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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

660 畏怖される専属冒険者

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 駅周辺の露店で適当に買い食いをして昼食を済ませ、冒険者ギルドに向かう。
 双塔がある方向からは観光客らしき者達がぞろぞろと、見栄えの良い料理を出す飲食店が揃う駅周辺に向かって歩いて来ていた。
 朝から第五迷宮フィフス・ラビリンスに入っていた観光客だろう。
 四人家族のぽっちゃりとした体型の男の子が、剣を持っているかのような素振りで腕を振り回しているところを見ると、モンスターに遭遇して護衛の冒険者がそれを剣で倒したのを目の当たりにして、それを真似ているといったところか。
 どの観光客を見ても、住宅地に暮らす子供達よりも、身に着けている物が上等そう。
 冒険者の護衛を雇い、見物に第五迷宮フィフス・ラビリンスに入るような観光客は、帝国の貴族ではない富裕層といったところだろう。

 酒場でたむろしていた冒険者達の姿が減り、冒険者ギルド一階の受付も半分以上が空いている。
 まだ昼の休憩時間前なのか、一言二言多い女性職員のプルーンが受付に居た。
 他の受付にした方がいいかとも考えたが、第五迷宮フィフス・ラビリンスの入場許可証を取りに来た事の説明や、身分証ギルドカードの提示やらで面倒だったので、気は進まなかったが入場許可証を受け取るだけで済むプルーンの居る受付に向かう。

 カズがギルドに入って来たことにプルーンは気付く。
 第五迷宮フィフス・ラビリンスの入場許可証発行手続きを忘れ、迷惑を掛けてしまったのにもかかわらず、カズが向かう先は自分の居る受付。
 対応が悪かったと感じたのなら、他の職員が居る受付にすればいいだけ。
 自分よりも愛想が良く、対応にけた人気の女性職員は何人も居る。
 それなのに前日初めて訪れたAランク冒険者のカズは、真っ直ぐ自分の居る受付に向かって来ているので、内心怒っていると感じたプルーンは椅子から立ち上がり深々一礼。
 そして何か言われる前にと、先に謝罪する。

「わたしの不手際で時間を取らせてしまい、誠に申し訳ございません」

「!」

 突然響いた謝罪の言葉で、周囲の視線が頭を下げているプルーンと、そのカズ相手に集まる。
 カズは何事かと驚きもしたが、それより集まる周囲の視線が痛く居た堪れない。

「そこまでしてもらわなくても。頭を上げてください。それと聞こえてるので、声を落としてください(スゴい目立ってるんですけど!)」

「は、はい。失礼しました」

 プルーンは声量は落としてくれたが、下げた頭を上げようとはしない。

「カズ様が二人の皇女様専属の冒険者とはつゆ知らず、うちのサブ・ギルドマスターより最大の誠意を尽くして、謝罪をするようにと。本当に申し訳ございません」

「この程度のミスは誰でもあるでしょうし、街を見て回って時間を潰せたから気にしてないので、そろそろ頭を上げてもらえないですか(レオラ専属の冒険者という肩書……ん?)」

 頭を上げるように二度言われ、流石に三度言わせては失礼になると思い、プルーンはゆっくりと下げた頭を上げる。
 ただカズが皇女専属の冒険者と知り、プルーンの態度はおどおどして、視線を上げる事ができずにいた。

「一つ聞いてもいいですか?」

「は、はい。なんでも答えはせていただきます」

 カズが話し掛けると、プルーンは一瞬ビクッと全身が震わせる。
 自分の謝罪が失礼にあたってしまったのだろうかと、顔色が悪くなっていく。
 プルーンの両隣の受付に居る同僚からは、穏便に済んでほしいという思いと共に、カズが何を言うのかという緊張した面持ちがあった。

「その前に先程も言ったけど、あなたの失敗に文句を言うとかはないから安心して(このままでは話しづらい)」

 敬語を使ったままでは、緊張が解けないとカズは考え、です、ます、を使わずに話す。
 ゆっくりと視線を上げるプルーンに、カズは微笑み気にしてないという表情を作る。
 慣れない事をしているので、微笑むというよりは、苦笑いになってしまっている。
 だがそれでも、強張っていたプルーンの全身から力が少し抜けた。

「あの、ありがとうございます」

 謝罪を受け入れたカズに感謝し、今度は軽く一礼する。

「あと目立っているので、いつものように座って対応してくれないか」

「あ、はい」

 本当に座っていいのだろうかと、プルーンは両隣の受付に居る同僚にちらりと視線を向ける。
 その二人の同僚は、静かにゆっくりと頷く。
 プルーンが椅子に座り、視線を上げたところで、カズは質問の続きをする。

「さっきと言ったけど、それは誰から?」

「ギルドカードに登録されている活動拠点のギルドに問い合わせたところ、サイネリアという女性職員の方から、カズ様ご本人の確認と一緒に、第五皇女のアイリス様と第六皇女のレオラ様専属の冒険者だと」

 レオラが双塔の街で騒ぎを起こしていたと聞いた時点で、もし双塔の街の冒険者ギルドから連絡があっても、自分が皇女専属の冒険者だという肩書を教えないように、口止めしておくべきだったとカズは後悔した。
 しかしレオラ第六皇女専属だけなら兎も角、何故アイリス第五皇女の専属にまでされているのか、帝都に戻ったらサイネリアを問い詰めてやると、カズは忘れないよう心のメモ帳に書き留めた。

「専属といっても頼まれ事がなければ、こうやって自由に行動出来るんだ。だから一介の冒険者として扱ってくれないか。その敬称もなしで頼むよ(来る度に付けされたらたまらない)」

「よろしい…のですか?」

「俺は別に皇族でも貴族でもないらね」

「……わかりました。ではそのようにいたします」

「よろしく。それで迷…」

「あ、はい! 許可証なら発行出来てます。帝都のギルドに本部に問い合わせて、カズさまぁんの素性がわかりましたので、最速で発行してもらいました。すぐに持って、え? きゃあ……痛ったぁ~い」

 慌てて立ち上がろうとしたプルーンが、椅子と共に後ろに倒れた。

「だ、大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です。お見苦しいところを見せてすみません。カズさん」

「慌てなくていいから」

 先程、様を言い直そうとさまぁんになってしまったが、今度はさんと言えたプルーンは、発行された第五迷宮フィフス・ラビリンスの入場許可証を取りに、奥に居る同僚の所に行く。
 発行された入場許可証を受け取り戻って来るだけの筈が、同僚から何か言われたプルーンが慌てて受付に戻って来た。

 今度は何をしでかしたのかと思ったが、入場許可証の受け取りの際に、本人確認をするのでギルドカードを提示しなければならないのを、カズに伝えるのを忘れていただけだった。
 プルーンは何度もペコペコと頭を下げ、ギルドカードの提出をお願いしてきた。
 カズは謝罪をするプルーンを落ち着かせ、懐からと見せかけ【アイテムボックス】からギルドカードを出して渡した。

「度々すみません」

 カズから預かったギルドカードを持って奥の同僚の所に行き、発行された第五迷宮フィフス・ラビリンスの入場許可証を受け取り、受付に戻る。

「ギルドカードありがとうございました」

「確かに」

 カズは先に返却されたギルドカードを受け取り、同じ様にして【アイテムボックス】にしまった。

「こちらが迷宮の入場許可証になります。期限は今日から一ヶ月になります。入場する際は、迷宮の入口に居る方に見せてください。街のお役人がたまに居ることがありますが、せいぜい月に一度くらいです。殆んどはギルド職員が管理してます。あとは衛兵が二人、最低でも一人は常時警備しています。見かけない場合は、すぐそばの管理小屋に居ますので、声を掛けるなりしてください」

「わかった」

「本日入られますか?」

「もう昼過ぎだから本格的に入るのは明日にして、今日は試しに一階を見てこようかな」

「ゔ…すみません。わたしのミスで」

「ん……? あ! そんなつもりで言ったわけじゃないから。朝から入ったとしても、初日は一階か二階までで出る気でいたんだ」

 わざとじゃないにしても、カズは結果的に嫌味を言ってしまい、プルーンは受付台にひたいをつけて落ち込む。
 
「じゃあ許可証ありがとう。俺、もう行くよ」

 気不味くなったカズは、逃げるようにして冒険者ギルドにを出た。
 出来れば目的のアイテムを持っているモンスターを自力で見付け、冒険者ギルドにはもう来ずに、帝都に戻りたいと思いながら第五迷宮フィフス・ラビリンスに向かった。
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