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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
700 師匠と弟子?
しおりを挟むネモフィラと会話をしながら屋敷の正門を通り、アレナリアと女性騎士達が訓練をしている場所に戻って来た。
するとそこには、書類仕事という名の公務を終えた、この屋敷の主である第五皇女アイリスと、侍女とカミーリアの姿があった。
今回がアレナリアに教わる最後の訓練と聞き、仕える騎士達の様子を見に来ていた。
カズとネモフィラが戻って来た事に気付いたアイリスが 二人に近付き声を掛ける。
「部屋から見えてましたよ。飛べるようになったのね」
「はい。カズ師匠のおかげで、飛翔魔法を習得しました」
「カズさんが師匠ですか?」
「カズが…カズ殿が師匠?」
「し…は?」
ネモフィラがカズに対しての敬称が、さんから師匠になった。
アイリスとカミーリアは不思議そうにカズを見ると、そのカズ自身も何故? という表情を浮かべた。
「先生は断られたので、師匠にしました」
「しました。じゃなくて、今まで通りでいいって言ったよね!」
「惜しげもなく希少な飛翔の魔法を教えてくれ、優しく手ほどきしてくれので、その敬意を」
「いいよ。そういうのは」
大きく手を振り、カズは師匠呼びを拒否する。
「いいではないですか。カズ師匠さん」
面白そうだとアイリスもカズを師匠呼びをする。
「勘弁してください。アイリス様。レオラ様の耳にでも入ったら何を言われるか(弟子を取ったのか? なら帝都に永住する気になったって事だな。とか、言われそう)」
「あらそう。でもネモフィラが呼ぶのは許してあげて。感謝してるからこそ、敬意を込めて呼んでいるのよ」
「アイリス様の言う通り。カズ師匠に教われば、すぐに習得出来る。アレナリアさんよりも教え方が優しい」
「カズさんたちが旅に出てしまうなんて残念だわ。戻って来るわよね?」
「目的が済めば一度は戻って来るつもりでいます」
「戻って来たら、旅の話を聞かせてください」
「いつになるかわかりませんが、それでよろしければ」
「楽しみに待ってます」
アイリスは侍女とカミーリアと共に執務室に戻る。
一日で飛翔魔法習得したネモフィラには、魔力回路の負担になるからと、今日はもう魔力に関する訓練を一切しないように言い聞かせた。
日が傾く前にアレナリアの魔力操作の指導訓練は終わり、レラを迎えに行きつつローラとアイリスに別れの挨拶して屋敷を後にする。
川沿いの家に着くと、既にビワが戻って来ていた。
翌日の正午過ぎに、レオラがやって来ると言伝を受け取る。
カズ達がこの日アイリスの屋敷に行ったとビワから聞き、公務や雑務を終わらせてから送別会をしようとレオラが伝えて来たらしい。
送別会の事は事前に話してあったが、時間を決めてなかったので、言ってきたのだろう。
「明日は気が済むまで飲んでいいのよね」
「旅に出たら飲み潰れるなんて出来ないからな。でも、ほどほどにしてくれ」
「カズの許しが出た。あちしも飲んで食べる!」
「送別会じゃなくて、ただの宴会だな。まあいいが」
翌日久々にレオラと酒を交わすので、この日は明日に備えて胃を休め、夕食を食べ過ぎないようにするアレナリアとレラ。
カズは二日酔いの薬を、先に飲ませておくのを忘れないようにしようと思った。
「明日はカーディナリスさんも来てくれるんです。一緒に送別会の料理を使ってくれる事になってるんです」
「それは安心だ。レオラが何を要求してきても大丈夫そうだ。お目付け役がいてくれれば、無茶な飲み方はしないだろ(カーディナリスさんがビワに何かしてやりたいって、レオラから聞いて来るのは知ってたが、料理の事だったのかな?)」
翌日を楽しみに、それぞれの寝室で就寝。
カズは三階の部屋に移動し、レラはアレナリアの部屋で、ローラとの話をしながら寝た。
◇◆◇◆◇
料理はビワがカーディナリスと作ると言っていたので、作り溜めしたのを出さなくてもいい。
飲み物は買い溜めしている物を出すより、新たに買って来る事にした。
レオラのリンゴ酒はあるが、度数の低い他の酒はあまりない。
カーディナリスがもし酒を飲むような事を言ってきても大丈夫なように、酒以外の飲み物も用意しておく事にする。
茶葉は買ってきたのであるが、好みが合うか分からないので、そこはビワに選んでもらう。
四人で朝食を済ませ、商店街の店が開く時間に合わせて買い物に出掛けた。
カーディナリスとレオラの好みに会わせた茶葉と、度数の低い酒を買う。
買い物はそれだけだが、ビワが行き付けになっている店に顔を出してから、川沿いの家に戻った。
正午過ぎから思う存分飲み食い出来ると考えてるアレナリアとレラは、買い食いする事はしなかった。
それを感じ取ったカズは、二日酔いの薬を先に飲むことを、アレナリアとレラに約束させた。
苦みがある薬なので渋い顔をしていたが、翌日半日以上寝たきりなんて事になるよりはマシだと言い聞かせた。
三十分程で済ませるつもりの買い物が、ビワの挨拶回りをした事で、川沿いの家を出てから戻るまで、一時間半も掛かってしまった。
荷物は多くないが、正午まで不要な物と持って行く物の仕分けをしておく。
明日に不要な物を処分して、夜までには全てを終えて、明後日の早朝には出立する。
荷物整理を切りのよいところで済ませ、正午にはリビングに揃いレオラ達が来るのを待つ。
ビワはキッチンで料理を作れるように準備をする。
カズはアレナリアとリビングのソファーに座り、昨日のネモフィラの訓練成果について話していた。
レラはアレナリアの隣で、ごろごろと猫のようにソファーで転がっている。
「昨日渡したレラ専用のナイフは、もう自分で管理するようにしろ。俺が持っていても意味がない。旅に出たら、何が起きるかわからないからな」
「自分の身は自分で守れって。カズは守ってくれないの?」
「念のためにだよ。無意味に振り回すようなら取り上げるけどな」
「そこまで子供じゃないもん」
「今の行動を見てると、子供にしか見えないぞ」
一人だけソファーでごろごろしている自分が、子供じゃないと言っても説得力がないと気付き、ごろごろするのをやめて座るようにした。
家の玄関扉が叩かれ、カズが出迎えに移動する。
扉を開けるとレオラが「来たぞ」と言い、その後ろにカーディナリスと守護騎士のアスターと居た。
レオラと守護騎士だけなら、扉を叩く事なく入ってくるが、今回はカーディナリスが同行しているので、その様な事はしない。
レオラが所有する家ではあるが、今はカズ達が住んでいるので、ノックもせず入っては無作法と叱られるからだった。
料理をすると言っていたわりに荷物が少ないのは、以前にカズがアイテムポケットを付与した手提げバッグを使っていたから。
「ようこそ。さあ中へどうぞ。カーディナリスさんもわざわざありがとうございます」
「ビワとしばらくのお別れですもの。今日はビワと一緒に、腕を振るわせてもらいますよ」
「それは楽しみです」
カズは三人を部屋の中に案内する。
先ず顔を合わせたアレナリアとレラが「こんちには」「こんちは~」と挨拶をする。
次にキッチンに居るビワが「いらっしゃいませ。ようこそカーディナリスさん」と、嬉しそうにカーディナリスに駆け寄る。
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