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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

669 専属の受付 と 模擬戦の依頼

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 冒険者ギルドに着き受付に向かおうと、視線を左右に動かして空いている受付を探す。
 そこでプルーンがカズは気付き、軽く手を振ってから手招きをして自分の受付に呼ぶ。
 できる事なら他の受付に行きたいが、報告だけだからいいかなと、カズはプルーンの居る受付に向かう。
 受付の女性職員はカズがアイリス第五皇女レオラ第六皇女の専属冒険者だと聞かされ、担当になるのを拒否遠慮して、最初に受けたプルーンに任せるようにしていた。
 一緒に来た〝光明の日差し〟は、顔見知りなのだろうエルフのギルド職員が居る受付に行き、その後素材の買い取りをしている別部屋に移動した。

「昨日はなんで黙って行ってしまったんです。でも、ワタシがいる時に来てくれてよかったです。そうそう、それでワタシがカズさんの専属受付にと、サブマスのバナショウさんに言われました。それと、昨日はお恥ずかしいところを見せしてすみませんでした。これからよろしくお願いします」

「俺はも…」

「あ! 担当を他の職員に変えるとか言わないでくださいよ。それともカズさんは、エルフや獣人の職員が希望ですか? そうですよね。エルフは美人ですし、獣人は尻尾や耳がもふもふでたまらないですもんね。その気持ちわかります。でも担当にと言われたのは、ワタシです」

 カズの話を全く聞かず、自分の言いたい事を話すプルーンを見て、なんで昨日無理にでも振り解いて、第五迷宮フィフス・ラビリンスに向かわなかったのだろうかと、少なからず失敗したかとカズは思った。
 それでもし目的のブロックフロッグを見付けられず〝光明の日差し〟が危険にさらされていたとしても、それは自己責任の冒険者なのだからと、遺体を発見したとしても淡白に考えていたかも知れない。
 流石に助けた今となっては、簡単に放り出すような事はしたくはない。

「と言うことで、サブマスがお待ちですので、一緒に来てください」

「……目的の物は入手したんで。それじゃ」

 一言二言多いどころか、人の話を聞くきもない人物を担当するとか勘弁してくれと思いながら、カズは180度向きを変えて受付を離れる。
 予想外のカズの行動に、プルーンは一瞬思考が止まるも、即座に我に返る。

「え? ちょ、ちょっと、どこ行くんですか!」

 プルーンの呼び掛けを無視して、足早に受付から遠ざかるカズ。
 あと少しで冒険者ギルドを出るという所で、素材の買い取りから戻って来た〝光明の日差し〟の三人がカズの前に。

「カズさんの報告は終わったんですか? それなら一緒に食事しません。素材を買い取りしてもらったら、結構良い値になったんですよ」

「いや、俺は…!」

 アプリコットがカズも一緒にと、夕食を誘いに来た事で足止めを食らってしまい、受付から出て追い掛けてきたプルーンに捕まってしまう。

「なんで行ってしまうんですか! サブマスが呼んでるんです」

「報告だけすればいいと言われたんだ。だから、もういいでしょ(目的も成したから、早く三人の待つ家に帰りたいんだ。それに、少し眠いし)」

「でも連れて来てと言われてるんです!」

「あのう、差し出がましいですが、サブマスに呼ばれてるのなら行った方がいいんじゃないですか?」

「そんなに時間かからないんだろ。あんたが戻って来るまで待ってるからさ。一緒に飯食いに行こう」

「そう。そうしようよ。カズには助けてもらったんだから、飯くらいは奢らせてよ」

 プルーンにガッチリと腕を掴まれ、このままではまた悪目立ちして、完全に前日の二の舞いになるのは明らか。
 カズは諦めて、プルーンの案内でサブ・ギルドマスターのバナショウが居る執務室に向かう。
 その間ゴーヤとアプリコットは一階にある休憩所で待ち、カリフは食事をする店を押さえにギルドを出た。

 今回は階段ではなく、エレベーター昇降機を使い五階に上がる。
 カズだけサブ・ギルドマスターの執務室に入り、プルーンは「今度は戻って来たら、ちゃんと声をかけてくださいね」と言って、一階の受付に戻って行く。
 椅子にかるように言われて座ると、バナショウがカズの向かい側の椅子に移動してくる。

「それでどうだった? 手に入ったのか」

「ええ、お陰様で」

「そうかそうか」

「なぜ、また呼ばれたんでしょうか? 報告だけすればいいと言いましたよね。それにプルーンが専属の受付にとは、どういう事ですかねぇ!」

 カズは少し怒気を含ませた声色でバナショウに問う。

「プルーン本人は仕事熱心なんだが、あの感じだろ。冒険者からの苦情が他の受付より多くて。というか、苦情の三割がプルーンなんだ。いっそ誰か実力と実績のある冒険者の専属にしてやれば、今以上慎重に仕事をするようになり、失敗を減らす事ができるんじゃないかと思っていた。そこにカズが来たんで、専属にしたみた」

「勝手な」

「どうせ双塔の街ここには、滅多に来ないんだろ。だったら構わないだろ」

「滅多にというか用事も済んだので、もう来る事はないです」

「それだとプルーンを専属に付けた意味がない。やはり来てもらってよかった」

「まさか、俺に何かさせようと」
 
 次にバナショウが発した言葉は「察しがいい」だった。
 カズの考えが当たっていた。
 続きバナショウが「二つほど依頼をしたい」と言ってきた。
 一つは冒険者の育成。
 冒険者一人をどこまで育てるかは知らないが、一人ソロ第五迷宮フィフス・ラビリンスの二十階層まで難なく行ける程度となると、最低でもレベル30近くは必要。
 三人から五人の息が合ったパーティーなら、レベル25もあれば十分だろう。
 もしその程度の冒険者を一から育てるとしたら、どれだけの月日が掛かるか分かったものではない。

 帝国を出て東に向かって旅に出るのだから、そんな時間はない。
 そもそも昨日はレオラから、何かをさせろとは言われてないと言っていた。
 レオラもカズ達がもうすぐ帝都を離れるのは知っているのだから、時間の掛かるような依頼をさせる筈がない……とは、若干ながら言い切れない。
 全てを踏まえて、カズはバナショウの頼みを断った。

「そうか、ダメか」

「申し訳ないですが、今日までには帝都に戻る予定だったんです。観光客がこんなに居るなんて知らなかったもので、目的のアイテムは見つかりはしたけど、時間を掛けすぎました。なので〝光明の日差し〟と約束の食事をしたら、この街を出ます」

 カズはハッキリと、今夜帝都に向かう魔導列車があれば、それに乗って行くとバナショウに伝えた。

「そうか、ならば仕方ない。育成は諦めるとして、その〝光明の日差し〟には重荷だが、模擬戦の相手をしてもらうしかない」

「……どういう事です?」

「ついさっき報告と共に、街で少々態度の悪い低ランク冒険者の訓練相手をする。という依頼を受けた。日時は明日の午後。まだ他にこの依頼を受けた冒険者がいないことから、このままだと三人だけで行う事になるだろ。さすがに大変だろうが、揉め事を減らすには、定期的にこういった事をやるしかないんだ」

 これがバナショウからのもう一つの依頼だった。

「冒険者ギルド登録しているなら、それはをするのはギルド職員の役割では?」

「確かにそうだ。冒険者の在り方を正すのは、組織である冒険者ギルドの役割だろう。だが迷宮という魅力があるこの街で、冒険者ギルドが権力で押さえ付けては、冒険者が減ってしまう。街にとってそれでは困るんだ。だから冒険者は同じ冒険者によって。というのが、ここのギルドの考えなんだ」

「そういう事ですか」

「強制ではないが召集するのはCランク以下だ。だから依頼はCランク以上のパーティーに設定している。受ける冒険者いなければ、職員にやらせるしかないんだが……」

「召集する冒険者のことを考えると、苦情は必ず言ってくるでしょうね」

「ああ。依頼を受けた相手となれば、それほど苦情はないだろうが、職員が相手をすると後々面倒になる。それでギルドを毛嫌いして冒険者を辞め、盗賊まがいの事をやる連中が増えては元も子もない」

 バナショウの話を聞き、カズは考え込んでしまった。
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