上 下
690 / 770
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

669 専属の受付 と 模擬戦の依頼

しおりを挟む
 冒険者ギルドに着き受付に向かおうと、視線を左右に動かして空いている受付を探す。
 そこでプルーンがカズは気付き、軽く手を振ってから手招きをして自分の受付に呼ぶ。
 できる事なら他の受付に行きたいが、報告だけだからいいかなと、カズはプルーンの居る受付に向かう。
 受付の女性職員はカズがアイリス第五皇女レオラ第六皇女の専属冒険者だと聞かされ、担当になるのを拒否遠慮して、最初に受けたプルーンに任せるようにしていた。
 一緒に来た〝光明の日差し〟は、顔見知りなのだろうエルフのギルド職員が居る受付に行き、その後素材の買い取りをしている別部屋に移動した。

「昨日はなんで黙って行ってしまったんです。でも、ワタシがいる時に来てくれてよかったです。そうそう、それでワタシがカズさんの専属受付にと、サブマスのバナショウさんに言われました。それと、昨日はお恥ずかしいところを見せしてすみませんでした。これからよろしくお願いします」

「俺はも…」

「あ! 担当を他の職員に変えるとか言わないでくださいよ。それともカズさんは、エルフや獣人の職員が希望ですか? そうですよね。エルフは美人ですし、獣人は尻尾や耳がもふもふでたまらないですもんね。その気持ちわかります。でも担当にと言われたのは、ワタシです」

 カズの話を全く聞かず、自分の言いたい事を話すプルーンを見て、なんで昨日無理にでも振り解いて、第五迷宮フィフス・ラビリンスに向かわなかったのだろうかと、少なからず失敗したかとカズは思った。
 それでもし目的のブロックフロッグを見付けられず〝光明の日差し〟が危険にさらされていたとしても、それは自己責任の冒険者なのだからと、遺体を発見したとしても淡白に考えていたかも知れない。
 流石に助けた今となっては、簡単に放り出すような事はしたくはない。

「と言うことで、サブマスがお待ちですので、一緒に来てください」

「……目的の物は入手したんで。それじゃ」

 一言二言多いどころか、人の話を聞くきもない人物を担当するとか勘弁してくれと思いながら、カズは180度向きを変えて受付を離れる。
 予想外のカズの行動に、プルーンは一瞬思考が止まるも、即座に我に返る。

「え? ちょ、ちょっと、どこ行くんですか!」

 プルーンの呼び掛けを無視して、足早に受付から遠ざかるカズ。
 あと少しで冒険者ギルドを出るという所で、素材の買い取りから戻って来た〝光明の日差し〟の三人がカズの前に。

「カズさんの報告は終わったんですか? それなら一緒に食事しません。素材を買い取りしてもらったら、結構良い値になったんですよ」

「いや、俺は…!」

 アプリコットがカズも一緒にと、夕食を誘いに来た事で足止めを食らってしまい、受付から出て追い掛けてきたプルーンに捕まってしまう。

「なんで行ってしまうんですか! サブマスが呼んでるんです」

「報告だけすればいいと言われたんだ。だから、もういいでしょ(目的も成したから、早く三人の待つ家に帰りたいんだ。それに、少し眠いし)」

「でも連れて来てと言われてるんです!」

「あのう、差し出がましいですが、サブマスに呼ばれてるのなら行った方がいいんじゃないですか?」

「そんなに時間かからないんだろ。あんたが戻って来るまで待ってるからさ。一緒に飯食いに行こう」

「そう。そうしようよ。カズには助けてもらったんだから、飯くらいは奢らせてよ」

 プルーンにガッチリと腕を掴まれ、このままではまた悪目立ちして、完全に前日の二の舞いになるのは明らか。
 カズは諦めて、プルーンの案内でサブ・ギルドマスターのバナショウが居る執務室に向かう。
 その間ゴーヤとアプリコットは一階にある休憩所で待ち、カリフは食事をする店を押さえにギルドを出た。

 今回は階段ではなく、エレベーター昇降機を使い五階に上がる。
 カズだけサブ・ギルドマスターの執務室に入り、プルーンは「今度は戻って来たら、ちゃんと声をかけてくださいね」と言って、一階の受付に戻って行く。
 椅子にかるように言われて座ると、バナショウがカズの向かい側の椅子に移動してくる。

「それでどうだった? 手に入ったのか」

「ええ、お陰様で」

「そうかそうか」

「なぜ、また呼ばれたんでしょうか? 報告だけすればいいと言いましたよね。それにプルーンが専属の受付にとは、どういう事ですかねぇ!」

 カズは少し怒気を含ませた声色でバナショウに問う。

「プルーン本人は仕事熱心なんだが、あの感じだろ。冒険者からの苦情が他の受付より多くて。というか、苦情の三割がプルーンなんだ。いっそ誰か実力と実績のある冒険者の専属にしてやれば、今以上慎重に仕事をするようになり、失敗を減らす事ができるんじゃないかと思っていた。そこにカズが来たんで、専属にしたみた」

「勝手な」

「どうせ双塔の街ここには、滅多に来ないんだろ。だったら構わないだろ」

「滅多にというか用事も済んだので、もう来る事はないです」

「それだとプルーンを専属に付けた意味がない。やはり来てもらってよかった」

「まさか、俺に何かさせようと」
 
 次にバナショウが発した言葉は「察しがいい」だった。
 カズの考えが当たっていた。
 続きバナショウが「二つほど依頼をしたい」と言ってきた。
 一つは冒険者の育成。
 冒険者一人をどこまで育てるかは知らないが、一人ソロ第五迷宮フィフス・ラビリンスの二十階層まで難なく行ける程度となると、最低でもレベル30近くは必要。
 三人から五人の息が合ったパーティーなら、レベル25もあれば十分だろう。
 もしその程度の冒険者を一から育てるとしたら、どれだけの月日が掛かるか分かったものではない。

 帝国を出て東に向かって旅に出るのだから、そんな時間はない。
 そもそも昨日はレオラから、何かをさせろとは言われてないと言っていた。
 レオラもカズ達がもうすぐ帝都を離れるのは知っているのだから、時間の掛かるような依頼をさせる筈がない……とは、若干ながら言い切れない。
 全てを踏まえて、カズはバナショウの頼みを断った。

「そうか、ダメか」

「申し訳ないですが、今日までには帝都に戻る予定だったんです。観光客がこんなに居るなんて知らなかったもので、目的のアイテムは見つかりはしたけど、時間を掛けすぎました。なので〝光明の日差し〟と約束の食事をしたら、この街を出ます」

 カズはハッキリと、今夜帝都に向かう魔導列車があれば、それに乗って行くとバナショウに伝えた。

「そうか、ならば仕方ない。育成は諦めるとして、その〝光明の日差し〟には重荷だが、模擬戦の相手をしてもらうしかない」

「……どういう事です?」

「ついさっき報告と共に、街で少々態度の悪い低ランク冒険者の訓練相手をする。という依頼を受けた。日時は明日の午後。まだ他にこの依頼を受けた冒険者がいないことから、このままだと三人だけで行う事になるだろ。さすがに大変だろうが、揉め事を減らすには、定期的にこういった事をやるしかないんだ」

 これがバナショウからのもう一つの依頼だった。

「冒険者ギルド登録しているなら、それはをするのはギルド職員の役割では?」

「確かにそうだ。冒険者の在り方を正すのは、組織である冒険者ギルドの役割だろう。だが迷宮という魅力があるこの街で、冒険者ギルドが権力で押さえ付けては、冒険者が減ってしまう。街にとってそれでは困るんだ。だから冒険者は同じ冒険者によって。というのが、ここのギルドの考えなんだ」

「そういう事ですか」

「強制ではないが召集するのはCランク以下だ。だから依頼はCランク以上のパーティーに設定している。受ける冒険者いなければ、職員にやらせるしかないんだが……」

「召集する冒険者のことを考えると、苦情は必ず言ってくるでしょうね」

「ああ。依頼を受けた相手となれば、それほど苦情はないだろうが、職員が相手をすると後々面倒になる。それでギルドを毛嫌いして冒険者を辞め、盗賊まがいの事をやる連中が増えては元も子もない」

 バナショウの話を聞き、カズは考え込んでしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~

夢・風魔
ファンタジー
高校二年生最後の日。由樹空(ゆうきそら)は同じクラスの男子生徒と共に異世界へと召喚された。 全員の適正職業とスキルが鑑定され、空は「空気師」という職業と「空気清浄」というスキルがあると判明。 花粉症だった空は歓喜。 しかし召喚主やクラスメイトから笑いものにされ、彼はひとり森の中へ置いてけぼりに。 (アレルギー成分から)生き残るため、スキルを唱え続ける空。 モンスターに襲われ樹の上に逃げた彼を、美しい二人のエルフが救う。 命を救って貰ったお礼にと、森に漂う瘴気を浄化することになった空。 スキルを使い続けるうちにレベルはカンストし、そして新たに「空気操作」のスキルを得る。 *作者は賢くありません。作者は賢くありません。だいじなことなのでもう一度。作者は賢くありません。バカです。 *小説家になろう・カクヨムでも公開しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

処理中です...