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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

656 ローラと女性騎士達の魔力操作の訓練

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 朝食後ビワをレオラの屋敷に送り届け、タクシー辻馬車を確保して移動する。
 カズとアレナリアは以前と同様、池の近くで降り歩いてアイリスの屋敷に向かって行く。

「で、ビワに何を吹き込んだ?」

「吹き込んだなんて人聞きの悪い」

「ならなんで俺はビワに、避けられるみたいな態度を取られたんだ。きったい何を話した?」

「ほら、そこはあれよ。お互いにカズとしたことを語り合っただけ」

「……どこまで話した?」

「包み隠さず全部よ」

 ビワが顔を合わせてくれなかった理由を知り、カズは眉間に皺を寄せてひたいに手を当てた。

「ビワには優しくしてあげたみたいじゃない。私にはあんなに激しくしたのに(思い出しただけで…)」

「それを要求したのはアレナリアだろ。あんなにするとは思わなかったぞ」

「望んだら全部叶えてくれるって、カズが言ったから(ぬふふ…濡れそう)」
 
 感情が高まってきたアレナリアは、カズから見えないよう顔を背け、口角を上げて舌舐めずりをする。

「確かに言ったが……どこ向いてるんだ?」

「ん? 別に(焦らない焦らない。これからはいつでも出来るんだから)」

「ビワにはいいが、他には話すなよ」

「レラは?」

「大きくなるアイテムが、双塔の街で見つかるかわからないんだ。期待させるような方向に話をしない方がいいだろ」

「それはそうだけど、レラだって雰囲気でわかるわよ。カズに抱かれたかどうかなんて。女なんだし」

「そうか……(アイテム見つかるかなぁ?)」

 レラの想いを受け入れたんだから、レラだけお預け状態になるのは流石に可愛そうだとカズは思った。
 アレナリアの場合は、カズ自身が元の世界へ戻る思いに、けりをつけなかったのが受け入れを拒んだ理由なのだが、レラの場合はそもそも体の大きさの違うので、求められても受け入れられない。
 想いが一つになっても、体が一つになることができないと、想いが冷めるなんてことも無きにしもあらず。
 男として責任を取るなら、そうならないようにしなければと考える。

「何を物思いにふけってるの? 気になるなら、レラに直接聞けばいいのよ。全身を使って、カズを気持ち良くさせて、何度もいかせてあげる。とか、言うかもよ」

「いくらレラでも、そんなことを……」

「あり得なくもないでしょ。だから迷宮で目的のアイテムが見つからなかったとしても、似たような効果のアイテムを探し続けるなら、それまでレラのしたいようにさせてあげたら」

「そんなもんか。それにしても、今日はレラに対してやけに優しいじゃないか」

「レラのからかいなんて、子供のイタズラと同じ。そんな小さいことなんて、大人の私は広い心で許してあげるわよ」

 アレナリアは左襟足の髪の毛をサッと左手で払い、すました顔をする。
 一人だけ大人の階段を上り周囲の友人を下に見る。
 アレナリアの余裕ぶった態度は、それと同じだろう。
 こうして話をしながら歩いている内に、アイリスの屋敷正門に立つ門番の女性騎士が、二人を認識できる距離まで来ていた。
 くれぐれもその手の話は、他人には話さないようにとアレナリアに注意をして、アイリスの屋敷内へと足を進める。
 前日伺う旨を伝えていたので、すんなりと入る事ができ、そのままアイリスの居る執務室に案内され中に通された。

 アイリスは書類仕事公務最中さいちゅうだったので軽く挨拶をし、ローラとコンルと前日から来ているレラが居る一階のプールがある部屋に、侍女に案内されて移動する。
 今回は隣の応接室に繋がる壁が開けられており、休憩する時など好きに使ってもらって構わないと、案内した侍女に言われた。

 午前中はローラ相手に魔力操作を教え、午後は外で女性騎士達に課題を与え、それに打ち込んでいる間ここに戻り、ローラに続きを教えることに。
 アレナリアが主体で魔力操作を教えるので、午前中カズは応接室のソファーに座ってその様子を見学して過ごす。
 せっかく居るのだからと、コンルもローラと一緒に魔力操作の訓練に参加した。
 コンルもレラと同様に、魔力を用いて浮遊したりしているので、ローラより魔力操作のコツを覚えるが早かった。

 午前中の訓練を終えて昼休憩を一時間程取り、アレナリアとカズは建物の外に出て、手が空いている女性騎士達を集め、今まで教えた魔力操作がどの程度上達しているかのテストをおこなった。
 やはり魔力操作を苦手とする者もいた。
 そういった者には相性の良い属性を主体に、ローラに教えてるような基礎をもう一度教えた。

 カズは飛翔魔法フライを覚えたいと言っていた、カミーリアと他四人の女性騎士を見る事に。
 前回フジの遊覧飛行で上がった高度に耐えきれず、地上に下りた途端座り込んでしまった女性騎士も参加していた。
 出来るかどうかは不明だが、参加するかしないかは本人次第なので、カズからやめさせるようなことはしない。
 先ずは安定して魔力を操作出来るかを、カズが判断する。
 五人にはカズが以前作っておいた紙風船を渡し、それを膨らませてもらう。
 カミーリアと四人の女性騎士は、何に使うのだろうと、不思議そうに膨らませた紙風船見ていた。
 
「それじゃあ、その紙風船を魔力を使って浮かべてください」

 急に魔力を使って浮かべろと言われても、どうしたらいいのか、という表情を五人はしていた。

「こんな感じで」

 カズは手本として一度実演する。
 右の手のひらを上に向け、そこに乗る紙風船を魔力で20センチ程宙に浮かべた。
 訓練している場所は屋外なので、弱いが風は吹いている。
 しかしカズが浮かべた紙風船は、手のひらの上から風に押されて飛んでいったりはしない。

「やり方についてだけど、最初は自分で考えてやってみて。それと相談禁止で」

 無茶振りだと思いながらも、各々紙風船浮かばせようと、あれこれと試し始める。
 剣に魔力を込めて留める訓練はしたが、放出する訓練なんて殆んどしていないので、どうしたらいいのかと五人は悪戦苦闘する。
 紙風船に魔力を込めてみるも、手の上でカサカサと少し動く程度で浮かぶことはない。
 観察していると、魔力を込め過ぎて、パンッと割ってしまうか、ぐしゃりと凹ませてしまう、もしくは潰してしまう。
 足元にはそういった紙風船の残骸が散らばっている。
 空いた時間に作った紙風船も残りあと僅かになってしまったので、今持っているのを割られないうちに、各自に合ったやり方を説明する。

 先ずはカミーリアと細剣レイピアを使う小柄な女性騎士ネモフィラと、他三人の女性騎士の二組に分けた。 
 紙風船を割ってしまっていたカミーリアとネモフィラには、第一段階として、魔力で紙風船を膨らめてもらう。
 半分程に潰した紙風船に魔力を込めて、パンパンに張った状態にしてもらう。
 それが出来たら、今度は両手で挟むようにして持った紙風船に魔力を込め、そこから手を離して紙風船を落とさないように浮かせて留める第二段階。
 カズは一度手本として、第一段階から第二段階までを続けて見せた。

 他の女性騎士三人は、魔力の放出が見えるやり方を教える。
 第一段階は水の入った容器を用意して、 中にビーズなど色のついた小物を入れ、容器の水に向かって魔力を放出して水を動かす。
 慣れたら対流させたり、回転させて渦を作ってみたりと、放出した魔力だけで流れを操作する。
 自分が放出する魔力の動きと強弱を知ることで、水が無くても放出した魔力の動きがわかるようになればいい。
 魔力操作が上達すれば、放出された魔力を見ることだって可能。

 アレナリアは三十分程でローラの所に戻り、一時間程して女性騎士達の所に戻って来る。
 それを二度繰り返して、この日の訓練は終了する。
 カズが教えていたカミーリアとネモフィラは、紙風船を数秒浮かせる事が出来るようになったが、まだ魔力操作が甘い。
 他の女性騎士三人も、水を動かせる程度にはなったが、対流させたり渦を作ったりするまでにはいかなかった。
 五人には引き続き個々で訓練するようにと伝え、この日飛翔魔法フライを教えることはなかった。
 次回からの上達具合は、アレナリアに確認してもらうことにした。
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