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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

651 冷静にのた打ち回る

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 この後これといって用事はないので、隠し部屋から持って来た複製本を読んで過ごす事にした。
 カズから複製本を受け取ると、アレナリアは自分の寝室に、ビワは料理の作り溜めをするからとキッチンに。
 それぞれのじゃまにならないようにと、カズは三階の部屋に移動した。
 レラは思わず告白してしまった手前、今になって恥ずかしくなり、カズと二人っきりにはなれずリビングに残り、隠し部屋での言動を思い出してソファーでのた打ち回っていた。
 キッチンでカズが資源と潤沢のダンジョンから獲って来た、シルバーホーン・サーモンの調理をしながら、レラはソファーの上でバタバタと何してるんだろう? と、ビワは思い、その様子を見ていた。

 リビングで一人になり「いや~」「恥ずい」「あちしも…」「にっちち」などと、時折素っ頓狂すっとんきょうな声を上げて、百面相をしてソファーでのた打ち回ってたレラは、三十分もすると「疲れた」と言って、ビワの居るキッチンに移ってきた。

「独り言が多かったけど、どうかしたの?」

「ちょっとね。カズに告ったのを、冷静に思い返してたら、恥ずかしくなってきちゃって」

「レラでも恥ずかしくなる事あるのね」

「あちしだってあるよ。これでも清い乙女だもん。ビワはもうカズとしたから、清くないんだよね。で、初めてはどんな感じだったの? 教えて」

「そ…そんなこと話せないわよ」

「いーじゃんいーじゃん。アレナリアは二階だし、カズは三階にいるから聞こえないよ。あちしにだけ教えて」

「ダメです!」

 男女の営みそっちや下ネタ方面にほぼ免疫のないビワは、レラの話で初夜あの日の事を思い出して赤面する。

「えぇ~。アレナリアはわからないけど、ビワよりあちしの方が、色々とそっち方面は詳しいよ。カズを喜ばせる方法を教えてあげるから」

「自分で清い乙女だなんて言っておいて、そんな話を…騙されないわよ」

「だってあちし一人で隠れ住んでた頃は、見つからないように、ほとんど夜しか外に出なかったんだもん。フローラには暗いからって、人目につきそうな場所には行っちゃダメって言われてたけどね。だから暇潰しに見るとこなんて、男女がヤッてるところだもん」

 何時も子供じみたイタズラをするレラが、スゴい事を言い出し、ビワは返答に困惑する。

「ヤッ…じゃなくて、覗きをしてたの!?」

「建物には入ってないよ。窓が開いてたり、あとは暗い路地の奥とか、屋根の上でなんてのもいたなぁ。フローラに話したら、怒られたけど。まあそれはいいとして、だから色々とやり方は知ってるよ。ビワに教えてあげようか? アレナリアに負けちゃうよ?」

「け…結構よ」

 本の街の隠し部屋から戻ってきた時は、レラらしからぬ遠慮というか、少しぎこちなさがあった。
 だが一人リビングのソファーでのた打ち回った以降は、何時ものレラに戻り、ビワをからかって楽しんでいると、ビワもそれは承知で相手をしていた。

「あっそう。他に相談する相手がいなければ、あちしはいつでも聞くよ~ん」

「はいはい、わかったからじゃましないでね。焦がしたら大変(カズさんが喜ぶ……カーディナリスさんに聞い…ダメよね……)」

 オリーブ王国に居た頃は、色恋沙汰の話をする同僚は、猫の獣人族のキウイくらいだった。
 それでも今のレラみたいに具体的な内容ではなく、好みの男性を聞いたり、街に買い出しに行くと、あの人柔らかそうなお腹で枕にしてたら気持ちよさそうや、騎士団ロイヤルガードの誰々よくない? と、同意を求めてきたりと、なんとも健全なやり取りだった。

 唯一具体的な事を話をするのは、自分を引き取り住む所と仕事を与えてくれた、貴族の主ルータ・オリーブ・モチヅキの奥様こと、マーガレット・オリーブ・モチヅキ。
 それも自身の命を救ってくれたカズを落とすために、女の色気武器を使いなさいと。
 これはビワだけではなく、明るく元気で人懐っこいキウイや、生真面目なアキレアにも話していた。
 流石に十四歳のミカンには具体的にカズを落とす方法は話さなかったが、うら若いが好みかも知れないと、やんわり男心をくすぐる方法を話していた。

 アキレアとミカンはその気はないようだったので、カズを落としに掛かる事はしなかった。
 キウイは多少乗り気ではあった。
 冗談交じりなら兎も角、本気で付き合ったらなんて話題に出ると、意外と反応はうぶだったりしたのは、あまり知られていない。
 結局カズは誰を選ぶわけでもなく旅に出る事になり、一緒に行くビワに頑張りなさいと、マーガレットはビワに自分の気持ちに素直になりなさいと送り出した。
 若干自分の願望が含まれていたのは、マーガレット本人以外は知るよしもない。

 オリーブ王国に住んでいた当時のビワは、カズに惹かれる思いはあったが、それは人見知りの自分でも話せる男性が出来た程度の事だった。
 ただ気になるようになった切っ掛けは、禁術により作り出されたパラサイトスペクターによる事件で、カズと少しの間仮初めの夫婦生活をしてから。
 そして故郷を探して連れて行ってくれる。
 その感謝の気持ちが自分の背中を押した。

「…ワ……? ねぇたら!」

「! な、何?」

 レラに乱された気持ちを落ち着かせ、懐かしい面々を思い出し、カズへの想いがどうやって大きくなったのか改めて実感したビワは、レラの呼ぶ声で我に返る。

「魚、焦げてない?」

「……あ! やっちゃったぁ」

 鉄製のフライパンで皮目を下にして焼いていたシルバーホーン・サーモンの切り身二枚は、皮が焦げてフライパンにくっついてしまった。
 ひっくり返すことができず、もったいないので焦げてない身だけを取り小皿に移す。
 植物繊維を束ねたたわしのような道具で、ゴシゴシと力を入れて鉄製のフライパンを洗い焦げを落し、その後気を取り直して料理の続きをする。

 窓から差し込む日の光が角度を変え、影が長く伸びるような時間になると、本の文字が詠み辛くなる。
 そろそろ夕食の時間なので、切りのいいところで詠み終え、カズは複製本にしおりを挟み一階に下りる。
 夕食が出来るまでもう少し時間があるというので、先ずはビワが旅の間に食べれるようにと作った料理を、次々と【アイテムボックス】に入れていく。

 カズは配膳を手伝う事にして、レラにはアレナリアを呼びにいってもらった。
 中々下りて来なかったので夕食時に聞いてみると、セイレーン人魚族のローラに、魔力操作の方法を教える時間が少いから、一人でも出来るやり方を紙に書いていたのだと。
 なんだかんだと、アレナリアも結構面倒見がいい。

 夕食後は隠し部屋から持って来た複製本を読みたいからと、アレナリアは今夜シャワーだけで済ませて、二階の寝室に上がっていった。
 ビワも戻って来てからずっと料理をしていたので、寝る前に複製本を少し読みたいと言う。
 気になるところがあったら、翌日仕事の合間にカーディナリスに聞けるからと。
 結局この日は四人共湯には浸からず、シャワーだけで済ませた。
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