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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

685 猟亭ハジカミを中継場所に

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 アレナリアの僅かな動揺に気付いたレラは、自分の胸を両手で寄せて谷間を作り、アレナリアに見せびらかす。

「今がそのくらいなら、私と同じくらいの身長になっても、ビワより小さいでしょ」

「そんなことないもん。例えそうだったとしても、アレナリアよりは大きいよ~だ」

「言ってくれるじゃない。今の段階でどうなのか、ちょっとさわらせなさいよ」

「やだよ~だ。カズにしかさわらせないもん」

「いいでしょ。減るもんじゃないんだから」

「来るなさわるな。ペチャパイのアレナリア」

「むっかァ。大きさは憧れか欲望かそれを使えば私だって。ちょっと私にも使わせなさいよ」

「ダメぇ~。これはあちしのために、カズが手に入れてくれたんだもん」

「部分的に大きくもなれるんでしょ。私だって一度くらいは巨乳になってみたいのよ!」

「来るなあっち行け。ぺったんこ、貧乳、洗濯板のアレナリア」

「そこまで言うか! このちんちくりんレラ」

「もうちんちくりんじゃないも~んだ」

 出掛けた早々カズの不安が的中していた。
 しかし止める者は居らず、二人の言い合いは、この後一時間も続いた。

 不安気な表情を時折浮かべるカズに、ビワが「二人を信じましょう」と声を掛ける。
 このままではビワに気を使わせてしまうと、カズは「そうだね」と微笑を浮かべ答えた。
 実際は残念な事になっているのだが。

 出勤で混み合う乗り合い馬車に揺られ、レオラの屋敷からは少し離れた場所で降りた。
 時間帯的に中央駅セントラル・ステーション付近は渋滞するので、帰りに乗る場所よりも手前で降りた。
 これは徒歩で向かった方が早いとのビワの判断。
 乗り合い馬車を降りると、ビワに付いて混み合う道を避けてレオラの屋敷に。

 裏口から先にビワが入り、五分程すると案内役としてグラジオラスが出て来た。
 そしてそのままカズをレオラの執務室に案内する。
 レオラは何時も通り書類に目を通して、サインをするという公務をしていた。

「あと二十分ほどで終わる。それまで茶でも飲んで待っていてくれ」

「わかりました」

 執務室の一階で待つカズに、案内してきてくれたグラジオラスが、ミントのような香りのハーブティーを淹れたティーカップ差し出す。
 カズは「ありがとう」と礼を言い、ティーカップを手に取り口に運ぶ。
 鼻に抜ける香りと、口の中がスーッとする爽快さはあるが、ミントほどキツくはなかった。
 脂っこい食事の後に飲むには良い。
 ガッツリとした肉を好むレオラの為に、カーディナリスが用意した茶葉だろう。

「待たせた。話していた通り、アタシは今日一日カズと出掛けて来る。日のある内には戻るつもりだ」

「畏まりました。カズ殿、レオラ様の護衛を宜しくお願い致します」

「わかりました。レオラ様に護衛は必要ないと思いますが」

「別部屋に荷物がある。それを持って行くぞ」

 執務室を出るレオラに付いて行き、五つの荷物をカズが【アイテムボックス】に入れ、二人で屋敷を出る。
 人目のつかない所で、カズが〈空間転移魔法ゲート〉を使用。
 一度で目的の半人半蟲族が暮らす村に転移出来るが、長距離を転移する場合は一度では無理で、何処かを中継して行かなければならないと説明してある。
 そこでレオラは、魔導列車が停まるブルーソルト駅がある街で飲食店をしている、かつてレオラの守護騎士をしていたジャンジとシロナの店を中継地点にしたら良いと言ってきた。
 午前中は仕込みをしているので、店は開けていないから、誰かに見られる心配はない筈だと。
 なので一度目の空間転移魔法ゲートは、カズも行った事がある猟亭ハジカミに繋げ、カズとレオラは移動した。

 空間転移魔法ゲートを通って出た場所は、以前レオラと一緒に行き、夕食を取った個室。
 調理場の方からはジャンジとシロナの声が聞こえ、レオラは個室を出て二人の所に。
 当然の事ながら、突如レオラが現れた事で、二人は凄く驚いていた。
 何故ならレオラが来る事を聞いてないからだ。
 更に店の扉が空きもしなければ、店内に誰が潜んでる気配もしなかった。
 そもそも自分達に対して、レオラが気配を消して来るような事はしないと分かっている。
 不可思議な事が起きたと、ジャンジとシロナの表情から見て取れ、レオラはカズが転移魔法を使えると話す。
 目的地まで距離があるために、中継地点としてここを選んだと。
 話した相手がただ側近や従者なら問題だろうが、ジャンジとシロナは現在レオラの守護騎士をしている三人よりも、信頼度は高いのだと、カズはレオラの話から聞いて知っている。
 なのでアスターとグラジオラスとガザニアには悪いが、まだジャンジとシロナ以上の信頼度はないと、カズは感じていた。
 なので転移魔法の事を話されても問題はない。
 たが内心では一言くらい先に言ってほしかったと、横目でレオラを見た。

 ジャンジとシロナが営む猟亭ハジカミは、レオラと同じ帝国の守護者の称号を持つグリズとミゼットも訪れている。
 そこで何度かカズ達の話題が出ては、情報交換という意味で話をしていた。
 レオラからも時折情報が来ていたので、カズの実力や能力はある程度予測はしていたが、個人で複数人を転移させられる魔法が使えるとは考えもしてなかった。

「これから村に行って来る。急で悪いが、持って行けるようなみあげはあるか?」

「でしたら子供たちに、お菓子を持っていってあげてください。シロナ、今日の分を」 

「すぐに用意するよ」

 ジャンジとシロナは厨房に戻ると、小さな紙袋にクッキーを五個ずつ入れ、三十袋用意した。

「どうぞレオラ様」

「こんなにも、売り物じゃないのか」

「構いませんので、持っていってください。クッキーはまた作ればいいだけです。それに我々もあまり行けてませんので、これくらいしかできませんが」

「時間をいただければ、もっと作ることが出来るんですが」

「いや、これで十分だ。村の子供たちに渡そう。せっかくの作りたてだ。カズ頼むぞ」

「わかりました。俺が預かります」

 カズはクッキーが入った小袋を【アイテムボック】に全て入れた。
 これで焼き立てのクッキーを子供達に渡す事が出来る。

「店が開くのは夕方だな。その前にもう一度来る。一応、個室を開けておいてくれ」

 レオラはそれを言うと、カズに行くぞと合図する。
 ジャンジとシロナの見ている前で〈空間転移魔法ゲート〉を使用し、レオラと共に猟亭ハジカミを後にする。
 実際目の当たりにたジャンジとシロナは、今の今までまでレオラとカズが居た場所をじっと見つめたまま動かなかった。

「ここからは歩いて行く」

「なんだ、村に直接転移しないのか」

「あとで騒ぎになってもよければ、もう一度ゲートを使うが」

「やめておこう。人の多い街から離れてるとはいえ、転移の使える者が村に居ると噂でも流れたら大変だ」

「そう思うのであれば、文句言わずきびきび歩く。来ると言ったのはレオラなんだ」

「わかっている」

 カズとレオラが空間転移魔法ゲートで出た場所は、半人半蟲が住む村がある森から、徒歩で三十分程の何も無い場所。
 森で監視をする村人から、目視で確認するには少し遠く、シックス・タウンからは遠過ぎて見られることはない。
 稀に村からシックス・タウンへ、またはシックス・タウンから村のある森へ向かう者がいるが、それは年に数人いるかどうか。
 なので突然何も無い空間から人が現れたとしても、見られる事はほぼない。
 見られたとしたら、それは出現する際の確認不足か、運が悪いと思うしかない。
 幸い今回は誰に見られることはなかった。
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