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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

696 魅かれ合い求める

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 タクシー辻馬車が停まると三人を起こして川沿いの家に戻る。
 空腹感はあまりないという事で、夕食は買って来たパンを一つ二つ食べて済ませる。
 腹が満たされた事で、また眠気が押し寄る。
 食後すぐに寝てしまったレラを連れて、アレナリアは「先に寝るわ。おやすみ」と、シャワーも浴びずに寝てしまった。
 余程眠かったらしい。

 カズは夕食で使った食器を洗い、その間ビワは風呂に入り一日の疲れを湯に溶かす。
 食器を洗って水気を拭き取り棚に片付けて、ちょっと寝酒でもと飲もうかと用意する。
 フルーツミルク酒にリンゴ酒を合わせた一杯を持ち、リビングのソファーに座り一口ごくり。
 寝酒と言っても耐性があるので、大樽くらいの量でも飲まなければ、酔うような事はない。
 飲み終える頃に、ビワが風呂から出てきた。

「何を飲んでたんです?」

「お酒をちょっとね」

「私にも、もらえますか」

「珍しいね。何がいい?」

「レオラ様が飲んでるのを」

「フルーツミルクのお酒に比べて強いけど大丈夫?」

「たまには飲んでみたいです」

「わかった。濃いと思ったら、ミルクで割れば飲みやすいよ。水も置いとくから」

 リンゴ酒をコップに半分弱入れ、水を入れたコップとミルクが入った容器をリビングのテーブルに置き、カズは風呂に入る。
 ビワはリンゴ酒が注がれたコップを口に運び、少しだけ飲んでみた。

「美味しい。でも、やっぱり私には強い」

 度数が高くて自分には少し強いと感じて水を一口飲み、カズが飲みやすいと言ったミルクを入れる。
 ミルクで割ったリンゴ酒を少し飲む。

「カズさんが言ったようにしたら、スゴく飲みやすい」

 本当に珍しく、ビワはちびりちびりと一人酒を楽しむ。
 ミルクで割ったリンゴ酒が半分程になったところで、カズが風呂から出てきた。
 髪を拭いているビワの向かい側に座り、まだ酒が残っているのを見て「俺も一緒に飲んでいいかな?」と、ビワに付き合う。
 ほろ酔いのビワは笑みを見せて「もちろん」と嬉しそうに承諾。
 さっきがフルーツミルク酒とリンゴ酒を合せた酒だったので、今度は麦シュワを用意してビワの隣に座った。

「今日は朝早くからお疲れさま」

 カズは麦シュワが入ったコップを持ちビワの方に。

「カズさんも、お疲れさまでした」

 その意味を理解したビワは、ミルク割したリンゴ酒が入っあコップを持ち、カズの持つコップに軽く当てる。
 互いに自分のコップに口を付けて一口飲む。
 コップをテーブルに置くと、乾いた前髪がさらりと垂れる。
 酒で湿った唇をぺろりと舐め、頬がほんのり赤くなったビワの横顔はとても色っぽい。
 思わずカズはじっと見詰めてしまった。

「私の顔に…何かついてますか?」

「綺麗だなと思って」

「ふふッ。酔ってるんですか?」

 何時もの様に真っ赤になると思っていたが、予想外にビワは笑って答えた。
 滅多に見る事はないビワの雰囲気にカズは見惚れて、酒ではなくビワに酔う。
 カズはソファーに置かれているビワの左手に自分の右手を重ね、二人は互いに顔を近づけ、目を閉じて唇を合わせる。

「少し苦い、麦のお酒の味がします」

「ビワは甘い。とても甘いよ」

 互いに一言いうと二人は魅かれあい、二度と三度と唇を合わせた。
 カズがビワを求めると、ビワはそれに応え寝室に。
 ほろ酔いで色っぽくなったビワとベッドに入り、互いに心と肌を合わせ、幸せな夜を過ごした。


 ◇◆◇◆◇


 昨日の寝不足気味に酒が入った事で、ビワは朝になっても起きる感じはない。
 先に起きたカズの視界に入ってくるのは、寝息を立てるビワ。
 カズは思わず見入ってしまう。
 更に寝言で名前を呼ばれ、その寝顔の可愛いらしさに、男の本能が揺さぶられる。
 しかしここは、ビワの頭と尻尾を撫でるだけで我慢して、ビワの代わりに朝食の支度をする。

 一階に下りて顔を洗い、窓を開けて換気する。
 キッチンに移動して、デパートのパン屋で購入したバゲットを【アイテムボックス】から出し、3センチくらいの厚さに切り、大きめの木製のバスケットに入れておく。
 一緒に買ったジャムも用意する。
 リンゴの皮を剥き、一口大に切ってから皿に盛りる。
 お湯を沸かして、商店街で購入した麦のお茶を飲み、静かな朝のひとときを過ごす。

 二階から扉の閉まる音が聞こえ、ビワが一階に下りてきた。
 何時もより遅く起きてきたが、それでも先に寝たアレナリアとレラよりは早起き。
 顔を洗って眠気を覚まし、キッチンで茶を飲むカズの所にいき、向い側の椅子に座る。

「おはようございます」

「おはようビワ。二日酔いはしてない?」

「ちょとだけ変な感じがします。でも大丈夫です」

「そう? 無理しないで。仕事は休んで良いって、レオラが言ってたし」

「明日が最後になると思うので、今日は行きます」

「本当に大丈夫? 無理しないで。お茶飲む?」

「お水をもらいます」

 コップに水を注ぎ、ビワの前に置く。
 ゆっくりと水を半分飲み、ビワは昨日の事を思い返す。

 アレナリアに手伝ってもらいながら料理を作ってた時に、カズに甘えて抱いてもらったと聞いていたビワは、酔った勢いで自分から抱いてもらおうと思っていた。
 ただカズの方から求めてきたので、自分から求める事はしないで済んだので、そこは少し良かったと。
 酒の勢いでも借りなければ、赤面せず自分から求める事はできなかった。
 結果的にはカズと二人で酒を飲み交わし、何度も唇を合わせ、肌を重ねて一緒に寝たので、心も体も満足していた。

「どうしたのビワ? 顔赤いよ。まだお酒が残ってるの?」

「い…いえなんでも。お酒は残ってません。ただ昨夜のことを……」

「気持ち良かった? 俺は最高だった」

「わ…私も……言わせないで」

 カズは真っ赤になるビワの顔を覗き込む。

「いつでも誘って。寝ている所に入ってきてもいいから」

「……はい」

「楽しみにしてる」

「もうッ!」

「ごめんごめん。でも俺はビワを抱きたくなったら。いいかな?」

「……起こしてくださいよ」

「どうしようかなぁ」

「カズさんたら!」

 可愛い反応をするビワを見て、カズは思わずちょっとだけからかってしまい、ビワは頬を膨らませて怒る。
 昨夜とはまた違う一面を見れたので、これはこれで良いとカズは満足する。
 これ以上は本当にビワを怒られてしまうと、カズは「ごめん」と謝り、膨らませている頬にキスをした。

「こんな事じゃ…今回だけですからね」

 ビワは呆気なくカズを許した。
 レラがこの場に居たら、チョロすぎるよビワ、とでも言っていただろう。
 機嫌を直したビワと、新たに淹れたハーブティーを飲んでいると、アレナリアとレラが起きてきた。
 アレナリアは完全に起きていないレラを連れ、洗面所に顔を洗いに行く。
 カズはフライパンを温めて、木製のバスケットに並べてあるパンを、弱火で両面を軽く焼いていく。
 焼いたパンの匂いを嗅ぎつけ、レラは目をパッチリと開けて、キッチンにやって来る。
 二人が席に着いたところで、先にフルーツミルクを出し、次にフライパンで両面を焼いたパンを木製のバスケットに戻し、テーブルの中央に置く。
 各々好きにパンを取り、好みのジャムを塗る。
 パンを噛んだ時のサクッという良い音と、柑橘系ジャムの爽やかな香りと甘みが、朝食にはピッタリだった。

 何時もよりも少し遅いが、ビワは仕事に行くと言うので止めはしなかった。
 カズ達と一緒にアイリスの屋敷に行っても、女性騎士達の訓練をしている間ビワは見ているだけで、特にする事がないからだ。
 話し相手になりそうなローラは居るが、アレナリアと魔力操作の訓練をするだろう。
 そうなると、やはりビワは見学するだけでやる事はないので、レオラの屋敷に行き、残り少ない日を何時も通り仕事して過ごすことに。
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