 料理をすると言っていたわりに荷物が少ないのは、以前にカズがアイテムポケットを付与した手提げバッグを使っていたから。

「ようこそ。さあ中へどうぞ。カーディナリスさんもわざわざありがとうございます」

「ビワとしばらくのお別れですもの。今日はビワと一緒に、腕を振るわせてもらいますよ」

「それは楽しみです」

 カズは三人を部屋の中に案内する。
 先ず顔を合わせたアレナリアとレラが「こんちには」「こんちは~」と挨拶をする。
 次にキッチンに居るビワが「いらっしゃいませ。ようこそカーディナリスさん」と、嬉しそうにカーディナリスに駆け寄る。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する

昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。 グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。 しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。 田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

処理中です...