人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

文字の大きさ
上 下
706 / 807
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

685 猟亭ハジカミを中継場所に

しおりを挟む
 アレナリアの僅かな動揺に気付いたレラは、自分の胸を両手で寄せて谷間を作り、アレナリアに見せびらかす。

「今がそのくらいなら、私と同じくらいの身長になっても、ビワより小さいでしょ」

「そんなことないもん。例えそうだったとしても、アレナリアよりは大きいよ~だ」

「言ってくれるじゃない。今の段階でどうなのか、ちょっとさわらせなさいよ」

「やだよ~だ。カズにしかさわらせないもん」

「いいでしょ。減るもんじゃないんだから」

「来るなさわるな。ペチャパイのアレナリア」

「むっかァ。大きさは憧れか欲望かそれを使えば私だって。ちょっと私にも使わせなさいよ」

「ダメぇ~。これはあちしのために、カズが手に入れてくれたんだもん」

「部分的に大きくもなれるんでしょ。私だって一度くらいは巨乳になってみたいのよ!」

「来るなあっち行け。ぺったんこ、貧乳、洗濯板のアレナリア」

「そこまで言うか! このちんちくりんレラ」

「もうちんちくりんじゃないも~んだ」

 出掛けた早々カズの不安が的中していた。
 しかし止める者は居らず、二人の言い合いは、この後一時間も続いた。

 不安気な表情を時折浮かべるカズに、ビワが「二人を信じましょう」と声を掛ける。
 このままではビワに気を使わせてしまうと、カズは「そうだね」と微笑を浮かべ答えた。
 実際は残念な事になっているのだが。

 出勤で混み合う乗り合い馬車に揺られ、レオラの屋敷からは少し離れた場所で降りた。
 時間帯的に中央駅セントラル・ステーション付近は渋滞するので、帰りに乗る場所よりも手前で降りた。
 これは徒歩で向かった方が早いとのビワの判断。
 乗り合い馬車を降りると、ビワに付いて混み合う道を避けてレオラの屋敷に。

 裏口から先にビワが入り、五分程すると案内役としてグラジオラスが出て来た。
 そしてそのままカズをレオラの執務室に案内する。
 レオラは何時も通り書類に目を通して、サインをするという公務をしていた。

「あと二十分ほどで終わる。それまで茶でも飲んで待っていてくれ」

「わかりました」

 執務室の一階で待つカズに、案内してきてくれたグラジオラスが、ミントのような香りのハーブティーを淹れたティーカップ差し出す。
 カズは「ありがとう」と礼を言い、ティーカップを手に取り口に運ぶ。
 鼻に抜ける香りと、口の中がスーッとする爽快さはあるが、ミントほどキツくはなかった。
 脂っこい食事の後に飲むには良い。
 ガッツリとした肉を好むレオラの為に、カーディナリスが用意した茶葉だろう。

「待たせた。話していた通り、アタシは今日一日カズと出掛けて来る。日のある内には戻るつもりだ」

「畏まりました。カズ殿、レオラ様の護衛を宜しくお願い致します」

「わかりました。レオラ様に護衛は必要ないと思いますが」

「別部屋に荷物がある。それを持って行くぞ」

 執務室を出るレオラに付いて行き、五つの荷物をカズが【アイテムボックス】に入れ、二人で屋敷を出る。
 人目のつかない所で、カズが〈空間転移魔法ゲート〉を使用。
 一度で目的の半人半蟲族が暮らす村に転移出来るが、長距離を転移する場合は一度では無理で、何処かを中継して行かなければならないと説明してある。
 そこでレオラは、魔導列車が停まるブルーソルト駅がある街で飲食店をしている、かつてレオラの守護騎士をしていたジャンジとシロナの店を中継地点にしたら良いと言ってきた。
 午前中は仕込みをしているので、店は開けていないから、誰かに見られる心配はない筈だと。
 なので一度目の空間転移魔法ゲートは、カズも行った事がある猟亭ハジカミに繋げ、カズとレオラは移動した。

 空間転移魔法ゲートを通って出た場所は、以前レオラと一緒に行き、夕食を取った個室。
 調理場の方からはジャンジとシロナの声が聞こえ、レオラは個室を出て二人の所に。
 当然の事ながら、突如レオラが現れた事で、二人は凄く驚いていた。
 何故ならレオラが来る事を聞いてないからだ。
 更に店の扉が空きもしなければ、店内に誰が潜んでる気配もしなかった。
 そもそも自分達に対して、レオラが気配を消して来るような事はしないと分かっている。
 不可思議な事が起きたと、ジャンジとシロナの表情から見て取れ、レオラはカズが転移魔法を使えると話す。
 目的地まで距離があるために、中継地点としてここを選んだと。
 話した相手がただ側近や従者なら問題だろうが、ジャンジとシロナは現在レオラの守護騎士をしている三人よりも、信頼度は高いのだと、カズはレオラの話から聞いて知っている。
 なのでアスターとグラジオラスとガザニアには悪いが、まだジャンジとシロナ以上の信頼度はないと、カズは感じていた。
 なので転移魔法の事を話されても問題はない。
 たが内心では一言くらい先に言ってほしかったと、横目でレオラを見た。

 ジャンジとシロナが営む猟亭ハジカミは、レオラと同じ帝国の守護者の称号を持つグリズとミゼットも訪れている。
 そこで何度かカズ達の話題が出ては、情報交換という意味で話をしていた。
 レオラからも時折情報が来ていたので、カズの実力や能力はある程度予測はしていたが、個人で複数人を転移させられる魔法が使えるとは考えもしてなかった。

「これから村に行って来る。急で悪いが、持って行けるようなお土産はあるか?」

「でしたら子供たちに、お菓子を持っていってあげてください。シロナ、今日の分を」 

「すぐに用意するよ」

 ジャンジとシロナは厨房に戻ると、小さな紙袋にクッキーを五個ずつ入れ、三十袋用意した。

「どうぞレオラ様」

「こんなにも、売り物じゃないのか」

「構いませんので、持っていってください。クッキーはまた作ればいいだけです。それに我々もあまり行けてませんので、これくらいしかできませんが」

「時間をいただければ、もっと作ることが出来るんですが」

「いや、これで十分だ。村の子供たちに渡そう。せっかくの作りたてだ。カズ頼むぞ」

「わかりました。俺が預かります」

 カズはクッキーが入った小袋を【アイテムボック】に全て入れた。
 これで焼き立てのクッキーを子供達に渡す事が出来る。

「店が開くのは夕方だな。その前にもう一度来る。一応、個室を開けておいてくれ」

 レオラはそれを言うと、カズに行くぞと合図する。
 ジャンジとシロナの見ている前で〈空間転移魔法ゲート〉を使用し、レオラと共に猟亭ハジカミを後にする。
 実際目の当たりにたジャンジとシロナは、今の今までまでレオラとカズが居た場所をじっと見つめたまま動かなかった。

「ここからは歩いて行く」

「なんだ、村に直接転移しないのか」

「あとで騒ぎになってもよければ、もう一度ゲートを使うが」

「やめておこう。人の多い街から離れてるとはいえ、転移の使える者が村に居ると噂でも流れたら大変だ」

「そう思うのであれば、文句言わずきびきび歩く。来ると言ったのはレオラなんだ」

「わかっている」

 カズとレオラが空間転移魔法ゲートで出た場所は、半人半蟲が住む村がある森から、徒歩で三十分程の何も無い場所。
 森で監視をする村人から、目視で確認するには少し遠く、シックス・タウンからは遠過ぎて見られることはない。
 稀に村からシックス・タウンへ、またはシックス・タウンから村のある森へ向かう者がいるが、それは年に数人いるかどうか。
 なので突然何も無い空間から人が現れたとしても、見られる事はほぼない。
 見られたとしたら、それは出現する際の確認不足か、運が悪いと思うしかない。
 幸い今回は誰に見られることはなかった。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...