上 下
718 / 789
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

697 飛翔魔法習得訓練 1 ネモフィラの意気込み

しおりを挟む
 路線の乗り合い馬車が停車する所まで一緒に行き、ビワが乗車したのを見送ってから、カズ達はタクシー辻馬車でアイリスの屋敷に向かった。
 一般の馬車が許可なくアイリス第五皇女の屋敷の敷地内に入る事は出来ないので、何時ものように屋敷から離れた池の近くで降りて歩いて向かう。
 少しすると屋敷の正門が小さく見え、警備をしている女性騎士の二人が、カズ達の存在に気付いた。
 正門で警備をしている女性騎士の一人が、他の女性騎士に合図をして、カミーリアと主人のアイリス第五皇女に連絡をつける。

 アレナリアが正門で警備をしている女性騎士二人と話しをしていると、カミーリアが小走りで屋敷からやって来た。
 先ずはアイリスに挨拶をする事になり、カミーリアに付いて屋敷内へと入って行く。
 アイリスの執務室で挨拶と、訪ねて来た用件を告げた。
 訓練は何時も通り手の空いている者達が集まり、アレナリアに魔力操作と魔力維持の訓練を受ける。
 レラもコンルと一緒に訓練に混ざる。
 一通り女性騎士達を見ると屋敷の一階に戻り、まだ水から長時間離れる事ができないローラの所に行き魔力操作を教える。

 カズは女性騎士達の訓練の様子を見ていると、細剣レイピアを使う小柄なネモフィラがカミーリアと共に姿を現した。
 これだけ騎士がいるのだから、剣の訓練をつけてもらうようレラに言い【アイテムボックス】から、レラ専用の短剣ナイフを出し渡した。
 最初はカミーリアにレラの剣さばきを見てもらい、その後似た剣さばきをする騎士がいれば、その騎士に教えてもらえばどうだと提案する。
 レラの事をカミーリアに任せ、カズはネモフィラと共に皆から離れた場所に移動し、飛翔魔法フライを覚えたいかの最終確認をする。

「習得出来るか保証はないけど、それでもいい?」

「してみせます」

 ネモフィラは真剣な眼差しでカズを見上げる。
 落ち着いてはいるが、内心やる気に満ちていた。

「わかった。なら先ずは魔力操作を見せてもらえるかな」

「アレナリアさんから、これの作り方を教えてもらったので、これを使います」

 ネモフィラが取り出したのは、以前魔力操作がどれ程できるか見る際に使った紙風船。
 手慣れた感じで二個の紙風船に息を吹き入れて膨らめ、左右の手で一個ずつ持ち、手の平を上に向け、紙風船を交互に上下させて徐々に高くしていく。
 多少の風が吹いても紙風船は飛ばされる事なく、ネモフィラの手の平に向かって下りてくる。
 これで終わりではなく、今度は手の平を返して下に向け、紙風船を同じ様に上下させる。
 魔力操作と魔力を込めて維持させるという両方ができなければ、紙風船が風で飛んでいってしまうか破裂してしまう。
 そうならないという事は、適度に魔力を込めて、それを操れている証拠。

「驚いた。予想以上に出来てる」

「警護の任が終わった後は、自室で魔力操作をしていた。最初の頃は何度も割れてたから、紙風船を作るのにもなれた」

「そこまでしていたのか。これなら大丈夫そうだ。ちなみに、自分の魔力属性はわかる?」

「以前の訓練の時に、アレナリアさんから風と水だと教えてもらった。魔力操作を覚えてから、風と水から感じたことのない感覚があった。でもどちらの属性魔法を使ったことないから、詳しくはわからない。使えるなら使ってみたい気もする。そうすればアイリス様の護衛に役立つ(あと飛翔魔法を覚えれば、男の騎士にチビって言われても、見下されず逆に見上げさせてやれるようになる)」

 男性騎士に嫌な思いをさせられた事があったネモフィラは、それを払拭させるさせるために、飛翔魔法フライを覚えて使えるようになりたいと内心で強く思い、魔力操作の訓練を一人努力していた。
 この事を知るのは、主人である第五皇女のアイリスと、その場に居た数名の女性騎士だけ。
 ネモフィラの気持ちを汲んで、アイリスはその場の出来事を、一緒に居た女性騎士達に口止めをしていた。

 そんな思いをつゆ知らず、主人に仕える騎士の鑑だと思ったカズは、ネモフィラの属性を調べるのに《分析》を使いステータスを確認した。
 すると確かに風属性と水属性の適性があった。
 魔力操作を覚えた事で、使える属性がネモフィラ自身で分かるようになったのだろう。
 ネモフィラの考えを聞き、魔力操作が十二分だと確認をしたカズは、必ず習得させてやりたいと、早速飛翔魔法フライの習得に取り掛かる。

 強化系の魔法とスキルしか使った事がないネモフィラに、風属性の魔力を自身に纏うように言っても無理だろう。
 風属性の魔法を覚えさせて、それで風属性の魔力だけを感じとれるようにさせる。
 なんて事をやっていては、今日中に飛翔魔法フライを習得させるのは、ほぼ不可能。
 そこで実際に飛んでもらい、全身で感じ取ってもらう事にした。
 カズは指定した範囲内にいる者に、飛翔能力を一時的に与える〈オールフライ〉を使用した。
 指定した範囲内にはネモフィラしかいないので、地上から浮かび上がるのはカズとネモフィラの二人だけ。

「え? おわ! う、浮かんでる」

「一時的に飛べるようにしたから、これで感覚をつかんでみてくれ」

「そ、そう言われましても」

 流石にすぐに空中で自由自在に動けるわけはない。
 全身で一番重い部位の頭が下がって逆さになってしまい、そこで最初の空中浮遊は終了。
 二度目は時折吹く風で移動してしまったり、横にくるり縦にくるりと一回転してしまう。
 一回の空中浮遊は十分にして、間に五分の休憩を入れての三度目、ネモフィラはまだあたふたしていた。
 そうそう簡単にはできない。
 五度目の空中浮遊が終えても、酔って気持ち悪くなってないのはいい傾向だった。
 自身で飛ぶことが出来るようになっても、船酔いならぬ空中酔いをしてしまうようでは、習得しても使えないのと同じで意味がない。
 七度目の空中浮遊を終えた合間の休憩中、始める前あれほど意気込んでいたネモフィラの表情が若干暗くなり、見るからに気持ちが沈んできていた。

「なかなか難しいですね。ボクにできるのかな」

「そう焦らずに。空中で姿勢を維持出来るようになってきてるから、コツを掴めばすぐに出来るよ(ボクっ娘なの?)」

「そうでしょうか?」

「今日中に自由自在に飛ぶとまではいかないかも知れないけど、きっと習得出来るよ。魔法は想像力が取り分け重要だと言うから、自分の飛ぶ姿を思い浮かべて出来ると信じよう。魔力操作は出来てるし、魔力は二割も減ってないんじゃないかな」

「そうですね。今のところ魔力消費による疲れはないです。魔力操作の訓練を始めた頃は、長くやり過ぎると立ちくらみした事もありました」

「それだけ成果が出てるんだから大丈夫。習得出来るって自信を持っていこう」

「そうですね。これくらいであきらめては、アイリス様に叱られてしまいます」

 ネモフィラは始める前のやる気に満ちた表情になり、沈んでいた気持ちが上がってきた。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

碧天のノアズアーク

世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。 あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。 かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。 病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。 幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。 両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。 一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。 Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。 自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。 俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。 強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。 性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして…… ※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。 ※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。 ※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。 ※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...