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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

657 迷宮 と 観光の街

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 ローラの方は自身の魔力をしっかりと感知することから覚え、焦らずにゆっくりと着実に覚えるように、アレナリアは丁寧に教えた。
 ローラがアイリスの屋敷に滞在する期間でアレナリアがいない間は、コンルが魔力操作の手伝いをすると一緒に基礎訓練を受ける。
 アイリスに頼まれたからでもあったが、コンル自身も魔力の使い方をより上手くなる良い機会だと考えていた。
 コンルはアレナリアの話をしっかりと聞き、気になったところは質問してローラにあったやり方に変えたり、自分にも活かそうとしていた。
 アレナリアから基礎訓練方法が書かれた紙を渡されているので、一応ローラとコンルの二人だけでも魔力操作の基礎訓練は出来る。
 ただ自分では上手く出来ていると思っても、第三者から見るとそうでもなかったりしたりするので、行き詰まったたらカミーリアにでも見てもらったらとアレナリアは最後に伝え、この日の魔力操作の基礎訓練を終えた。

 日が暮れる前にレラを連れてアイリスの屋敷を後にして、人目がなくなった場所で〈空間転移魔法ゲート〉を使い川沿いの家に戻る。
 疲れているアレナリアとレラは留守番をして、カズはビワを迎えにレオラの屋敷に向かう。
 レオラの働きで、パラガス・ノイアに雇われたやからが、ビワを付け狙うことはなくなった。
 念の為にと送り迎えをしてきたが、もう必要ないのではと、レオラから意見が出たと、帰りの乗り合い馬車でビワから聞いた。
 別に苦ではないし、帝都に滞在するのもあと僅かなのだから、このまま送り迎えをしても構わないとカズは答えた。
 しかし明日からカズは、双塔の街に出掛けて留守にする。
 必然とビワの送り迎えはアレナリアがすることになる。
 アレナリアとて用事があるのはビワも知っている。
 だからカズが留守の間は、一人で仕事に行くとビワは言う。

 確かに二ヶ月くらい前までは、ビワ一人で仕事に行っていた。
 一応、護身用のアイテムは身に付けているので大丈夫だとは思う。
 ビワ自身も平気だと言うので、カズが留守の間は、一人で出勤と帰宅をする方向で話が決まった。

 二人が川沿いの家に戻ると、風呂に入ってサッパリしたアレナリアとレラが、リビングのソファーで寛いでいた。
 夕食前に汚れた衣服を着替えるついでに、湯に浸かり疲れを流したのだと。
 それならそれで、風呂の用意をする手間が省けたのでいい。
 四人で夕食を取りながら、先程の乗り合い馬車で決めたこと、カズが留守の間は以前のようにビワ一人で出勤して帰宅すると、アレナリアに話した。

「つけられてたり見張られてる気配はないなら、それでいいんじゃない。ビワにちょっかい出して、レオラの怒りを買おうとは思わないでしょう」

「そうそう。変だなぁと思ったら、念話でカズを呼べばすぐに来てくれるんだから平気だよ。だからあちしも一人で出掛けていいしょ」

「それとこれとは話が違うでしょ。レラは余計な事をして、問題を起こすからダメに決まってる」

 レラの要望はアレナリアにあっさりと却下された。
 頬を膨らめるレラの顔が面白く、ビワが「ふふふっ」と笑い、釣られてカズとアレナリアも。
 レラはプンプンと怒っていたが、三人の笑い顔を見ていたら、自分も何故かおかしくなってしまい、一緒になって笑ってしまった。
 今夜誰も読書をすることはなく、就寝する少し前まで、リビングで雑談して過ごした。


 ◇◆◇◆◇


 この日カズはビワを送りながら、魔導列車に乗るため中央駅セントラル・ステーションに向かった。
 隠し部屋から持って来た複製本を、レオラに渡す機会がなかなかないので、ビワに一冊だけ預けることにした。(先日レオラと会ったが、急な事だったので忘れてしまっていた)
 隠し部屋にはビワも一緒に訪れていたので、隠し部屋を管理している知性ある本インテリジェンス・ブックは、カズの仲間だと理解している筈。
 第一段階としてビワに複製本を一冊託してみたが、消滅することはなかったので、多分大丈夫かと思える。
 そこでビワに託した複製本を、レオラに貸すことが出来れば、ビワがレオラと同室に居るだけで、消滅しないのではとカズは考えた。
 カズが離れたことで複製本が消滅しなければ、その旨をレオラに伝えてもってから複製本を渡してほしいとビワに頼んだ。
 確証はないのでどうなったかは、双塔の街から戻って来てから知ることになる。

 レオラの屋敷にビワを送り届けた後、帝都の中央駅セントラル・ステーションから東に向かう魔導列車に乗り、カズは双塔の街へと向かった。
 この日急行の魔導列車は出てはおらず、各駅停車の魔導列車に乗車したので、双塔の街に到着予定は昼を二時間程過ぎた頃になった。

 その名の通り双塔の街の南側には、高さ300メートルはあろうかという、二基の塔がそびえ立っていた。
 それだけではなく、他にも30メートルから50メートルくらいの塔が数基立っていた。(これらは後々、観光客用に作られた人口の塔だとカズは知る)
 降り立った双塔の街の駅周辺には、観光客向けの土産物屋が多く立ち並んでいる。
 街の名前でもあり、名所になっている双塔を模した飾り物や、食べ物があちこちにあった。
 二本のセットになっている串焼きや、円柱状の長いパン。
 高く積み上げられた各種の分厚い肉なんかは、もう双塔とは関係なくなってるのではと思える。
 あとは決して上手いとは言えない木彫りの工芸品や、双塔が画かれた織物や陶器に、子供用のおもちゃとして作られた小さなランスは、双塔と同じ様な着色がされて店先に何本も飾られていた。
 そんな土産物屋を通り過ぎ、カズは数日泊まる宿屋探しをしてから、冒険者ギルドへと向かうことにした。

 第五迷宮フィフス・ラビリンスに挑む冒険者達が長期滞在しているために、双塔方面の宿屋は何処も満室で部屋が空いてないようだった。
 観光客向けの料金高めの宿屋は空きがあったが、一人で泊まるので安い一人部屋で十分だと考え、双塔や駅からも離れた駅北の住宅地方面に移動し、小さな宿屋を見付けた。
 一泊銀貨六枚6,000GLの部屋があったので、ここに宿泊する事にした。
 宿屋探しに時間が掛かり、かなり影が伸びてきていた。
 とりあえず第五迷宮フィフス・ラビリンスがある双塔を見に行きがてら、冒険者ギルドに向かう。
 途中露店で適当に買い食いして、この日の夕食を済ませた。

 双塔に近付くにつれて、剣や槍や杖等を携えた冒険者らしき者達が多くなってきた。
 三人から五人で集まって食事をしているパーティーだと思える者達や、目付きの悪そうな者達が周囲を警戒し、小声で情報交換をしている場面もちらほら見かけた。
 場所と時間帯からか、昼間駅周辺に居た観光客を見掛けることはなかった。

 宿泊する宿屋から徒歩で小一時間、第五迷宮フィフス・ラビリンスがある双塔の下までやって来た。
 街と冒険者ギルドが一緒になって管理しているだけあって、出入口の大きな門を警備している衛兵と、冒険者ギルドの関係者だと思える人物が、第五迷宮フィフス・ラビリンスを出入りする者達の確認をしていた。
 もう日も暮れたというのに、第五迷宮フィフス・ラビリンスに入る冒険者が少なからずおり、見ていると入場する際に何かの紙を提示していた。
 どうやら第五迷宮フィフス・ラビリンスは、勝手に出入りできるようなダンジョンではないようだ。
 とりあえず場所は確認出来たので、宿屋に戻る前に冒険者ギルドへ行くことにする。
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